自衛官志望だったミリオタ高校生が、異世界の兵学校で主席を目指してみた件

高雄摩耶

第七話 宇垣の訓練


「もっと早く走りなさい!チンタラしてると周増やすわよ!」

授業後のグラウンドに宇垣の鬼声が通る。
つくづく、よくあんなデカい声が出せると感心してしまう。
だが、ひたすら走っている今はそんなこと考えている場合ではない。

「こら!小畑候補少尉!もっと根性入れて走りなさい!」
「はぁ、はぁ、・・・」

なぜ俺が息切れしながらグラウンドを走っているのかといえば、昨日宇垣が言っていた「策」というのがコレだからだ。
つまり、宇垣が考えた訓練のメニューとは「とにかく体力をつける!」ってことだ。

「大丈夫か小畑?」
「えぇ?ああ、大丈夫・・・問題ない」

俺も含めて他はみんなバテバテなのに、石井だけは余裕の表情だ。
昨日の夜、例の4人とともに訓練について色々と話したわけだが、結局のところ宇垣のこの案が一番それらしく、なおかつ“理屈”は通ってるため俺たちは今走っている。

「ほらほら!集中しなさい!」
「はぁ、・・・はぁ、・・・な、なんであいつは・・・走らないんだ」
「サボらないように見張る、て言ってたっけ」
「まったく・・・」

走りながら愚痴るのはいささかきつい。
石井は余裕そうだが俺は酸素不足でぶっ倒れそうだ。

「あと2周!あ、でもあんたはあと12周だから」
「はぁ、・・殺す気か・・・」

なぜ俺だけ周が多いのかといえば色々理由はある。
まず言われたのが、男だから!
それから、体力ないから!
といういかにも「シンプル」なもの。
たしかに間違ってはいないが、それほど運動が得意ではない自分にとって、いきなり30周はキツイ。

「はぁ、・・・はぁ、・・・」
「ガンバレー小畑」
「あと少しだよ裕二〜」

石井と東藤が応援してはくれているが、今俺には聞こえていないのも同然だ。
それと、なぜだか知らないが、昨日のあの集まりの後、東藤が急に「名前で呼んでもいい?」と言ってきた。
別に構わないのだが、高校でも苗字で呼ばれていた俺にとっては、なんだが変な気分だ。

「よし、全員走り終えたわね。さあ、2回目の模擬やるわよ」
「えぇ・・・」

やっと一息つけるかと思いきや、俺が走り終えた途端これだ。
模擬は演習とは違って実際に射撃するのではなく、全員が配置につき射撃ができる状態になるまでの時間を計るものだ。
走る前にも一度行ったのだが、結果は思わしくなかった。

「さあ、早く校舎へ戻りなさい」
「はーい・・・」

みんなゾロゾロと校舎へ戻って行く。
模擬の計測開始が校舎から出てくるところからだからだ。

「いい?もし1回目より遅かったらまた走らせるからね!」
「はぁ・・・す、少しは気を使えってんだよ・・・」
「まあまあ、直美も必死なんだよ」
「だ、だからって・・・キツすぎる・・・」

そう思い、周りを見てみたが驚いたことに石井ほどではないにしろ他の人はみんな余裕そうな表情だ。
なんだが自分が情けなく思えてくる。

「この世の地獄ってやつか」
「行くわよー!用ー意、開始!」

合図とともに一斉に校舎を飛び出す。
その姿からは、直前までひたすら走らされていたとは思えないものだった。




「んー、イマイチだわ」

その日の夜、自室で宇垣は模擬の記録を片手に唸っていた。
もちろん自室とは俺と共有の「三号生 一」の部屋だ。

「結局、あまり成果は出なかったわね」

計測した時間が上から順に書かれているのだが、やはり遅い。

「でも、時間自体は何度繰り返してもほとんど同じ。ということは体力自体は落ちてはいない・・・あんたはどう思う?」
「・・・」

完全に参ってしまっている俺にそれを聞くか。
訓練の後、あまりにも辛かったので部屋に戻るなり速攻でベットに突っ伏した。


「まったく、情けないわね。あの“程度”のことがやりくりできないと、あんたやっていけないわよ」
「・・・にしても・・・あれは・・・辛すぎる」
「これからほぼ毎日こんな感じなんだから、死ぬんじゃないわよ」
「なら殺さない程度に・・・」

