ラスボス転生!?~明日からラスボスやめます~
プロローグです!!
世間やネットでいわゆる「クソゲー」と呼ばれ、店の隅に追いやられているような埃を被ったゲーム。そんなゲーム達を暇な時間にプレイするのが、私の昔からの楽しみだ。
暇をもて余す休日には、朝起きたらすぐにパソコンの電源をつけ、そのまま昼食までずっとゲームをするという習慣が着いてしまう程だ。
その「クソゲー」と呼ばれるゲームの中にも"当たり"のゲームを見付けると、徹夜してまでやりこんでしまったりもする。他の人が知らない楽しみを自分だけが知っているという満足感もあり、凄く充実した時間を過ごせる。
それに、実際にプレイしてみて中身を見ないと分からない、「クソゲー」達を見付けるのは、宝探しのように思えて楽しくて止められない。
勿論、"ハズレ"のゲームも中には存在する。そして今、私はその"ハズレ"のゲームをプレイしている。
このゲーム、【ブレイバーズストーリー】通称【ブレスト】はクソゲーである。
まず、名前から想像出来るように勇者達が魔王を倒す為に旅に出るというものだと買った時は思っていた。だが、そんな期待をこのゲームに抱いてはいけなかったとすぐに痛感する事になった。
【ブレイバーズ】と、タイトルに書いてあるのにこのゲームは、主人公がずっと一人で旅をする物語なのだ。仲間が増えるといったイベントが一切作られていなかった。
それに、ファンタジーゲームの最初の敵で有名なスライム。こいつが強すぎる。
クソゲーと言われてるだけあって主人公の初期装備は無く、素手でスライムと戦う事になるのだが......そのスライムに物理攻撃無効というスキルが付いていて、絶対に勝てない。
それだけではなく、このゲームには、さらに拍車をかけるクソゲー要素が存在している。
RPGのゲームでよく見るコマンドの画面に『にげる』という選択肢があるのを見かけたことがあるだろうか?
勿論、このゲームにもそのコマンドは存在する。
だけど、『にげる』ボタンを押した瞬間に異変は起こる。
『勇者が敵を目の前にして逃げてはならん』
という謎のメッセージが画面に表示され、『にげる』のボタンが灰色に変わり、二度と押せなくなる。
つまり、スライムに出会った時点でにげる事が出来なくなり、そして、自分の攻撃も効かない。
ゲーム序盤に詰むことが確定するという最悪なコンボが決まる訳です。
スライムに出会わずに次の街まで着かなければいけないという運ゲーがゲームの序盤から始まります。
......さて、このゲームが「クソゲー」と呼ばれる理由がなんとなく分かったでしょうか?
しかし、今挙げた要素は、ほんの一部に過ぎません。
例えば......魔法を手に入れたのにレベルを最大にしても、MPが足りずに発動出来なかったり、ラスボスが7回も蘇ったり、確定で死ぬ攻撃をモブキャラが連発してきたりと......他にも有り得ないぐらい存在する。
「では、なぜ? そんなゲームをプレイしているのか?」
と聞かれたら多分、私はこう答えるだろう。
「ゲーマーとしての意地」
と......。どんなゲームもクリアするまでやり込まなければ本当の魅力に気付かないと、私は考えている。
だから、一度手を着けたゲームは最後までやり通すというルールを自分の中で決めていた。
それに、どんなゲームにも、良いところはあるものである。このゲームの唯一無二の良いところ、それは、グラフィックやキャラクターの絵が凄く綺麗だということ。
まるで、本物の異世界の風景を切り取ったようなゲーム画面に私も最初は、心を奪われ、しばらく眺めていたりしたほどだ。
しかし、このゲーム【ブレイバーズストーリー】には最大の謎がある。
それは......誰が作ったゲームなのか分からないという事だ。ネットで調べてみたけど、制作者が不明、ゲームの出版社も不明。だけど、なぜかどこのゲーム店にも一つだけ置いてある。という風に全てが謎に包まれたゲームなのだ。
そして、そんな事から、このゲームには、1つの都市伝説が付いて回った。
「このゲームをクリアしたプレイヤーは、ゲームの真実を知ることが出来る」
と、こんな確証もない噂が発売当時は出回っていた。だけど、私は知りたかった。どんな人がどんな気持ちでどれ程の想いを込めて作ったのか、その謎をしりたかったから、私は、クリアしようと躍起になっていた。
........だが、5年たってもクリアしたという者は現れなかった。段々とプレイヤーは減っていき、このゲームは絶対にクリア出来ない「クソゲー」として世間から消えていった。
だがしかし!!
