のん気な男爵令嬢

神無乃愛

仕掛けた罠1

 正直な話、「引っかかればいいなー」くらいの気持ちだった。そうマイヤは述べた。
 ヴァルッテリも「子供でも引っかからないんじゃないかな」と述懐した。
 ウルヤナは「こんなふざけたことで主を危険な目に」と嘆き、ガイアは「王国も帝国も末期ですねぇ」と呆れた。

 ありていに言えば、これほど愚かな策が功を奏すなどと誰一人思っていなかったのだ。

 冒険者のパーティ編成は四人までと規約で決まっているため、誰を残すのか揉めた。結局アハトとベレッカが残ることになったのだが、決めた方法がコインの裏表という、ある意味怨みっこなしな方法だった。

「どのような薬草の説明を望みますか?」
 マイヤがにこりと微笑みながら、ヴァルッテリに訊ねた。
「俺は詳しく知らないけど、性病? の薬? あれの薬草……」
「最初から秘匿薬草を振らないでくださいませ」
「……やっぱり? じゃあ、オーソドックスにヒーリングポーションとマナポーションの原材料かな」
 分かっていて聞くな。近くで採取している領民がすぐさま突っ込みを入れていた。
「結構いらっしゃるんですよ。密偵とか、探りに来る方々が」
 調合師でも処方箋を盗もうとしておりますからね、とガイアも笑っていた。
「アベスカ家の名前さえ出さなければ、そのあたりは放っておりますけど」
「放っておくの!?」
「? 薬草の種類と処理方法は秘匿しておりますが、作り方は公開しておりますわよ」
 秘匿している理由が、危険な場所にある薬草を使用しているためだとか、処理方法が危険というのは置いておく。作っていけば、徐々に公開される内容でもある。
「作り方だけ、、は簡単ですし、マナポーションにも応用がききますから」
 ただし、その作業、調合スキルのない者が使用するとなれば、スキル持ちの十倍必死にならないとごみになる時が多い。帝都で「倍以上」とマイヤは述べたが、本当はそれくらいの覚悟が必要なのだ。
「ヒーリングポーション用薬草の殆どは、畑の隅で栽培しておりますわ。ですので、こちらも割愛ですわね」
 普通は植えない、そうウルヤナが力なく言うものの、周囲の領民は「味付け用に昔から薬草は作ってたからな」と取り合わない。
「……まさか、と思うけど」
「『ドクヤライ』と『ペッパーボム』、『マナソウル』『アクアソルト』は香辛料素材として、畑栽培ですわ」
「えっとね……なんで?」
「祖父が立て直すまで貧しかったというのが理由だそうですわ。『ドクヤライ』があれば、魔獣に残った多少の毒素は無効化しますし、『ペッパーボム』は少量で身体を温めつつ、火が付きにくいときの起爆剤として最高ですし」
 もちろん「マナソウル」や「アクアソルト」もそういった理由があって栽培している。

 余談だが、「ドクヤライ」は毒消し薬の、「ペッパーボム」はポーション系の、「マナソウル」はマナポーション、「アクアソルト」はヒーリングポーションの材料だ。
 簡単なヒーリングポーションなら、「ペッパーボム」少量と「アクアソルト」、それから水があれば作れる。
「……あっそ。これ、帝国の貧しい寒村で試験運用してもいい?」
「どうぞご自由に」
 出来るかどうかは分からないが。それで少しでも富めば、いいと思っている。
「こちらが、マナポーションの材料、『妙樹みょうじゅ』ですわ」
「……立派な樹だ」
「そうですわね。樹齢千年は超えるかと。葉も樹皮も樹液も材料ですから、保存には気を使っておりますの。そして、この妙樹の巨木が境界ラインですわ」
 境界ラインとは何ぞや、そうヴァルッテリたちが思っている間に、魔獣の群れが妙樹の後ろから現れた。
「確かに危険だ」
「お分かりいただけて嬉しいですわ」
 嬉しくないっ! そんな言葉がヴァルッテリとウルヤナから聞こえたが、マイヤは無視した。マイヤに戦うすべはないのだ。

 こういう時、戦力がいなマイヤは大人しくしているのがいい。狩りは得意なものに任せて、少しばかり採取をしよう。毎度のことながらそう動いているマイヤはその場にしゃがんだ。

 それが合図となり、ガイアは魔獣の駆逐に入った。

「それが合図ってどうなの!?」
 その叫びも当然、マイヤは無視して野生のペッパーボムとアクアソルトを採取していた。


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