のん気な男爵令嬢

神無乃愛

教訓

 とりあえず、この国の重要人物と言っても間違いではない、オヤヤルヴィ公爵家一家を放置して、マイヤは店主が持って来た帝都近隣の地図を見ていた。
「……森が一つだけ、ですか」
 しかも取れる薬草の少なさに、マイヤは驚いた。そして、魔獣も予想以上に少ない。
「遷都するのに時間もかけていられなかったからね。元々、ここは帝国が併呑した王国の王都があった場所だ。何をとち狂ったのか、他国と隣接する場所に王都があるというのに、開拓しまくった挙句、魔獣狩りを推奨してくれてね。駆逐どころか、自国の聖獣まで間違って狩ったらしてね、しばらくは不毛地帯だったんだよ」
 この地に遷都したのは、公爵がまだ王太子の地位にいた頃とのこと。急ぎの遷都。魔獣を狩る暇もまともにない、という状態で探し当てた地になる。
「ですと、ここが有名な『トロメアの街』跡なのですね」
「……それだけで分かる、マイヤさんが凄いよ」
「聖獣の大切さを知る、有名な教訓だと思いましたが」

 聖獣に手を出してはあらぬ、その国がすべてを失う。それが教訓だ。どんな姿かたちであれ、聖獣は聖獣。不毛地帯が増え、聖獣を殺してしまったことを知った王族は、保護しようとした。
 逆にそれが、怒りを買い、王族は滅び、民も散り散りになった。
 聖獣から見れば、勝手に一族を殺された挙句、捕らえたと取ったのだろう、それが後世の歴史家たちの見解だった。

 それ以降、聖獣は見かけたとしても手を出すなと言われている。それゆえ、放置されているのだ。

 例外はまたしてもアベスカ男爵領。確かに手は出さないが、崇めるだけに留まらず、寝床を掃除したり、お供えをしたりしている。
 これは魔獣被害から守ってもらっているという、お礼であり、まずは聖獣に「お伺い」をたてている。
 その時に、威嚇してくる聖獣の寝床には近づかない。許可を出してくれた聖獣のところだけだ。

 これはさすがに、他領の非常識と知っているマイヤは、言わないことにした。
「……あ」
「マイヤ?」
「ヴァルッテリ様が術を使ったあの森に、聖獣様はいらっしゃらなかったのでしょうか」
「……」
 今頃気づいた、というのが正しい。マイヤとて、聖獣の居場所をすべて把握しているわけではない。
「流れ弾程度、聖獣は気にしないよ。それに時戻しをしているなら、さして問題もない。一応、私と男爵で夜遅くにだが、お伺いに出かけたが、問題なかった」
 何やってるんですか、お父様! マイヤは叫びたくなった。見れば、ベレッカもガイアも頭を抱えている。……気持ちは分かる。
「そ、……それは何よりでしたわ」
 それしか言いようがなかった。



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