この世界には感情がない ~唯一無二の絶対魔法~
訓練は突然終わりを告げた
1
今日は訓練3日目。
昨日は午後から体力トレーニングを行った。
そして今日は、隊長からの指示で午前中はレビウスと共に休みだ。
俺とレビウスは、森にいた。
ここに来てからまだ、まともに外には出ていなかったから森の空気は凄く新鮮に感じられた。
暖かい日差しは、とても心地がいい。
俺は、せっかく晴れているのに中にいるのはもったいないと思って、レビウスと散歩しに来ていた。
「いいところだな」
「そうですね。森の緑は美しく、空気も美味しいです」
俺たちは、森の奥へと足を進める。
だが進んでも進んでも、見える景色は同じ。
開けた所に行くためには相当歩かなくてはならないようだ。
それからしばらく歩いて、俺は森の先に開けた所があるのを見つけた。
拠点を出てから、既に30分経っていた。
開けた所と思っていたのは、小さな公園らしきところだった。
少し古そうな木のベンチが2つ置いてあるだけの少し寂しい場所だ。
「とりあえず、ここで休憩しないか?」
「そうですね」
俺たちは並んでベンチに腰をかけた。
俺は空を見上げる。
空は真っ青。完璧な快晴。
気分もスカッとする。
俺は新鮮な空気を吸うために深呼吸をした。そして同時に大きく背伸びする。
「ふぅ……。かなり歩いたな」
「はい。拠点からは結構離れたと思います」
俺は空を見上げたままボーッとしていた。
だが、その視界の中に太陽と被る大きな影が見えて、俺は驚いて立ち上がる。
「なんだ?」
「どうしましました?」
その影は、どんどんと大きくなってくる。
どうやら近づいてきているみたいだ、
「上だよ!こっちに近づいてくる」
「一応、戦闘態勢に入ります」
そう言うと、レビウスは立ち上がりフォルムチェンジをした。
その影は、この開けた所に降り立った。
降り立ったのは、いかにも強そうな男ととても美しい金髪ショートの女。
そのうちの1人。女の方がこちらを見て、言う。
「どうしたの?そんなに物騒な格好をして。安心して、私達は敵ではないわ。味方よ」
「え?」
「私達は、エモーションの『α(アルファ)』。私はセイヴィアーのメイ。そっちは、アンドロイドのカルマ」
セイヴィアーの女は、そう言った。
隣のアンドロイドは、深く一礼をしただけで言葉は出さなかった。
エモーションの人だというのは分かったが、『α』って何だろうか。
「『α』って?」
「エモーションの9つのグループは、それぞれ名前がついているのよ。『α』から『ι(イオタ)』まで順番についているわ。あなた達は『γ(ガンマ)』よ」
俺は彼女の説明を聞き、理解した。
どうやら彼女は、俺達が『γ』であることを知っているようだ。
「紹介遅れたけど、俺はカイト。彼女はアンドロイドのレビウス。それで、何か用か?」
「いえ。挨拶しに来たのよ。味方の情報を早く知っておいて損はないしね」
そう言って彼女は、こちらに近づいてきた。
そして右手をこちらに差し出した。
「これから、色々あると思うけど協力して頑張りましょう」
「あぁ」
俺たちは互いに握手を交わした。
そして、彼女は話を続けた。
「レビウスちゃん、だっけ?種族と属性は?」
その質問に、レビウスが答えた。
「私は、弓。属性は火」
「なるほど……。ちなみにカルマは、剣。属性は木よ」
レビウス同様、フォルムチェンジが出来るのだろう。
カルマというアンドロイドは、剣を所持していないように見える。
「ありがとう。これで用件は終わりよ」
「情報はそれだけでいいのか?」
「えぇ。十分よ。あとは『γ』の隊長さんに聞いておくから。じゃあ私は、他のところにも行かないといけないから行くわね」
「あぁ」
メイとカルマは、再び空を飛びここを去った。
アンドロイドはまだ分かるが、セイヴィアーも飛べるのか……。
俺ももっと練習して色々な魔法覚えないといけないな……。
「そろそろ帰ろうか」
「そうですね。あんまり長居しても良くないですし」
俺たちは、来た道をゆっくりと引き返した。
2
