TS転生は強制的に
八話~ボクと失礼なマイク君と地雷採掘士こと行商人さん~
一週間後、ボクはマイク君とナタリーと一緒に行商人さんの馬車に乗り込み、近くにある街、エルンストに行く途中だ。
「君たちは冒険者になるみたいだけど、大丈夫なの? あの職業は一攫千金も狙えるし、安定的な給料も望めるけど、簡単に死ぬ仕事だよ? 考え直してみたら?」
「大丈夫だ。一応は安定した収入を得ることが目的で冒険者になるからな。それに冒険者ギルドの会員は国籍や出身地を問わずに国境を越えられるから得だと思うし」
馬車に乗って、あと数十分でエルンストに着くと言う様な所で、行商人さんがボク達に警告を出してきた。
まあ、ボクもそんな事は分かっているし、馬鹿なマイク君でもそこは確りとわきまえているだろう。まさか、英雄を夢見て冒険者になんてなる人間はいないだろうし。
「別に君たちの将来を否定する気はないけどね? 僕は行商人でいろいろなところを回っているから、いろんな人に会うんだよ。
その中にはけがで冒険者を続けられなくなった人もいる。だから注意すべきことも少しは知ってるんだよ。だからボクから言わせてもらう事は一つ。無理と思ってから諦めることは止めて。辛いと一瞬でも思ったら今すぐに諦めろ、って事だね」
「そうなのか、なら俺は今すぐにでも冒険者は諦めた方が良いのかな?」
行商人さんがまじめな事を話し始めたので、ボクは確りと聞いていた。勿論、これから冒険者を始めるに値して注意すべきことは一つでも多く知っておいた方が得だろうと思って、聞き入っていたのだが、マイク君の相槌がボクを見ながら言っていたことで、集中力が切れてしまった。
と言うか、マイク君にとってボクはどんな存在になっているんだ。いるだけで辛いと思ってしまうような存在って、誇張し過ぎだと思う。
「仲が悪いのか? それだったらなおさらやめた方が良いとは思うが」
「大丈夫ですよ! マイク君が誇張しているだけです!」
ボクが自信満々にそう言うと、マイク君とナタリーから壮大なため息が聞こえた。以心伝心と思ったのが全く違う様だ。
そんな様子を見て、あまり付き合いのない行商人の人にも苦笑いをされた。そして「まあ、仲は良いみたいだね」と言う様な事を言われたが、少し腑に落ちない。
「そういえば君たちは武器はどうするの? その年は魔法は使えるだろうけど、そこまで威力はないはずだけど?」
「大丈夫ですよ! 魔法覚醒の儀式の当日にボクに向かって、当たったら死ぬような威力の魔法を撃ってきましたから」
そんな事を大声で話すと、あたりの雰囲気は最高に悪くなりナタリーと行商人さんの目線が一気にマイク君へ向けられた。
勿論、そんな事をされたマイク君は慌てふためいていたけれど、少し時間がたつと落ち着き払ったような感じに戻った。
「あれは冗談で撃ったんだよ、それにライムならあの魔法を対処するだろうし。実際に素手で防ぎやがったし」
「……マイク君、スキルを使ったって言ってくれないかな? 皆のイメージに魔法を手で受け止めるムッキムキの誰かを想像してそうなんだけど?」
魔法を素手で受け止めたとかって、ボクはその言葉を聞いただけだと炎の球を腕でガードしたように思えるんだけどさ? それって絶対に女の子に対して失礼極まりないセリフだよね?