私は、もうすぐこのゲームを攻略できるところまで来ている。勿論、発売から5年間地道に頑張ってきた成果だ。
毎日、パソコンの画面にに表示される「ゲームオーバーだよ♪♪またがんばってね❤」のウザイ文章からも解放される日がすぐそこまで来ていた。
そして例の都市伝説も、今日この時をもって証明される。
現在はラスボスの最終形態。
見た目は、白髪の美少女。肌は透き通るように白く、それを際立たせる深紅の瞳。キャラクターの動作に合わせて、ふわりと揺れ動く長い髪。
ゲームのラスボスをここまで可愛くしたのは、【ブレスト】の制作者だけだろうと思う程、精巧に作られている。
しかし、見た目で判断してはいけない。某有名アニメの「私の戦闘力は53万ですよ」の白と紫の宇宙人のように舐めてかかると即死する。
というかラスボスに触れた瞬間に死ぬ事が確定する。
つまり、このゲームのラスボスは、魔法か遠距離武器でしか倒す事が出来ない。だけど、魔法はMPが足りなくて使えないし、遠距離武器もダメージが1程度しか与えられない。
じゃあ、どうやって倒すのか?
答えは簡単。ラスボスに武器を渡す事。
『武器を仲間に渡す』というコマンドを選ぶと、なぜかラスボスに渡す事が出来るようになっていて、武器を渡すとラスボスが装備してくれる。
ただし、ラスボスは武器を逆にして装備する。剣の柄ではなく刃の方を持つという、ドジっ子をぶりを発揮してくれたお陰でダメージが与えられるようになっていた。
この、ラスボスに武器を渡す事で、大ダメージを与えられる『バグ』と言う名の攻略方法を見付けたのは、1年前の事だ。
......そう、1年前。
現在、私がクリアを確信したのは、ラスボスの最後の攻撃をミスさせたからだ。
ラスボスのHPが1%以下になったとき『最後の審判』という魔法が発動される。この魔法がこのゲームで最強の魔法だと私は思っている。
ちなみに、効果はこんな感じ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後の審判
・ラスボス専用魔法
効果:指定した対象に審判を下す。
99,9%の確率で確実に死亡させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この魔法の厄介なところは、確実に死亡させる。というところで、例えばその時、復活することが出来るアイテムを持っていても発動することなく死亡する。
それに、前提条件として、ラスボスのHPを1%にするのも有り得ないぐらい大変なのに、この魔法を最後に使われて死んだ時は心が崩壊しそうになる。
......どれだけ制作者を呪ったか、分からない。会うことが出来たら一発殴らせて貰おうと心に決めている。
そして、一年かけて掴んだこのチャンス。無駄には出来ない!!
震える自分の手と高鳴る鼓動を抑え、コマンドを『武器を仲間に渡す』に合わせてクリック。対象をラスボスに合わせて......
「これで、終わり!!!お願いしまーーーす!!!」
今までの人生で最大の声量で叫ぶと同時に、パソコンのキーボードが壊れそうな勢いでクリックする。
......少しの間の後。
無機質だった画面には、ラスボスが青い粒子となって消えていく綺麗なエフェクトと最後の台詞が表示されていた。
「クリアしてくれてありがとう......これでやっと......終われる」
画面に表示されている言葉が直接頭の中に響いたように感じた。
クリアしたことが嬉しすぎて、頭がおかしくなったのかな? と思っていた時。
「最後に......クリアおめでとう。これから......がんばって......生きて」
と、そんな言葉を最後にラスボスは、キラキラと光輝きながら清々しく晴れた青空へと消えていった。
だけど、すぐに異変に気付く。画面を見てもそんな台詞は書いていなかった。それどころか、なんかパソコンの画面が歪んでいるように見える気がする。
目を擦ってみても......変わらない。
あれ? 今度は部屋全体が......