俺達が拠点に戻ると、玄関にミラが立っていた。
「『α』の人達に会ったのね。『α』の隊長から話は聞いたわ」
ミラは俺達が、メイやカルマと会っていたことを既に知っていた。
「とりあえず、大事な話があるから一緒に隊長室に来て」
「分かりました」
俺たちは、ミラに案内され隊長室へ向かった。
隊長室に入り、ミラにソファに座るよう促された。
周りを見渡すが、壁には特に何もはられていない。
それに物がとても少ない。
コーヒーを持ったミラが、俺たちと向かい合わせに座った。
「突然なんだけど、《エモーション全体会議》の開催が早まったわ。日時は明日。だから今日は早めに訓練を切り上げて、体を休めておいて」
「何で明日になったんですか?予定では4日後でしたよね?」
「アパシーのセイヴィアーとアンドロイドが揃いそうなのよ。あっちは、私たちよりも揃うのに時間がかかっていて、早くてもあと5日はかかる見込みだったわ。だけど、それが早まったの」
「なるほど……」
「このままじゃ、あっちが攻めて来る可能性があるから早めに会議をしないといけないの」
あっちの準備が整った以上、攻めてこない理由はなくなった。
だからそれに応戦する準備をこちらも整えなければいけない。
開催を早めるのは、やむを得ないだろう。
「本当はもっと特訓して、いいコンディションにしたかったのだけどね……。新魔法も完璧になるまではもう少しかかりそうだし」
そう言えば、レビウスの新技の完成もまだだ。
もう4、5日あれば、少しでも完成に近づけたかもしれないのに……。
早まったのは、こちらからしたらかなり不利だ。
俺たちは真剣に話をしていた。
その静かな空間に突如、大きな音が聞こえた。
どうやら足音のようだ。
その音がどんどん近づいてくる。
そして、隊長室の扉が勢いよく開け放たれた。
「報告です!アパシーがかなりの大軍で接近してきています。それにセイヴィアーとアンドロイドも確認できました。どうしますか?」
慌てたからか、報告をしに来た人は息を切らしていた。
俺は、すぐにミラの顔色をうかがった。
すると、彼女は一気に表情を変えた。
「全員、戦闘準備!応戦するわよ!」
「了解しました!すぐに準備に入ります」
そう言うと、その人は胸ポケットから小さな無線機の様なものを取り出した。
「全員、戦闘態勢に!」
そう無線機で伝え、その人も準備に向かった。
一方、ミラはとても悔しそうにしている。
「……、このタイミングで来るとは予想もしてなかったわ。それもよりによって『γ』の方に来るとは……」
「俺達も準備ですよね?」
「えぇ、もちろんよ。ここで負ければ、すべて終わりよ」
「了解です!行くぞ、レビウス」
「はい!」
俺達が、戦闘の準備に入ろうとした時にミラは俺たちを呼び止めた。
「ちょっと、待って!」
「??」
「カイト、レビウスに『スパンディメント』で追い払わせて!この前のベランダからなら、上手くいくはずよ」
「分かりました。ミラさんはどうするんですか?」
「私は総指揮だからそっちには行かないわ。あとは任せたわよ!」
「はい!」
俺はそう返事をして、レビウスと共にベランダに向かった。
扉を開け、ベランダに出る。
まだアパシーたちは、来ていないが確実に戦闘が近づいてきていた。
玄関の方では、エモーションの人達が既に準備をしている。
「『スパンディメント』で行けそうか?」
俺はフォルムチェンジしたレビウスに問う。
「敵のアンドロイドが、何の種族か、何の属性かによると思います。もし属性が水だと、かなり辛いかも知れません」
「でも、分からない以上はやってみるしかない。頼むぞ、レビウス」
「はい」
レビウスが返事をしたと同時に、森の静寂を破る大きな足音が聞こえてきた。
アパシーがすぐそこまで近づいてきていた。
足音の大きさから、どうやら前回よりもアパシーの数は多いようだ。
「じゃあ、行くぞ!」
「はい」
レビウスは弓を構え、戦闘の準備に入った。
こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント