そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

模擬戦

倉庫を見て回り、フィル達が動けるようになるまでは2日ほどかかった。やはり訓練をやり過ぎたか、少し調整しないとな。子供相手と言うのは難しいな。
 俺はどうも小さかろうと1人の人間として見ているようだ。相手は魔物じゃないし人間の子供はそこまで丈夫では無い。もう少し配慮が必要だな。

 フィル達の回復を待つ間、やることの無かった俺は孤児院の修復に力を入れていた。他の子供の相手をエマがやってくれていたので、俺は集中する事が出来たわけだ。……子供は嫌いではないが、依頼としては孤児院を直す事なので疎かにはしたくなかっただけだ。

 因みに七三貴族はこの2日間やって来ることはなかった。あんなにしつこかったのに急に来なくなると物足りなく感じるが、来ないならもう来ないでくれた方が助かるんだが。

 まぁお陰で孤児院の大部分は修復が完了していて、最初に来たときとは大違いな新しさが追加されている。
 この孤児院は2階建てなので2階のとある場所から下に降りるための遊具として、滑り台と言うものを作ってみた。
 庭にも暇潰しに作っていたんだが、こちらの方に人気ができてしまった様だな。子供は新しいものが好きらしい。

 庭も広いし材料費は領主が出してくれると言う太っ腹な対応なので存分に使うとしよう。俺の知識には公園と言うものがある。この街にも公園みたいなものは有るが、基本的に広場だけで遊具の類いが無いそうだ。
 街の大工なんかは建物を建てる事しか出来ないらしく、院長は俺の数々の作品を見て驚いていた。
 因みにエマはドン引きだ。

「それは、何ですか?」
「これはブランコって言ってな、前後に揺らして遊ぶ物……らしい」
「なんでそんなに自信がないんですか……」
「記憶はあるんだがどうも微妙にズレがあると言うか……分かるか?」
「分かるわけ無いじゃないですか」

 まぁ、あるものは使えってな。俺は広場の隅に様々な遊具を作っては調整を繰り返している。ジャングルジムとか言うのも作ったんだが、これ、何なんだろうな。
 なんて事を思いながらボーッと自分の作った遊具を見ている。

「師匠ー、何ボーッとしてるんだよ。こっちは準備できたから訓練しようぜ!」
「もう動いて平気なのか?」
「当たり前だろ? 2日も休んでたら動けるって。逆に動かなかったから鈍ってるかも知れないからな、早くやろうぜ!」
「分かったから押すな」

 押すなと言ったのに押し続けるフィルに任せて進んでいくと、以前訓練を行った場所でそれぞれ武器を持ちながら俺とフィルが歩いてくるのを見ながら待っている集団が居る。アルカ達冒険者志望組だ。
 全員が元気そうで何よりだな。これは遅れを取り戻すために厳しく……いや、前の訓練で反省した。今日はリハビリ程度みたいに軽く動く程度にしよう。

「待たせたな」
「遅いわよ、早く始めましょう」

 少し位気を使ってくれても良いんじゃね? 何、楽しみにしてたの?

「じゃあ、素直になれないアルカが促すんで始めるとしようか」
「師匠? 私に何か偏見持ってない?」
「事実じゃないのか?」
「そんなわけ無いじゃない!」

 はっはっは、素直じゃないな。まぁ、子供と言うのは素直になれない生き物だからな。だけどな、大人になったら素直に生きるのは難しいんだぞ? 今を大事にしろよ。

「師匠? 急に黙らないでくれる?」
「済まんな、お子ちゃまのアルカには到底分からない事を考えていたよ」
「私に何か恨みでもあるのかしら……」
「さて、お子ちゃまは放って置いて訓練をしようか」
「師匠、今日は何をするんだ?」

 今日は……どうするかな。何も考えてないんだが、そうだな……この間は一人一人個別での特訓だったからな、今回はチームとしてやってもらおう。

「今日は模擬戦だな、仲間との連携を鍛えよう」
「「「はーい」」」
「それで、師匠。2チームに別れるのか?」

 ふっふっふ、いい質問だスティーブ君よ。今回は特別授業だ。

「今回は俺が相手をしよう。勝てたら何でもワガママ聞いちゃう」
「マジでか! 師匠!」
「そんなこと言って良いの? 師匠ってFランクなんでしょ? いくら大人でも私達6人もいれば可能性はあるわよ?」
「口じゃなくて行動で示すんだな。安心しろ、子供に負けるほど落ちぶれてない」

 悪気はない俺の言葉にその場は静かになり、緊張感が漂う。フィルもスティーブもアルカもリズも舐められたと思ったようだ。ピータは最初から俺を卑下してはおらず、ユンは面白そうに見ている。
 そんな真剣な雰囲気の中だが俺としてはふーんって感じだ。こんな経験は要らないが森には無駄に好戦的な奴等が居る。殺気なんて初めてぶつけられた訳じゃないし、何とも思わん。
 ただ、子供にしては良い気迫だと思うぞ、その調子でがんばれ。