「分かった、私疲れてるんだ。こういうのは、目を閉じて深呼吸すれば元通り」
すぅーーはぁーー。すぅーーはぁーー。
「よし!!」
そして、目を開けた時には......
「......ここ、どこーーー!?」
 目の前に広がるのは、いつも知っている自分の部屋とは違った場所。だけど、よく知っている場所だった。
「ここって、もしかしてゲームの中でラスボスと戦った......」
口からこぼれたその疑問の答えはすぐに帰って来た。
「正解だよ♪やっぱり~攻略者は違うね☆ミーニャちゃんは感激だよ♥」
突然、後ろからかかる野太い変な声に心臓が跳び跳ねる。
振り返ると、体のいたるところが筋肉でゴツゴツしていて身長2メートル以上あり、さらに女性物の下着しか着ていない変態がそこに立っていた。
「ひっ!!」
目の前にいる変態筋肉ダルマに驚き過ぎて、腰が抜けて尻餅をついてしまう。足がガクガク震えて上手く動かない。
人間は、本当に怖いものを見ると動けなくなるということを実感したと同時に私は意識を手放した。
◆◇◆◇◆
目が覚めた時に最初に見たものは、変態筋肉ダルマではなく、ピエロのような格好をした金髪の女性だった。
この女性が神々しく見えるのは、さっき変なものを見たからだろうか? 世の中にこんな綺麗な人が居るんだと思う程の美人さんだった。
綺麗な金髪とエメラルドグリーンの瞳には、まるで作られた人形がそこに立っているような変な感覚を覚えた。
「あはは♥ごめんね~ちょっと驚かせたかっただけなんだ♪テヘッ☆」
あっ、そのウザくて野太い変な声は同じなんだ......と思った時に、変態筋肉ダルマが「テヘッ☆」とやっている映像が頭の中で想像されて、また意識を手放そうとした時。
「あ~ごめん♪また待つのが嫌だからちゃんと喋るよ☆お~。ミーニャちゃんてば気が使える良い子~♪♪」
と、途切れかけた意識の中で女性らしい高く透き通る声にウザさがプラスされた喋り方に意識を取り戻す。
最初からその声で喋ってくれよとツッコミをいれたかったが、さらに面倒くさくなる性格だと何となく分かったので何も言わずに気持ちを抑えた。
突然、現れた謎の人物に驚きながらも、ゲームをクリアしてから起こった異変について、目の前の女性に聞いてみることにした。
まず、目の前に存在する、このウザイ女性は本当に人間なのだろうか? そんな疑問が頭に浮かぶ。他にも、人間離れした綺麗すぎる容姿。それにここが、ゲームの中の世界だと断言したこと。
もし......本当にゲームの中だとしたら、私の記憶の奥底からこの容姿に当てはまる人物を探してみたけど、ゲームの登場人物にこんな女性キャラは居なかった。5年間やっていた私が保証する。
そして......
「貴方は......誰なの?」
私の純粋で直球な疑問に、目を見開かせて驚きながらも、いつものウザイ口調で答える。
「ミーニャちゃんは~ミーニャちゃんなのだ~☆この世界の創造者? 神様? ......そう、君達風に言うと、ゲーム制作者かな♪♪改めてよろしくね♥」
そんな風に言って綺麗なお辞儀をする。
この人、お辞儀とか出来るのか!! と心の中で叫びつつも、ミーニャの言った言葉に引っ掛かる部分があった。
「このゲームの......制作者?......」
制作者―――と聞いて最初に頭に浮かんだのは、ゲームオーバーの画面の文章。「ゲームオーバーだよ♪♪またがんばってね♥」と言う、プレイヤー全員に喧嘩を売ってるような文章は、目の前のこの女性の喋り方と完全に一致していた。
それに気付いた時。このクソゲー制作者を無性に殴りたくなってきた。
そんな気持ちを心の中で抑えていた時に、今までずっとふざけた様子で喋っていたミーニャが、真剣な顔でこちらを見つめていた。
「このゲームは、どうだった?」
そんな質問が私に向けられた。
自分が作った作品を他人から評価して欲しいというのは私もよく分かる。だから、私は考える。このゲームは楽しかったのか? 面白いものだったのか? 良いところは何だったか?......うん、やっぱり......
