そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

床直しと貴族問題

 「バカな、冒険者崩れと言えどもたかが一人の男ごときに負けるだと……」

 どうやら未だに信じきれて無いようだ。
 俺だって信じられないぞ、まさか全員一撃だとは思わなかったからね。

 「気は済んだか?」
 「うおっ!」

 目の前にいるのに気づかなかったのか話をかけたら後ろに退いて尻餅をつく七三貴族。

 うーん、小者臭がする。

 「聞きたいんだけど、床の修繕費と窓の修繕費は払ってくれるんだろうな」
 「いや、窓はランドさんのせいでは……」

 そこ、うるさい。
 直接窓を割ったのは七三貴族の部下だ、俺は悪くないぞ。

 「お、お前、この私に逆らってただで済むと思ってるのか!」
 「えー、先にやって来たのそっちじゃん」
 「うるさい! 覚悟しておけよ。この程度の孤児院など直ぐに潰してやるからな!」

 そう言って七三貴族は帰って行った。

 漸く邪魔者が消えたな、これで落ち着いて床の修理ができる。

 「ん? どうしたエマ。そんな怖い顔すると嫁の貰い手が居なくなるぞ?」
 「余計なお世話です! それより何してくれてんですか! 貴族に喧嘩なんて売って! 面倒なことになったじゃ無いですか!」
 「確かにな、あの貴族ちゃんと修繕費払ってくれるのかどうかは微妙だよな」
 「その話じゃ無いです! 逆に壊すための費用持って来ますよ!」
 「そうは言ってもな、過ぎたことは仕方ないと思わないか?」

 やっちゃったのだから仕方ない。
 だって向こうが仕掛けて来たんだもの。

 所でさっきから静かな院長はどうしたのやら。

 「あぁ、ここももう終わりなのね。どうしたら……」

 などと呟いている。
 現実逃避中だ、そっとして置こう。
 俺には床の修理が有るのだ、それに時間は有限、さっさと終わらせたい。

 落ち込むのは良いが今考えることはどうやって無事に事を済ませるかだ。
 まぁ俺等は今日1日で依頼が終わりなのでもうこの件に関してはノータッチだ。

 強く生きろよ、院長……。

 「と言うわけで俺は床と窓を直すのでこの部屋から出てくれ」
 「この状況で普通に物を直そうとする神経は凄いですね」
 「褒めたって何もでないぞ」
 「褒めてませんよ!」

 そうカッカしないで欲しいな。
 俺達に出来ることなんて何も無いんだけどな。

 そうして俺は床の修理に取り掛かるがエマが立ち塞がる。

 ……ならば反対側をと思い振り向くが直ぐに立ち塞るエマ。
 邪魔である。

 「おい、邪魔するなよ。この床がどうなっても良いのか」
 「なんですかその微妙な脅しは。床問題より貴族問題の方が大事ですよ」
 「バカだな、ただの冒険者にそんな問題解決出来るわけが無いだろう」
 「それを分かってて貴族に喧嘩売ったんですか!」
 「いやだから、全部向こうが……」
 「言い訳は聞きませんよ! 院長、この問題は私達が解決します。依頼料は要りません!」

 なんだと……面倒な事をする上にタダ働きだと。
 慈善事業じゃないとあれほど言っているのにこのやろう。

 「それは横暴だぞ、ブラック企業かよ」
 「なんですかそれ? でも元々ランドさんの責任じゃないですか、関係ない孤児院を巻き込んだせいです。反省してください」
 「なんてこった」

 最悪じゃないか、クソッタレ。
 さっきの俺を殴ってやりたい。

 でもあのまま攻撃を食らっていたら折角直した床をまた修理しなきゃいけないんだよな。
 床の修理は良いが何度も同じところをやりたい訳じゃないからな、懸命な判断だと思うわけだ。

 取り敢えず今は面倒なこの問題をどうやって片付けるかだな。
 ただの冒険者である俺がさっきの七三貴族にまた殴り込むと色々面倒な事になりそうだし。
 ところであの貴族誰だ?

