Koloroー私は夜空を知らないー

ノベルバユーザー131094

第十四話 全てに手を差し伸べた王女



コローロ。女神の心から産まれ、女神彼女の感情を護る者達。


彼らはこの世界に降り立った時、この世界に祝福を贈った。

黄のコローロは悦楽えつらくの並木を

赤のコローロは憤怒ふんぬの砂漠を

緑のコローロは欲望の森を

紫のコローロ愛憎あいぞうの花畑を

青のコローロはうれいの海を。

黒のコローロは祝福を贈ることはなかったが、後になげきの雪を降らせる。
そして、白のコローロは魔物達をこの世界に贈った。

「って、え?魔物を!?」
思わず黙って聞いていられなかった。
「そう。魔物を」
当たり前でしょ?と言うように答えたディアン。というか、この世界に魔物と言う概念が存在したのか…。じゃあ、今住んでいる場所が安全だっただけで、一歩街の外に出たら戦う、逃げるの選択肢に悩まされるド○クエ世界なの…!?ガンガン行こうぜ!!…いや、だがしかし、やっぱりおかしいと思う。
「白のコローロは女神の純粋な気持ちを持っているんでしょう?」
「そうだね」
「じゃあなんでわざわざ色んな生き物が困るような…」
ファンタジーのゲームなら基本的に出てくる魔物。画面越しにしか見ることはないし、魔物に対しての恐怖などは少ないかもしれない。だが、敵と向かうときの緊張や震え、自分の力で倒せるかどうかの不安。それらは少なからずともわかっているつもりだ。人間だけじゃなく、ありとあらゆる生命に死の危険を臭わせる魔の物。この世界に贈るべき理由は?一体?
「…古い昔はね、大きな竜がいたんだって」
「竜!?」
漆黒しっこくうろこを身に纏い、金の瞳で睨みつける、破壊と破滅の象徴。人類が一番おののいた史上最悪の魔物…」
目を瞑って想像してみる。曇天の空を覆い尽くすような巨体、暗黒の翼を広げ大きな爪で大地を切り裂く。口から出る炎はいとも簡単に命を奪い、大きな口で人を喰う化け物。
「未だに街から街に移動する最中に魔物に襲われることは少ないわけじゃない。だけど、古い昔にいた龍のような化け物は、もう出てくることはないと思うよ」
それは一体どういうことなのか。大きな竜が簡単にいなくなるわけがない。
「大昔…それは遥か遥か昔の話…魔物達を手懐けた女性がいて」
瞼の裏に広がる世界、激しく唸る竜に手を伸ばす少女。命を嫌い、命を壊すが初めて愛おしいと思った笑顔の少女。大きな口に手を伸ばし、寄り添うように頬を近づけた。
「俺も…詳しいことはよくわからないんだ。なんせ、大昔の話だからね。記述も残ってないし、全て伝説として言葉だけで伝わってるものがあるから…どこまで本当かわからないけれど…彼女の名前は、ステーロ」
「…ステーロ…」
聞いたことがある気がする…一度聴いたことはあんまり忘れないはずだったのに、ここ最近、知らない単語を頭に詰め込み過ぎてどうもどうでもいいと思った単語は削除してしまったらしい。頭唸らせても出て来ないものは出てこない。
ステーロ…それは何かの単語だったはずで…。
「この国最初で最後の王女の名前だよ」
私の考えを掻き消すように彼は答えを言った。
「…最初で、最後?」
「そう。魔物を友だと愛し、人間にも平等に手を差し伸べた彼女」
彼は本の一ページを開けて私に魅せた。
黒檀のような美しい髪、黒曜石のように輝く瞳、白い肌に赤い唇。身につけたい服はどこまでも白く、人々は気味が悪いと寄せ付けなかった魔物にすら手を差し伸べる。想像の中の少女に似ていて、とても愛らしい子だった。
「全ての人達から愛され、王女の座に無理矢理つかされた」
「王女の座に…?どうして?」
「魔物を国のために使ってくれ、君の国なのだから護るのは当然だろう?って言うほうが楽だと誰かが悪知恵を働かせたんだろ」
人間とはまあずる賢く嫌な生き物なのだろうか。
「だが、彼女は死んだ」
突然の結末。
「自殺だった」
「じ、さつ?」
この世界にも、そんな死に方をしている人がいるのだと知り、正直ショックを受けた。平和で、静かで、私にとっては楽園のようなこの世界にも闇がある。王女に選ばれた彼女はそので何を見たのだろう。
