Koloroー私は夜空を知らないー

ノベルバユーザー131094

第十八話 もうすぐでバレンタインですね

神聖な儀式を行うためにショコラ公とともに訪れた部屋。
召使さん達が開けた先の部屋は思っていた以上に広く、それでいて天井も高い。全体のメインカラーが黒なのが何とも言えないが、祝いの儀を行うからだろうか、ところどころに色が入っている。その色が妙に懐かしく感じてジッと見てしまった。紫…緑…赤…黄…そして、青に目が入った。あまりにも綺麗で、美しいその青に…。
「ルーナ?」
「あっ、ごめんなさい」
ボーっと入り口で立ち尽くしてしまっていたようだ。慌ててルーノの後ろを追いかける。
気づけばショコラ公の隣に並んだ三人の男の子と四人の女の子、そして美しい女性に赤ん坊。もしかしてこの人達が…。
「ご無沙汰しておりました。神父のソワールです」
え、神父様ってソワールって名前だったんだ…。初耳。
「そして、こちらは愛弟子のルーノとその妹のルーナです」
「ソワールの弟子、ルーノです」
「あ、えっと、ソワールの弟子でルーノの妹のルーナです」
思わぬ自己紹介コーナーに慌てふためく。慣れた様子でお辞儀する2人と違って軽くバランス崩した。あー恥ずかしい!!こんなことがあるなら挨拶の練習くらいしておけばよかったよバッキャロー!!
「神父様、君には何度も話しただろうから本来なら言わなくてもいいのだろうけど、久々のルーノくんと初めましてのルーナちゃんに紹介しなくてはいけないね」
ニコニコとしたショコラ公が真面目な顔になって可憐にお辞儀をする。
「私がこの街を治めるショコラ公ザッハ・ド・トルテだ」
噴き出しそうになったが必死に抑えた。ごめんなさい悪気はないんです。ザッハトルテね、うん。すごく素敵な名前だと思います。
「妻のオペラ・ド・トルテです。神父様、ご機嫌いかがかしら」
華やかに美しく可憐にお辞儀したのがガトーオペラか。8人も出産したママとは思えない美貌!
「えぇ、奥様もご出産おめでとうございます」
「まぁ、ありがとう。ルーノくんもずいぶん大きくなったのね」
「中身はまだまだ子供ですが」
わぁ、超笑顔のルーノ初めて見たすごーい。これはサービススマイルか、実はオペラ様の隠れファンなのか…と、悩んでいるとルーノにこづかれた。考えていることすぐに見抜くんだからもうっ。
「そんなことないわ。それに妹さんがいらしたのね。初めましてルーナさん」
「初めまして!あの、ご出産おめでとうございます!!」
「まぁ、そんなに堅くならなくていいのよ。うちはそういう礼儀とか気にしない一家だから」
私の反応にクスクスと笑うと笑顔でお辞儀をしたオペラさん。
…これが…貴族の女性…!!美しい!!
すると、順番に挨拶するそうで、一番背の高い男の子がこちらに一歩踏み出した。
「長男のダーク・ド・トルテです。神父様、ルーノさん、ご無沙汰していました」
見たところ私と同年代くらいのダークチョコレートが軽やかに神父様とルーノに握手を求めた。私も握手をしようと手を差し出すと、私の手をそっと優しく取り、手の甲に口付けをした。…な…に…!?
「お会いできて光栄ですルーナさん」
爽やかな笑顔で笑うダークチョコレート。なんだ!このふしだらなダークチョコレートは!!!大人の甘みか!!?
「次男のビター・ド・トルテです」
私がダークチョコレートに驚いている間にもう神父様とルーノに挨拶を終えたのか、ビターチョコレートも次いで私の手の甲に口づける。先程のダークチョコレートより幼さが残るが、声が可愛い顔に似合わぬハードボイルド。ビター…。
「三男のトリュフ・ド・トルテです」