 「なぁ院長、あの七三貴族は誰だ? なんで孤児院なんかに来てたんだ?」

 院長へと視線を向ける。
 院長はエマと俺が貴族問題をただで解決すると知って漸くまともに動き出した。

 「ええ、あれが孤児院にちょっかいを出してくる王都から来た貴族だわ、今回も無難に過ごす予定だったのに。はぁ、まさか戦闘を起こすなんて」
 「やれやれ、一体何が原因なのやら」

 そう言った途端鋭い目付きをエマから貰う。

 わー、すごーい。今まで見たこと無い目付きだー。
 それにしても本当に原因は何だったのやら。

 俺はただ素通りしただけで向こうが勝手に引き摺られて、穴に落ちて、俺のアイアンクローを受けて便意の指摘をしたら攻撃。
 それを撃退したらキレられた。

 ……悪いのアイツじゃね?
 いや貴族ってそんなのばっかかよ。
 初めて会ったけどな。

 「取り敢えずこの問題は俺とエマじゃどうしようもないからな、直ぐに動ける訳でもないし、今は床の修理だ。手伝ってくれ、依頼中だし」
 「くっ、ランドさんに正論を言われるとは思いませんでした……分かりました。私は何をすれば?」
 「窓ガラスの破片拾って捨ててきて」
 「まさか尻拭いだとは」

 ぶつぶつ文句を言いながらもガラスを片付けていくエマ。
 そして院長には子供達の面倒を見て貰うことにして俺も床の修理に取り掛かる。

 面倒な貴族問題だが、七三はどうやって潰すつもりなのだろうか。
 物理的に人を雇って壊しにかかるならまぁ乱暴な話全員をボコボコにすれば済む。
 しかし支援金が七三が来たことによって少なくなっているのなら七三が関わっている事は予想できるが、支援金を完全に断ち切られるとこっちも手出しが難しそうだな。

 そんなことを考えながらも床の修理に手は抜かない。
 外には木を結構置いていたお陰か、スムーズに進みタイムロスもそれほど無い。
 これなら夕暮れまでには終わるだろう。


 そして夕暮れ迄に終えた修理作業は素人にしてはなかなか良い出来映えだった。
 なにより、何故か不自然に腐っていたりする場所もあり、そこ辺りは剥がしたりなど結構面倒な作業が有ったりするが苦にはならなかったので問題はなかった。
 エマや院長は何故不自然に腐っていたのか気にしているようだったがそれは俺も同感だ。

 本当は七三貴族がやったのでは? なんて思うがそうすると孤児院に起きた悪いこと全部七三のせいとなるとちょっと短絡的過ぎる気もするので、そこは頭の片隅におく程度にする。

 「助かるわ、まさかこんなに新しくしてくれるなんてね」
 「私もランドさんがここまでやってくれるとは思いませんでしたよ」
 「少し気分が乗ったからな、気にするな」

 序でに外の庭に余った木材で滑り台を作ってみた。
 俺の記憶に有ったのだが1度も見たことが無かったので無いのだろうか?
 それならなんで俺は知っているのやら。
 まぁそんなこと一々気にしてては進むものも進まないので考えるのは止めた。

 「さて、じゃあ暗くなってきましたし、私達はこれで」
 「ええ、しかし、本当に良いの? 無料でこんな問題を片付けるなんて」
 「良いんですよ、元々こっちが悪いんですから」
 「無理だったら諦めるからそのつもりで」
 「諦めませんよ!」

 こうして俺とエマは孤児院を去り、ギルドに戻って報酬を受けとると俺はまた外で依頼を受ける事にして、エマは宿に行って貰う。

 「しかし、ランドさん。この問題はどう解決しましょうか。私は子供と遊ぶのに夢中で考えてませんでした」
 「言い出しっぺがそれか」
 「失礼な! どうせランドさんもカンガエテ無いでしょう!」
 「俺はある程度考えているぞ」
 「え? 嘘ぉ……。それ、聞いても良いですか?」
 「あぁ、俺は取り敢えず、領主を訪ねてみることにする。この土地のことだしある程度相談にも乗ってくれるだろ」
 「結局他人任せですか」
 「使えるものは使うんだ。それじゃ、尻尾よろしく」

 尻尾はどこに行ったかは知らないがエマに任せていれば大丈夫だろう。
 あれは放って置いても死なないとは思うからな。

 俺はそのまま街の外へと繰り出すのだ。 
 

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