TS転生は強制的に

lime

十四話~ボクと下種い受付嬢と切れるナタリー~


 翌日、ボク達は昨日とは違い、三人で一緒ににギルドへ向かうと、ギルドの中はいつもよりも騒がしく、ほぼ全員が口論をしている状態と言った、混沌に満ちた空間になっていた。

「オークの集団が襲ってくるなんてありえない! 襲う理由がない! オークはそこまで馬鹿ではないはずだ!」
「では何故あんな大量のオークがやって来るんだ! 襲撃以外にはあり得ないだろう!」

 ギルド内部は本当に喧々諤々な様子で、乱闘騒ぎの一歩手前な状況にまでなっていた。
 そんな論争の中心にあることは、オークの集団が、エルンストに向かってきている事らしい。
 オークと言えば、昨日殺した二メートル近くの豚顔の巨人なのだが、あれが大量に向かってきているらしい。
 死ぬのが確定しているように思えるけど大丈夫なのかな?

「そういえば、オークは一人の王に忠誠をすると言うけど、王が人間に殺されたんじゃね?」
「馬鹿なっ! ここにいる人間はCランクが良いところだぞ! オークキングを殺せるような人間はいないぞ!」

 先程までの論争とは少し内容が変わったようで少しだけ現実を見たような論争に変わって来ていた。勿論、逃避している人達はいるけど。

「受付さん、何があったの?」
「ああ、オークが集団でエルンストに向かってきているんですよ、なので贄として言ってもらえませんか?」

 勿論、今での論争を聞いていたので、大まかな内容は分かっていたけれど、更に詳細な内容を聞くために受付嬢に話を聞いた。
 しかしながら、この受付嬢はこんな状態なのにふざけ始めてい
た。……いくらボクが危険人物認定を受けたからって贄ってどういう事なのさ。
 ただ、少しだけ怖いのが、至って真面目な表情でふざけていたので、素であんな事を言ってた事だ。

「しかし、こんなふざけている場合ではないんですよ。貴方がエルンスト冒険者ギルドで現在居る最強のAランクの人を重症にさせてしまったから」
「そ、それは謝るけど」

 安心した。
 やっぱりふざけて言っていたようだったが、そんな場合では無いのならふざけないでもらいたい。
 まあ、ここまでの事態になった理由の一つに、ボクがあの筋肉を殺しかけてしまったことがある為、そこは普通に謝罪する。

「しかしですよ? そのAランクの人間を一撃で重傷にさせた人間は今やギルド会員です。つまり、それは今はEランクです。
 なのでギルドはその人間に緊急招集をする予定なんですよ」
「きょ、拒否権はあるの?」
「そんなものはあるわけがありません」

 そして、この人から本題の様な物がやっと発言されたが、この人と会話すると本当に掴み所が無い。会話しにくい。
 まあ、これまでは要点をまとめて言ってくれるナタリーと、思った事をズバズバ言ってくるマイク君が居たから、そういう会話には疎くなったんだろうけど。

「良いですか、これは貴方にも得のある話なんですよ?」
「どこがさ、圧倒的に損しかないじゃん」

 本当に会話しにくいし、意味も分からない。
 お金や、名声と言った物が得られると言った得はあるだろうけど、死と言う圧倒的な損がある限り絶対に損でしかない。

「何を言っているのですか? 貴女はお金を得られ、名声が得られ、そして、十五歳位で異性に裸で抱き着くような痴女と言う事を誰にも知られずに生活していけるんですよ」
「ちょっ!? なんでそのこと知ってんのさ!?」

 しかし、この受付嬢はマイク君と同格の下種、もしくは格上の下種だった。
 でなければ、ボクが間違えてマイク君に裸で抱き着いてしまった事をばらすなどとは絶対に言わないだろう。それもまだまだ成長途中の十五歳のボクの行動だと知っていて。
 その事を本当にばらされてしまうのなら、確実に参加した方が得だろう。死って言うデメリットよりも、これから一生痴女と言われ続けながら生活しなければいけないと言うデメリットだったら、確実に死んだほうがましだとボクは思ってる。

「ギルド受付嬢の情報網を馬鹿にしないでもらいたいですね。ギルドは非国家組織ですがその分の情報収集はギルドの受付員が対応しているのですよ?
 それで、どうするんですか?」
「うぐぐ、……わかったよ。本当に言わないのなら戦うよ。でももしそれを言ってしまったのなら、流石に君達でも分かるだろう?」

 実際、相手が言ったことを守らない可能性もあるので、少し威圧をしておく。まあ、こんなことをしても言われてしまったら、取り返しがつかないし、逃げられてしまったら殺すことはできなくなってしまう。
 けれど、ギルドと言う組織を破壊させることくらいはできる。

