そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

木っ端微塵作戦、準備

 貴族が負け犬の如く去っていった。あと数日は滞在していそうなので自由な時間だが俺にはやることがある。殺ることがあると言っても過言ではない。
 そう何度も来られてちょっかいを出されるのは困るのでここで息の根を止めてやろうと考えた訳だが、知っているのはエマ、ダガシカシ、ギルドマスター、それに院長だけだ。領主には流石にちょっと言いづらいので黙っておくことにした。

 思い立ったが吉日、俺はその日速攻で森に戻ることにした。そう、襲わせてもらおうと言うことだ。
 俺の足なら3日以内には帰ってこれるし、その間なら多分逃がさずに仕留めることが出来るだろう。問題はアイツらが協力するのか、配置に間に合うのかなのだが、間に合わなかった場合はランドさんゴーレムモードで変異種の様に振る舞ってめっためたにしてやろう。

 と言うわけで早速森に戻ったんだが、尻尾が居なかったので荒れていると思っていたがトレントの長である鞭やグラスウルフの牙が思いの外頑張っていた様で安全だった。数日前にはオーガの長の角やオークの長の槍が模擬戦で大暴れしていたらしいが被害はなかったらしい。

 帰って早々挑まれるかと思ったがそんなこともなく、牙に話をつけにいくと了承してくれてすぐに取りかかるそうだ、物分かりが良いと便利だ。

 話をさっさと取り付けた俺はまた全力疾走しながら戻る。途中で俺の進路上にゴブリンが居たのだが、うちの森にもゴブリンがいるので、仲間に近しいものを殺すのは如何なものかと……。

「だが知らん」

 謎の独り言を溢しながら止まることなくゴブリンを牽き殺し、そのまま走って街に帰った。序でにゴブリンの討伐依頼と薬草の採取依頼も受けていたのでそちらも片付けて戻る訳だ、なんせ2、3日も空けて外に行くとか街からしてみれば意味分からんとか言われそうなので依頼で遅くなったんだよ? 本当だよ? を実行するために受けていたのだ。

 当然だがエマの方は邪魔なので置いてきた。すぐに戻るのにお姫様抱っこして走るのって無意味じゃね? と思ったので説得した訳だが説得の理由に孤児院の子供を頼むとか何とか真剣に言ってみたのだが正直ダガシカシも面倒を見てくれているのでぶっちゃけエマの出番はない。なので何かしら自分で考えていることでしょう。

 そうしてやること済ませた俺は辺境ファンへと戻ってきてギルドで依頼達成の報告を済ませた。

「あら、ランドさん。おめでとうございます、ランクアップですね」
「もうそんな時期か……」
「いえ、時期とか無いですけど」

 俺の発言に困ったような顔をする受付嬢。しかし、ランクアップかぁ、思えばそこそこ依頼を受けたり緊急の依頼、ましてや領主の依頼まで受けてたのに遅い方だと思わないか? 冒険者って大変だな。興味は無いけどSランクってなれる気がしない。

「結構遅めな感じだな」
「そうですね、実を言うとランドさんの評価は難しくてですね」
「ほう」
「冒険者になる前にBランクのダガシカシさんを無傷で倒し、その後アラブルベアを単独で討伐、領主様からの依頼もこなし孤児院のリフォームまで買って出ているのでランクの判別が難しかったんですよ」

 ふむ、実力としてはBランクと見ても良いんだろうな。まぁ、問題としては……。

「貴族に喧嘩を売ったことですね」
「売った訳じゃ無いんだが傍から見ればそうなるだろうしな」
「人の評価なんてものは偏見で出来ているようなものですからね」
「それを受付嬢であるアンタが言うか」

 評価する立場だろうに……。それにしてもこの受付嬢はなんか冷めていると言うかドライと言うか何にも興味はありませんよという感じか全面に出ていて見てて面白いなと思う。
 うちの暴力女とは大違いだな。

 アイツはヤベェ、普通の人間な筈なのに時々カウントゴリラ顔負けの攻撃をしてくる。戦闘でも無いのにだ、一体どこにあんな力が。
 はっ! もしやアイツは伝説の……!

「それでランクの方なんですが」
「あ、うん」

 いかんいかん、何か変なこと考えてたわ。
 それでランクだったな、その評価は話終わったから上がるという事だろう。

「ランドさんは一先ずCランクとして認定するそうです」

 ふむ、Cランクか。
 さっきまでFだったのに色々飛ばしてCか、2段階上がるのは凄いのか凄くは無いのか分からんな。

「それってどうなんだ?」
「この街では偉業だと思えば良いのでは無いですか? あまり気にしない方でしょう」

 それは確かに。つまり他には結構いると言うことだな。世界は広いな。

「ともかくおめでとうございます」

 頭を下げてくる受付嬢に返事をした後に俺はそのままギルドから出ていく。
 いやー、Cランクか、どんな依頼が受けられるのか見てから出てこれば良かったな。

 まぁ一先ずは貴族を木っ端微塵にしなきゃならないのでそれが優先だな、実行することを孤児院に知らせに行こう。

「ランドさーん、お帰りなさーい」

 エマが遠くから大声で手を振りながら此方へ向かってきているのが見えた。
 もう少し近くでやれよ、ほら街の人たち見てるだろ。常識考えろよな。

「こんなところで一体何をしていたんだ?」
「私も依頼を受けてたんですよ」
「お前が……依頼、だと?」

 戦慄、戦慄なのである。
 普段、俺の金魚のふんであり、俺の依頼についてくるだけのこの女が1人で依頼をこなせると言うのか? ……世も末だな、いや、末期を通り越して滅びる寸前だろうか。それなら俺が貴族を木っ端微塵にしなくても済むのでは。
 などと考えていると。

「そんな世界が終わるみたいな顔しないで貰えますか? 流石に私だって1人で依頼くらい受けますからね?」
「この間は俺におんぶに抱っこだったのにか」

 そう、以前訪れたときはコイツは俺の稼いだ金で宿に止まっていた。ただのヒモだったのだ。
 そんなヒモが1人で出来るもん等と言っているのだ、俺は恐らく幻覚を見ているに違いない。

「孤児院に行くんですよね? 早く行きましょうよ」
「ん? ああ、そうだな」

 今回は心を読まれなかったぞ。しめしめ、俺も隠し事が上手くなったものだな。

 エマを出し抜けたと、内心1人でほくそ笑んでいると。

「ヒモだと思ったことはマジで許さないので」
「おうふ……」

 バレバレだった。

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