そのゴーレム、元人間につき
季節
エマがそろそろ起きたであろうタイミングを見計らい、祠へと帰還する。
タイミングとしては少し先にエマが起きていた様で、祠から出てきて俺が体を作り替えていた場所で座り込んでいる。
「ランドさぁぁぁん! どうしてこんな姿に! はっ、もしや私との戦いが影響して……」
なにやら俺の脱け殻みたいな残骸を見て嘆いている様だ。ふむ、これは少し脅かしてみるか。
俺はそのまま物陰でひっそりと見物と洒落混む。
「すみませんでした、毒なんて盛ってすみませんでしたぁ!」
アイツ戦いの最中にそんなもん仕込んでいたのか……、どさくさに紛れてえげつない事をしてくれる。
「なんで死んじゃうんですかぁ、今後誰が私にご飯をくれるんですかぁ!」
「欲望丸出しじゃないか」
エマを後ろから思い切りひっぱたくと、スパァンッと、小気味良い音をたてる。我ながら良いツッコミだと思う。
当の食らった本人は頭から残骸へと突っ込んでいく。おいおい、良いリアクションするな。
「ちょっとぉ! 誰ですか、私は今食いぶちがなくなって悲しいんですよ……ってランドさん、あら? じゃあこれは」
「脱け殻だ」
「ランドさんって脱皮しましたっけ?」
「しないな」
「意味が分かりません」
エマとなんの意味もない話をしつつ、俺は落ちている残骸を『物質操作』で集めていく。
ふと思ったが、俺はスキルの殆どを戦闘に使っておらず、雑務とかにしか使っていないな。物凄い宝の持ち腐れをしている気がする。
まぁ自力で解決できるのならばそれはそれで良いかな。
「その脱け殻はどうするんですか?」
「ん? そうだな……石像でもつくるか?」
集めたのは良いが特に使い道がない。武器を作るにしても石製の武器なんて使えないからな。
石の剣なんて切り刻むと言うよりは叩ききるの方が近いし、何より脆いのが欠点だ。
「それでしたら家具でも作りましょうよ!」
「家具? それまたどうして……」
「いや、ランドさんにはわからないかと思いますけど、祠のなかに放置してくれたじゃないですか。床が固くて身体中痛いんですよ、ですからベッドなんて作ってくれたら嬉しいな~なんて」
上目遣いで俺を見つつねだるエマ。
「それにこれは本当にランドさんにはわからないかと思いますが、もうすぐ冬が来ます。気温が下がっているので正直外で寝るのにも限界が来ているんですよ」
確かにエマは毎日外で大の字になり、無防備になんの警戒もせずにアホの様に寝ている。だがここ最近はくるまったりしているのを良く見ている。恐らく寒いのだろうな。
しかし、冬か……もうそんな季節なんだな。いや、季節とか分からんななんとなく理解は出来るのだがなんで理解出来ているのかはさっぱりだ。これは1度聞いておくか。
「冬ってなんだ?」
「え、知らないんですか!?」
「俺は生まれて1年も経ってないと思うぞ。いや、自我が出来てからか? まぁそんな訳で知らん」
その後聞いたエマからの説明は四季と言うものだ。
1年を通して気候が変わり、春、夏、秋、冬と言う順番で訪れ、それぞれに特色があり、そこで育てられる作物や景色なども違うらしい。
中には年中寒いところや暑いところがあるらしいがエマもそれは見たことがないらしい。
「ふむ、あれはなんだ? ずっと雨が降っていた時があった」
あれはまだ壁に埋まっているときだ。どれ程続いていたのかは数えなくなっていたので分からないが結構な日数が経っていた筈だ。
あのときは森の木と雨が調和していてそれはそれはキレイだった。
「うーんと、梅雨……ですかね? 夏の時期の前に集中的に雨が降る時期があるのでそれかと思いますよ」
「ほう、あれは中々良かった」
「冒険者としては仕事がしづらいので困りものですけどね。魔物も余り出てきませんし」
それから地面がぬかるみ動きづらいだの服がビショビショになって気持ち悪いだのと愚痴を言うエマ。
「と言うことは雨の中でも行動していたと言うことか?」
そう聞くとエマは気まずそうに目をそらしながらコクりと頷く。
「まぁ、そうですハイ……本来なら梅雨の時期の前に稼いで梅雨は室内で過ごすのが普通なんですけど、生憎お金が無くてですね……」
なるほど、金がなければ稼がなきゃ行けないから泣く泣く活動していた訳か。
ここで気になったのはエマについてだが……俺は正直に言うとエマと言う人物を全く知らない。
この森の中で先輩冒険者に襲われているところを助けた(それはエマが言っているだけ)訳だが、それ以前は知らん訳だ。
先輩冒険者と共に居たと言うことでてっきり新米なのかと思っていたがそうでもないのか?
「エマ、冒険者を初めてどのくらいだ?」
「え? そうですね……私が15の時からなので3、4年位ですかね?」
「それで余り稼げなかったのか……」
「五月蝿いですよ? すみませんね、底辺冒険者で」
エマはその場で踞り、地面に円を書きながらグチグチと文句を垂れ流す。
「じゃあなんで新人のフリをしてまで他の冒険者に着いていったんだ?」
「いえ、フリでは無くてですね。普通に勘違いされたんですよ、何度も違うと言おうとしたんですけどね、お金の話が出てきたものですから妥協しましたよ」
「お前の金への執着心はどこから来ているんだ」
「いや何分貧乏だったもので、お金と食事を優先して生きてますよ」
だからあんなに食べるわけか。俺は食事を必要とはしないのだが腹が減っては動けなくなると言う感覚は何となくだが分かるな。
「だからランドさんには感謝ですよ! ここは食事には困りませんし、冒険者としてもお金をガッポガッポですから!」
「……俺は特に何かした訳じゃ無いんだけどな。まぁ、お前が良いならそれで良い」
別に俺に感謝することは無いだろう。食料はこの森からだし、冒険者としてと言ってもこれと言って大きな事を成したつもりはない。
あと、なんか歯痒いので頬を掻きつつ残骸でベッドを作っていく事にする。
大きさは……エマの寝相が余り良くないので大きく作ろう、残っている残骸は多くないので足りない分はその辺に落ちている石等を使って補う。
一応作ってみたが、エマからああだこうだ言われ修正していく内にすっかり暗くなってしまった。
そんなエマは俺の都合など一切合切を無視しベッドを眺めている。
「すごいですね、石の筈なのにフカフカです。ランドさんって本当に便利、一家に一台ですよ」
「……なにを言っているんだ?」
訳の分からないことを宣うエマはさておき、ベッドのデキについてだが、結構な自信作だ。
まず、シンプルなデザインの石の骨組みの上に石のクッション、そのクッションには俺の『付与』[軟化]を使い、柔軟性を備え付けているので寝ていても体を痛めることがない。
うん。ただ、これはエマ観衆なので、最初は何か凝った装飾でも頼まれるかと思ったが意外と普通だったのには驚いた。
その事を伝えると「寝るだけなのに装飾って要ります? 大事なのは機能性かと思います。可愛いものも好きですけどね」とのことだ。
意外とドライだと言う新たな1面を垣間見た気がする。
「まぁ、ともかくこれで冬は越せるだろ?」
「はい、ありがとうございます。すみません、無茶言ってしまって」
「気にするな。スキルを使う機会なんてないからな、練習にもなった。礼を言うのはこっちだ」
本当は戦闘とかで使いたいが戦う機会もなければ必要以上に戦うつもりもないから良いんだけどな。
まぁ、余り使わないと万が一があって使いこなせないなんて事がないようにしなければ行けないがな。
「さて、良い頃合いですし、ご飯でも食べて寝ましょう」
「どっちも俺には必要ないが。まぁ、良いだろう」
エマの晩御飯は川魚と木に育っている果物と代わり映えはない。
ただし、魚は俺がとることになった。ゴーレム使いの荒い奴だ。
食事が終わり、再び眠りについたエマ。俺は祠の外で空を見上げている。
「へぇ、冬って言うのは星が綺麗に見えるものなんだな」
正確には冬の前か、だがいつもよりは綺麗に見える。気候によって景色が変わると言うのは本当らしいな。
これはこれで面白いと思う。
世界にはまだまだ面白いものがあるのだろう。俺の知らないものがまだ……。
のんびりするのも悪くは無いが旅をするのも悪くないかも知れないな。
そんなことを考えながらこの夜は夜空と共に過ごした。
タイミングとしては少し先にエマが起きていた様で、祠から出てきて俺が体を作り替えていた場所で座り込んでいる。
「ランドさぁぁぁん! どうしてこんな姿に! はっ、もしや私との戦いが影響して……」
なにやら俺の脱け殻みたいな残骸を見て嘆いている様だ。ふむ、これは少し脅かしてみるか。
俺はそのまま物陰でひっそりと見物と洒落混む。