「師匠、余り舐めてると怪我するぜ?」
「足元を掬ってやるぞ」
「痛い目見ても知らないからね」
「遠慮はしませんよ、師匠」
「そうだな、遠慮は要らんぞ。最初から本気になれない奴は死ぬだけだと思え」

 俺の発言に頷くフィル達。俺はその場から踵を返してある程度離れた後にフィル達へと向き直る。
 その間にフィル達もそれぞれ武器を構えていつでも飛び出せるようにしている。

 前衛がフィルにピータ。中衛にスティーブ、ユン。後衛にアルカとリズだ。セオリー通りって感じで良いバランスなんじゃないか? 役割とかやったこと無いから良く分からないけど。

「はい、開始」
「おりやぁぁぁぁ!」

 言ったと同時に駆け出してくるフィル、少し後ろからは能力に差が有るからピータは少し遅れている。と言うか気になるのはたった今ピータを追い越しながら突っ込んでくるユンの方だ。
 お前中衛だろ! 役目放棄するんじゃねぇ!

「隙ありぃ!」
「貰うよっ!」

 一番最初に辿り着いたフィルは剣を下から上へと振り上げる。それを最小限に後方に避けると追撃と振りおろしに繋がる。
 俺は上体の崩れたフィルへと反撃をしようとすると、いつの間にか接近していたユンがフィルの背中を伝い上から斧を振り下ろす。
 それを横へと回避するものの、又してもフィルの影から短剣を突き立てて来るのはピータだ。その短剣を捌くうちに立て直したフィルが追撃を、そして嫌らしい位置からスティーブが槍を突き出してくる。

 その槍の嫌らしさは攻撃と攻撃の繋ぎ目の連携が途切れそうな時に来るのが嫌らしい。サポートが的確だな。1度離脱を試みたい所だが俺のいく場所を遮るようにアルカの矢が飛んできたり、フィル達の攻撃の後押しにリズの火の玉や氷の塊が飛んでくる。

 何コイツら、本当に子供? と思うくらいには強いし連携もできている。冒険者顔負けだな、こんなこと教えた事無いんだけどな。そんな子に育てた覚えはありません!

 まぁまだ余裕なんだけどな、やはり体力面はまだまだ未熟、攻撃する度に精度が落ちている位だ。弓矢や魔法の類いも集中力が続かないのか危なっかしいものになってきている。誤射されたものが味方に当たりそうになったりしてその度に何とか庇ったりはしているが、要練習だな。

「全然当たらねぇ!」
「まだまだ甘いなー」
「ムカつく!」

 何となくフィルを挑発すると面白いくらい乗ってくる。……簡単に挑発に乗るなよな、そんなんじゃ先が思いやられるぞ。
 取り敢えず単調になったフィルに足払いをして転ばせると殴りかかる。

「フッ!」

 すると援護するようにスティーブのまさしく横槍が入るが、冷静な判断役であるスティーブから潰す事に最初からしていて、餌を撒いたのだが乗ってきてくれた。
 そのまま槍を掴むと勢い良くスティーブが立っていた位置とは逆の方へと投げ飛ばす。追撃をかける前に転けているフィルには気絶をしてもらおう。

「ぐふっ!」

 あと、すでに限界に来てるピータにはデコピン。

「いてっ!」

 そして未だに元気なユンは放置して立ち上がろうとするスティーブへと跳躍し目の前で着地をする。

「はぁっ!」

 槍を構える暇がなかったスティーブは拳を振り上げる。それをフルフェイスの顔面で受けて逆に拳にダメージを与え、痛がってる間にチョップで倒す。

「覚悟ぉ!」

 めげずに俺を追いかけていたユン。その体力は凄まじいな。少しだけ軽量化した斧をもう自在に操っているのは流石だ。
 だが俺とのリーチが違うからな。俺は手刀で斧を叩き落とし、後ろに回り込み強制高い高いをして、落ちてくる迄の間に飛んでくる矢と火を避け、ユンをキャッチするとその場におろす。
 これでユンは戦闘不可だ。強引に。

「さて……」

 俺がアルカ、リズの元を見ると、二人は緊張が顔に出る。
 そしてそのままただ、一直線に二人の元へと走る。

「くっ!」
「まだです!」

 次々に飛んでくる矢と火を交わし、距離を縮める。そしてやがて矢と魔力の尽きたアルカとリズ。
 俺は二人の目の前に立ち見下ろす。これではもう何も出来ないだろうな。

「……どうする?」
「……はぁ、降参よ。化け物じゃない」
「次は負けませんよ、師匠」

 こうして模擬戦は俺の圧勝に終わり、フィル達をかき集めて反省会でもするか。

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