ラスボス転生!?~明日からラスボスやめます~

ノベルバユーザー175298

全ては闇の中です!!

  マナと全く同じ見た目をした少女。カナは、お腹を擦っていた。それは、ちょうどマナがエリックに蹴られた場所だった。

 「エリック。女性は丁寧に扱わないといけないぞ。少女の腹に蹴りを入れるとは、常識がなってないな......まぁ、そんな怪我私の能力で消した・・・けどな」

 そんな言葉にエリックは、苛立いらだちを隠せないでいる。エリックの顔は、先程とは打って変わって歪んでいる。

 「そんな事はどうでもいい!! 何でお前は生きてるんだ、ローエンからは、死んだと聞いたぞ!!」

 カナは、不敵に笑って答える。

 「私が死んだ。という事実を消した・・んだよ」

 自身の死亡さえ能力で消したと話すカナに、エリックは驚き、またあり得ないと声を上げる。

 「それは、能力の域を越えている!! 死さえ消すことができるなんてふざけてる!!」

 「そうだな、私もそう思う。だけど、私は生者ではない。同時に死者でもない、そんな曖昧な存在だ」

 「じゃあ、カナ......お前は何者なんだ?」

 「私は偽物カナで、私は本物マナだ」

 どこか悲しそうに、カナはそう告げる。

 「......意味わかんねぇよ」

 「今は、それでいいさ」

 エリックは、諦めたように自分の拳を下げた。その目にはもう戦う意思は無かった。後ろを向いて歩き出したエリックの背中は、見た目よりも小さく写った。

 「......何で、死んだんだよ」

 聞こえるはずのない小さな声で、言葉を残し、去っていった。
 そして、遠ざかっていく背中に、カナは答えた。

 「悪いな......"私の勇者"」

 そんな言葉は、空へ溶ける。届くべきはずの相手には届かない。風と共に流れていくその言葉は、いつか聞いてもらえる事を願っていた。


 「さて、ローエン。大丈夫か?」

 足に怪我のあるローエンは、まだ動けないでいた。影の中から、足を捕まれ投げられたときに骨を砕かれたのだ。
 しかし、そんな怪我はカナがローエンの体に触れた瞬間に、元から無かったかのように消えた。

 「ありがとうございます。カナ様」

 「このぐらい、いいよ。この子を悲しませないためにやったことだ」

 カナが自身の胸に手を置きながら、そう言った。
 その事にローエンは、やっぱりか、と驚きの表情を見せる。

 「カナ様は、マナ様の中に居るのですね」

 そう、カナは死んではいない。
 マナに倒されたことで、粒子となって消えてしまいそうな時に、能力を発動させ死を逃れた。だが、戻る体が存在しなかったのだ。
 粒子となったカナは、仕方なくマナの体に入り、今までマナを見ていた。

 「あぁ、そうだ。物分かりが早くて助かるよ。時間もないしね」

 時間が無い。その言葉に、ローエンは悲しみの表情を一瞬だけ作り、すぐにいつものように表情を作り直した。

 「あいつを止めるのに力を使ってしまったから、は無いかもしれない」

 さらに、ローエンの表情は強張る。

 「だから、ローエン。伝言ゆいごんを頼んでもいいか?」

 「......はい。カナ様の......意のままに」

 そんなローエンの態度に、カナは優しい笑みを浮かべる。まるで、これから起こる全ての事を知っているかのように......

 「ミーニャは...「はい☆そこまで~♪」」

 カナの言葉を中断し、現れたのは金髪のピエロ。どこからともなく現れ、カナの背後に立った。

 「なんだ、早かったじゃない」

 「まったく☆いけないな~♪ミーニャちゃんの、ひ・み・つ♥を言おうとするなんて☆ダメで~す★」

 ミーニャは、そのままカナの肩に手を置き、口を大きく歪ませる。

 「退場者は、退場者らしく消えろ★ チートは、認めない★」

 ミーニャから、禍々しい闇が噴き出す。見ているだけでも心が壊れそうなほどに暗く、強い力。そこにある空間そのものを黒く染め上げていくソレは、カナの体へと絡み付く。

 「カナ様!!!」

 咄嗟に飛び出すローエン。だが......途端に体が硬直する。しかし、この硬直はローエンが味わったことのある物だった。

 「カナ様。どうして......」

 『王の威圧』をカナが使ったのだ。
 硬直する体で、カナの姿をしっかりと捉えるローエンは、血の涙を流しながら必死に抵抗する。
 目は、今も黒色に侵食されていく主人を見つめている。

 「最初に......言っただろ。お前には......まだやるべき事があるって」

 辛そうに、言葉を吐き出す。しかし、カナの表情は笑っていた。いつも、ローエン達に見せていた彼女の笑顔だ。楽しそうで、何を考えているか分からない。だけど、惹かれる。そんな笑顔だ。

 「止めてください!! 貴方様は、まだ!!!」

 ローエンが、動けるようになる。必死に走り主の元へと向かう。その手を掴もうと、必死に腕を伸ばす。

 「......私の人生、楽しかっ......」

 全ては、闇へと溶けた。
 まるで、最初から何も無かったかのように......

 目の前で消えた最愛の人に、ローエンは言葉を失い、伸ばした手の先に居たはずの存在を掴もうと腕をたぐりよせる。
 しかし、帰ってくるものは何もない。

 「さて☆仕事も終わったし♥帰ろ♪♪」

 何事も無かったかのように、ミーニャは帰ろうとする。しかし、それはローエンが許さなかった。

 「カエセ!!! 私のタイセツをカエセ!!!」

 それは、フェンリルの姿となったローエンが、もう一つの能力を使った瞬間だった。
 突如として、現れたおりは、ミーニャを囲い縛り付けた。

 フェンリルの元となる伝説。神をも砕く牙を持つローエンを閉じ込めたとされる伝説の檻。囚われたものは、能力に関係なくその空間に縛り付けられる。

 「へぇ☆伝説どうりだ♪だけどね狼くん♥これじゃあ~つまらない★」

 平然と檻をこじ開け、外へと出ていくミーニャ。

 「この檻は~♪君を捕らえたのであって☆君よりミーニャが強ければ♥簡単に抜け出せるんだ★」

 ローエンはそのまま、何処かへ消えていくミーニャを見る事しか出来なかった。
 自身の力のなさに、心が折れていた。

 「ローエン? どうしたの?」

 そんな声に振り返ると......闇に呑まれたはずの少女がそこに立っていた。

 「カナ様!!!」

 ローエンは咄嗟に叫ぶが、違うという事にすぐに気付く。

 「どうしたの? ローエン。そんなに怖い顔して......それにカナさんって」

 「い、いえ。何でもありません」

 「あれ? あの人に蹴られた傷が無くなってる。ローエンが治してくれたの? ありがとう」

 「いえ、それは......そうですね」

 今宵の戦いは終わった。だが、この戦いは知っている者と知らない者がいる。この後誰にも語られることのない戦いは、ローエンの中で、深く残っていった。

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