「すみませんでした、毒なんて盛ってすみませんでしたぁ!」
アイツ戦いの最中にそんなもん仕込んでいたのか……、どさくさに紛れてえげつない事をしてくれる。
「なんで死んじゃうんですかぁ、今後誰が私にご飯をくれるんですかぁ!」
「欲望丸出しじゃないか」
エマを後ろから思い切りひっぱたくと、スパァンッと、小気味良い音をたてる。我ながら良いツッコミだと思う。
当の食らった本人は頭から残骸へと突っ込んでいく。おいおい、良いリアクションするな。
「ちょっとぉ! 誰ですか、私は今食いぶちがなくなって悲しいんですよ……ってランドさん、あら? じゃあこれは」
「脱け殻だ」
「ランドさんって脱皮しましたっけ?」
「しないな」
「意味が分かりません」
エマとなんの意味もない話をしつつ、俺は落ちている残骸を『物質操作』で集めていく。
ふと思ったが、俺はスキルの殆どを戦闘に使っておらず、雑務とかにしか使っていないな。物凄い宝の持ち腐れをしている気がする。
まぁ自力で解決できるのならばそれはそれで良いかな。
「その脱け殻はどうするんですか?」
「ん? そうだな……石像でもつくるか?」
集めたのは良いが特に使い道がない。武器を作るにしても石製の武器なんて使えないからな。
石の剣なんて切り刻むと言うよりは叩ききるの方が近いし、何より脆いのが欠点だ。
「それでしたら家具でも作りましょうよ!」
「家具? それまたどうして……」
「いや、ランドさんにはわからないかと思いますけど、祠のなかに放置してくれたじゃないですか。床が固くて身体中痛いんですよ、ですからベッドなんて作ってくれたら嬉しいな~なんて」
上目遣いで俺を見つつねだるエマ。
「それにこれは本当にランドさんにはわからないかと思いますが、もうすぐ冬が来ます。気温が下がっているので正直外で寝るのにも限界が来ているんですよ」
確かにエマは毎日外で大の字になり、無防備になんの警戒もせずにアホの様に寝ている。だがここ最近はくるまったりしているのを良く見ている。恐らく寒いのだろうな。
しかし、冬か……もうそんな季節なんだな。いや、季節とか分からんななんとなく理解は出来るのだがなんで理解出来ているのかはさっぱりだ。これは1度聞いておくか。
「冬ってなんだ?」
「え、知らないんですか!?」
「俺は生まれて1年も経ってないと思うぞ。いや、自我が出来てからか? まぁそんな訳で知らん」
その後聞いたエマからの説明は四季と言うものだ。
1年を通して気候が変わり、春、夏、秋、冬と言う順番で訪れ、それぞれに特色があり、そこで育てられる作物や景色なども違うらしい。
中には年中寒いところや暑いところがあるらしいがエマもそれは見たことがないらしい。
「ふむ、あれはなんだ? ずっと雨が降っていた時があった」
あれはまだ壁に埋まっているときだ。どれ程続いていたのかは数えなくなっていたので分からないが結構な日数が経っていた筈だ。
あのときは森の木と雨が調和していてそれはそれはキレイだった。
「うーんと、梅雨……ですかね? 夏の時期の前に集中的に雨が降る時期があるのでそれかと思いますよ」
「ほう、あれは中々良かった」
「冒険者としては仕事がしづらいので困りものですけどね。魔物も余り出てきませんし」
それから地面がぬかるみ動きづらいだの服がビショビショになって気持ち悪いだのと愚痴を言うエマ。
「と言うことは雨の中でも行動していたと言うことか?」
そう聞くとエマは気まずそうに目をそらしながらコクりと頷く。
「まぁ、そうですハイ……本来なら梅雨の時期の前に稼いで梅雨は室内で過ごすのが普通なんですけど、生憎お金が無くてですね……」
なるほど、金がなければ稼がなきゃ行けないから泣く泣く活動していた訳か。
ここで気になったのはエマについてだが……俺は正直に言うとエマと言う人物を全く知らない。
この森の中で先輩冒険者に襲われているところを助けた(それはエマが言っているだけ)訳だが、それ以前は知らん訳だ。
先輩冒険者と共に居たと言うことでてっきり新米なのかと思っていたがそうでもないのか?
