そのゴーレム、元人間につき
木っ端微塵作戦、中止
なんやかんやあったが俺達は無事に孤児院に到着した。
孤児院の門からいつものように入るのだが、今回はいつもとは違う珍しいものと遭遇した。
「ん? 七三?」
「あ、本当ですね……って、あれ?」
あろうことか七三は此方に気づいてはいたものの、それどころでは無かったのだろうか普通にすれ違っただけだ。
あんなに急いで何処へ行くのやら。
「院長と話していたに違いないからな、話を聞くしかないだろう」
「それが1番手っ取り早いですもんね。行きましょうか」
エマの言葉に頷いた俺は再び歩いて門を潜り、扉をノックする。
「また来たのか! ……って、なんだ、師匠か」
「なんだとはなんだ」
ノックした先にはフィルがおり、微妙に警戒していたことからさっきの七三の事であろう事が予測される。
「入っても良いか?」
「良いけどさ、院長まともに話できないぜ?」
「貴族が何かしたのか?」
するとフィルは苦笑いを浮かべながら「そんなところ」と言って俺達を案内する。
俺とエマは顔を見合せるがエマも理解はしてなかった様だ。
フィルに促されつつ、俺とエマは院長がいるらしい部屋に案内される。
「院長、もうそろそろ木っ端微塵作戦を開始するぞ。今日はそれを伝えに来た」
俺は扉を開きながら院長に用件だけ伝える。が、何故か窓のそとを見ており此方に全く気がついてないようだった。
「おい、院長。聞いているのか?」
返事をしない院長。
「……性別不明の化け物」
「あ?」
ボソッと悪口を言ってみると孤児院の子供が泣くであろう程の形相で睨み掛けてくる院長。
俺もちょっとびびった。
「なんだ、アンタ達か。用件はなんだい?」
「やっぱり聞いてなかったか。まぁ、いい、近々、それも3日以内には予定通り攻撃を仕掛けるからなと伝えに来ただけだ」
話は以上なのでその場を去ろうと試みると肩を捕まれる。
普段なら無視しているのだがその肩を掴んでいる人物から殺気が洩れているので大人しく振り替える。
「ちょっと待った。その作戦は中止してくれ」
「何でだ? 止める理由なんてないだろう?」
「そうですよ院長。またやって来るんですからここで仕留めないと……」
エマが加勢してくれるが如何せん発言が物騒だな。それにしても賛成してくれたのに急に掌を返すとは、良い歳した大人がそんなんで良いのだろうか。
「七三に情でも沸いたか。だが残念、俺にはそんなもの無いのでぶっ潰します」
「良いから、話を聞いてくれ」
「ランドさん、ここは大人しく聞いておきましょう。以前戦ったときより苦戦する気がします」
うん、なんか強そうになってるし、とりあえず話は聞いておくことに越したことはない。
俺とエマは院長に向かい合う様にソファーに座る。うわ、目の前に怪物が……あ、院長か。
「それで話は? 止めるってことは余程の理由があるんだろう?」
「あ、ああ……なんだ、その……」
「ん? ハッキリしろ、気になる」
どうも歯切れが悪い。お前は言いたいことをすぐにハッキリ言うタイプだろ、今さらキャラ変更なんてすんじゃねぇぞ。
「き、貴族にな……その、あれだ。告白された……」
「「ん!?」」
うん、何かの聞き間違いだろう。きっと脅迫されたの間違いだな。許すまじ七三貴族め、きっとそうに違いない。だれが好き好んでこんな100歩譲って化け物に告白などするものか、人の尊厳を踏みにじるのもいい加減にしろよ。いいか、この化け物はな──
「ランドさん、その思考はそこまでです。なに考えてるが分かりませんが失礼なこと考えないでください」
