自由な不自由ちゃんの管理日記
21 寝坊ついでに計画立てました。
8月22日日曜日
あぁ、蝉が鳴いている。
カーテンの隙間から光が差し込んでまぶしい。
今朝はちょっと暑いな。昨日まではブランケットをかけててもちょうどいいくらいだったのに。
ふと気配を感じて隣を見る。
「うわああああっ!」
「……ん、……な、に? まだ眠たい……」
人がいた。女の子がいた。玲乃がいた。
いや、なんで。なんで俺のベッドにこいつが?
セミが鳴いている。スズメの朝チュンじゃなくて蝉の朝ミンってか? あはははは、笑える。
「笑えねぇよ!」
「あぁもう、うるさい……って、あらおはよう、唯」
「おはよう、じゃないだろ。なんでここにいんだよ」
なんというか、当然のように俺の横で玲乃が寝ていた。
しかも、なんかちょっと服がはだけかけてて艶っぽい。思わず俺は目を背けてしまう。
「はぁ……本当にそんなこと言える立場なの、あなた」
「は……?」
意味ありげなことを言いながら、玲乃は視線を動かした。
つられて俺もその先を見る。
「あ……」
彼女の視線の先にあったのは時計だった。
ただの時計じゃない。もうすでに11時過ぎを指す時計だ。
つまり、玲乃は寝坊した俺を起こしに来たけど、起きなかったからしょうがなく寝てた、ってところ……なのか?
「えっと……すまん」
「わかればいいのよ。ほら、早く起きて」
玲乃は勢いよくベッドから降りると、くるりと回って床に伏した。
そして、もぞもぞと四つ這いになると赤ん坊がはいはいするように床を這っていく。
「お前、もしかして……」
「なによ」
「ここまでそうやって来たのか?」
玲乃の部屋は一階。俺の部屋は二階。体が不自由なこいつがどうやってここまで来たのか疑問だったが、まさかこんな移動方法だったとは……。
「そうよ。ちょっと調子はいいのだけれど、歩けるほどじゃないの。……なによ」
俺の憐れむような視線を感じたのだろうか。彼女は居心地悪そうに身を捩った。
「はぁ……わかったから、乗れ」
玲乃の前まで行って、俺はしゃがみ込む。
すると、彼女はなんか慣れたようにもぞもぞと這い上がってきた。
まさか一週間で二度もこいつを背負うことになるとは……。
「振り向いたら叩くから」
「理不尽だなぁ……」
感謝されてもいいんじゃないか、とは思うが俺が寝坊しなければこんなことにはならなかったわけだ。
なので、黙って階段を下る。
しっかし、こいつ軽いよなぁ。なんか幽霊でも背負ってるんじゃないかってぐらい軽い。
「なにか失礼なこと考えてない?」
「いや、全然」
別に、失礼なことじゃないよな。こいつ重い……なんて考えてたら失礼だろうけど、逆だから。逆だからセーフ。
そんなことを考えていたらすぐリビングについた。
怜美さんが朝から来たらしく、玲乃はすでに着替えている。
俺もちゃちゃっと着替えて顔を洗い、さっそく朝食の準備を始めた。
「何か食べたいものあるか?」
「オムライス」
「朝からそれは無理だろ」
こいつ、どんだけオムライス好きなんだよ。
まぁ、作ってやったときはほんとに目を輝かせてたけど。
……明日ぐらいにまた作ってやるか。
「明日……?」
あ、そっか。
明日はもう俺はここにいないんだ。
なんかずっと昔からこの洋館に住んでるような気がしてるけど、ここにはまだ一週間も滞在してないし、しかも明日にはもう……。
「どうかしたの?」
珍しく玲乃がこちらに声をかけてきた。
「いや、なんでもない」
「それ、創作物の中ではよくあるけれどかなり腹が立つの。何があったの?」
「だからなんでもないって」
この洋館。そして、お前と今日でお別れかと思うと寂しい――なんて本人の前で言えるわけないだろ。
しかし、なんだか俺の言い方が気にくわなかったようだ。玲乃がこちらをじっと見つめてくる。
「……なによ」
「こっちの台詞だっての。見つめんな」
「み、見つめてなんか……というか、自意識過剰なんじゃないの。気持ち悪い」
なーにが自意識過剰だ。それはそっちだろ。やっぱ「自暴女」は「自暴女」だ。
……あれ、「自暴女」ってなんの略だっけ? まぁいいや。
「はぁ……そういえば、花火大会ってどこで見るんだ? 海まで行くのか?」
なんだか玲乃が大層楽しみにしてたみたいだから一応尋ねてみる。
「海? 行くわけないじゃない。あんな人が多いスポット」
「だよな。俺も同感だ」
そりゃあ、そうだろう。浜で恋人といちゃついてるやつらに交じって花火を見るなんてまっぴらごめんだ。
「じゃあどこ行くんだ?」
「展望台よ。この洋館の上に、展望台があるの」
「へぇ。そこも人が多そうだけど」
「それがあまり人は来ないのよ。かなり上らないといけないし、町からは海のほうが近いし手軽だから」
展望台、か。そこから夏の海と花火を同時に臨む……うん、なかなか風情がありそうだ。
「それで、唯。朝食は……」
「さすがにオムライスは作らないから」
むっとした表情の彼女を少し面白いと感じつつ、俺は手元の卵を割った。
それを見て急にきらきらと瞳を輝かせる玲乃。だが残念。今から作るのはオムレツだ。
……しかし、残念。
彼女にとってはオムレツもオムライスと同類らしく、かなり嬉しそうな様子で咀嚼していた。
まぁ、喜んでくれたんならそれでいいか。
あぁ、蝉が鳴いている。
カーテンの隙間から光が差し込んでまぶしい。
今朝はちょっと暑いな。昨日まではブランケットをかけててもちょうどいいくらいだったのに。
ふと気配を感じて隣を見る。
「うわああああっ!」
「……ん、……な、に? まだ眠たい……」
人がいた。女の子がいた。玲乃がいた。
いや、なんで。なんで俺のベッドにこいつが?
