そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

自己紹介的な。


 戦争が終了し、色々片付けを終えた翌日、尻尾の集落近くの広場に俺達は集まっていた。

 今回は移住に先立つ、俺達の紹介を新参者に教えるためである。

 少し思ったがこの森、魔物増えすぎじゃね?
 ガケトカゲからカウントゴリラに行き、今回の事で大量に増えたわけだが、全く、俺の安寧を邪魔しやがって。

 等とエマに話していると。

 「いや、事の発端はランドさんじゃないですかね?」
 「そんなことは無いだろ」
 「ですが、ランドさんが動き出すまでは代わり映えしなかったらしいじゃ無いですか」

 いや、それはきっと偶然である。
 人を元凶扱いするのはどうかと思うぞ。
 認めん、断じて認めんぞ。

 「さて、みんな集まったところで話を進めよう。改めまして、私は妖狐の首領、尻尾。よろしくねぇ」

 尻尾は手をヒラヒラさせながら名乗る。
 いつも以上に軽薄そうだな。

 「んじゃ、次は俺だな。久しぶりだなてめぇら、改めて俺はオーガの首領、角だ。この森最強のな」

 後半をかなり強調して俺を見てくる角。
 何故俺を見るのやら。

 「うむ、では次は我が。貴殿らとは初の顔合わせとなる。我はグラスウルフの新たな首領、牙。以後よろしく」

 淡々と紹介を終える牙。
 今は自分のお喋りを隠している様な気がするがどうせすぐバレるだろう。

 「牙が代替わりしてたのか……それは以外だったな。結構やる奴だったが」

 オークの首領である槍が呟く。

 こいつらは先代牙の事を知っているのか、どんな奴だったんだろうな。

 「む、俺か。俺の名はランド、ただの心優しいゴーレムだ。好きなことは静かに暮らすことだ邪魔したら殴る」

 条件を先に差し出すのは交渉における最高の先制パンチだ、これで完璧だ……っと、おい、なんでそんなに怖がっているんだ。

 エマ、そんな目でみるな。
 俺が何をした。

 「ランドさんは相変わらず適当なこと抜かしますね。あ、私の名前はエマ、人間の冒険者ですが無害で華奢で可憐なただの女の子です」
 「いやいや、ゴブリンを蹴り飛ばす奴を可憐とは……」

 ──ズガンッ!

 言葉を紡いでいる最中に結構な衝撃をエマの方向から受けた。
 かなりの威力だった、人間が何故この威力を出せる……。

 「エマも大概である」
 「あ? なんか言いました?」
 「フスー、スー、ススー」

 口笛で誤魔化すとしよう。
 我ながら上手くないか?

 「下手すぎです」

 辛辣である。

 そんな俺達の会話を見ている親玉トリオは唖然としていた。

 「……あのゴーレムが圧倒されてないか」
 「あの女も大概危険よ」
 「警戒レベルはあげた方が良いッスわ……」

 ふふふ、残念だったなエマよお前は俺よりも危険分子扱いだ。
 因みに、エマの言葉は向こうは理解できないので尻尾が翻訳してくれている。
 余談だが、角も牙もある程度は人間の言葉が理解でき、少しなら喋れるようになっている。

 「はぁ、続けるべ、オラの名前はガケトカゲだべ、オラものんびりするのが好きだべ。よろしく」

 ガケトカゲが呆れて此方を見ながら紹介を続ける。
 その目はまたやってるとでも言いたげである。

 「ウホ、俺の名前はカウントゴリラだ。基本自由が好きウホ、よろしく」

 ゴリラは乗り気ではない雰囲気を出している。
 明らかに露骨だ、こいつ尻尾達とで反応が違う。

 そう言えば尻尾達は珍しい魔物だからか、ゴブリンとかオークはそれほど珍しく無いからな。
 でも、トレントは結構見ない魔物じゃないか?

 「以前、木から木に移動してたら偶々トレントの集団にぶつかって喧嘩したウホ、それからは嫌いウホ」
 「ただの我が儘じゃねぇか」

 自分個人の我が儘で此方に害を与えないことを願おう。

 「そちらの紹介は終わったな、じゃあ次は俺らから」

 親玉オーク改め、槍が最初に名乗る。

 「俺はオークの首領の槍。エマ様に名付けて貰い感謝する、これからは力をこの森に尽くそう」

 結構律儀な奴だった。
 おかしいな、ゴブリン情報だと糞らしかったが心変わりが激しすぎないか?

 「私は鞭、エマ様に名付けて貰った名前、大切にさせてもらうわ。私も出来る限りは協力してあげる。感謝しな!」

 どこか上から目線の親玉トレントの鞭。
 コイツもエマに様付けである。
 どういうことだ、何故エマが様付け何だ、エマだぞ?

 槍、鞭はエマをチラチラ見ている。
 心なしか顔色を窺っているような……。
 あぁ、ご機嫌取りか、さっき陰口叩いてたからな。

 「最後は俺ッスか、俺の名前は棍棒、エマの奴から貰った名前はありがたくいただくッス。だが蹴ったことは許さん! 覚えてろ!」

 若干下っ端感の出たしゃべり方をする棍棒。
 あ、コイツはエマに様付けはしないみたいだな。
 あー、安心した。

 ただし、言葉は通じてないので俺が訳すことにした。
 親切極まりないのである。

 「へえ、そんなことを言ってたんですか。良い度胸してますね」

 爽やかな笑みを浮かべているが額には青筋が浮かんでいるのを俺は見逃さない。
 棍棒もそれに気づいたのか、俺を見ている。

 俺は親指を突き立て、頑張れと心で念じておこう。

 「鬼! 悪魔!」
 「俺はゴーレム。鬼は角、悪魔は知らん」
 「ちょ、マジ助けてほしいッス!」

 邪神エマが起動しそうだったので、仕方なく止めてやることにしよう。
 そのまま見るのも面白いがこう言うストレスは我慢の限界に達した方が過激になるのである。

 と言うわけで今は我慢しよう。

 「エマ、そう直ぐに怒ると無害で華奢で可憐な冒険者は死ぬぞ」
 「くっ、そうでした。私は無害で華奢で可憐な冒険者……直ぐに怒ったりなんてしないのです!」

 非常に苦しそうな表情をしながら堪えようとするエマ。
 滑稽である。

 「……感謝しろよ」
 「ウス……それはもう、助かりました」

 小声で棍棒と話す、盛大に感謝して敬ってくれ。

 さて、この自己主張の激しい面々が俺が住む森の面子である。

 こんな個性の塊のような奴等がいれば俺なんて日陰者だ。
 これで安心して暮らせるな、大概の事は尻尾に任せて俺は悠々自適に暮らすのだ!

 「それじゃあ、本題の、誰がこの森を統べるかについて話そうかぁ」

 瞬間、全員の空気が変わる。
 エマは分かっていないので俺が話すと面白そうな顔をする。

 俺は興味がないので上の空だ。
 空はいつも綺麗だな、いやぁ、素晴らしい。
 そうだ、そろそろファンに遊びにいくか。
 静かに過ごすのも良いが、精神的に疲れた後ののんびりはより最高になるしな、そうしよう。

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