「救いようもないクソゲーだよ!!」
「......そう......なの」
私が出した答えに、しゅんとしている。まるでさっきの人とは別人のように見える。美人がその仕草をするのはちょっとズルい。私が悪いみたいな感じになってしまう。
だが、このゲームは、誰がどう見ても「クソゲー」だ。
だけど......
「だけど、私はこのゲーム。好きだよ。プレイしてみて楽しくはなかった。でも、制作者が凄く頑張ってこのゲームを作ったって事が分かるゲームだった。物語に熱が入ってたし、何よりキャラクター達が生き生きしてた。本当に魂が入ってるんじゃないかと思うぐらいキャラクターがキラキラと輝いて見えた」
これは、嘘偽りのない本当の気持ち。このゲームが悪いのはシステムだけ。システムが駄目なゲームはゲームじゃない気がするけど......まぁ、それ意外は完璧と言っても良いほどのものだった。
このゲームのプレイヤー達は大体が、クリアする事が目的だった為、欠陥だらけのシステムに躓いてこのゲームから去っていく。
だから、このゲームの本当に良いところに気が付かない。「クソゲー」をやることを趣味としている「クソゲーマー」として私は、この作品の良いところも悪いところも、苦労も努力も全部知った上で評価する。
それが、「クソゲーマー」としての使命であり、その評価は、制作者を成長させる薬でもある。......と私は思っている。
「......そう......なの」
さっきと同じ言葉。だけど、表情だけは先程とは、打って変わったように嬉しそうだった。
こういうことも、私の"楽しみ"の1つだ。
「では、改めて......ゲームクリアおめでとう~♥貴方はこのゲーム【ブレイバーズストーリー】攻略者二人目となります♪♪」
え? 二人目?
「ゲームクリア報酬として~♪この【ブレイバーズストーリー】を実際に体験することが出来ます♥クリアした貴方には~ラスボスとしてこの世界に転生して貰います~♥」
「どういうこと?」
「あれ~☆知ってたんじゃないんですか♪このゲームのクリア報酬♪♪」
クリア報酬。まさか、あの都市伝説の本当の意味は......
「あれ~☆気付いちゃいましたか♥貴方は、キャラクターに本当に魂が入ってるように見える。と言いましたよね☆正解です♥このゲームのキャラクターには~♪本当に人間の魂が入ってるんですよ~☆現実世界で死んだ人間の魂がね♥」
つまり、私は現実世界で殺されて、ここに連れてこられた。
打ち付けられる、衝撃の事実に足が震えだす。
それより私は、ラスボスを倒してこのゲームをクリアした......いや、ラスボスの見た目をした人間を殺して......