エマの抉るようなチョップを後頭部に浴びながら思考を中断する。あまりの驚きのカミングアウトのお陰で現実逃避をしてしまった様だ。
「安心して下さい。私も現実逃避ぎみでしたので」
お前もかい。
と言うわけでお返しのチョップをするがキレられた、解せぬ。
「あのですね、ランドさんのチョップは本当に抉りそうになるので手加減を覚えてください!」
「辛辣……」
自分の事は棚にあげやがってこの野郎。
さて、エマとの悪ふざけで冷静になれた所で再び聞き返そう。
「もう1度言って」
「こ、告白……された」
顔を赤らめて言う院長。
「もう1回」
「告られた」
「もう一声」
「しつこいな!」
なんど聞いても信じられないし脳みそが受け付けないんだから仕方ないだろう。喜んで毒を飲む奴がいないのと同じだ。不味いと分かってて食べる料理が無いのと一緒だな。
「……なんの冗談だ? 冗談は存在だけにしろよ院長」
「どっちが辛辣なんですかね……」
エマの発言は無視だ。
「冗談じゃないんだよ、話を聞いていけ」
「のろけ話は遠慮するからな」
院長は話始める。貴族は嫌々やって来たこと、そんで院長にアピールするためだけに足蹴もなく通っていたことを。正直な話、気持ち悪いと思った俺は心が腐っているのだろうか。
「ふーん、だから作戦の中止を頼んでくる訳だ」
「そう言うことだ、私の決心がつくまでは待ってくれ」
こっちに面倒が起こらないなら良いんだけど、まさか院長に惹かれるとは世の中何が起こるか分からんものだな。
「エマはそこんところどうよ、立場的に」
「私ですか? 女性としては難しい恋ほど燃えるってもんですよ!」
拳を握りしめながら熱く語る。そう言うものなのだろうか、俺には分からんな。まぁエマは賛成な様なので俺も止める他無いようだ。
「じゃあ今回は生かしておく事にするが正直騙すための策略かも知れないからな、そこはちゃんと考えておけよ」
「分かっている」
力強く頷くがすぐに院長はボーッとしている。ホントに分かってんのかコイツ。
「それとそのせいで向こうが再びちょっかいをかけるようになれば俺は一切関与することはない。そこも忘れるなよ」
注意をしたあと、俺は部屋を出るために腰を上げる。
「私のワガママで迷惑をかけてスマン……」
「いや、ホントに。このストレスどこにぶつければ良いんだろうな。最も最後のチャンスとやらかもしれないからな、成功するかしないかはアンタと七三が鍵だ。精々がんばれ」
俺はそのまま外に出ていく。すると訓練をしていたフィルが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「うん、すげぇまともじゃなかった」
「だろ」
軽く皆に挨拶を済ませるとギルドへと向かう。ダガシカシに八つ当たりでもしようかと思った訳だ。
「おい、ランド、準備は出来てるのかよ?」
ギルドに入るなりダガシカシに尋ねられる。さすがに大きい声で話さなかったのは評価対象だろう。
「その事だが中止になった」
「は? そりゃまた、どうして」
院長について話すとダガシカシだすら苦笑いを浮かべる。そりゃ、そうなるよな。
「まさか院長がねぇ……世の中何が起こるか分からんな」
「俺もそれは思った」
「でもよ、ランド。本当に申し訳ねぇんだが……」
「どうした?」
「貴族の奴は今朝がた街から出ていったぞ」
「……は?」
出ていっただと? あと数日は有る筈じゃないのか? 今朝出ていったとなると恐らく牙達と遭遇するんじゃないのか? ……ヤバくね?
