TS転生は強制的に

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二十一話~ボクと迷宮とつかえねぇ短剣~

 
 オークの集団に襲われ、ドイツ戦車にも襲われ、勇者に従っている聖龍にも襲われ掛け、そして勇者にも襲われ掛けたあの日から一週間後、ボク達はとある迷宮へと来ていた。 
 その迷宮の名前は、『悪鬼の巣窟』と言うダンジョンでその名の通りゴブリンが山の様に住んでいるらしい。 
 
「はあ、お前って本当に厄を呼んでくるな。お前を殺したら億万長者になれるんじゃないか?」 
「ボクだって厄を呼び込んでるんじゃないかって、思いかけてたんだから声に出して言わないでよ、ボクだって乙女なんだぞ? 泣くんだぞ?」 
 
 そして、何故この迷宮に来ているのかと言うと、一週間前にオークと戦ったことが問題だった。
 元々あれはDランク以上の冒険者が受けられる依頼だったようで、一受付嬢の独断でEランクのボク達が参加してしまい、しかも、まあまあ活躍してしまったので、ギルド側からDランク昇格試験をお願い強制させられたと言う事だ。 
 
「はあ、お前は絶対に泣かないだろ、無駄話してないでさっさと進むぞ」 
「失礼な奴だなぁ、ボクだって悲しくなったら泣くよ、ね、ナタリー」 
「え、……ごはんを抜かれたときとかには泣いちゃうんじゃないの?」 
 
 勿論、ボクだってそんな風な事を意図的に起こそうとはしていないし、そもそも面倒な事には関わりたくない、だから貶されるのは理不尽過ぎる。
 その事をナタリーに助けを求めたのだが、結局ナタリーにまで貶されてしまった。……ボクには味方は存在しているのかな? 
 
「あははは! だってよ! 同性の奴にまで言われてやがる!」 
「うるっさいなぁ!! さっさと行くんじゃないの!?」 
 
 そして、下種マイク君からは、助けをナタリーに求めたのに、その助けを求めたナタリーにも貶されたと言う事を笑われてしまった。今月最大の爆笑と言ってもいい位、笑われてしまった。
 本当にマイク君は、と言うかカズトはと言った方が良いと思うが、あいつはボクの事に関するといつもゲラになる。本当に殺したくなる。 
 
「別にご飯抜きでお前は泣かないよな、必死でご飯を要請するだろうけど」 
「いいんだよ? 別にボクは一人で目的のフロアボスを倒してもいいんだよ? それとも君を気絶させてここに放置してもいいんだよ? 君はボクよりも圧倒的に弱者なんだよ?」 
「……暴力系ヒロインは最近不評だからやめた方が良いぞ」 
 
 マイク君のボクの事を挑発する言葉と、完全にボクの事を馬鹿にしている態度に本気でキレてしまい、力と言う物を分からせてあげようとしたのだが、そこでもやっぱりマイク君はボクの事を貶してきた。 
 一度記憶が消滅するくらいには痛めつけておいた方が良いんじゃないの?
 
「ナタリー、マイク君の事は置いて早く行こう?」 

 流石に、あの威圧、と言うか武力行使寸前の状態からでもふざけていられるという、マイク君の精神と、ボクに対しての態度に、呆れてしまった。
 それに、これ以上無駄だと言う事は分かったので、無視してナタリーと先に行く事にした。

「ライムは、マイクといないと暴走するからダメ」 
「ぅぇ?」 
 
 しかし、マイク君を置いてナタリーと二人で迷宮の先に行くと言う策略はナタリーによってる分されてしまった。しかも、子供に言い聞かせるような言い方で、ナタリーからも馬鹿にされているように感じた。
 やっぱりボクには仲間が居ないよね? 
 
「おっ、お前らっ、マジで、俺を笑わそうとするなっ」
「……笑ってるよね」

 ボクも一応はこういう弄りに対して免疫はあると思っていたのだが、本気で機嫌が悪い。

「そんなに拗ねんなよ」
「拗ねてないよ、キレてるだけだよ」

 流石にマイク君でもボクが本当にキレかけているといる事は分かった様だ。ボクはそんな事でこいつを許す気などないのだけれどね。

「ぐぎゃ」 
「……チッ、ゴブリンじゃん。死ねよ」
 
 そして、このボクがキレているせいで暗い空気の中に現れたのは一匹のゴブリンだった。 
 勿論、ゴブリンが出てきたことにより、ボクは更に機嫌が悪くなってしまい、そのせいで口汚く罵倒してしまった。
 
「ぐぎゃ!」 
「……『破拳』」 
 
 今のボクは以前と同じく手甲すら身に着けておらず、一応昨日位に買った短剣はあったものの、ボクの筋力は無いに等しいので、すでに使っていない。
 だから、血やら肉片などがついてしまう場合があるので、殴ることが本当にストレスだ。まあ、殺さなければこっちが殺されてしまうので、ストレスが……なんて言っている場合ではないのだけど。
 
「よし、じゃあさっさと行くか。……あとライムは手甲を買った方が良かったな」 
「……うん」 
 
 そんな風に以前よりも口数が減り、ぎすぎすとしている中、ボク達は迷宮の中へ進んでいった。 

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