そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

お祝い

「戻ったぞ」

 もはやノックすらせずに孤児院の扉を開き中に入る。一応外を確認したが誰も居なかった。昼寝か? いや、今はそろそろ夕方だ、おやつの時間では無いだろうか。そんなものがあるかは見たことは無いけどな。

「……む? 何処にも居ないな」

 院長の部屋や、フィル達の寝室等にも訪ねてみたが誰もいない。強盗が入ったらどうするつもり何だろうか、まぁ、孤児院に強盗が入るとかメリットがないから問題なしだな、扉に鍵がかかってないのはどうかと思うが。

「いや、修理の過程で俺が鍵穴作ってないだけだな。後で着けるとしよう」

 そんなことより今は院長とかエマ、子供達を探すのが先決、後探していないのは……食堂の辺りかな。

「誰かいるか?」

──パァン!

 扉を開けたと同時に乾いた破裂音が周囲に響く、攻撃か? とは思ったが無傷だったし衝撃も来なかった。……外した?

「お帰りなさい! ランドさん!」
「「「お帰りー!」」」

 何故か食堂には孤児院の子供達と院長、そしてエマが料理を囲んでいる。手に持っているのは恐らく先程の破裂音を出した道具だろうか……それよりも。

「……何をしてるんだ?」
「ふふふ、実はですね。今日は孤児院の問題が解決した記念と言うことでパーティーでもしましょうと思いまして! 院長さんと企画したんですよ!」
「それやる意味あるか?」
「釣れないですね~、良いじゃないですかたまには」

 エマは一応森に暮らしているけど人間だからな、人との交流なんて滅多にできないだろうし、少し位はこんなことが有っても良いか。

「分かった。お前がそうしたいなら俺は何も言わない」
「では、ちゃんと楽しみましょう! ささ、ランドさんの席もありますよ~」
「……飲み食い出来ないんだが?」
「私が食べてるのを見ててください」
「鬼か」

 その後、本当に目の前で食べ物を食べているエマを眺めると言うストレスが溜まる作業をしていると、フィル達が俺に話しかけてくる。

「師匠~食ってるか~」
「いや、今拷問を受けているから食べていないな」
「あぁ、エマ姉か。師匠も大変だね、何したのさ」
「いや? 何かした覚えは一切ない。ただの嫌がらせだと思うぞ」
「それに文句1つ言わないとは、師匠は大人だな」

 俺を慰めてくれるのかフィルよ……。そしてスティーブ、勘違いするなよ、俺は今にもアイアンクローを放とうとしていたんだ。それに文句なら内心でずっと呟いてたわ。

 この、性悪! とか、食いしん坊将軍! とか、人間じゃなくてお前もう魔物だろう、その性格の悪さは。角の方がマシじゃね? とかな。

「流石に食事を見せつけられてても食べれば良いのに」
「まぁ、別に腹も減ってないから問題はないぞ」
「師匠がそれで良いなら別に俺達が口を出すことも無いけどさ」
「まぁ、それは置いておいてだ。滅多に食べられない料理をそっちのけで俺に何か様か?」

 この孤児院の今回の食事は今まで訪れてきた中ではは見たことはない。いや、もしや月に1度は豪華なものを食べてるかも知れないが、その線は七三のお陰で傾いていた経営からしてまず無いと考えている。
 そんな滅多に食べられない料理をそっちのけで俺の所まで来るんだ、何か用があるのは分かった。

「隠してる訳じゃ無いけどね。師匠達ってこの後どうするの?」
「この後?」
「うん、孤児院に来たのって依頼だろ? だからさ、依頼が終わったらあんまり訓練してもらえないんじゃ無いかなって」

 なるほど、今回孤児院に来たのは依頼があってからだった。そうでもなければ俺は孤児院に寄ることもなくただ他の依頼を受けていただけかも知れないな。

 それに依頼も終わりだから訓練をする事も殆ど無いだろうし、そもそも、もう森に戻る頃合いだろう。

「確かに、もうじき俺達は街の外に出る。次戻ってくるのはいつかも分からないからな。暫く俺からの訓練は無いだろう」
「……やっぱりか」

 そう聞いてフィルは落ち込むがそこまで落ち込む必要はあるか? 俺は大して訓練を施した訳じゃないし、基本なんて物は良くわかってないからな。俺がした大きなことと言えば武器を与えた程度な筈なんだが。

「そんなにショックを受けるほどか?」
「フィルが落ち込むのも無理はないだろう。それに、今まで見たなかでも師匠は1番強いからな」
「そ……そうだよ! 僕だって憧れるし!」

 む、先程までは黙っていたピータまで出てきたぞ。ふと、視線をピータからあげるとアルカ、リズ、ユンの3人も俺の元へと向かっていることがわかった。

「ん? お前達までどうした?」
「単刀直入に言うわ、師匠に残ってほしいのよ。この街に」
「……ほう?」
「フィルは勿論、私達も尊敬しているからですよ、師匠を」
「俺は何もしていないんだが? 尊敬に値する存在だとは俺は思ってないぞ」

 さては、どこかで大きな勘違いをしているのかもしれないな。それなら俺ごときに尊敬だなんて言う言葉を使うのも頷ける。
 はてさて、どこでどんな風に解釈して勘違いを生んだのかを解決してやらねばならんな。

