自由な不自由ちゃんの管理日記
10 電話のついでに、約束しました。
「うん、おいしい! へぇ~、浅田くんって料理もできるんだ」
「オムライスくらいならだれにでもできますよ。あと、口元にケチャップ付いてます」
ニコニコと微笑みながら料理を頬張る怜美さん。彼女にティッシュを渡してから俺はキッチンに向かう。
いつも通り、玲乃を風呂に入れに来てくれた怜美さん。話を聞くところによると夕食をとっていないということだったのでこうやってオムライスを食べてもらっているのだ。
ちなみに、これは余り物ではなく、もしかしたらと思って彼女のために取り分けておいたものだ。自分のこういう小さな気遣いができる所、嫌いじゃないです。
そんな感じでちょっぴり悦に入りつつ俺は食器を洗っていく。
その作業をしながら、あることに気が付いた。
「怜美さんって、玲乃とやっぱり似てますね」
「そう? 似てないって言われるほうが多いけどなぁ」
確かに、普段静かに本を読んでいる玲乃と常にきゃっきゃと笑っている怜美さんは全く似ていない。
だが、今のこの表情。
おいしいものを食べて頬を緩ませているこの表情は、瓜二つと言っても過言ではない。
と、言ったことを俺が彼女に伝えると、怜美さんはなぜか嬉しそうに笑った。
「へぇ、意外と玲乃のことをよく見てるんだね、浅田くんは」
「まぁ、一日ずっと一緒にいますからね」
同じ家の中に二人きりなのだ。いやでも顔は見るし、むしろ顔色とか窺いすぎてしまう。
しかし、彼女はすぐに会話を別の方向へもっていった。
「……というか、あの子がそんな風に笑ったんだ……」
どこか冷たさのある声だった。
明るく朗らかな普段の声とは違う、明確な意図を持った冷ややかな声。俺はそれに思わず身じろぎした。
「ん? あぁ、えっとね。あの子、学校行かなくなってから本当に笑ったことは今までなかったのよ。なのに、会って三日でその顔を引き出すなんて……浅田くん、ホストクラブとかで働いたらどう?」
「確かにそうですね。女の子をたぶらかす才能があるかもしれないです」
「……本気で受け取った?」
「どうでしょうね」
軽口には軽口を。うん、やはりいい会話術だと思う。
その圧倒的会話センスのおかげで怜美さんが俺から少し引いていた。だめじゃん。
と、まぁそんな感じで怜美さんはオムライスを平らげて帰っていった。
彼女がいなくなれば玲乃も眠っているので家の中は静かになる。
俺はその後、ちょっとした片づけをして、お風呂に入って床に就いた。
ごろーんとふわふわのベッドに寝転がり、おもむろにスマホを手に取る。
ここに来るまでは一日の中で常に身から離さず持っていたスマホだが、気づけば今日、これを触るのはいまが初めてだ。
……帰ったら、『スマホ依存症と女の子の管理の関係性』なんていう論文を書くことにしよう。
そんなとりとめもないことを考えていると、着信履歴の欄に1という数字がついていることにいまさら気づいた。
その相手は――あの自称『いじめっ子』こと、佐々木鈴菜だった。
現在時刻は9時少し過ぎ。時間的に明日かけなおすのが礼儀なのだろうが、高校生が9時過ぎに寝ているということはないだろう。
しばしの逡巡のあと、俺は画面端の発信をタップした。
ワンコール……ツーコール……スリーコール、の途中で彼女は出た。
「もしもし」
ちょっと控えめなその四文字を聞いてから、俺は話す。
「もしもし、えっと、『森の洋館』の浅田唯……だけど」
「あ、こんばんは。わざわざかけなおしてくださったんですね。ありがとうございます」
どうやら俺が誰かは彼女に伝わったようだ。
そして、話すべきは彼女がなぜ俺に電話をかけてきたのか、ということ。
「ごめんな、こんな時間に。今さっき気付いて」
「全然大丈夫ですよ。それより、本題に入っちゃいましょうか。唯さんは、わたしがなぜあなたに電話をかけたのかって思ってますよね?」
「うん、まぁ」
こうして早く本題に入ってくれるのは助かる。疲れてもうすでに眠たいし。
……だが、俺はそれに不自然さを感じた。昨日の夕方、道端で偶然会った彼女の雰囲気は効率を求めるとか、そんな感じではなかった気がするのだ。なんといえばいいのかわからないが、ただ人としゃべっているだけでも楽しめるようなコミュ力高い系女子……みたいな。
「はっきり言ってしまうと、わたしは玲乃さんに会いたいと思っています。会って、言うべきことを言わなければいけないと……」
あぁ、なるほど。
彼女は俺にその言葉を早く伝えたかったのだろう。
だから、焦った。だから、早く本題に入った。
自分の決意が揺らぐ前に、自分がいじめた相手と会う約束をしたいと。
「……俺はほとんど部外者みたいな存在なんだが、玲乃をあんたと会わせることぐらいは多分できる」
「それだけで十分です。ただ彼女と会えさえすれば、きっとわたしは……」
それに続く言葉が俺には聞こえなかった。もしかしたら、彼女は何も言っていなかったのかもしれない。
その後、俺たちは話し合い計画を立て、その決行は明後日と決定した。
夜のとばりが降りていく中、どこかで何かがふふっと嗤った気がした。