それ以降は喋る気力もなくなった。
もはや何も考えられない。

「ほら、もうすぐ夕食の時間よ」
「・・・先に行っててくれ、もう少し横になってから行くから・・・」
「そう、ならいいけど、早くしないと時間がなくなるわよ」

そう言い残すと宇垣は先に部屋を出て行った。
明日も訓練がある。
腹も減っているし早く夕飯にしたいところだが、体は動くことを拒絶しているかのようだ。

「はぁ〜。こんなのが毎日続くのか・・・」

兵学校はたしかに学校なのだが海軍に違いはない。
つまりやることすることは当然実際の軍で行うことと同じだ。

「それだけでもかなり応えるってのに」

今までろくに体を動かすということをしてこなかった自分を恨んだ。
グゥ〜。

「さすがに腹が減ったな」

よっこいしょと年寄りのようにベットから起き上がる。
疲れはとれていないが腹が減っては仕方がない。
そう自分にいい聞かせながら、俺は重い腰を上げ食堂へと向かった。



「お、来た来た」
「待ってたぞ」

食堂にはすでに例の4人が集まっていた。
この大日本皇国海軍兵学校は生徒が五号生から一号生まで合わせて1500人以上いるのだ。
もちろん食堂はそれに比例して巨大になる。
普通ならその中から4人を見つけるなど簡単ではないが、その心配はいらなかった。
4人ともいつも同じ席に座っているからだ。
そこは食堂の隅で窓際という好位置だ。
外に広がるのは瀬戸内の海。
ただ夜なので今の時間はほとんど外が見えない。

「大丈夫?結構疲れてるみたいだけど」
「そりゃそうだ。いきなりあんな量やらされて持つ方がおかしい」
「ま、そこまでやられたのは小畑だけだけどな」

たしかに、他の人は訓練後も何もなかったようにケロっとしていた。
その光景はある意味恐ろしくも感じたものだ。

「ところで直美、明日もやるんだよな。訓練内容は今日と同じようなことか?」
「そんなところね、やっぱりまずは基礎からやっていかないと」

訓練に積極的なのはいいが明日以降もこれが続くと思うと身震いする。

「で、あの三人は来たのか?」
「いいえ、やっぱりダメみたいね」

あの三人とはもちろん、昨日訓練を拒否すると言い出した滝島たちのことだ。

「放っておけばいいと思うけどなぁ。あの様子じゃ絶対やらないと思うし。智恵の分隊だって人手不足にはなってないだろ?」
「まあ今のとこは大丈夫そうね」
「とりあえずは大丈夫、か」

カレイの煮付けをつつきながら、俺は話に耳を傾けていた。

「それで直美、今日の訓練、直美としてはどんな感じだった?」 
「早速どのくらい時間がかかっていたかみてみたんだけど、回数重ねてもあまり時間は縮まってなかったのよ」
「本当に?」
「ええ」

宇垣がテーブルに広げた記録はたしかに、毎回ほぼ同じ時間が書かれていた。

「訓練内容を変えるべきじゃないのか?これじゃあいくら回数重ねても変わらない気がするんだが」
「うるさいわね。私の考えたこの訓練なら必ずいけるはずよ」
「いやでも・・・」

どこからそんな自身が湧いてくるのかはわからないが、宇垣はとにかく続けたいらしい。

「明日もやるわよ。逃げるのは無しだからね!」

そう言い残すと宇垣はとっとと食堂を後にした。
どうやら呼び出しを受けているらしい。




次の日、またその次の日と宇垣の訓練は続けられた。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「今日の分はここまで、勝手に解散していいわよ」

