のん気な男爵令嬢

神無乃愛

問い

「問います。何故、聖獣様は呪いを受けたのですか?」
『……分からぬ』
 嘘だ。直感的にマイヤは思った。もしかすると、レイスと生前かかわりのあった者が呪ったのかもしれない。
「問います。何故、この地に参られましたか? 何故、聖国へ行きませんでしたか?」
『聖国へ行くためにここに来た。しかし、呪いを受けたかの方を一方的に斬りつけた』
「問います。その時にあなたはレイスになられたのですか?」
 空気が一瞬にして凍りついた。
『……否』
「問います。あなたがレイスになられたのは、バサロヴァ海国ですか?」
『……応』
 一体どれくらいの間、漂っていたのだろうか。
「ヴァルッテリ様、海国から公国になられて、幾年が過ぎましたか?」
「ペトレンコ公国がかの地を統一して、聖国に認められてからざっと三百年だ。ローゼンダール帝国の前身、ローゼン王国が手助けをしたのが約五百年前」
 火炎魔法で少しずつ発生するレイスを駆除しつつ、ヴァルッテリが答えた。

 しばし、思案するうちに、何故これを最初に疑問に思わなかったのか。
「問います。聖獣様の種族を教えてくださいませ」
「!!」
『知らぬとぬかすか!』
「はい。わたくしは田舎者故、聖獣は己が国ののみしか知らぬのです」
『汝の国は!!』
「グラーマルと申します」
『かような国は知らぬ!』
 でしょうね、とマイヤは内心思う。何せ、建国されてからたったの二百年である。二百年でここまで落ちぶれるとは、これ如何に。という突っ込みはアベスカ男爵領でよくされる話だ。
「わたくしの国の聖獣はスレイプホッグにございますれば」
 余談だが、グラーマル王国は、その地にあったという別の王国の聖獣、スレイプホッグが保護をやめ、当時一貴族だったというグラーマル家を保護したのが王家の興りだ。
 大変にありがたいほどに緩やかな交代劇として、聖国にある聖獣史にも記されている。
『かの国はいつの間にか名を変えたのか』
 懐かし気なレイスの声に、マイヤは思わず頭をあげた。

『汝はスレイプホッグとジャイアントマカイロ、どちらかを弑逆せよ、と言われれば如何する?』
 唐突な問いに、マイヤは言葉を失った。
「……どちらも選べませんわ」
『では、聖獣を殺める剣を与えられ、勅命として受ければ、如何する?』
「出来うることなら、その勅命を下した馬鹿を殺めます」
 思わず即答した。
『殺めねば己とその一族が死するとすれば?』
「ですから、聖獣様を殺めよと命じた者を、一族あげて殺します」
『それが反逆と取られれば?』
 えーー、面倒な。マイヤは内心舌打ちしつつ、もしそうなったとしたらと考えた。
「一族と領民にその話をいたします。その時点でその剣も公開いたします。そのうえで喜んでその馬鹿を殺める旗印になります」
 保護すべき聖獣を守らずしてどうするというのだ。死ぬのが嫌なら逃げればいい。聖獣殺しの汚名を着るつもりは一切ない。
『……左様か』
 それきり、レイスは黙ってしまい、マイヤの問いにも答えなかった。

 ただ、このレイス以外のレイスはその後発生せず、ヴァルッテリたちも身体を休めていた。

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