ゴクリ......と唾を呑む音が大きく感じる。
手足の先から熱が抜けていくような感覚に陥る。
私は、人を殺した......心にのし掛かる「人殺し」の文字が数百キロの重りのようになって心を押し潰していく。
「最後に~♪このゲームのタイトル【ブレイバーズストーリー】の意味を知って貰います♥【ブレイバーズ】勇者達は、勿論☆死んだ人間達です☆そして、【ブレイバーズ】には~♪現実世界に生き返る手段が存在します♪それは~~ラスボスを倒す事~☆ もう1つの【ストーリー】の意味は~♪ラスボスである貴方がどんな物語を迎えるのか♥です☆......それでは~♪【ブレイバーズストーリー】スタート☆」
醜悪な笑みを浮かべながら手を振るミーニャの姿を最後に、私の意識はプツンと途切れた。
暇をもて余す休日には、朝起きたらすぐにパソコンの電源をつけ、そのまま昼食までずっとゲームをするという習慣が着いてしまう程だ。
その「クソゲー」と呼ばれるゲームの中にも"当たり"のゲームを見付けると、徹夜してまでやりこんでしまったりもする。他の人が知らない楽しみを自分だけが知っているという満足感もあり、凄く充実した時間を過ごせる。
それに、実際にプレイしてみて中身を見ないと分からない、「クソゲー」達を見付けるのは、宝探しのように思えて楽しくて止められない。
勿論、"ハズレ"のゲームも中には存在する。そして今、私はその"ハズレ"のゲームをプレイしている。
このゲーム、【ブレイバーズストーリー】通称【ブレスト】はクソゲーである。
まず、名前から想像出来るように勇者達が魔王を倒す為に旅に出るというものだと買った時は思っていた。だが、そんな期待をこのゲームに抱いてはいけなかったとすぐに痛感する事になった。
【ブレイバーズ】と、タイトルに書いてあるのにこのゲームは、主人公がずっと一人で旅をする物語なのだ。仲間が増えるといったイベントが一切作られていなかった。
それに、ファンタジーゲームの最初の敵で有名なスライム。こいつが強すぎる。
クソゲーと言われてるだけあって主人公の初期装備は無く、素手でスライムと戦う事になるのだが......そのスライムに物理攻撃無効というスキルが付いていて、絶対に勝てない。
それだけではなく、このゲームには、さらに拍車をかけるクソゲー要素が存在している。
RPGのゲームでよく見るコマンドの画面に『にげる』という選択肢があるのを見かけたことがあるだろうか?
勿論、このゲームにもそのコマンドは存在する。
だけど、『にげる』ボタンを押した瞬間に異変は起こる。
『勇者が敵を目の前にして逃げてはならん』
という謎のメッセージが画面に表示され、『にげる』のボタンが灰色に変わり、二度と押せなくなる。
つまり、スライムに出会った時点でにげる事が出来なくなり、そして、自分の攻撃も効かない。
ゲーム序盤に詰むことが確定するという最悪なコンボが決まる訳です。
スライムに出会わずに次の街まで着かなければいけないという運ゲーがゲームの序盤から始まります。
......さて、このゲームが「クソゲー」と呼ばれる理由がなんとなく分かったでしょうか?
しかし、今挙げた要素は、ほんの一部に過ぎません。
例えば......魔法を手に入れたのにレベルを最大にしても、MPが足りずに発動出来なかったり、ラスボスが7回も蘇ったり、確定で死ぬ攻撃をモブキャラが連発してきたりと......他にも有り得ないぐらい存在する。
「では、なぜ? そんなゲームをプレイしているのか?」
と聞かれたら多分、私はこう答えるだろう。
「ゲーマーとしての意地」
と......。どんなゲームもクリアするまでやり込まなければ本当の魅力に気付かないと、私は考えている。
だから、一度手を着けたゲームは最後までやり通すというルールを自分の中で決めていた。
それに、どんなゲームにも、良いところはあるものである。このゲームの唯一無二の良いところ、それは、グラフィックやキャラクターの絵が凄く綺麗だということ。
まるで、本物の異世界の風景を切り取ったようなゲーム画面に私も最初は、心を奪われ、しばらく眺めていたりしたほどだ。
しかし、このゲーム【ブレイバーズストーリー】には最大の謎がある。
それは......誰が作ったゲームなのか分からないという事だ。ネットで調べてみたけど、制作者が不明、ゲームの出版社も不明。だけど、なぜかどこのゲーム店にも一つだけ置いてある。という風に全てが謎に包まれたゲームなのだ。
そして、そんな事から、このゲームには、1つの都市伝説が付いて回った。
「このゲームをクリアしたプレイヤーは、ゲームの真実を知ることが出来る」
と、こんな確証もない噂が発売当時は出回っていた。だけど、私は知りたかった。どんな人がどんな気持ちでどれ程の想いを込めて作ったのか、その謎をしりたかったから、私は、クリアしようと躍起になっていた。
........だが、5年たってもクリアしたという者は現れなかった。段々とプレイヤーは減っていき、このゲームは絶対にクリア出来ない「クソゲー」として世間から消えていった。
だがしかし!!