「オムライスくらいならだれにでもできますよ。あと、口元にケチャップ付いてます」
ニコニコと微笑みながら料理を頬張る怜美さん。彼女にティッシュを渡してから俺はキッチンに向かう。
いつも通り、玲乃を風呂に入れに来てくれた怜美さん。話を聞くところによると夕食をとっていないということだったのでこうやってオムライスを食べてもらっているのだ。
ちなみに、これは余り物ではなく、もしかしたらと思って彼女のために取り分けておいたものだ。自分のこういう小さな気遣いができる所、嫌いじゃないです。
そんな感じでちょっぴり悦に入りつつ俺は食器を洗っていく。
その作業をしながら、あることに気が付いた。
「怜美さんって、玲乃とやっぱり似てますね」
「そう? 似てないって言われるほうが多いけどなぁ」
確かに、普段静かに本を読んでいる玲乃と常にきゃっきゃと笑っている怜美さんは全く似ていない。
だが、今のこの表情。
おいしいものを食べて頬を緩ませているこの表情は、瓜二つと言っても過言ではない。
と、言ったことを俺が彼女に伝えると、怜美さんはなぜか嬉しそうに笑った。
「へぇ、意外と玲乃のことをよく見てるんだね、浅田くんは」
「まぁ、一日ずっと一緒にいますからね」
同じ家の中に二人きりなのだ。いやでも顔は見るし、むしろ顔色とか窺いすぎてしまう。
しかし、彼女はすぐに会話を別の方向へもっていった。
「……というか、あの子がそんな風に笑ったんだ……」
どこか冷たさのある声だった。
明るく朗らかな普段の声とは違う、明確な意図を持った冷ややかな声。俺はそれに思わず身じろぎした。
「ん? あぁ、えっとね。あの子、学校行かなくなってから本当に笑ったことは今までなかったのよ。なのに、会って三日でその顔を引き出すなんて……浅田くん、ホストクラブとかで働いたらどう?」
「確かにそうですね。女の子をたぶらかす才能があるかもしれないです」
「……本気で受け取った?」
「どうでしょうね」
軽口には軽口を。うん、やはりいい会話術だと思う。
その圧倒的会話センスのおかげで怜美さんが俺から少し引いていた。だめじゃん。
と、まぁそんな感じで怜美さんはオムライスを平らげて帰っていった。
彼女がいなくなれば玲乃も眠っているので家の中は静かになる。
俺はその後、ちょっとした片づけをして、お風呂に入って床に就いた。
ごろーんとふわふわのベッドに寝転がり、おもむろにスマホを手に取る。
ここに来るまでは一日の中で常に身から離さず持っていたスマホだが、気づけば今日、これを触るのはいまが初めてだ。
……帰ったら、『スマホ依存症と女の子の管理の関係性』なんていう論文を書くことにしよう。
そんなとりとめもないことを考えていると、着信履歴の欄に1という数字がついていることにいまさら気づいた。
その相手は――あの自称『いじめっ子』こと、佐々木鈴菜だった。
現在時刻は9時少し過ぎ。時間的に明日かけなおすのが礼儀なのだろうが、高校生が9時過ぎに寝ているということはないだろう。
しばしの逡巡のあと、俺は画面端の発信をタップした。
ワンコール……ツーコール……スリーコール、の途中で彼女は出た。
「もしもし」
ちょっと控えめなその四文字を聞いてから、俺は話す。
「もしもし、えっと、『森の洋館』の浅田唯……だけど」
「あ、こんばんは。わざわざかけなおしてくださったんですね。ありがとうございます」
どうやら俺が誰かは彼女に伝わったようだ。
そして、話すべきは彼女がなぜ俺に電話をかけてきたのか、ということ。
「ごめんな、こんな時間に。今さっき気付いて」
「全然大丈夫ですよ。それより、本題に入っちゃいましょうか。唯さんは、わたしがなぜあなたに電話をかけたのかって思ってますよね?」
「うん、まぁ」
こうして早く本題に入ってくれるのは助かる。疲れてもうすでに眠たいし。
……だが、俺はそれに不自然さを感じた。昨日の夕方、道端で偶然会った彼女の雰囲気は効率を求めるとか、そんな感じではなかった気がするのだ。なんといえばいいのかわからないが、ただ人としゃべっているだけでも楽しめるようなコミュ力高い系女子……みたいな。
「はっきり言ってしまうと、わたしは玲乃さんに会いたいと思っています。会って、言うべきことを言わなければいけないと……」
あぁ、なるほど。
彼女は俺にその言葉を早く伝えたかったのだろう。
だから、焦った。だから、早く本題に入った。
自分の決意が揺らぐ前に、自分がいじめた相手と会う約束をしたいと。
「……俺はほとんど部外者みたいな存在なんだが、玲乃をあんたと会わせることぐらいは多分できる」
「それだけで十分です。ただ彼女と会えさえすれば、きっとわたしは……」
それに続く言葉が俺には聞こえなかった。もしかしたら、彼女は何も言っていなかったのかもしれない。
その後、俺たちは話し合い計画を立て、その決行は明後日と決定した。
夜のとばりが降りていく中、どこかで何かがふふっと嗤った気がした。
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