この世界には感情がない ~唯一無二の絶対魔法~

柏崎 聖

本格戦闘の幕開け

 

 ここは、拠点の玄関側のベランダ。
 静かな場所だったはずのここは、急に空気が変わった。

 アパシーたちの突然の襲撃。
 俺たちは、その応戦をしている。

 アパシーとエモーションたちは、お互いに激しい攻防。
 剣と剣がぶつかり合う音。
 遠方から聞こえる発砲音。
 矢を放つ音。
 それらが、静かなこの空間に流れた。

 下の方では、俺たちセイヴィアーとアンドロイド以外の人達が必死に戦っている。

 一方の俺たち。
 俺の隣にいるレビウスは、上の方から弓で攻撃。
 彼らを援護するためだ。
 アパシー側のアンドロイドとセイヴィアーは、居るはずなのだが、姿は確認出来ていない。
 そのため、確認できるまでは援護することにしたのだ。

 俺が戦況を見る限り、状況は五分五分だろうか。
 ミラが言うには、アパシーには歯が立たないと言っていたが、レビウスのおかげだろうか……。

 俺は目線を、戦況から森の方に移した。
 その瞬間だった。


 矢が物凄いスピードで飛んできた。


「『デイフェーザ!』」


 何とか危機一髪の所で、矢を回避できた。


「カイトさん!」
「俺は大丈夫だ」


 俺はその矢が飛んできた方向を見た。
 深い森の木々の合間。
 かなり遠い場所ではあるが、そこからピンポイントで狙ってきたみたいだ。

 アパシー側のアンドロイドとセイヴィアーが姿を現した。


「おでましだぞ、レビウス」
「はい」


 俺が見たのに気付いたのか、アパシー側のアンドロイドとセイヴィアーは上空に上がってくる。

 それを見てレビウスは、矛先を変えた。
 先制は、アパシーのアンドロイド。
 素早く矢を放った。

 それに応えて、レビウスも矢を放つ。
 お互いが放った矢は、丁度中間地点くらいでぶつかった。
 属性は分からない。
 通常の攻撃のようだ。


「殺れ」


 そう短くアパシーのセイヴィアーがアンドロイドに言った。

 すると、そのアンドロイドが力強く矢を引く。
 アンドロイドの周りに、強いオーラが纏う。

 そして矢の先端には、水の渦があった。
 恐らく属性は、水。
 レビウスと相性が悪い。


「レビウス、頼む」
「はい」


 レビウスも、力強く矢を引いた。
 そして両者ほぼ同時に、矢を放つ。


「『スパンディメント!』」
「『ヴォルティチェ!』」


 レビウスの矢は火を。
 アパシーのアンドロイドの矢は水の渦を。
 それぞれの属性がぶつかった。

 そしてその瞬間。俺は絶望を抱いた……。


 レビウスの放った矢の火は一瞬で消えた。
 そして、矢は力を失い落下。
 その代わりに、アパシーのアンドロイドの矢が激しさを増して近づいてくる。


 俺は、セイヴィアー。
 彼女。レビウスを守るために魔法を練習した。
 だが、『デイフェーザ』はさっき使ったので連続使用は出来ない。

 俺がとった行動は、正しいのか分からない。
 でも今は、こうするしか彼女を守ってあげられないのだ。

 俺は、瞬時に彼女の前に立ち矢を受けた。


「っ……」
「カイトさん!」


 俺は、右肩に矢をもろに受けた。
 激痛が走る。
 そしてそこから真っ赤な血が、大量に流れる。
 痛いのは承知でやったことだ。
 自分が痛みを負うのと、レビウスが痛みを負うのを天秤にかければ簡単な事だ。
 当然、レビウスに怪我をさせるわけにはいかないのだ。


「レ、レビウス……。け、怪我は?」


 俺は意識が朦朧としていた。
 頭の中は、クラクラして視界はボヤけている。
 そんな中、死にそうな声で彼女に問いた。


「私は……。大丈夫です……」


 戦闘の音に負けて、レビウスの声はあまり聞こえない。
 小さな小さな声だった。


「なら良かった……」


 意識は朦朧としていたが、俺はあることを思い出した。
 ミラに教わった回復魔法だ。
 唱えるだけという簡単な魔法だったため、特に練習などはしていない。
 恐らく使えるはずだ。


 俺は左手を右肩に患部に当て、唱える。


「『リストーロ!』」


 すると傷口は、ゆっくりと閉じた。
 そして朦朧としていたはずの意識も、次第に回復してきた。


「レビウス……。打つ手はあるか?」


 俺は、普通に会話出来ほどに回復していた。
 とはいえ、完全に回復した訳では無いので少し辛い。


「相手は水です。かなり相性が悪くて、恐らく火は効かないです」
「……」
「ですけど、切り札があります」
「切り札?」
「新技。それしか切り抜ける方法がないです」


 新技。
 訓練中に起こったことだ。
 光が突然、矢に纏ったのだ。
 威力は凄まじく、かなり強そうな技だった。

 だが、その技はまだ完成していないはずだ……。


「やるしかないです。勝つために」
「じゃあ、頼むぞ!」


 完成していないその技にかけることにした。

 レビウスは、再び矢を引く。
 そして渾身の力を込めて放った。


 ……。
 たが放たれた矢は、一時的に光を放ったものの途中で消えてしまった。
 それだけでなく、その矢は失速して落ちていった。
 アンドロイドとセイヴィアーの所までは届いていない。


「くっ……」
「これまでなのか……」


 俺は、死を悟った。
 もう無理なのではないかと。


 ちらっと、下の様子を見る。
 レビウスが援護をやめた途端状況は代わり、アパシー側が優勢。

 一方の俺たち。
 アンドロイド同士の相性は最悪だ。

 この状況を乗り越える手は、もう……。


 そう思った時だった。
 空から、突然ものすごいスピードで剣が落ちてきた。
 その剣は、アパシーのアンドロイドの左肩を掠めた。
 防具は、切れて血が出ていた。


 これは……。


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