この世界には感情がない ~唯一無二の絶対魔法~
この世界にはアレがない
1
「っ……。ここは……」
ふと周りを見渡すと、景色が変わっていた。
どこかの施設みたいだ……。
そして、俺は実験台のようなところの上に寝かされていた。
「気が付いた?」
自動ドアを開け中に入ってきたのは若い女性。
白い服に包まれた清楚な女性は、俺の方へと一歩、また一歩近づいてくる。
割と広く静かなこの場所に、彼女の履いている白いヒールの音が鳴り響いていた。
「こんにちは、黒木 快虎君。今の気分はどう?」
その彼女は、俺の名を知っているようだ。
「気分は、悪くないです。貴方は誰ですか?」
俺は至って冷静だった。
彼女から悪質なオーラは感じられなかったからだ。
「私は、ミラよ。よろしく」
彼女はミラと名乗った。
ミラは、台の上の装置を取り外して床に俺を立たせた。
「いったいここはどこですか?」
この部屋には、モニターがたくさん設置されている。
そして、見た事のない機械がたくさん置いてある。
「貴方は信じないかもしれないけど、ここは貴方のいた世界ではないわ」
俺はその言葉を聞いて冷静は保てなかった。
いきなりそんなこと言われても……。
「どういう事ですか?」
「貴方の世界からすれば、ここは異世界。ただ、貴方たちの世界とは対して差はないわ」
ミラの言葉を聞いても全く理解など出来ない。
誰だって突然『ここは異世界』と言われても簡単には信じられないだろう。
「一般常識は、貴方の世界と変わりない。違うのは、この世界の地理的なものや置かれている状況くらい。でも、一番違う点は……」
彼女は深刻そうな顔でこう言った。
「この世界には感情がないわ」
感情?
嬉しいや悲しい、悔しいとか寂しいとか……。
この世界には、あって当たり前のものが無いのか?
「ただ、私のように感情がある人だっているわ。そんな人はまだ沢山いる。でも、おそらく9割は感情がない」
「なぜ、ない人とある人がいるんですか?」
彼女は、一度深呼吸を入れた。
そして落ち着いた様子で語り始める。
「この世界は、機械の技術がすごく発展しているの。人々は機械にあらゆる願望や要望、そして希望をぶつけた。普通であれば無理なことも、その技術にかかれば、簡単に可能に出来たわ」
彼女は淡々と、この世界に感情がない理由を話す。
それを俺は、一語一句漏らさないように真剣に聞いていた。
「教育や掃除、介護や労働まで全てを機械にやらせた。そしてその便利さに依存した人々は、とんでもない欲望を抱いた。機械との一体化。それが人々が抱いた欲望だった」
「その後は、どうなったんですか?」
この世界の機械技術は本当に凄いらしい。
床では機械が掃除しているし、周りにはたくさんの機械が置いてある。
それも何に使うか分からない機械ばかりだ。
ミラは話を続ける。
「もちろん、その欲望を叶えるのも難しくなかったわ。だからすぐに一体化が始まって……。でも、それは人々がした大きな過ちだった。機械の性能はあまりに高くて、機械自身で殆どのことが出来るようになっていたから、いつしか人々を乗っ取ってしまったわ……」
ミラは俺の乗っていた台を拳で叩いた。
「機械に操られるようになったから、感情がなくなったってことですか?」
俺の声を聞いて再びミラは落ち着きを取り戻した。
「そういう事よ……。残念ながら機械に感情を入れることは、現代の技術を使っても無理だったの。だから感情が乗っ取られた人から無くなってしまった……」
「この世界のことは分かりました。でもなんで、俺はこの世界にいるんですか?」
俺はこの世界の人ではない。
地球という名の惑星に住んでいた。
18歳の誕生日を迎えた瞬間に意識が遠のき、気付いたらこの台の上にいたのだ。
「機械に乗っ取られた人たちと、機械に乗っ取られていない人達で生き残りをかけて戦争が始まったのよ……。最初は人数比は五分五分だった。
でも殺された人々は、機械に乗っ取られ2度目の生を受けてしまうから、あっちの人達が増えていってしまうの……。それで今、9割が機械に乗っ取られてしまったわ……」
俺はミラから聞いた言葉から、なぜ俺が呼ばれたかを考えた。
結論はすぐに出た。
「感情のある俺に、助けて欲しいと言うことですか?」
「そういう事よ。今の機械の技術なら他の世界の人々を転移させることも出来る。だから私は必死に探したわ。協力してくれる可能性を持った人を」
「それが、俺だったということですか」
「うん。貴方ならきっと協力してくれると思ったの。私たちを救っていただけるかしら」
俺は、困っている人を見たら放っておけない性格だ。
それに断る理由なんてない。
「分かりました。俺でよければ、協力します!」
「歓迎するわ。では、一緒に《カンファレンスルーム》に来てくれるかしら」
「分かりました」
俺は、《カンファレンスルーム》へ向かうミラのあとについて行った。
2
ミラはカンファレンスルームだと思われる部屋の扉を開けた。
カンファレンスルームと言うと、小さいのをイメージしていたが、俺たちの世界でいう体育館の3倍サイズくらいの大きな所だった。
その中には、感情のある人達(仲間)だと思われる人達が綺麗に並べられた椅子に座っていた。
そしてミラと俺は、その人達の間を通ってこの部屋の真正面にある大きなステージの上に登った。
そして、そのステージの真ん中に立った。
ステージから見渡す限り、1000人くらいいるだろうか。
「紹介する。彼は、黒木 快虎君。これからはカイトでいいわ。私たちに協力してくれる助っ人よ。そして、彼には副隊長をやってもらうわ」
いきなり彼女は大声でそう言った。
この口ぶりからして、彼女は隊長らしい。
俺が、副隊長?
そんな大役でいいのだろうか。
俺は新入りだが……。
「彼は、この前説明したけど異世界の人よ。だからと言って差別はしないで。私たちを救ってくれるかもしれない味方だから」
救うっていってもあくまでも一般人だからな。
魔法とかそういうの持ってないし、武術も得意じゃない……。
どうしろと言うのだ。
ミラは突然、俺に耳打ちをしてきた。
「私が、今から言うことを大声で唱えて」
いきなりそう言われたから流石に戸惑ったが、うんと頷いた。
そして、俺は言われた通りにその呪文を唱えた。
「『今ここに現れよ、救世主。そして、我らに勝利を導け。今ここに貴殿を召喚』」
すると眩い光と凄まじい音と共に、何かが現れた。
もしかして本当に救世主?
「おめでとう、カイト。彼女が貴方のパートナーよ」
現れたのは、後ろに弓を装備して白い帯に包まれた女。
そしてこの女は、浮いていた。
「私の名は、レビウス。貴方、そして皆を助けるためにここに召喚された」
レビウスとその女は名乗った。
俺は驚きを隠せず、とりあえずミラに説明を求めた。
「どういう事ですか?」
「君が考えているみたいに、彼女は女神ではないわ。彼女はアンドロイド。一応、機械だわ」
「え?」
「機械だけど、この世界の機械とは違うわ。貴方達の世界の住人がここに来ないと召喚出来ない、感情のある機械よ。そして彼女は、貴方にしか操ることは出来ない」
これでようやく、謎が解けた。
なぜ力も魔法もない俺をこの世界に転移させたのかを。
そう理由は、アンドロイドが召喚できる力と操れる力があるからだ。
「なぜ、貴方がここの副隊長になったか分かったかしら?」
「分かりました」
「これから、よろしく。カイト」
「はい!」
俺とミラは握手し、協力することを誓った。
そして俺とミラはレビウスを連れて、カンファレンスルームを出た。
3
「言わなくても分かると思うけど、彼女は貴方にしか操れないわ。扱い方は、私が知っているけど、彼女は、貴方の命令しか聞かない」
「分かっています」
「とりあえず、使える魔法とかは明日教えるわ。とりあえず今日は寝なさい」
魔法と聞いてテンションは上がるが、それは抑えて彼女のあとについていく。
彼女は、俺達を寝室に誘導した。
寝室はベッドの数を見る限り2人用で、部屋はものすごく広い。
とても2人用だとは思えない。
「ここが貴方と彼女の部屋よ。じゃあ、おやすみ」
そう言って彼女は来て早々に、ここを去った。
窓から見える外は暗かった。
暗くて周りはよく見えない。
「レビウスだったよね? 名前。よろしく」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
機械とは思えないほど、言葉が滑らかだ。
動きも人間と何ら遜色がない。
「もしかして、疑ってますか? 機械ではないのでは?と」
「ちょっとね……」
「でしたら、証明しますね」
彼女はそう言って、眩い光を放った。
そして、僅かな間に彼女は見た目を変えた。
「フォルムチェンジです。一瞬で変えられるんです」
彼女の服装はさっきと変わって、凄い一般的な女性の服装になっていて、縛っていた髪も下ろしていた。
それにしても、綺麗な人……。いや、綺麗だな。
「隊長が言っていたように、今日は早く寝ましょうか」
「そうだな」
どうやらレビウスには、この世界の情報や状況が予めあるみたいだ。
既にミラを隊長だと知っていた。
とりあえず、聞きたいことは沢山あるが俺はゆっくりと眠りについた。
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