TS転生は強制的に

lime

二十七話~ボクとカオスと滅茶苦茶と~

 あれから五分ほど、ずっと水につけていると、何か少しだけ反応したように思えた。 
 そして何故か、野生動物並みの危険察知能力がこのまま近く言いると危険だと言う事を伝えてくれているような気がした。 
 
「シレイブヨリツウシンヲカクニン、カクホウゲキジュウテンシュウリョウ、コウドウヲカイシシマス」 
「うわぁ!? 喋ったぁ!?」 
 
 ボクの危機察知能力が作動したのか、それともたまたまだったのか、それともこの言葉には意味がないのか、それは分からないが、本当に危ないように思い、遠くへ向かってその水に沈んでいた生命体をけって吹っ飛ばした。 
 
「ハッシャ」 
「ひゃぁ! 危ないよ!」 
 
 しかし、運の悪い方向で、危機察知能力が働いてしまったようで、ボクがあの生命体をけり上げたとほぼ同時に、謎の光線を放ち、その光線の着弾地点には大きな爆発が起こり、ボク達も少しだけ吹き飛ばされてしまった。 
 
「おい、ライム! 何したんだ!」 
「何もしてないよ!」 
「何もしてなかったら、あんなふうに空中浮遊しないだろ!」 
 
 マイク君が言う通り、ボクが蹴り上げたあの生命体は重力に従い、地面に落ちると思いきや、重力を真向から反発し、普通に空間に浮遊していた。 
 
「うわ! なんかこいつ浮かびやがったぞ!?」 
「こ、こっちでもだ!」 
 
 そして最悪な事に、ボク達の所の謎生命体だけが攻撃を仕掛けてきたわけではなく、ほかの人達の謎生命体までもが浮かび上がり、先ほどと同じ様に「シレイブヨリツウシンヲカクニン、カクホウゲキジュウテンシュウリョウ、コウドウヲカイシシマス」と言う様な台詞を吐いていたので、きっと先ほどの光線を撃つのだろう。 
 
「冥府から届けられた物、それは何物にも受け取らないと言う事は不可能で、いずれすべての物体がこの届け物を受け取る。 
原初の還元デスセンス』」 
 
 流石に大量虐殺は見たくなかったので、素で深淵魔法をぶっ放してしまったのだが、奇跡的に、その場にいた全員が混乱しており、深淵魔法が放たれたことや、ましてやボクが深淵魔法を撃ったことなど誰にもばれている様子はなかった。 
 
「……やっぱこれが一番手っ取り早いね」 
「いやいやいや!? お前マジで何してんの!? お前そればれたらおしまいだろ!?」 
 
 マイク君が言っている事は何一つ間違っているところはないし、そもそも合理的に考えたらボクが間違っているのだが、感情と言う物は理性でどうこう出来る物ではないのだ。 
 ……まあ、別にこの人達を救いたいと思ったんじゃなくて、スプラッタを見たくなかっただけなんだけどね。 
 
「よし、じゃあマイク君、早く逃げよう! あの謎生物はこの街に大量に沸いてたんだから倒すとか無理だよ、だから今のうちに村へ帰ろう! 早く走ろう!」 
「あ、ああ、そうだな」 
 
 これを見たら、誰でもが残酷だと思うかもしれない。と言うか、ボクでも、唯一この生命体を倒せると思われるボクが真っ先に街から出ていくという行為は下種っぽい行動だと思う。 
 ただ、ボクはこの街には何の思い出もないし、逆に黒歴史しかないので、黒歴史と共に消滅してくれたら一石二鳥なんだけれど、街が崩壊すると言う事だけは確実にわかる。 
 
「マイク君、だるいよ」 
「「「ハッシャ」」」 
 
 勿論、今すぐにでも反応を返してくれないマイク君を殴りに行きたかったのだが、毎秒発射される光線を勘でよけながら走り続け、その光線に当たったらほぼ即死レベルの攻撃を、よけると言う、意味不明な状態になっている。 
 
「おーい! マイク君? 反応しなよ?」 
「「「「ハッシャ」」」」 
「おいお前ら! こっちにこい! 急げ!」 
 
 しかし、そんなバカの事を考えているのもつかの間、今度は何故かどこかから現れた勇者が、ボクの事を呼び、こっちに来いと呼んできた。 
 ただ、その台詞を聞く限りでは本気で不審者の台詞なのだが、流石にこの危機ではどんな不審者でも不審な行動はしないだろう。 
 
「なんで勇者が居るのさ!!」 
「うるせぇ! とりあえずさっさとこっちに向かって来い! 流石にお前らでも死ぬぞ!」 
 
 本当に文面だけならこいつは不審者なのだが、本気で見ているところを見ていると、ただ単に心配になっていると言う事が分かる。 
 一応、勇者程度なら殴れば殺せるくらいと分かりきっているので、近づいても平気だとは思うけれど、不安でしかない。 
 
「いや、君が何するか分からないよ! 不審者にはついてくなって、ボク教わったもん!」 
「何が「教わったもん!」だ! 今更かわい子ぶっても意味はねえんだよ! ……ああ、もうじれったい!」 
 
 そして、勇者は何を思ったか、何故かボクの肩に触れ、ボクの目を見てきた。 
 これでは文面だけではなく、行動まで不審者なのでマジもんの不審者としか思いようがない。 
 
「『転移』」 
 
 ただ、ボク達は勇者が使った、謎の魔法により、何処かの森林地帯と言う事分かったが、現在地不明場所に飛ばされてしまった。 
 勇者も同じくここへ飛ばされたのだが、息が絶え絶えで本当に苦労したと言う事が分かる。 
 こういう時は「ご苦労、褒めて遣わす」と言いたいことだが、一応は命を救ってくれた人間なのでそういう冗談は言わないようにしておく。 
 
「はあ、はあ、お前、なに、俺の事を見てんだよ」 
「何を言っているんだか、この独善者が」 
 
 そんな罵倒を勇者にしつつ、ボクは今の数十分の間の事を考えていた。 
 先ず、謎生命体が光線を放ち、その後に、多数の謎生命体達が光線を放ち、その後、何故か勇者に助けられたり。 
 ……一言で言うとあれだね、滅茶苦茶って感じだよね! こんなに滅茶苦茶? 混沌としてたらもうやばいよね。 
 ラノベではありえない様な展開だし、事実は小説よりも奇なりとかっていうもんね! あはは。 

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