TS転生は強制的に

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二十話~ボクと実際は滅茶苦茶強かった勇者とボクに何故か怯えるホーリードラゴン~

 
 ボク達がエルンストの街の外に出向くと、そこでは先程出会い、喧嘩になったあと、マイク君の衝撃的な告白により勇者と言う事が分かったあの男がオークの集団を薙ぎ払っていた。
 ……どうやらボクの煽りが相当効いたようだ。完全に馬鹿だね。まあ、あんな奴に喧嘩を売ってしまったボクも相当馬鹿だと思うけどね。
 ま、まあ、いくら頑張ってオークを倒したからと言ってボクはあんな奴にはついていかないから。武力行使されたとしても深淵魔法があるから大丈夫なはずだ。……大丈夫かな? 
 
「……ライム、あいつも悪かったと思うが謝ってきた方が良いんじゃないか? 人間的に」 
「はっ、何言ってんのさ、いつもは糞見たいに下種なのに、こういう時にだけ怖気付いちゃって」 
 
 しかし、何故か勇者が無双している様子を見て、下種と言う概念をそのまま具現化したような人間であるマイク君が、遠慮し始めた。 
 マイク君と言えば、老若男女、社会的な強者弱者、貧富問わずにたいして下種な事をするようなイメージがあるけど、もしかしたら違ったのかな、弱者にだけ下種な行動をする、文字通り下種なのかな? 
 まあ、あの勇者はボク達女だけに話し掛けるような下種なんだから遠慮なんていらないでしょ。
 
「俺は別に下種ではないだろ、まあ、お前がそういってるのなら別に俺は何も言わないが」 
「まあ、別にああやって街に協力しているんだから良いじゃん、ボクは勇者って言う人間にかかわらずに済むし、街の人は街を襲撃されずに済むし」 
「いや、それは勇者が」 
 
 本当に怖気付いてしまったマイク君にいくら会話しても無駄だと思ったボクは、マイク君の会話を無視することにした。 
 説教臭いしね。 
 
「お前らを倒して、あの女をぼこぼこにするんだ! 来いサモン! 聖龍ホーリードラゴン!!」 
「ギャァァオン!!!」 
 
 そんな風に思いつつ、無双している勇者を見ていると、今度は高さ五メートルくらいのドラゴンを召喚した。どうやら早めにオークを倒してボクに何かしようと思っているみたいだけど、残念な事に、それは完全なる犯罪だ。 
 ま、まあ、あんなドラゴンを出されたら深淵魔法でも使わない限り即死だから、少し怖くなってきちゃったけど。 
 
「「ブヒィィ!?」」 
「ギヤァァァ!!」 
 
 断末魔の様に聞こえるドラゴンの咆哮と共に放たれた、白銀色に輝く閃光がオークたちのいる集団に着弾し、数百のオークたちが一瞬にして塵も残さずに消えてしまった。 
 そして、その光景を見た街の冒険者や兵士たちは、勇者と言う偉大で強大な協力者がいると言う事に士気が上がり、そのドラゴンの咆哮により、人間とオークの優劣が逆転した。 
 ……まあ、勇者が思っている事って邪なこと以外には存在しないだろうしね。街の人達が可哀そうだよ。 
 
「私も助太刀するわ! 大魔法、焔の円環フレイムリング!」 
「「ブヒィィィィ!? ブフゥゥゥ」」 
 
 そして、勇者の仲間である女の一人が更にオークへと追い打ちをした。 
 前にマイク君が放った核撃魔法よりも威力、範囲ともに減少しているが、数十体のオークが灰と化した。 
 こう考えると、どれだけドラゴンの放った閃光の威力がやばいのかが分かる。まあ、これで人間が放った魔法の方が威力が高かったら、完全に名前負けしてるもんね。 
 
「これで最後だ、創造魔法オリジンマジック重力負荷グラビティ」 
「「「っ!? っっっ!!!!!!」」」 
「うわっ」 
 
 そして、最後に勇者の魔法が炸裂し、この場に居たオークすべてが一瞬にして死に絶えた。 
 しかも、何故か一般な人に対してはその魔法は聞いていない様だったが、何故かボクだけオークと同じ様に魔法が効果していたが、勿論防いだ。と言うか防がなければ死んでいた。 
 絶対に殺しに来てるよね。
 
「お、おい、勝った、のか?」 
「お、オークが居ないって事は……」 
 


「「勝ったぁぁ!! 勇者様のおかげで勝てたぞぉぉ!!!!」」 
 
 オークが一瞬で居なくなった平原を見つめていた人達が、ぽつぽつと喋りだし、その数分後にはお祭り騒ぎ以上な状態になってしまった。 
 そのなかで、勇者の心内を知らずに街の住民たちは純粋な心で勇者たちをたたえた。 
 本当にかわいそうな住民たちだね。 
 
「滅茶苦茶早く終わったな、ほら、お前のところにドラゴン連れて歩いて来たぞ」 
「……マイク君、逃げていいかな?」 
「だめに決まってんだろ」 
 
 ……どうやら、こういう勘とか直感的な事は圧倒的にマイク君の方が優れている様だ。だからこそ、さっきまでボクが勇者を弄る事を止めようとしたのだろう。もう意味はないけどね。 
 それに、魔法現象ならボクは止められる……筈だ。一応反魔法アンチマジックと言う魔法があるから。本当に効くかは知らないけどね。 
 
「おい女ぁ! 義務を果たしてやったぞ!」 
「んぇ? 勇者の義務って人民を危険から守るって事じゃないの? それだったら君の義務は永遠に果たされることがないと思うけど」 
 
 流石に、魔法が効かない可能性はあるのだけど、流石に魔法が効いてしまう可能性もあるので流石にそんなに賭博には出れないよ。 
 本当に生死にかかわるような賭博をできるほど、ボクの神経は図太くないんだ。 
 
「そんな屁理屈は効かねぇよ!! さっさとついてこい!」 
「いやいや、屁理屈でもなんでもないよ? そもそも、なんでボクがついていかないといけないのかな? 今の状況だと君はただの誘拐犯だよ?」 
 
 これは本当に屁理屈では……屁理屈でしかないけれど、さっきの言葉よりかはましな言葉なはずだ。 
 そもそも、ボクは本当にそれには認証していないのだ。だから犯罪者だ。 
 
「……っふ、やれ」 
「ガルルルル」 
 
 しかし、その屁理屈はただ単に勇者の怒りを増幅させただけで、ボクの立場が悪くなっただけだった。まあ、それ位なら別にいいんだけどね。 
 ただ、最悪な事にドラゴンにまで命令を出していた。 
 
「おい、何をしてるんだ?」 
「ガルルル」 
 
 しかし、そのドラゴンが襲って来る事は無く、何故かボクがそのドラゴンの目を覗こうとすると、後ろに少しずつ、本当に少しずつだったけれど、後ろに下がって行った。 
 その姿は先ほどまで、オーク相手に無双していたドラゴンと言う姿ではなく、捕食者から、もしくは圧倒的強者から逃げるような弱者と言った様相だった。 
 ……何だろうか、ボクはこんなドラゴンにまで怯えられるほどに異常な存在なんだろうか。 
 
「ちっ! 今度会ったら絶対に殺してやるからな!」 
「……」 
 
 そんな風に、最後までは手を加えなかった勇者は、ボクに捨て台詞を吐いた後にどこかへ消えてしまった。 

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