「悪いな、急用を思い出した」
「ん? どうしたんだよ」
「作戦が急に頓挫したからな。それに加えて七三は出ていった。そうなると予定の魔物襲撃は続くことになる」
ここまで言えば後は分かったのだろう、苦笑いの顔がひきつるダガシカシ。
「そりゃやべぇな! どうするんだよおい!」
「安心しろ、足には自信がある。ギリギリ何とかなるだろう、今ならな。と言うわけだ、アディオス」
ヤバいぞ、間に合うかな。中止を了承して応援しておいての結果七三が死亡となれば院長は種族を超えてまで更に怪物と化して暴れだす筈だ、それはなんとしてでも阻止せねばなるまい。
「……間に合わなかったら、エマは置いて逃げるか」
さらっと薄情なことを呟きながら王都に続く道へと走っていく。
孤児院の門からいつものように入るのだが、今回はいつもとは違う珍しいものと遭遇した。
「ん? 七三?」
「あ、本当ですね……って、あれ?」
あろうことか七三は此方に気づいてはいたものの、それどころでは無かったのだろうか普通にすれ違っただけだ。
あんなに急いで何処へ行くのやら。
「院長と話していたに違いないからな、話を聞くしかないだろう」
「それが1番手っ取り早いですもんね。行きましょうか」
エマの言葉に頷いた俺は再び歩いて門を潜り、扉をノックする。
「また来たのか! ……って、なんだ、師匠か」
「なんだとはなんだ」
ノックした先にはフィルがおり、微妙に警戒していたことからさっきの七三の事であろう事が予測される。
「入っても良いか?」
「良いけどさ、院長まともに話できないぜ?」
「貴族が何かしたのか?」
するとフィルは苦笑いを浮かべながら「そんなところ」と言って俺達を案内する。
俺とエマは顔を見合せるがエマも理解はしてなかった様だ。
フィルに促されつつ、俺とエマは院長がいるらしい部屋に案内される。
「院長、もうそろそろ木っ端微塵作戦を開始するぞ。今日はそれを伝えに来た」
俺は扉を開きながら院長に用件だけ伝える。が、何故か窓のそとを見ており此方に全く気がついてないようだった。
「おい、院長。聞いているのか?」
返事をしない院長。
「……性別不明の化け物」
「あ?」
ボソッと悪口を言ってみると孤児院の子供が泣くであろう程の形相で睨み掛けてくる院長。
俺もちょっとびびった。
「なんだ、アンタ達か。用件はなんだい?」
「やっぱり聞いてなかったか。まぁ、いい、近々、それも3日以内には予定通り攻撃を仕掛けるからなと伝えに来ただけだ」
話は以上なのでその場を去ろうと試みると肩を捕まれる。
普段なら無視しているのだがその肩を掴んでいる人物から殺気が洩れているので大人しく振り替える。
「ちょっと待った。その作戦は中止してくれ」
「何でだ? 止める理由なんてないだろう?」
「そうですよ院長。またやって来るんですからここで仕留めないと……」
エマが加勢してくれるが如何せん発言が物騒だな。それにしても賛成してくれたのに急に掌を返すとは、良い歳した大人がそんなんで良いのだろうか。
「七三に情でも沸いたか。だが残念、俺にはそんなもの無いのでぶっ潰します」
「良いから、話を聞いてくれ」
「ランドさん、ここは大人しく聞いておきましょう。以前戦ったときより苦戦する気がします」
うん、なんか強そうになってるし、とりあえず話は聞いておくことに越したことはない。
俺とエマは院長に向かい合う様にソファーに座る。うわ、目の前に怪物が……あ、院長か。
「それで話は? 止めるってことは余程の理由があるんだろう?」
「あ、ああ……なんだ、その……」
「ん? ハッキリしろ、気になる」
どうも歯切れが悪い。お前は言いたいことをすぐにハッキリ言うタイプだろ、今さらキャラ変更なんてすんじゃねぇぞ。
「き、貴族にな……その、あれだ。告白された……」
「「ん!?」」
うん、何かの聞き間違いだろう。きっと脅迫されたの間違いだな。許すまじ七三貴族め、きっとそうに違いない。だれが好き好んでこんな100歩譲って化け物に告白などするものか、人の尊厳を踏みにじるのもいい加減にしろよ。いいか、この化け物はな──
「ランドさん、その思考はそこまでです。なに考えてるが分かりませんが失礼なこと考えないでください」