ビターチョコレートより幼いトリュフはまだ小学生くらいかニコニコと笑顔でこちらに近づくとちゅっと手の甲に口付けてきた。可愛い!!甘い!!!ちなみにそこはお前ミルクチョコレートちゃうんかーい!!ってツッコみたいところだが、確か五女の名前がミルクだったのでここではミルクは女名前なのだろう…うん。
「長女のプラリーヌ・ド・トルテです。どうぞよろしくお願いします」
笑顔でこちらにお辞儀をするプラリーヌ。こちらも慌ててお辞儀を返した。しまった、トリプルチョコレートにやられてお辞儀忘れてたー!!!しかし、先ほどのショコラ公と神父様の話では同い年くらいだと思っていたけれど、意外にしっかりしてる子なんだな…。
「次女のプラリネ・ド・トルテです」
先ほどより短い挨拶で恥ずかしそうに挨拶するプラリネ。ってちょ、待てよ!!
さっきがプラリーヌでこっちがプラリネ?ややこしい!!なんで似たような名前つけっちゃったの!
「三女のボンボンです!!よろしくお願いいたしますわ!!お姉様!!」
次女のプラリネより大きな声で挨拶するボンボンショコラ。お、お、お姉様…おぅ…そっか。さっきそう言えばディアンと結婚したいって言ってたって聞いたな。きっとそこら辺の情報は彼女に入ってる気がするから、お姉様と言うのもディアンに近づきたい戦略の一つかも…。
「よんじょのココアです。こんにちは」
何と愛らしい!!まだまだ幼稚園ぐらいなんじゃないだろうか。っていうか産みすぎだなオイ!!どんだけ愛妻家だ!!っていう、自分のツッコミが止まりません誰か止めて。
「そして!!ここにいる!可愛い赤ん坊こそが!!私の愛しの末娘!ミルクだ!!」
あああ、そんな大きな声出したら…
「ふぇっ…んぇ…ぇぇえ…」
ほらーもう言わんこっちゃない。寝ている赤ちゃん起こしちゃダメだよパパトルテ…。
「あああ、ごめんね大きな声だしてごめんなちゃいねーうるちゃかったねパパ。静かにしましゅねー…ってことで、儀式の方、頼んだ…」
うわぁもう、なんか公爵家のイメージ駄々崩れだよ本当…でも、悪い意味じゃないかな。
貴族とかって悪くて傲慢な人達がいるイメージだったけど、結構、くつがえったかもしれない。それがこの世界だからなのか、この人達だからなのか、はわからないけれど。
「わかりました。じゃあ、ルーナちゃんは後ろに下がってなさい。ルーノくんは補助頼むよ」
「わかりました」
「はい」
私は部屋の隅にでも行って今後の勉強のために観察しようといいポジションを探したのだが、目の前に差し出された手に固まった。
「ルーナさん、どうぞこちらへ。儀式がある間、屋敷の案内をさせていただきます」
ダークチョコレートが爽やかな笑顔でこちらに手を出している。これ、私みたいな庶民が迂闊うかつに手を取っちゃダメなんじゃないだろうか。
チラリとルーノを見た。…いや、ダメだあの人すごいこっち見て睨んでいる。そうだよね、フレンドリーな公爵家とは言え、簡単にこんなのしちゃダメ!!
「いえ、あの、私は…」
どう断る、さぁ!どう断ればいい!!そうだ!儀式が見たいって素直に言えばいいじゃん!
「私、儀式の見学を…」
「さぁ、こちらへ」
断る前に手を取られたー!そうだよね!!あっちから手を握ってくる可能性だってないわけじゃなかったもんねしまったー!!ダークチョコレートすごい女慣れしてるし、逆に怖いよ。
「ダークお兄様!!ダメですわ!!ルーナお姉様はこのボンボンがご案内するのです!!」
「ボンボン静かにしろ。そしてお前はダメだ引っ込んでなさい」
「お兄様はわたくしとディアン様の恋路を邪魔するのですわね!?」
あぁ、やっぱり私にすごく笑顔だったのはディアンの影響か。
「ディアンとお前は幾つ違うと思ってるんだ」
「たったの11歳差ですわ!!それに愛に年齢差は関係ありませんもの!!」
「いい加減にしろ。ディアンの迷惑も考えてやれ」