セミが鳴いている。スズメの朝チュンじゃなくて蝉の朝ミンってか? あはははは、笑える。
「笑えねぇよ!」
「あぁもう、うるさい……って、あらおはよう、唯」
「おはよう、じゃないだろ。なんでここにいんだよ」
なんというか、当然のように俺の横で玲乃が寝ていた。
しかも、なんかちょっと服がはだけかけてて艶っぽい。思わず俺は目を背けてしまう。
「はぁ……本当にそんなこと言える立場なの、あなた」
「は……?」
意味ありげなことを言いながら、玲乃は視線を動かした。
つられて俺もその先を見る。
「あ……」
彼女の視線の先にあったのは時計だった。
ただの時計じゃない。もうすでに11時過ぎを指す時計だ。
つまり、玲乃は寝坊した俺を起こしに来たけど、起きなかったからしょうがなく寝てた、ってところ……なのか?
「えっと……すまん」
「わかればいいのよ。ほら、早く起きて」
玲乃は勢いよくベッドから降りると、くるりと回って床に伏した。
そして、もぞもぞと四つ這いになると赤ん坊がはいはいするように床を這っていく。
「お前、もしかして……」
「なによ」
「ここまでそうやって来たのか?」
玲乃の部屋は一階。俺の部屋は二階。体が不自由なこいつがどうやってここまで来たのか疑問だったが、まさかこんな移動方法だったとは……。
「そうよ。ちょっと調子はいいのだけれど、歩けるほどじゃないの。……なによ」
俺の憐れむような視線を感じたのだろうか。彼女は居心地悪そうに身を捩った。
「はぁ……わかったから、乗れ」
玲乃の前まで行って、俺はしゃがみ込む。
すると、彼女はなんか慣れたようにもぞもぞと這い上がってきた。
まさか一週間で二度もこいつを背負うことになるとは……。
「振り向いたら叩くから」
「理不尽だなぁ……」
感謝されてもいいんじゃないか、とは思うが俺が寝坊しなければこんなことにはならなかったわけだ。
なので、黙って階段を下る。
しっかし、こいつ軽いよなぁ。なんか幽霊でも背負ってるんじゃないかってぐらい軽い。
「なにか失礼なこと考えてない?」
「いや、全然」
別に、失礼なことじゃないよな。こいつ重い……なんて考えてたら失礼だろうけど、逆だから。逆だからセーフ。
そんなことを考えていたらすぐリビングについた。
怜美さんが朝から来たらしく、玲乃はすでに着替えている。
俺もちゃちゃっと着替えて顔を洗い、さっそく朝食の準備を始めた。
「何か食べたいものあるか?」
「オムライス」
「朝からそれは無理だろ」
こいつ、どんだけオムライス好きなんだよ。
まぁ、作ってやったときはほんとに目を輝かせてたけど。
……明日ぐらいにまた作ってやるか。
「明日……?」
あ、そっか。
明日はもう俺はここにいないんだ。
なんかずっと昔からこの洋館に住んでるような気がしてるけど、ここにはまだ一週間も滞在してないし、しかも明日にはもう……。
「どうかしたの?」
珍しく玲乃がこちらに声をかけてきた。
「いや、なんでもない」
「それ、創作物の中ではよくあるけれどかなり腹が立つの。何があったの?」
「だからなんでもないって」
この洋館。そして、お前と今日でお別れかと思うと寂しい――なんて本人の前で言えるわけないだろ。
しかし、なんだか俺の言い方が気にくわなかったようだ。玲乃がこちらをじっと見つめてくる。
「……なによ」
「こっちの台詞だっての。見つめんな」
「み、見つめてなんか……というか、自意識過剰なんじゃないの。気持ち悪い」
なーにが自意識過剰だ。それはそっちだろ。やっぱ「自暴女」は「自暴女」だ。
……あれ、「自暴女」ってなんの略だっけ? まぁいいや。
「はぁ……そういえば、花火大会ってどこで見るんだ? 海まで行くのか?」
なんだか玲乃が大層楽しみにしてたみたいだから一応尋ねてみる。
「海? 行くわけないじゃない。あんな人が多いスポット」
「だよな。俺も同感だ」
そりゃあ、そうだろう。浜で恋人といちゃついてるやつらに交じって花火を見るなんてまっぴらごめんだ。
「じゃあどこ行くんだ?」
「展望台よ。この洋館の上に、展望台があるの」
「へぇ。そこも人が多そうだけど」
「それがあまり人は来ないのよ。かなり上らないといけないし、町からは海のほうが近いし手軽だから」
展望台、か。そこから夏の海と花火を同時に臨む……うん、なかなか風情がありそうだ。
「それで、唯。朝食は……」
「さすがにオムライスは作らないから」
むっとした表情の彼女を少し面白いと感じつつ、俺は手元の卵を割った。
それを見て急にきらきらと瞳を輝かせる玲乃。だが残念。今から作るのはオムレツだ。
……しかし、残念。
彼女にとってはオムレツもオムライスと同類らしく、かなり嬉しそうな様子で咀嚼していた。
まぁ、喜んでくれたんならそれでいいか。
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