この世界には感情がない ~唯一無二の絶対魔法~
魔法
さぁ、お手並み拝見といこうか……。
森の奥の方からアパシーの足音が近づいてくる。
レビウスは背中にある弓と矢を一本それぞれ手に持った。
そして矢をセットして、いつでも撃てる体制を整える。
こうしている間にも、アパシーはこちらに向かってくる。
レビウスはアパシーが通るであろう場所、森と敷地の境い目くらいを狙っているようだった。
そして、矢を引く。
弦のギシギシとした音の大きさから、力が入っているように見えた。
レビウスが矢を放ったのは、アパシーの姿が一瞬確認出来た瞬間と同じだった。
矢は早朝の寒さを吹き飛ばすくらいの勢いで、静寂を切り裂くようなスピードでアパシーへと飛んでいく。
途中で、矢は火を伴った。
そのいかにも強そうな矢は、地面に突き刺さった。
外したのか……?
と思ったのは俺の間違い。
彼女はわざとそこを狙ったようだ。
矢が刺さった所から横、そして上へと火柱ができた。
まるで火のカーテンのようだった。
その火柱にアパシー達は飲み込まれていく……。
やられていく姿を見た残りのアパシー達は、一目散に来た道を引き返して行った。
『パンパンパン』
称えるように、手を叩くのはミラだ。
「流石の一言ね。矢は一度に沢山打てないから、自分の属性の火を使って追い払うだなんて。それに森の木を燃やさないようにギリギリのラインまでアパシーたちをおびき寄せた。そうでしょう?レビウス」
ミラが言うことが本当ならば、彼女は相当な技量を持っている。
属性の火を最大限に利用して、効率よくアパシーを追い払った。
そして、矢を放つタイミングは完璧で木には全く火が移らなかった。
「隊長の言うとおりです」
「彼女がいかに凄いアンドロイドかは分かったでしょう?カイト」
「想像以上です……」
最初は、1人だけで100のアパシーをどうするのかと思ったが、簡単にそれも効率的に彼女はアパシーを追い払ったのだ。
今は、驚きの感情しかない。
「今のだけで相当驚いたと思うけど、彼女の実力はこんなものでは無いのよ。なぜなら今のは攻撃パターンの1つでしかないのだから」
「え……」
驚きだ。
まだ種類があるというのか……。
若しかしたら、もっと強い魔法を持っているのかもしれない。
「まぁ、彼女の魔法については戦いながら知るといいわ。先にあなたの魔法について話しておくわ」
俺に魔法?
異世界に来て、アンドロイドを唯一扱える以外にも特殊なことが出来るのか。
「あなたの使える魔法は、レビウスみたいに派手じゃないわ。回復魔法とか、目眩しとか、防御魔法とか……」
ちょっと期待外れではあるが、使えるだけマシだ。
「でも確か、一定の条件を満たせれば凄い魔法を使えるようになった気が……。その事は、今度レントに聞いておくわ。戦闘系は彼の方が詳しかったりするし……」
レントが持っていた分厚い本にそれらも記されているのだろうか……。
『凄い魔法』に興味はそそられたが、その話はまた今度聞くことにしよう。
「回復魔法とかでもいいので、教えて欲しいです」
「教えるって程ではないわ。基本短い詠唱魔法だもの。試しに今から言うのを唱えてみて」
「あ、はい」
俺は言われたままに唱えた。
「『ディフェーザ!』」
……。
特に変化はない気がするけど……。
「レビウスに攻撃されてみて」
「レビウス頼む」
「はい」
レビウスは、左足に付けてあったナイフフォルダーからナイフを取り出した。
そしてレビウスは、俺に向かって投げた。
……。
思わず目を瞑ってしまったが、痛くない……。
というか、当たってないのか?
目を開くとナイフは空中に浮いていた。
「君が唱えたのは、完全防御の魔法。連続して使えないのは要注意だけど、もしもの時にはこれを使えば耐えしのぐことが可能よ」
どうやら周りに張られたシールドが、ナイフの攻撃から守ったようだ。
暫くして、ナイフは床にポロリと落ちた。
シールドを張っていられるのは、僅かな間だけみたいだ。
「まぁ、どの魔法も使いこなすには時間がかかると思うわ。それに、魔法だけではとても戦えないから、武術も練習しておくといい思う。きっと役立つわ」
「なるほど……。魔法についてはよく分かりました。で、このあと自分たちはどうすればいいんですか?」
ミラは、胸ポケットから電子手帳のようなものを取り出した。
それを見ながら答える。
「君たちには暫くの間、ここにいてもらうわ。武術の訓練や、攻めてきたアパシーとの対戦で戦いの経験や感覚を掴んでもらいたい。そして1週間後、君たちは私と一緒に《エモーション全体会議》に出てもらうわ。そこで戦略を立てることになっているの」
「この1週間の間に、アパシーから攻められると更に不利になるんじゃないですか?」
エモーション側は現在、圧倒的不利な状況だ。
1週間耐えられるのかどうかは心配なところではある。
「セイヴィアーとアンドロイドは、既に各グループにいるはずよ。だからその間に倒されることはないわ」
「なるほど……。……っ!寒い……」
「私もいい加減暖かいところに行きたいわ。今日のところは解散にしておくわ。明日から訓練とかするから今日は1日ゆっくりしていていいわよ。じゃあ」
ミラは、電子手帳らしきものを再び胸ポケットにしまってベランダから姿を消した。
「レビウス。俺達も行こうか」
「はい」
俺はレビウスと共に、部屋に戻ることにした。
※語句解説(ここからは本編ではありません)
・エモーション
感情がある人達の総称。エモーション側のセイヴィアーやアンドロイドもここに含まれる。
・アパシー
感情のない人達の総称。アパシー側のセイヴィアーやアンドロイドはここに含まれる。
・セイヴィアー
転移してきた人達の総称。セイヴィアーは、カイトと同じ星、時代の人しかいない。
この世界の人では扱えないアンドロイドを扱うことが出来る。
多少の詠唱魔法なら使うことが出来る。
・アンドロイド
セイヴィアーによって召喚された言わば、サーバント。
基本的にセイヴィアーの言う通りにしか動かないが、アンドロイド自身が認めたり仲間と認識した人の言うことには従う。
だが、戦闘の時はセイヴィアーの言うことしか聞かない。
アンドロイドは3種類の種族と属性に分かれる。
種族は、『弓』『剣』『槍』
属性は、『火』『水』『木』
種族には相性は存在しないが、属性には相性がある。
火は木に強く、木は水に強い、水は火に強い。
同属性の場合は、互角である。
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