私は、もうすぐこのゲームを攻略できるところまで来ている。勿論、発売から5年間地道に頑張ってきた成果だ。
毎日、パソコンの画面にに表示される「ゲームオーバーだよ♪♪またがんばってね❤」のウザイ文章からも解放される日がすぐそこまで来ていた。
そして例の都市伝説も、今日この時をもって証明される。
現在はラスボスの最終形態。
見た目は、白髪の美少女。肌は透き通るように白く、それを際立たせる深紅の瞳。キャラクターの動作に合わせて、ふわりと揺れ動く長い髪。
ゲームのラスボスをここまで可愛くしたのは、【ブレスト】の制作者だけだろうと思う程、精巧に作られている。
しかし、見た目で判断してはいけない。某有名アニメの「私の戦闘力は53万ですよ」の白と紫の宇宙人のように舐めてかかると即死する。
というかラスボスに触れた瞬間に死ぬ事が確定する。
つまり、このゲームのラスボスは、魔法か遠距離武器でしか倒す事が出来ない。だけど、魔法はMPが足りなくて使えないし、遠距離武器もダメージが1程度しか与えられない。
じゃあ、どうやって倒すのか?
答えは簡単。ラスボスに武器を渡す事。
『武器を仲間に渡す』というコマンドを選ぶと、なぜかラスボスに渡す事が出来るようになっていて、武器を渡すとラスボスが装備してくれる。
ただし、ラスボスは武器を逆にして装備する。剣の柄ではなく刃の方を持つという、ドジっ子をぶりを発揮してくれたお陰でダメージが与えられるようになっていた。
この、ラスボスに武器を渡す事で、大ダメージを与えられる『バグ』と言う名の攻略方法を見付けたのは、1年前の事だ。
......そう、1年前。
現在、私がクリアを確信したのは、ラスボスの最後の攻撃をミスさせたからだ。
ラスボスのHPが1%以下になったとき『最後の審判』という魔法が発動される。この魔法がこのゲームで最強の魔法だと私は思っている。
ちなみに、効果はこんな感じ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後の審判
・ラスボス専用魔法
効果:指定した対象に審判を下す。
99,9%の確率で確実に死亡させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この魔法の厄介なところは、確実に死亡させる。というところで、例えばその時、復活することが出来るアイテムを持っていても発動することなく死亡する。
それに、前提条件として、ラスボスのHPを1%にするのも有り得ないぐらい大変なのに、この魔法を最後に使われて死んだ時は心が崩壊しそうになる。
......どれだけ制作者を呪ったか、分からない。会うことが出来たら一発殴らせて貰おうと心に決めている。
そして、一年かけて掴んだこのチャンス。無駄には出来ない!!
震える自分の手と高鳴る鼓動を抑え、コマンドを『武器を仲間に渡す』に合わせてクリック。対象をラスボスに合わせて......
「これで、終わり!!!お願いしまーーーす!!!」
今までの人生で最大の声量で叫ぶと同時に、パソコンのキーボードが壊れそうな勢いでクリックする。
......少しの間の後。
無機質だった画面には、ラスボスが青い粒子となって消えていく綺麗なエフェクトと最後の台詞が表示されていた。
「クリアしてくれてありがとう......これでやっと......終われる」
画面に表示されている言葉が直接頭の中に響いたように感じた。
クリアしたことが嬉しすぎて、頭がおかしくなったのかな? と思っていた時。
「最後に......クリアおめでとう。これから......がんばって......生きて」
と、そんな言葉を最後にラスボスは、キラキラと光輝きながら清々しく晴れた青空へと消えていった。
だけど、すぐに異変に気付く。画面を見てもそんな台詞は書いていなかった。それどころか、なんかパソコンの画面が歪んでいるように見える気がする。
目を擦ってみても......変わらない。
あれ? 今度は部屋全体が......
