TS転生は強制的に

lime

三話~ボクと滅茶苦茶厳しいシェリーさんとシェリーさんに敷かれている司教様~

「貴方達! 何故今日と言う日も遅刻するのですか! いい加減にしなさい!」
「んだよ婆、うるせぇなぁ」

 魔法覚醒の儀式に遅れたボクたちは、普通に説教をさせられていた。
 因みに、こういう行事以外にも村で行われる祭りの準備に遅れたり、神へと祈る日にもボク達は毎回遅れたりと、本当にボク達は遅刻魔だった。
 普通に遅れる人達は、この説教は三十分近くで終わるらしいのだが、ボク達は毎回数時間程度説教をされている。
 理由は今のマイク君の台詞などだ。
 そのせいでボクは毎回遅れているけれど、滅茶苦茶な時間を説教され、そして挙句の果てにはボクの事について説教されない場合もある。

「いい加減にしなさい! 反省の気持ちがみられません! 良いですか、これは神の儀式なのです。貴方の様な不敬な輩はいくら神が寛大であろうとも、私は絶対に許しません。ここで懺悔しなさい!」
「何言ってんだ。現実を見ない奴に現実を聞かせているだけだろうが」

 本当にマイク君と言う奴はボクの迷惑を顧みずに、ただ単に暴言を放っており、ボクの心情を全く理解していない様だ。……ついでにボクが睨んでいる事も分かっていない様だ。
 本当に、ボクは今すぐに帰っていいように思えるんだけど。ボクはただ遅刻しただけだし……三十分くらい。

「しぇ、シェリー、そこまで怒らなくてもよいだろう?」
「司祭、貴方がそんなものだから子供達もこうなってしまうのではありませんか! それを、何をふざけたことを言っているのですか! 貴方も反省してください!」

 そして、ボク達を救出しようとした、勇敢な男性は、この教会の司祭である、カンタル司教だ。
 しかし、怒り狂ったシェリーには正気がないのか、それとももともと、常識と言う物が欠如しているのかは分からないが、上司である司祭にまで説教を開始していた。
 や、やばいよ、マイク君のせいで犠牲者が二人出てるよ。あとで殴るのは決定だね。それとも社会的な鉄槌を与えてやろうか?

「しかし、シェリー、神は寛大な御心を持ち、それを信徒へと分け与えている。それなのに、神の教えを伝える私達が、狭い心を持っていたら、神はどう思う? きっと失望なされるぞ」
「だから、貴方は本当に理解できていませんね! 良いですか! 貴方のそういう言い逃れをみて子供達も言い逃れをするようになるのです!」

 と言うか、神は寛大な心を、とか神の寛大な御心が……みたいな事を言ってるけど、あのアルテナが寛大な訳がないでしょ? 絶対人違いか何かだよね? だって、幼女なのに、幼女じゃないとか言ってるし。
 この世界で一番現実を見てないんじゃないかな?

「しかし、私達にも義務と言う物がある。それを実行できなくなる可能性があるのなら、私は言い逃れをする」
「まあ! なに開き直っているのですか! 良いですか? 貴方は仮にも司祭と言う……」

 ちょっと、あの、説教されるのは嫌だけど、正座させられた後に、マイク君を説教してその後に司祭を説教して、もう一時間位経ってるけど、ボクには説教が来ないんだけど。
 その、帰っていいかな? 若しくは救援要請していいかな?

「はあ、説教は良いから早く儀式をしようぜ、もう多数派だぞ?」
「……わかりました。これ以上しても意味がありませんね。司教。お願いします」

 やっと、終わったみたいだ。……結局ボクが正座した意味はなかったけど。そして司教までも説教させられる理由もなかったけど。
 ただ、もうおなかがすいてきちゃってるから早く覚醒の儀式は終わらせてもらいたい。

「分かった。『覚醒』……おわりです。初級魔導書を差し上げるので、自分にあった魔法を探してみてください」

 ……どうやらボク達二人分の覚醒の儀式は数秒で終わってしまった様だ。
 そして、二時間以上かかった説教は結局マイク君と、飛び火したカンタル司教のみで、結局ボクは滅茶苦茶な論争に巻き込まれた、ただの遅刻者と言う立場になっていた。
 やっぱり殴るわ。

「ふ~ん、『氷槍アイシクルランス』」
「いやいやいや! なんでボクに向かって撃って来るのさっ!? 『爆裂拳』」

 そんな風に、ひそかにマイク君をぶん殴る事を決めていると、何故か真横に居るマイク君から魔法を撃ってきた。ボクがもし打ち消し合えなかったらどうするつもりだったんだ。
 ボクは女の子なんだぞ、ボクの柔らかくて、ハリのあって、そしてシミ一つないボクの肌に傷が付いたらどうするんだ。

「……司教、『氷槍アイシクルランス』なんて魔法ありましたか? そもそも氷系の魔法は相当な練度が必要ですよね?」
「そうだな」

 いままで説教をしていて騒がしかったシェリーさんと、司教がいきなり静かになり、こそこそと会話していた。
 普通の人なら、ボクに向かっていきなり魔法を撃ったことから、やばい奴だね。と言うような会話があるだろうが、多分これはラノベにあるような、チートを発見した時のテンプレだ。
 マイク君はチート野郎だったのだ。……推測だけど。そして私情を入れるとしたら、こんな奴がチートとか嫌だ。

「マイク君? もう怒ったよ? 覚悟してね? 十分に痛ませてから昇天させてあげるから、ね? ――古の種族により制作されたこの異形、その異形は自然を消滅し、文明をも崩壊した『深淵より呼び覚まされし者』」

 ボクの詠唱付きの魔法により、聖域であるべきの教会に、一つの異形が誕生した。
 その名はオルトロス。双頭の犬。そしてその異形からは、聖とは反対のオーラが出ていた。

「ふふふ、マイク君、ボクのペットオルトロスを頑張って倒してね、まあ、無理だろうけど」

 ボクもう怒ったもん、ここ周辺を消滅させるくらいの勢いでマイク君ごと消し去ってしまおうか、全責任はボクを怒らせたマイク君が悪いよ。
 まあ、このオルトロスは別に冥界の番犬じゃないけどね。実際はゲーリュ何とかって奴の番犬だから。まあそれでも強いにきまっているだろうかr――。

「『完全なる聖域エンタイアサンクチュアリ』ライム、良くもそんな異形を召喚させた。ちょっとここに座りなさい!」
「ふぇ?」

 しかし、そんなものはただの予想で、予想は簡単に覆されるものだった。
 オルトロスはシェリーさんが使った魔法により、瞬時にして消し飛ばされてしまった。それも跡形もなく。勿論、オルトロス自体はまだ生きているだろうが、……多分もう召喚に応じてくれないかもしれない。

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