自衛官志望だったミリオタ高校生が、異世界の兵学校で主席を目指してみた件

高雄摩耶

第三話 新しい仲間

    トイレに向かうだけのはずが、その間他の生徒からの視線が気になって仕方がない。
    もちろんそれは俺に向けられたものなのではなく、留学生エリーナに向けられるものだ。

「・・・ふふ、それはどうかなぁ」
「やっぱりそうなのデスね!初めてあった時からずっとそんな気がしてたのデース!」
「違う違う。俺たちはそいいう関係じゃないって・・・」
 
    まったく。智恵の一言で変な勘違いをされてしまった。
    本人は気にしていないようだが、今まで“そういう”関係を持ったことがない俺にとってはまったく未知の領域であり、慣れてなどいない。

「チエもユウジもお似合いの組み合わせなのデス」
「いや、さっき会ったばっかなのによくそんなことが・・・」
「一目見ればわかりマスよ〜」
「本当に?ありがとうエリーナさん」
「だから違うって・・・」

    このままでは拉致があかない。俺はなんとか話をそらそうとする。

「俺たちのことはいいから、それよりもエリーナのことを聞かせてくれよ」
「私もエリーナさんのこと聞きたいなぁ」
「でもどんなこと話せばいいデスか?」
「そうだな、どうして軍人になりたいと思ったのか。みたいな」
「いたって単純なものデス。エリーナの母様やお姉様が軍人だからなのデス」
「お母さんも軍人なんだ」
「Das ist richtig母様は以前の大戦でU-Bootに乗ってたのデス」
「へぇー。潜水艦乗りだったんだ。だからあんなに詳しかったんだね」
「Ja、小さい頃よく話を聞かせてもらったのデス」

    U-Boot(Uボート)とは、第一次大戦から第二次大戦にかけてドイツが建造、運用した潜水艦の総称で、海軍戦力の中枢を成した兵器だ。

「エリーナも将来、U-Boot乗りになりたいデス!」
「うんうん。それだけUボートのことが好きなら、エリーナさんピッタリだと思うよ。裕二君もそう思うでしょ?」
「いや、俺はあまりオススメは・・・」
「えー、どうして。親子で潜水艦乗りなんて、かっこいいじゃない」
「もしかして、エリーナは口が軽いから、機密をすぐ漏らすとでも思ってるデスか?心配はいらないデス!こう見えてもエリーナは機密には口硬いデスね!」
「そ、そうか・・・」

    いや、そもそもおしゃべりのエリーナにとって、隠密性が売りの潜水艦は一番乗せてはいけない艦の気がするのだが・・・。

「お姉さんは潜水艦じゃないんだよね?」
「Ja、元々勉強出来ましたから、補佐官に選ばれたのデス」
「へぇ、すごいな」
「そのお姉さんの護衛で、エリーナさんも日本まで来たんだよね」
「でもどうして、学生のエリーナが護衛なんてするんだ?」

    いくら戦争中で人が足りないとはいえ、学生が外交官の補佐を護衛するなんてことがあるのだろうか?

「それはお姉様の希望なのデス」
「希望?」
「Ja、母国だけではなく、外国を見ることはとても勉強になることだと、エリーナを選んでくださったのデス」

    さすがは補佐官で日本通。よほど妹を連れて行きたかったのだろう。

「でも、来たはいいが、ドイツまで帰れなくなってしまったと」
「お姉様は慌ててましたデス」
「そりゃあ戦争が始まったんだから普通は慌てるだろう」
「エリーナは大丈夫デスが、母国が戦争しているなんて、日本にいると実感わかないデス」

    今のエリーナからすれば、ドイツは故郷ではあるが遠く離れた国。“今のところ”平和を保つ日本にいては実感出来なくて当然だ。

「あーえっと。こ、ここがトイレだから。覚えておけよ」
「Ich habe verstanden!ありがとうデス!」

    ちょうどいいタイミングでトイレに着いた。

「ユウジはここで待ったてくだサイね!逃げたらUnverzeihlichデスよ!」
「分かったよ、待ってるから」

    ここには女子トイレしかない。そもそも本来女子校である兵学校には男子トイレなどない。そのため男である俺は、構内では庁舎に一つだけある来客用のものを。寮では寮監用のを間借りしている。
    トイレの横の壁にもたれかかりながら二人を待っていると。

「滝島っ!」

    入れ替わりでトイレから出てきたのはなんと滝島だった。思わず目が合ってしまう。

「よ、よう。滝島・・・」

    滝島は何も言わない。口をへの字に曲げ、無言のまま立ち去ろうとする。

「昨日の話、覚えてるか?今日も訓練やるっていう・・・」

    彼女は動じない。そのまま教室の方へ立ち去ろうとする。

「お、俺は、お前も一緒にやってほしいと思ってる」

    彼女が止まった。しかし顔を振り向くことはなく、一言だけ。

「バカバカしい・・・」

    と言って去ってしまった。

「ユウジ、何かあったデスか?」
「どうしたの裕二君?」
「え、ああいや、何でもない」

    もうすぐ次の授業が始まる。俺たちは駆け足で教室へと戻った。






「次は方位角200度、速度215節侵入でお願い」
「わかりました!」

    授業後、グラウンドではいつものように自主訓練が始まる。
    新しい仲間も加えて。

「それじゃあ恵は私のとこの分隊で、それから・・・」
「奈々でいい」
「そ、そう。じゃあ奈々はニニ分隊の方に」

    今まで参加しなかった鏑木恵、常盤奈々が訓練に参加してくれるようになった。いや、正確に言えば恵が常盤を道連れに参加したと言ったほうがいい。そのためか常盤はどことなく不機嫌そうだ。