訓練を始めた頃の宇垣はやる気に満ち溢れたようだったが、一週間も経つと段々と適当になっている気がしてならない。
まあ、原因は明白なのだが。
 
「宇垣、結果を見せてくれ」
「勝手に見なさい」

随分と不機嫌に手渡された記録表に記された時間は、少なくとも一週間前と何ら変わっていなかった。
いや、むしろ徐々に遅くなっている気さえする。

「んー、これだけやって早くならないなんて」
「そうね」

最初は宇垣の言うことに何も文句はなかった東藤や石井も、さすがに疑いの目を持ち始めている。
二人に続き、他の人たちも周りに集まってきた。

「・・・」

思うような結果が出ていない、無言になるのも当然だ。

「・・・やっぱり、私たちでは無理なことなんでよ・・・砲術科を超えるなんて到底・・・」
「だ、大丈夫だよ。ね、ほら、まだコツを掴めてないだけかもしれないし」

東藤がかばおうとするが、あまりフォローになっていない。
むしろ逆効果だったようだ。

「・・・私・・・やめます」
「え?」
「・・・私も、みんなの足引っ張りたくないし・・・」
「おい、諦めるのか」
「そ、そんな・・・」

最後は辞退者が名乗り出てくる始末だ。
俺たちは止めようとはしたが、聞く耳を貸そうとはしなかった。



次の日。
訓練に参加した人数は減っていた。
しかし、宇垣は動じない。
「やりたくないなら来なくていい」と言ってそのまま訓練を行った。
実際のところ、いない分の人員を分隊ごと調節することで訓練自体は進められた。
ただし、かかる時間はいない分明らかに遅くなっている。

「はぁ・・・はぁ・・・俺、もう・・・これ以上は・・・」
「何言ってるのよ。あんたが一番やる気のあったくせに」
「だからって・・・あまりにキツイ・・・」

最初の頃こそ他の皆は体力も十分あり、余裕であったが流石に一週間もやれば疲れが出始める。

「響、今かかった時間は?」
「3分6秒・・・かなり落ちてる」

目標は2分を切ることなのに日を追うにつれてどんどんペースが落ちている。
宇垣以外の誰もが思っていた。
このままではとても、目標に達するなど不可能であると。

「なあ、もういいだろう。お前のこのやり方じゃあ時間を縮めることなんて出来ないんだよ」

前から散々言っていることだが、今回は俺も本気だ。
もうこれ以上は無理だと、あいつにわからせなければならない。
案の定彼女も反論してきた。

「あんたに何がわかるっていうのよ!素人のくせにしったかぶった口聞いて、そういうのが集団をメチャメチャにするのよ!」
「でも、結果としては時間は縮まってはいけないだろう。ならやり方を変えるべきだ」
うるさい!黙って私に従ってればいいのよ!」
「直美、その・・・私も・・・もう少し考えた方がいいと思う」
「え?」

そう言ったのは後ろの方にいた松原だ。
普段あまり話さない彼女がそんなことを言い出すなど思いもよらなかった。

「な、何よ麻里。あんたもコイツに・・・」
「たしかに、今のままじゃあ良くないって私も思うな」
「そうね、もっと効果的なやり方を考えた方が」
「・・・」

もはや宇垣に反論の余地はなかった。

「そう、よくわかったわ。今まで信じてきたあなた達が、とんでもない愚か者だってことに!」
「え・・・」
「おい宇垣!」
「あとはあなた達で好きにやってればいいのよ」
「ちょと宇垣!」

宇垣は皆を置き去りにして、そのまますたすたとどこかえ行ってしまった。




その夜、砲術科寮。

「そちらの状況はどう。何か変化はありまして?」
「はい、面白いことになりましたよ」
「ほう、どんなことで?」
「訓練内容のことで宇垣と他の生徒の間で対立がありまして、何でも仲間割れしたようでもはや奴にクラスの統率は難しいかと」
「お、ほっほっほっ!さすがはあの落ちこぼれ連中ですわ!訓練を始めたと聞いたときは驚きましたが、大したことはありませんわね。おっほっほっほ!」
「これで何も心配は無くなりましたね」
「よくやりましたわ。本日分の報酬、ボーナス付きにすることでよろしいですわね?」
「はい、もちろんです」
「引き続きあなたはあのクラスの監視を継続しなさい。そうすればあなたも、砲術科へ転属できるよう計らいますわ」
「ありがとうございます!失礼します!」

ガタン!

「あの者、本当に信用できるんでしょうね?あんな約束までして」
「約束ではありません、″計らう″と言っただけですわ。それに、送り込む犬にはあのくらいの性格がちょうど良いのですよ。おっほっほっほ!」

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