「エマ、冒険者を初めてどのくらいだ?」
「え? そうですね……私が15の時からなので3、4年位ですかね?」
「それで余り稼げなかったのか……」
「五月蝿いですよ? すみませんね、底辺冒険者で」
エマはその場で踞り、地面に円を書きながらグチグチと文句を垂れ流す。
「じゃあなんで新人のフリをしてまで他の冒険者に着いていったんだ?」
「いえ、フリでは無くてですね。普通に勘違いされたんですよ、何度も違うと言おうとしたんですけどね、お金の話が出てきたものですから妥協しましたよ」
「お前の金への執着心はどこから来ているんだ」
「いや何分貧乏だったもので、お金と食事を優先して生きてますよ」
だからあんなに食べるわけか。俺は食事を必要とはしないのだが腹が減っては動けなくなると言う感覚は何となくだが分かるな。
「だからランドさんには感謝ですよ! ここは食事には困りませんし、冒険者としてもお金をガッポガッポですから!」
「……俺は特に何かした訳じゃ無いんだけどな。まぁ、お前が良いならそれで良い」
別に俺に感謝することは無いだろう。食料はこの森からだし、冒険者としてと言ってもこれと言って大きな事を成したつもりはない。
あと、なんか歯痒いので頬を掻きつつ残骸でベッドを作っていく事にする。
大きさは……エマの寝相が余り良くないので大きく作ろう、残っている残骸は多くないので足りない分はその辺に落ちている石等を使って補う。
一応作ってみたが、エマからああだこうだ言われ修正していく内にすっかり暗くなってしまった。
そんなエマは俺の都合など一切合切を無視しベッドを眺めている。
「すごいですね、石の筈なのにフカフカです。ランドさんって本当に便利、一家に一台ですよ」
「……なにを言っているんだ?」
訳の分からないことを宣うエマはさておき、ベッドのデキについてだが、結構な自信作だ。
まず、シンプルなデザインの石の骨組みの上に石のクッション、そのクッションには俺の『付与』[軟化]を使い、柔軟性を備え付けているので寝ていても体を痛めることがない。
うん。ただ、これはエマ観衆なので、最初は何か凝った装飾でも頼まれるかと思ったが意外と普通だったのには驚いた。
その事を伝えると「寝るだけなのに装飾って要ります? 大事なのは機能性かと思います。可愛いものも好きですけどね」とのことだ。
意外とドライだと言う新たな1面を垣間見た気がする。
「まぁ、ともかくこれで冬は越せるだろ?」
「はい、ありがとうございます。すみません、無茶言ってしまって」
「気にするな。スキルを使う機会なんてないからな、練習にもなった。礼を言うのはこっちだ」
本当は戦闘とかで使いたいが戦う機会もなければ必要以上に戦うつもりもないから良いんだけどな。
まぁ、余り使わないと万が一があって使いこなせないなんて事がないようにしなければ行けないがな。
「さて、良い頃合いですし、ご飯でも食べて寝ましょう」
「どっちも俺には必要ないが。まぁ、良いだろう」
エマの晩御飯は川魚と木に育っている果物と代わり映えはない。
ただし、魚は俺がとることになった。ゴーレム使いの荒い奴だ。
食事が終わり、再び眠りについたエマ。俺は祠の外で空を見上げている。
「へぇ、冬って言うのは星が綺麗に見えるものなんだな」
正確には冬の前か、だがいつもよりは綺麗に見える。気候によって景色が変わると言うのは本当らしいな。
これはこれで面白いと思う。
世界にはまだまだ面白いものがあるのだろう。俺の知らないものがまだ……。
のんびりするのも悪くは無いが旅をするのも悪くないかも知れないな。
そんなことを考えながらこの夜は夜空と共に過ごした。
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