エマの抉るようなチョップを後頭部に浴びながら思考を中断する。あまりの驚きのカミングアウトのお陰で現実逃避をしてしまった様だ。
「安心して下さい。私も現実逃避ぎみでしたので」
お前もかい。
と言うわけでお返しのチョップをするがキレられた、解せぬ。
「あのですね、ランドさんのチョップは本当に抉りそうになるので手加減を覚えてください!」
「辛辣……」
自分の事は棚にあげやがってこの野郎。
さて、エマとの悪ふざけで冷静になれた所で再び聞き返そう。
「もう1度言って」
「こ、告白……された」
顔を赤らめて言う院長。
「もう1回」
「告られた」
「もう一声」
「しつこいな!」
なんど聞いても信じられないし脳みそが受け付けないんだから仕方ないだろう。喜んで毒を飲む奴がいないのと同じだ。不味いと分かってて食べる料理が無いのと一緒だな。
「……なんの冗談だ? 冗談は存在だけにしろよ院長」
「どっちが辛辣なんですかね……」
エマの発言は無視だ。
「冗談じゃないんだよ、話を聞いていけ」
「のろけ話は遠慮するからな」
院長は話始める。貴族は嫌々やって来たこと、そんで院長にアピールするためだけに足蹴もなく通っていたことを。正直な話、気持ち悪いと思った俺は心が腐っているのだろうか。
「ふーん、だから作戦の中止を頼んでくる訳だ」
「そう言うことだ、私の決心がつくまでは待ってくれ」
こっちに面倒が起こらないなら良いんだけど、まさか院長に惹かれるとは世の中何が起こるか分からんものだな。
「エマはそこんところどうよ、立場的に」
「私ですか? 女性としては難しい恋ほど燃えるってもんですよ!」
拳を握りしめながら熱く語る。そう言うものなのだろうか、俺には分からんな。まぁエマは賛成な様なので俺も止める他無いようだ。
「じゃあ今回は生かしておく事にするが正直騙すための策略かも知れないからな、そこはちゃんと考えておけよ」
「分かっている」
力強く頷くがすぐに院長はボーッとしている。ホントに分かってんのかコイツ。
「それとそのせいで向こうが再びちょっかいをかけるようになれば俺は一切関与することはない。そこも忘れるなよ」
注意をしたあと、俺は部屋を出るために腰を上げる。
「私のワガママで迷惑をかけてスマン……」
「いや、ホントに。このストレスどこにぶつければ良いんだろうな。最も最後のチャンスとやらかもしれないからな、成功するかしないかはアンタと七三が鍵だ。精々がんばれ」
俺はそのまま外に出ていく。すると訓練をしていたフィルが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「うん、すげぇまともじゃなかった」
「だろ」
軽く皆に挨拶を済ませるとギルドへと向かう。ダガシカシに八つ当たりでもしようかと思った訳だ。
「おい、ランド、準備は出来てるのかよ?」
ギルドに入るなりダガシカシに尋ねられる。さすがに大きい声で話さなかったのは評価対象だろう。
「その事だが中止になった」
「は? そりゃまた、どうして」
院長について話すとダガシカシだすら苦笑いを浮かべる。そりゃ、そうなるよな。
「まさか院長がねぇ……世の中何が起こるか分からんな」
「俺もそれは思った」
「でもよ、ランド。本当に申し訳ねぇんだが……」
「どうした?」
「貴族の奴は今朝がた街から出ていったぞ」
「……は?」
出ていっただと? あと数日は有る筈じゃないのか? 今朝出ていったとなると恐らく牙達と遭遇するんじゃないのか? ……ヤバくね?
「悪いな、急用を思い出した」
「ん? どうしたんだよ」
「作戦が急に頓挫したからな。それに加えて七三は出ていった。そうなると予定の魔物襲撃は続くことになる」
ここまで言えば後は分かったのだろう、苦笑いの顔がひきつるダガシカシ。
「そりゃやべぇな! どうするんだよおい!」
「安心しろ、足には自信がある。ギリギリ何とかなるだろう、今ならな。と言うわけだ、アディオス」
ヤバいぞ、間に合うかな。中止を了承して応援しておいての結果七三が死亡となれば院長は種族を超えてまで更に怪物と化して暴れだす筈だ、それはなんとしてでも阻止せねばなるまい。
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