「分かった、私疲れてるんだ。こういうのは、目を閉じて深呼吸すれば元通り」
すぅーーはぁーー。すぅーーはぁーー。
「よし!!」
そして、目を開けた時には......
「......ここ、どこーーー!?」
 目の前に広がるのは、いつも知っている自分の部屋とは違った場所。だけど、よく知っている場所だった。
「ここって、もしかしてゲームの中でラスボスと戦った......」
口からこぼれたその疑問の答えはすぐに帰って来た。
「正解だよ♪やっぱり~攻略者は違うね☆ミーニャちゃんは感激だよ♥」
突然、後ろからかかる野太い変な声に心臓が跳び跳ねる。
振り返ると、体のいたるところが筋肉でゴツゴツしていて身長2メートル以上あり、さらに女性物の下着しか着ていない変態がそこに立っていた。
「ひっ!!」
目の前にいる変態筋肉ダルマに驚き過ぎて、腰が抜けて尻餅をついてしまう。足がガクガク震えて上手く動かない。
人間は、本当に怖いものを見ると動けなくなるということを実感したと同時に私は意識を手放した。
◆◇◆◇◆
目が覚めた時に最初に見たものは、変態筋肉ダルマではなく、ピエロのような格好をした金髪の女性だった。
この女性が神々しく見えるのは、さっき変なものを見たからだろうか? 世の中にこんな綺麗な人が居るんだと思う程の美人さんだった。
綺麗な金髪とエメラルドグリーンの瞳には、まるで作られた人形がそこに立っているような変な感覚を覚えた。
「あはは♥ごめんね~ちょっと驚かせたかっただけなんだ♪テヘッ☆」
あっ、そのウザくて野太い変な声は同じなんだ......と思った時に、変態筋肉ダルマが「テヘッ☆」とやっている映像が頭の中で想像されて、また意識を手放そうとした時。
「あ~ごめん♪また待つのが嫌だからちゃんと喋るよ☆お~。ミーニャちゃんてば気が使える良い子~♪♪」
と、途切れかけた意識の中で女性らしい高く透き通る声にウザさがプラスされた喋り方に意識を取り戻す。
最初からその声で喋ってくれよとツッコミをいれたかったが、さらに面倒くさくなる性格だと何となく分かったので何も言わずに気持ちを抑えた。
突然、現れた謎の人物に驚きながらも、ゲームをクリアしてから起こった異変について、目の前の女性に聞いてみることにした。
まず、目の前に存在する、このウザイ女性は本当に人間なのだろうか? そんな疑問が頭に浮かぶ。他にも、人間離れした綺麗すぎる容姿。それにここが、ゲームの中の世界だと断言したこと。
もし......本当にゲームの中だとしたら、私の記憶の奥底からこの容姿に当てはまる人物を探してみたけど、ゲームの登場人物にこんな女性キャラは居なかった。5年間やっていた私が保証する。
そして......
「貴方は......誰なの?」
私の純粋で直球な疑問に、目を見開かせて驚きながらも、いつものウザイ口調で答える。
「ミーニャちゃんは~ミーニャちゃんなのだ~☆この世界の創造者? 神様? ......そう、君達風に言うと、ゲーム制作者かな♪♪改めてよろしくね♥」
そんな風に言って綺麗なお辞儀をする。
この人、お辞儀とか出来るのか!! と心の中で叫びつつも、ミーニャの言った言葉に引っ掛かる部分があった。
「このゲームの......制作者?......」
制作者―――と聞いて最初に頭に浮かんだのは、ゲームオーバーの画面の文章。「ゲームオーバーだよ♪♪またがんばってね♥」と言う、プレイヤー全員に喧嘩を売ってるような文章は、目の前のこの女性の喋り方と完全に一致していた。
それに気付いた時。このクソゲー制作者を無性に殴りたくなってきた。
そんな気持ちを心の中で抑えていた時に、今までずっとふざけた様子で喋っていたミーニャが、真剣な顔でこちらを見つめていた。
「このゲームは、どうだった?」
そんな質問が私に向けられた。
自分が作った作品を他人から評価して欲しいというのは私もよく分かる。だから、私は考える。このゲームは楽しかったのか? 面白いものだったのか? 良いところは何だったか?......うん、やっぱり......
