TS転生は強制的に

lime

十話~ボクと目線いっぱいのマイク君と天然受付嬢~

「おはよう」
「ん? おは……って、何してんのさ?」

 翌日、ボクが目覚めるとそこには視界いっぱいにマイク君が居た。……うぇ、気持ち悪い。
 い、一応言っておくけど、マイクくんの顔面が至近距離で見えたからそういう表現をしただけであって、別にマイク君が自己繁殖して増えたとか、マイクくんを切ったら同じような物が出来上がったとか、どこぞのラーメンの具みたいに影分身などしてないからね。

「何してるって言われても……紐に縛られてる人間の表情を見てみたかっただけなんだが、お前じゃ参考にならないか」

 ……これも誤解ないように言っておくけど、別にボクが縛られる趣味があるわけでもなく、マイク君もそこまで変態的な事はしないはずだ。……しない、はずだ。
 そして、何故ひもで縛られている人間の表情を見たかったとかって言っているのかと言うと、昨日の説教で決まってしまった事だ。ボクをミノムシみたいにぐるぐるにまいてしまったのはナタリーだ。まあ、ナタリーもそういう趣味は無いだろう。……そういう嗜好はありそうだったんだけどね。

「意味が分からないよ。と言うか早く外してもらえないかな? 動きにくいんだけど」
「……わかった。俺の分までヘイトを取って行ったお礼だ。まあ、このままだと俺が変な事したと思われる」

 そうか、ならばボクはこのまま縛られておいた方が良いのでは? そしてここで大声を出したらマイク君は性犯罪者一歩手前位になるんじゃないのか?
 ……いや、やめておこう。絶対に不憫なこと言う様な視線で見られた後は何もなくなっちゃう気がする。

「じゃあ早く解いて~。あ、変なところは触るなよ?」
「お前に触る価値すらないし、そもそも触るような部分がお前の体には存在しないだろう」

 ほ、本当に失礼な奴だ。女の子の体に障ることができる機会なんて……マイク君は大量にあるだろうけど、前世のボクは……女顔の事を弄られて、安心できるとか言われて目の前で着替えられたりしてたから、ボクの方が機会はあったね。
 そこで触れるほどの度胸はなかったけどね。

「それはもてない男に対して、失礼なんじゃないかな」
「何を言ってんだ。お前なんてもてない男でも付き合おうとはしないだろ」

 ……何故にだよ。意味が分からないよ。
 ボクの容姿は少し子供っぽいところはあるけど、それだからこその可憐さって言う物があるんだよ! これだから朴念仁糞野郎のマイク君は。

「はあ、お前は……それよりもだ、もうナタリーは冒険者ギルドに行ってるから俺らも行くぞ、ナタリーにバレたら普通に殺され掛けない」
「そうだった、忘れてたよ」

 そういえば昨日の説教の時に決定させられていたのだが、ボク達全員、ばらばらに依頼を受けてお金を稼ぐと言う事になった。
 だからその分だけ、暴れないようにと滅茶苦茶厳重に注意をさせられた。別に本当に変な事をさせられない限りは、ボクだって暴れないからね? ただ、貧乳の事を馬鹿にされると周りが見えなくなっちゃうだけだからね。

「俺はもう着替えてるから先に行ってるからな、お前は確りと着替えてから来いよ」
「……別にそんな事を言われなくたって着替えるよ」

 そんな、今日最大の無礼な言葉を吐き、マイク君はギルドへ向かって行った。
 勿論、このままさぼっている訳にもいかないため、ボクも急いで着替えてギルドに向かって行った。


~~~~~~~~~


「さ、流石にこの時間帯は普通の人が居るんだね」

 ボクがギルドに入ると、そこは昨日は行った時とは全く違い、むっさい筋肉もいるにはいるが、普通な体系な人もいるし、マイク君をもっとうざくしたような美少年が女の子たちを侍らせていたりと、良く見るライトノベルに出てくるような場所に代わっていた。

「えっと、確か依頼板ってあそこじゃなかったっけ? 行くのやだなぁ」

 昨日、何故か様付けで呼ばれた受付の人に教えてもらった、依頼が張り付けてある場所を見てみると、そこには大量の人々が居て、まるでバーゲンセールをしているおばさま方のような状態になっていた。
 ……それに全員が鎧などを着て。

「け、けがしそうだね」
「へ~い、そこの彼女~、俺と一緒に依頼受けないか!」

 そして、掲示板の方向を見続けていると、女の子を侍らしていたマイク君のうざさを五万倍くりした人がボクに話し掛けてきた。
 滅茶苦茶軽薄そうな人間で、しかもそんな奴にナンパされて……流石に鳥肌が立ってしまった。気持ち悪かったよぅ。

「それは無理だよ。……あ、ちょっと依頼を取るのに協力してもらえないかな?」
「え~、つれないなぁ、まあ良いよ、どういうのがしたいんだい?」
「……えっと、簡単な討伐以来でもあればいいんだけど」

 い、意外だ。てっきりそのまま怒鳴り散らすのかと思っていたが、確りと助けてもらえるなんて、軽薄そうな顔なのに……これが人は見た目で判断をしてはいけないって言う慣用句? なのかな?

「よし、じゃあこれはどうだ? ゴブリンの十五匹討伐で報酬は五百セル、結構いいだろ」
「……結構いいね」

 本当に人間は見た目で判断しちゃダメなんだね。こんなにいいのを持ってくるとか。
 ちなみにセル、と言うのはこの周辺の国家群の共通通貨だ、五百セルは日本円で言うと約五千円だ。頑張れば一日を暮らせるレベル。本気で頑張ればね。
 でも、最弱と言う事で有名なゴブリンを十五匹狩るくらいで五千円位の報酬を得られると言う結構好条件だ。

「なら、それでいいな、俺たちも依頼をしないといけないから。じゃあな」
「う、うん」

 け、結構いい人だったね。
 まあ、これも運が良かったって事だよね、それに同じところで活動しているのならまた会う事だろうし、そこまで悲観する事でもないだろう。
 それに、あの性格だから女の子が集まってくるのだろう。マイク君よりも圧倒的にいい人だったね。

「これお願いします」
「分かりました。期日は明日までです、ゴブリンの魔石を十五個持ってくれば依頼達成です。魔石は魔物の心臓部分にある石の事です、ではいってらっしゃい」

 そして、受付に持って行った。
 昨日の人とは違う受付の人だったので、別に様付けで呼ばれるなんて言う事は無かったけれど、何故か疑う様な目線で見られていた。
 ……まさかだけど、昨日の受付の人が口外したなんて言う事は、無いよね? 有ったら少し説教をしないとダメなんだけど。

「……何を見ているんですか? 別にあなたの事をギルドが危険人物認定したとか、そういうわけで疑っていたわけではありませんよ?」
「いやいやいや! それ自白してるようなもんだからね!?」

 こ、この人は少し天然なのかな? それよりも、今度会ったらあの受付の人間をぶちのめしておかないと、あの筋肉は絶対に反省しないパターンの人間だろうからね。
 そんな事を考えながら、ボクはギルドの外へ出て行った。

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