「元々、普通の少女だったからね。城に閉じ込められて生きる生活を、魔物達を人間の私欲の為に使わなければいけないことを、望んではいなかったんだと、後の学者は語ってる」
彼女にとって、人間と同じくらい大切だった魔物を人間の為に使わなければいけない悲しさ。自由に生きていた彼女を縛り付ける大きな檻。そこに平等などあるわけがなく。
「彼女が死んだ夜、漆黒の竜が火を噴いた」
頭の中に広がるイメージ。燃え盛る家々、逃げ惑う人々。
崩れ落ちた城、彼女を閉じ込めた檻が竜の爪で壊される瞬間。
哀しみを、喪失感を受け入れられない魔物達、自業自得で滅ぶ人間達。
全てが煙と炎に包まれて、空さえ見せない、灰色。空のない、色。
降ってくるのは誰かの涙か、血の雨か。
「三日三晩、魔物達が暴れた時、白のコローロがこの世界に訪れた。この世界を魔物に壊されてしまう可能性が出たんだろう。魔物をその手で消した」
目を見開いてしまった。魔物を消したのは、きっと女神が愛したこの世界を護るための手段。だけども、大切な人を奪われた憎しみをそう簡単に消していいのだろうか。人間は、三日三晩だけで全て罰せられたのだろうか。
「だが、竜も含む大型の魔物達は、白のコローロの力を持ってしても、簡単に存在を消すことはできなかった」
淡々としゃべり続けるディアン。彼はただお伽噺であり、伝説のような古い歴史を語っているだけである。それはわかるが、あまりにも冷酷な気がして悲しさを感じた。それは勝手な私の感情だが。
「魔物達の憎しみや悲しみ、憎悪は見えない悪魔へと形を変え、人々の心に住みついた。人間の闇に寄生することでしか、生きていけない魔物の成れの果て」
彼は、先ほど取り出した一冊の本を私の目の前に差し出す。
「…これ、は?」
「漆黒の竜」
やはり、先ほどの自分の妄想は間違っていなかったらしい。
燃え盛る家を破壊しながら地を睨みつけるドラゴン
黒闇こくあんの翼を広げ、黄金の瞳で怨みを語るその姿。
…痛ましかった。人間が襲われている状況に、ではない。本の中でさえ圧倒的存在感を放つ竜の足は、人間によってつけられた傷跡が描かれていた。流れる血も人間と同じ赤。鮮血の赤。
何故、人は幸せを求めるがために他の生命いのちを犠牲にするのだろうか。
本当に消されるべきは魔物達だったのか…?
「まあ、どこまで本当かわからないんだけど、ね」
「この、本は?」
「…さあ?気が付いたらこの家にあったから」
ディアンは話し終えてスッキリした様子だが、私は何故かモヤモヤした。
「まあ、即ち、魔物の存在を消失することができるのはコローロの力のみ、ってこと」
「だから、悪魔インクーボと対抗する力を持ってるのもコローロなのね」
「そう!だけど、魔物を生み出した白のコローロが何処にいるのか誰も知らないし、勿論、他のコローロの存在だって今じゃ迷宮入り…。本人の力を直接借りるのは難しい」
「…もしかして、白のコローロと同じ力が欲しければ、他のコローロ全ての力が必要、ってこと?」
「そうだね」
他のコローロの力を借りる為に、必ずと言ってもいいほどこの街から出なきゃいけない。それは、それぞれの大地に隠れ住むコローロに会いに行くのが一番手っ取り早いからだろう。
探せば見つかるような相手であれば苦労はしないと思うのだけど…。
…いや、でも結局のところ、私はルーノが無理やり決めた設定の中で悪魔インクーボに好かれているだけで、わざわざ出て行く必要もないしな…。
「うん、でもまずは黒のコローロに会わないとね」
「…そ、っか。確かに、そこが先か」
私の言葉に納得したようで頷いたディアン。
「さて、じゃあだいぶ休憩もしたし、作業再開しましょうか」
彼は笑顔で私に布の山を指した。…おぅ…休憩時間に頭を使ってしまった…。

「後三分休憩で!!」
「ダメです」
「ひぇ」

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