1人目

たしか、この光景は何度もみたことがある。

周りのみんなも少しざわついて、私は我に返ったように席に着いた。
私に差し出された薔薇を無意識に受け取りしばらく何も出来ないでいると、横からくすっと笑い声が聞こえた。

「貴女はばらですって？」
「綺麗ね」

髪の毛にパンジーのついた可愛い女の子が優しそうな笑顔を浮かべて私に挨拶をした。

パンジーの花言葉は「私を思って。」

「さぁ、今日の授業が始まるわ。」

そう言うとそのパンジーの女の子は
その小さな顔をすっぽり隠す少し大きすぎるほどのガスマスクをつけた。
そして周りの生徒と同じように席につき前を向いた。

レモン教授が指示棒をもって咳払いをする。そして、またかけそびれた髪をかけなおした。

「今日から君たちはこの学園の生徒である。規律を守り、日々模範生として生き抜くように！！」

「「「わぁぁぁあ！」」」

ガスマスクをかぶった生徒達が何かに取り憑かれたように拍手をした。
多分、そのあとレモン教授が永遠に「止め。」を言わなかったならそのガスマスク集団も永遠に拍手をし続けていただろう。
もちろん私もその中の1人である。

止め。

ようやくレモン教授が号令を出し私の手は開放された。
それにしてもこれは俗に言う催眠術というものなのか…？

パンパンと手を2回叩きレモン教授の指揮棒が上を指した。

その時。

大きな銃声が響き渡り、微かに香る鉄の匂いと、線香花火のような匂いと白いベールが教室を覆った。

あのまるで金属製のスプーンやフォークが耳の横でガチャガチャと掠れるような感覚を私は忘れることが出来ない。

そしてその後起こった出来事も。

真っ直ぐ放たれた鉄の矢は
迷うことなく私の胸を貫通した。
その瞬間私の脳裏に浮かんだイメージは
例えるなら、そう。

真っ赤な薔薇のような感じ。

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