すごーい。ダークチョコレート毒舌ぅー。いやしかし妹の初恋ぐらい大目に見てあげてもいいんじゃないか?大きくなったら忘れるって言うし、すぐに素敵な人との出逢であいもあるだろう。ディアンがダメな人間だというわけじゃないし、とても素敵な人だとは思うが、貴族同士で結婚とかもあるだろうし、小さい頃に夢見るくらい…。
「わたくし!!ダークお兄様にこの恋はやめろと邪魔をされ諦めた切なく甘い恋の物語!15回ありますのよ!?」
おぅ、恋愛の猛者もさだったわけね。それはすみませんでしたダークお兄様の言う通りにしなさい。君は恋に恋してるだけだ!!
「初恋の神父様はもうあんな親父ですし!!」
「ぐふっ…」
あっちでその言葉つららのような棘で刺さってる人いるから…やめたげて…。
「二人目のじぃやも他界しました!!」
いやあの、年上好きなんですね。叔父キラーですかボンボンちゃん。
ボンボンショコラの名に恥じぬ大人に合いますよ的なあれですか。
「三人目の執事はお兄様のせいですぐに辞めてしまいました!!」
「あれは父さんのせいだ」
「お父様!!?」
「ちが、違うよ、ほら!ダーク、お前はそうやって罪を人になすり付けるのはやめなさい!」
「あれは父さんが彼にボンボンには色目を使うなとか脅すから辞職したんだろ?俺のせいじゃない」
「そうだったんですの!?」
「いや、その、だってあの男がほら、可愛い可愛い私の愛娘にに色目を使うから…」
「信じられません!!許せませんわお父様!!ついでにお兄様も!!」
ついでかよ!!!お兄様可哀想!!
「それに四人目の家庭教師の方だって…」
しかし、この言い争いはヤバい。やっと落ち着いてきたミルクちゃんがまたぐずり始めそうだし、このままでは儀式が始められないのではないだろうか。これはやばい。公爵家の喧嘩なんて私止めたら即刻首切られるし…嗚呼、神よ…。
「いい加減にしなさい!!!!」
そこにオペラ女神が奥様舞い降り、静かに怒りの鉄槌を下した。
「あなた、みっともない。一家の長である者が娘に対してその態度は何ですか。それに子供達を叱る時は私に任せずしっかりと叱ってくださいませ。それが娘であろうと。それからダーク。お客様のルーナさんを案内すると言いながら放って何を年下の妹に売られた喧嘩を買うのです馬鹿らしい。いい加減大人になりなさい貴方はこの家の後継ぎですよ。そしてボンボン!貴方もお客様がいる時に大声を出して喧嘩を売らないの。レディとしてはしたない、それじゃあディアンさんが貴方に呆れてこの家の家庭教師を辞めるのも時間の問題です」
「「「ごめんなさい」」」
シュンと項垂れる三人。オペラ女神様の叱り方がプロだ。この人が実質この家を守っているに違いない。
「静かに、大人しく、そして優雅に、神聖な儀をみなで見ましょう。
ね、ルーナさん。こちらにいらっしゃい。あの阿保共は置いておいて」
いや、ボンボンちゃんの毒舌は絶対オペラ女神様の遺伝だな。うん。
「ありがとうございます」
笑顔で手招きするオペラ様の近くに行くと、長女のプラリーヌさんが申し訳なさそうにこちらに頭を下げた。次いでプラリネとココアも申し訳なさそうな顔をする。少し遠くにいるビターとトリュフは怒られた兄を見てケタケタと笑っていたがオペラ女神様が睨むとすぐに姿勢を正した。
…この家は女がいないとダメだな、うん。それもオペラ様いなくなったらこの家滅ぶよ、本当。

「ん゛んん…では、儀を始めたいと思います」

そこで気まずいながらも神父様が儀式の始まりを告げた。どうやら準備が整ったようだ。
神聖な儀式っていったいどんななのだろうか。
果たして、私は大人しく儀式を見てられるだろうか。

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