「そんなバカな事をする訳がないじゃないですか、では貴女は先発隊の一員として加わってもらいます。あそこにいる斧を持ったでかい人の所です」
「分かったよ。……マイク君たちってどうしたらいいの?」
「別に先発隊でもいいですよ? 貴女なら守れるだろうし」

 ……生憎、ボクは一対一に特化した戦闘しかできないから守るのは無理なんだよ。まあ、マイク君は攻守両方とも出来るだろうから先発隊でもいいと思うよ。
 ナタリーは……前世で言うミサイル的な威圧目的の兵器みたいなやつだよ。

「じゃあ、一緒でいいですよ」
「分かりました、では行ってきてください。そしてお亡くなりください」

 初めて行ってきてください、ってお願いした後にお亡くなりくださいって、敬語で死ねと言われたよ。
 お亡くなりくださいとか、ひどすぎるだろ、まあ、ギルド側からすればボクみたいに異常な力を持っているような人間は操縦しにくいのだろう。自分では認めてはないけど、みんなからは悪魔らしいし。

「おーい、どうも、先発隊に組み込まされました。ライムです。よろしく」
「……」

 もう会話する気がなくなってしまった受付嬢の所から、先発隊が居る場所に行き、突然の自己紹介をしたのだが、何故か全員からは白けた目で見られた。
 ま、まあ、危機の時に、こんな馬鹿そうなやつが先発隊になってたら、流石に誰でも切れるだろう。

「なんだ餓鬼、帰れ」
「餓鬼とは何だが餓鬼とはぁ、ボクだって確り戦えるもん!」

 ま、まあ、同じような立場だったらボクは帰れと言う言葉を言う前に、絶対に殴っている。
 だって考えてみてよ。北方面からミサイルが自分たちの住んでいるところに飛んできている事に対しての対策本部に子供が現れたら流石に切れるよ。
 もう、子供を……とか言ってる場合じゃないもん。

「お、おい、気をつけろ、言葉を間違えるとぶち殺されるぞ」
「……何言ってんだ? 同伴してるお前らがそんな事を言って」

 あとからやって来たマイク君が、本当に相手を心配しながら、こっちに向かってきた。
 別にボクは本当に無礼な事を言われなければ殺しはしないし殴りもしないし、怒りもしないよ。ただ単に嫌味とか悪口とか悪戯とか噂とか、相手の立場を陥れるような事しかしないから。
 ……あれ? ボクって、外道?

「お前らみたいな未熟なや――」
「誰の胸が未熟だぁ? 喧嘩売ってんのか?」

 しかし、少しだけ隙を見せたその瞬間、相手が未熟な――と言うっ事を言い出した。
 さ、最低な奴だ。これも星にした方がいいのだろうか。ま、まあ貧乳の敵はすべて殺していくと決めたしね、早く殺しちゃおうかな。

「おいおいおい! まてライム! まだ胸とは言ってないだろ! 未熟な奴としか聞こえなかったぞ!」
「……ごめん、少し焦りすぎちゃった」

 どうやらボクは焦りすぎてしまったようだ。
 そのせいで、滅茶苦茶焦ったような表情のマイク君がボクの目の前にやって来た。どうやら何かを心配しているような表情をしていた。
 いったい何を心配、って、深淵魔法の事か。

「別にそんな暴れるつもりはなかったよ? 前回みたいなことをしたかっただけだからね」
「はあ、それだったら意味がないだろうが」

 しかし、ボクの回答がマイク君の満足のいく回答ではなく、妥協できるラインでもなく、圧倒的に妥協ラインを下回る回答をしてしまったらしく、青筋を浮かべながら頭に手を当てていた。
 何処がいけなかったのかは、一応は予想できるよ、多分攻撃をするなって事を言いたいんじゃないかな。それは無理な話だけどね。

「……な、なんなんだ今のさっきは」
「何でもないよ~、ごめんね、ボクが焦っちゃったせいで脅かしちゃって」

 もうマイク君はボクの事を諦めたのか、それとも深淵魔法を使わなければ、もう何でもいいと言う風にボクの理不尽に屈してしまったのか、それとも今ボクに暴れさせてその分を後できっちりと叱ろうとしているのかは分からないが、何も言わなくなってしまった。

「ただ、失礼な事を言うんだったら、手加減はしないよ?」
「……わ、分かった」

 どうやら、この斧を持った大男さんは前の屑筋肉とは違うようで、人の事を聞く事だったりしてくれるのでまだまともなのだろう。
 ただ、それよりも問題なのは、確実にナタリーだ。
 だって、人間を殺せそうな淡々と睨み続けてるんだよ? 怖いよ。


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