「さて、お前達が何を勘違いしたかわからんがその勘違いを正そう。何を思って俺を尊敬するなんて言うんだ?」
「は? 師匠、貴方バカじゃないの!? どう考えたって孤児院を救った上に修理、そして私達に冒険者として手解きまでしてくれているのよ? 逆に何を尊敬に値しないか言って欲しいくらいよ!」

 おうふ、アルカにいきなり怒られた。他の面子もアルカに同意なのだろう、首をブンブン振って頷いている。

「いや、それは依頼だからで……」
「師匠、過程なんて関係ないぞ。師匠がただの頼み事でやったことでも俺達にとっては意味をなさない、結局は俺達が思ったことが事実だ」

 うーん、スティーブの意見も最もだな。しかし本当に10歳の思考なのだろうか。年齢偽っているのでは無いかと毎回思うぞ。将来が別の意味で心配だ。大人ぶって苛められないだろうか。……アルカがいるな、問題ない。根拠はないけど。

「……うん、考えるのが面倒になってきた。お前達がそれで良いならもう良いや」
「急に投げ槍だな師匠!」
「この人って気分屋よね……」
「それで、お前達は俺に残って欲しいんだっけか?」
「そうよ、正直、まだまだ実力が足りないの。もっと鍛えるべきだと思うわけ」

 実力不足ねぇ、10歳でここまで動けるのなら良いんじゃないだろうか。あと5年は有るわけだ、順当に行けばかなりの強さを持ったルーキーになるに違いない。それでもまだ上を目指すか……。

「立派な事だな。だが、最初にも言ったがお前らはまだ時間がたっぷりある。今から頑張るのも分かるが焦りすぎは良くない。そう言ったのは忘れたか?」
「忘れてないわ。それでも師匠を越えるためよ、この程度は焦りには入らないの」

 俺を越える……ねぇ、言っておくが俺は自分自身がそこまで強いとは思わない。戦ったことのあるランクは人も魔物もBランクだけだ。AランクやSランクには手も足もでないかもしれない。それにBランクといっても相性が良かっただけだろう。
 そう考えると世界は広いな……どうでも良いけど。

「世界は広いぞ。俺なんかより強い奴は幾らでもいると思うんだが……」
「だから、最初の目標が師匠なのよ。私達は師匠を越えて更に上にいくの。行く行くは魔王だって目じゃないわ」
「まぁ、長いし辛いだろうけどね。そのくらいの覚悟は……出来てる?」
「それは分からないが、その心意気で行こうとは思っているぞ」

 ほうほう、どうやら決意は堅いようだ。こりゃ何を言っても聞かないだろうな。
 んで、何の話だったか……あぁ、俺に残れとか残れとかの話か、脱線していたな。
 でも、これ以上俺から学ぶことが余り無いのも事実、それよりは経験豊富な奴に頼むのが1番だろう。

「それで、俺に残ってくれという話だが……」
「頼むよ師匠!」
「断る」
「そんな!」
「理由を聞いても良いですか? 師匠」

 全員驚いた様な表情をする。寧ろどこで俺を説得していたのかは疑問だがな。

「理由は簡単だ。教えることが無い。俺よりも他の冒険者の経験値の方が役に立つからだ」
「師匠だって! 戦いなら……」
「戦いだけじゃないのが冒険者だ。採取や護衛、調査とかその他色々……俺は討伐しかしたことは無いが、兎に角。俺よりも経験豊富な奴等から習うのが1番だからだ」

 戦いたいだけなら傭兵でもすればいい。いや、あれは主に対人だっけか? 戦争に参加とかする奴だった様な気がするが。
 まぁ良いや、こいつらが目指すのは冒険者だ。戦い以外の知識がかなり重要になるそういう意味ならおれば全く役に立たないからな。
 ダガシカシに押し付けることにしよう。

「それに俺は基本なんて教えられないからな。ダガシカシには頼んでおく、だから、そこで頑張れ。残りたくない訳じゃ無いが、いつまでも甘えるのは違うだろう? なら、次に会うときにはもう少し強くなって見せろ」
「師匠……わかった」
「フィル!?」
「皆、次会うときまでに強くなって師匠に認めてもらおうぜ。師匠、今度訓練するときは俺達は師匠に攻撃を当てるしスキルだって使わせて見せるからな。覚悟しろよ!」
「あぁ、そのいきだ。精々足掻いてみせろ」

 よし、なんとか説得はできただろう。逆に闘志を燃やした様だがどこにそんな要素があったのやら。まぁ、成長は楽しみにするとしよう、次はいつ会うかわからないが意外とすぐかもしれないしな。

 他の面々も頷きあってやる気になったようだな。これからが楽しみだ。

「よーし! じゃあ、英気を養うために飯くうぞ! ……って無い!?」

 ん? 確かに気がつけば辺りの皿かは料理が消えてるな。どこに行ったのやら。
 ……まさかな、俺が話している間もずっと食事を続けていたなんてことは無いだろうが、とりあえず確認だけでもするか。

 俺はエマへと視線を向ける、すると、テーブルには山積みの空き皿があり、リスのように頬を膨らませながら食事をしているエマがいる。

「あ、すみません。お話長かったので料理食べちゃいました」
「「「えぇー!?」」」

 ……やっぱりか。

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