「救いようもないクソゲーだよ!!」
「......そう......なの」
私が出した答えに、しゅんとしている。まるでさっきの人とは別人のように見える。美人がその仕草をするのはちょっとズルい。私が悪いみたいな感じになってしまう。
だが、このゲームは、誰がどう見ても「クソゲー」だ。
だけど......
「だけど、私はこのゲーム。好きだよ。プレイしてみて楽しくはなかった。でも、制作者が凄く頑張ってこのゲームを作ったって事が分かるゲームだった。物語に熱が入ってたし、何よりキャラクター達が生き生きしてた。本当に魂が入ってるんじゃないかと思うぐらいキャラクターがキラキラと輝いて見えた」
これは、嘘偽りのない本当の気持ち。このゲームが悪いのはシステムだけ。システムが駄目なゲームはゲームじゃない気がするけど......まぁ、それ意外は完璧と言っても良いほどのものだった。
このゲームのプレイヤー達は大体が、クリアする事が目的だった為、欠陥だらけのシステムに躓いてこのゲームから去っていく。
だから、このゲームの本当に良いところに気が付かない。「クソゲー」をやることを趣味としている「クソゲーマー」として私は、この作品の良いところも悪いところも、苦労も努力も全部知った上で評価する。
それが、「クソゲーマー」としての使命であり、その評価は、制作者を成長させる薬でもある。......と私は思っている。
「......そう......なの」
さっきと同じ言葉。だけど、表情だけは先程とは、打って変わったように嬉しそうだった。
こういうことも、私の"楽しみ"の1つだ。
「では、改めて......ゲームクリアおめでとう~♥貴方はこのゲーム【ブレイバーズストーリー】攻略者二人目となります♪♪」
え? 二人目?
「ゲームクリア報酬として~♪この【ブレイバーズストーリー】を実際に体験することが出来ます♥クリアした貴方には~ラスボスとしてこの世界に転生して貰います~♥」
「どういうこと?」
「あれ~☆知ってたんじゃないんですか♪このゲームのクリア報酬♪♪」
クリア報酬。まさか、あの都市伝説の本当の意味は......
「あれ~☆気付いちゃいましたか♥貴方は、キャラクターに本当に魂が入ってるように見える。と言いましたよね☆正解です♥このゲームのキャラクターには~♪本当に人間の魂が入ってるんですよ~☆現実世界で死んだ人間の魂がね♥」
つまり、私は現実世界で殺されて、ここに連れてこられた。
打ち付けられる、衝撃の事実に足が震えだす。
それより私は、ラスボスを倒してこのゲームをクリアした......いや、ラスボスの見た目をした人間を殺して......
ゴクリ......と唾を呑む音が大きく感じる。
手足の先から熱が抜けていくような感覚に陥る。
私は、人を殺した......心にのし掛かる「人殺し」の文字が数百キロの重りのようになって心を押し潰していく。
「最後に~♪このゲームのタイトル【ブレイバーズストーリー】の意味を知って貰います♥【ブレイバーズ】勇者達は、勿論☆死んだ人間達です☆そして、【ブレイバーズ】には~♪現実世界に生き返る手段が存在します♪それは~~ラスボスを倒す事~☆ もう1つの【ストーリー】の意味は~♪ラスボスである貴方がどんな物語を迎えるのか♥です☆......それでは~♪【ブレイバーズストーリー】スタート☆」
醜悪な笑みを浮かべながら手を振るミーニャの姿を最後に、私の意識はプツンと途切れた。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
4.9万
-
-
7万
-
-
4.8万
-
-
2.3万
-
-
1.6万
-
-
1.1万
-
-
2.4万
-
-
2.3万
-
-
5.5万
書籍化作品
-
-
103
-
-
4
-
-
93
-
-
27035
-
-
111
-
-
4117
-
-
147
-
-
361
-
-
971
コメント