「ごめんね直美。奈々はまだ滝島にべったりなものだから・・・」
「いいのよ。こうしてやらせておけば、そのうち慣れてくるわよ」

    出た、宇垣定番の根拠のない自信。今までこの身もふたもない自信にどれだけ振り回されてきたことか。運の悪いことに、恵はまだそのことを知らない。

「私たちが急に入ってきたりして大丈夫だった?もともと私がやりたいって言い出しちゃったから・・・」
「そんなこと気にしなくていいのよ。参加してくれて、私は嬉しいわ」
「ありがとう直美」
「また基礎からやらせないと、特にあのドイツ人は」

    宇垣の視線の先にあるのは、弾倉運びを訓練中のエリーナだ。石井からの熱血指導を受けている。右手にはもちろん神無月。

「Schwer!重いのデス!」
「これくらい運べないと、話にならないぞ!」
「二人で持てばいいじゃないデスかぁ〜」
「ダメダメ。ウチらはみんなこれを一人で運んできたんだよ。さあ運ぶんだ!」
「Schmerzhaftデス!」

    元はと言えば、一緒に訓練がしたいと言い出したのはエリーナの方だ。トイレに行ってから智恵との会話は全て訓練のことばかり。エリーナの性格からして当然興味を持つだろう。

「おいおい、いきなり重労働させるのかよ」
「勿論だよ。エリーナは運動神経が良くなさそうだし、出来るだけ早く習得してもらわないと」
「だからって・・・」

    誰だってこんなクソみたいに重い弾倉をいきなり持たせられたらたまったものではない。

「ユウジ〜!手伝ってくだサイ!」
「すまんな、俺が手伝ったりしたら石井がタダじゃおかないんだ。ガンバレ」
「ケチなのデス〜」

    そう言われても、石井の邪魔をするわけにはいかない。本気になった彼女はとてもとても恐ろしいものだ。

「ドイツ人はもうへばったの?だらしないわね」
「宇垣か、機銃の方はいいのか?」
「あの子達なら心配ないわよ。恵も真面目にやってるし。ただ・・・」
「ただ?」
「奈々はあまりやる気が無さそうね」
「奈々?ああ常盤か。確か、恵と違って俺たちとまだ馴染めてない感じだったな」

    常盤は参加しているものの、まだ滝島を頼っている。それはそれで仕方がないのかもしれない。しかし、俺たちと隔たったままでは感じも良くないし、何より彼女自身のためにならない。

「ええ、恵が付いてくれてるけど、あのままじゃ心配ね」
「おやおや、宇垣が人の心配をするやつだったとはな」
「バカにしないでよね!私だって一応リーダーなんだから。人の心配くらいするわよ!」
「それにしては俺の扱いが酷いような・・・」
「うるさいわね!あんたは別なのよ!」
「酷いなぁ」

    宇垣は「そんなこと当たり前よ」といった顔で睨みつけてくる。
    しかしよく考えれば、この世界は女性の方が男に比べ格上だと聞く。男女差別など御構い無しのこの時代。男の扱われ方としては普通なのか?

「ところでドイツ人は・・・」
「エリーナ」
「エリーナどんな感じなの?」
「見ての通りだ」

    弾倉一つを運ぶのに必死になっている。
    その光景を見て大丈夫だと言えるのは恐らくこの世に一人もいないだろう。いや、エリーナ本人なら言いそうだな。

「ナオミ!手伝ってくれるデスか?」
「そんなわけないでしょ。あなたのことが心配で見に来たのよ」
「手伝ってくれないデスか。ナオミもケチなのデス〜」

    ケチと言われてもこれだけ力がないのなら逆に手伝うわけにはいかない。

「ところで、あなたまだこの学校の中知らないでしょ?」
「全然わからないデスね。あとエリーナのことはエリーナと呼んで欲しいのデス」
「明日誰かに案内させるから」
「ならユウジに案内してほしいデス」
「お、俺か?でもなぁ・・・」

    正直自分でもまだわかっていない場所などこの学校には山ほどある。ここはもっとよく知っている人間に頼んだ方がいい。

「悪いが他を当たったくれ。俺はまだこの学校に・・・」
「そこまでケチとは知らなかったデス!見損なったのデス!」
「ああ、わかったわかった行くよ。ただしもう一人誰か連れて行くからな」
「構わないのデース」

    智恵も一緒に行けば問題はないだろう。俺の時も色々教えてくれたんだし。

「ほらほらエリーナ!サボってないで続きをやる!」
「ヒビキは悪魔なのデス〜」

    やれやれ、この様子ではまだ特訓が相当必要になりそうだ。

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