そんな風に思いながら、ボクはマイク君をいわゆるジト目と言うやつで睨んだのだが、マイク君には全く通じない様で、嘲笑までされてしまった。
「その年でスキルを使えるのか? スキルは普通、その武器や物を極めたときに使えるようなものなのだけど?」
「……」
や、やばい、深淵魔法だけが地雷だと思ってたけど、この年でスキル使えること自体も地雷だったのか……危ない。行商人の人に言われなかったら向こうでも普通に使っているつもりだったよ。
……でもスキルを使わないとなると、深淵魔法か弱い魔法くらいしか使えないんだけど。……スキルは使わないと流石にダメっぽい。
そんな風に思いながらボクは、音速に到達し掛けるレベルの速さで目を逸らした。
「そもそも、魔法覚醒の儀式をした直後に命中すると死ぬ可能性がある魔法を放つことも十分おかしい」
「……」
今度はマイク君に会話の矛先が向かった。
てっきり、行商人さんが魔法覚醒の儀式と言ったことで、ボクに向かって魔法を撃ったことに対して何か言うのかと思ったが、マイク君が致死レベルの魔法を撃ったことに対しての意見を言っていた。
……先にそっちなの? ボクはそんな魔法を受けても大丈夫だとみなされちゃったの? 何でボクの周りには失礼な奴らしかいないんだ? 呪われたのかな? 主にアルテナに。
「まあ、そんなに隠したいのなら言わなくても良いよ。ほら、もうすぐ着くぞ」
そう言って指差したところには、今世で見たこともない程の大都市が見えた。地球で言うならば良く言えば寂れた中堅都市。悪くて山間部の街程度と言う様な街だ。
まあ、それでも文明が中世の様な所で地方都市としてのサイズだったらかなり大きめなのだろうと予想できる。
……まあ、この世界は科学文明ではなく魔法文明だからどうなっているかは良く分からないけど。
「ここから俺たちの冒険が始まるのか」
「ちょ! マイク君! なんでボクを見ながら死んだ目をしてるのさ! 幾らなんでも失礼だよ!」
そしてマイク君は今日一番の絶望した表情でボクを見ていた。
そして、極め付きはナタリーにまで不憫な子、と言う様な目線をもらったので、流石に僕も本気で泣きたくなってしまったので、話を変えることにした。
「よし、じゃあマイク君、これからどうするの?」
ボクだけはあまり冒険者と言う職業は良く分かっていない。流石に冒険者ギルドで登録すると言う事は知っているけど。
「じゃあ、ライムを留置場に送りに行って、そこから俺たちが冒険者ギルドに行くから」
「……なんでボクは犯罪者みたいな扱いをされなきゃいけないの? どっちかって言うと、致死しそうな魔法を撃ったことからマイク君が殺人未遂で捕まるべきだよ?」
ボクは至って真面目に質問したつもりなのだが、笑顔でそんな事を言われたら流石に怒るよ。ガンジーさんもメイスを持って殴りに行くレベルだよ。
まあ、長年付き合ってるから冗談って事は分かっているけどね。……冗談、なんだよね?
「なに不安げな顔をしてんだよ。冗談に決まってんだろ。そもそもお前が留置場に行ったらほかの犯罪者が不憫で仕方がないだろ」
「はっ、何言ってんのさ。小さいころにボクの裸を見て興奮してたくせに」
ふふふ、ボクは転生者だから小さいころからの記憶もはっきりしているのだよ。それに前世では思春期まで生きていたんだよ。
だから、マイク君が興奮していたことくらい普通に見抜けるのだよ。……今じゃ誰の事が好きなのかくらいしか分からないけど。
「……早く冒険者ギルドに行くぞ」
「あれれぇ~? マイク君? どうしたのかなぁ~、顔を真っ赤にしちゃって」
マイク君を社会的に陥らせようと思って発言した言葉だったのだが、意外と効果てきめんのようで、マイク君は顔を真っ赤にしながらいそいそと、ボクから離れて行った。
まさかマイク君がこんな初心だったとは、ただの朴念仁なくそ下種変態野郎だと思ってたけど……これは弄りがいがあるねぇ~。
「あのね、君達、少しは私の身にもなってくれないかしら? 君たちの非常識的な会話によっていろいろな人達が貴方達の事をみているのよ、そして私までも見られているし、少しは常識を身につけなさいよ」
「「……」」
そんな風に馬鹿話を続けていると、後ろから歩いていたナタリーが滅茶苦茶周囲を威圧するような声に、マイク君と一緒にビクッ、としてしまった。
どうやらナタリーの威圧、と言うか殺気に近い様な雰囲気はボクたち以外にも来ている様で、街の人や、冒険者の様な人たちも、驚いてナタリーの方を向いていた。
……もしかして、単純な力を持っているボクとマイク君よりも、精神的に攻撃力があるナタリーの方が圧倒的に強いんじゃ?
「ねえ、返事をしなよ? 私を怒らせたいの?」
「い、いや、先に冒険者ギルドに行って手続きを先に終わらせた方が良いと思って」
馬鹿だよ、その発言は絶対に馬鹿だよ! だってナタリーから発される雰囲気がやばいもん! シェリーさんがかすんで見えるくらいの殺気を放ったるよ!
冒険者の人達だって剣に手を触れてるし、ナタリーは化け物だったのか? と言うかマイク君が言った通り本当にボクたちの冒険は冒険になりそうなんだけど。
「じゃあ、今日の夜にたっぷりと説教をしてあげるわね。流石に周りの人達に迷惑を掛けるから」
いやいやいや、ボク達は風紀的には滅茶苦茶迷惑を掛けている事は承知しているけれど、物理的に迷惑を掛けているのはナタリーだけなんだよね。
ナタリーの言ってる事はまさしく理不尽だよ。意味不明だ。
「それじゃあ行きましょう? ね?」
ただ、前世、今世を問わず小心者なボクは真っ向からそんな事を言えるわけがなく、心の中でナタリーの事を滅茶苦茶罵倒した。
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