TS転生は強制的に

lime

三十四話~ボクと喧嘩と最恐ナタリー~

「あそこだ」 
「どれどれぇ?」 
 
 勇者に謎生命体が居ると言われた場所を覗くと、そこには細長い真っ黒い人型の様なものが突っ立っており、その周りに先ほど戦った謎生命体よりは少ないが、多数の謎生命体がまとわりついていた。 
 一瞬だけ、謎生命体に襲われている人間なのかと思ったが、いくら何でも黒すぎる、表情が認識できないまでに黒い人間は流石に存在しないだろう。 
 松崎しげるでも表情位は余裕で分かるだろうし。 
 
「ね、ねえ、あれって何さ? 絶対に今までのとは違うんだけど」 
「……いや、だから覗くなって言っただろうが、本当に殺されるぞ」 
 
 一応、報告しなければならないと言うな感じだったので、勇者に説明したのだが、何故かマイク君に覗いた事を咎められてしまった。 
 今回は、と言うか、前回もだけれどボクは相手について確認するために覗いているって言うのに、マイク君は本当に何なんだ。一体ボクをどんな奴だと思ってんだよ。 
 
「いや、だからね、ボクは相手の事を、人間が居ないかとかを含めて確認しているんだ。本当にそういう冗談を言うのは止めてくれ、別にボクは被害など関係なく深淵魔法を放てるんだ。別にこの国に愛着など沸いていないし」 
 
 大人げない事は分かっているが、流石に機嫌が悪くなる。 
 誰でも正当な事をやっているのに、それを貶され、馬鹿にされ、自分と言う存在まで馬鹿にされたら不愉快になるだろう。切れるだろう。 
 ボクはそういう事になれているけど、本当にそういう事だけは容認できない。 
 
「……そうだぞ、確認と言う物は大事だ。被害を限りなく少なくするためならば、確認する厄は必ず必要だ。それに俺はこの領の住民でもないから尚更俺は注意しなければならない」 
 
 そんな風にボクがキレてしまうと、勇者が呆れながらもマイク君を説得してくれた。本当に初めの頃はこの勇者がゴミ、いや、ゴミ以下だと思っていたけど、今思うとマジもんの成人みたいに思える。 
 
「はぁ? なんでそいつ側に着くんだよ、確実にあっちの方が悪いだろ」 
「いや、絶対にそれはボクの台詞だよ!」 
 
 しかし、マイク君は勇者の説得すらも受け入れず、更にはボクが完全なる絶対悪と言う風に責任を押し付けて、「俺は悪くねぇ!」と言う風に完全な責任転嫁を行った。 
 もう、これは男とかそういう以前の問題として、人間としてどうかと言う話だと思う。本当に下種だ。 
 
「何言ってんだよ、さっき勇者が魔法を撃って、その時に建物とかに被害が及ばなかったんだから、正当化する理由がないだろうが」 
「むぅ! 今だって人型下良く分かんない奴が居るんだもん! 絶対に意味はあったよ!」 
 
 まだ、マイク君はボクが絶対悪とし、自分は正しい事を言ったんだと言う風な主張をしていた。 
 本当に往生際の悪いマイク君だったが、マイク君の言い分も少しは当たっているので、こちらが理不尽な事でキレることはできない。 
 
「人間である俺らには効かなかったんだから覗く必要はないだろうが!」 
「勇者の魔法であれはもがく余裕は存在するんだから簡単に――」 
「貴方達は何をしているの、一応交流はしたとはいえ他人である勇者が居る目の前でそんな痴態を見せて、何がしたいんですか? それに今下手な事したら私達は簡単に死んでしまう様な立場なんですよ? どういうつもりなんですか」 
 
 ボクとマイク君の喧嘩が長引いているのを見て、ナタリーを怒らせてしまったようで、無表情で淡々と、ボクとマイク君に向けて説教を開始してしまった。 
 勿論、一瞬だけマイク君も反論しようとしていたが、怒りにより無表情となったナタリーを見て黙り込んだ。……ボクは目じりに涙が溜まってるけどね。 
 
「私は完全に非戦闘人員だから貴方達の喧嘩には介入しないように考えていたけれど、流石に境域を超えた。 
 別に貴方達が死んでもかまわないけれど、そのせいで勇者が死んだらこの世界の重大な損失だ」 
「ふぇぇ」 
 
 しかも、本気でナタリーは怒っている様で、有無を言わせない雰囲気を自然と作り出し、文句を言うのであれば、即刻死刑と言うような言葉が簡単に思い浮かんでくるような状態だった。 
 ボクはそんなナタリーを見て、半泣きしていた。 
 
「貴方達が数万人いようと勇者の存在価値には足りない、だから身をわきまえろ」 
「……説教はあとでにしてくれ、どうやら気付かれたようだ」 
 
 ナタリーの、何処かにいる教官みたいな口調で説教だったが、それは勇者である……あれから止められた。 
 多分ナタリーの殺気で気付かれてしまったようだね、一番害悪なのはなたr―― 
 
「ライム、調子に乗るな」 
「の、乗ってないです、はい」 
 
 完全に思考がばれていたようだった。そのせいで睨まれた。 

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