大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。
王女の花海
あくまで俺のことを大魔導師だと言って引かないロイゼにそう口を挟む。
バレッタも仕事上引けないのだから、あまり無理をさせるのは忍びない。
彼女も悪気があっていっているわけじゃないんだから。
「で、ですが、証明してもらうなんてどうしたら……」
少し戸惑ったようなロイゼの態度にこちらもこちらでそれもそう、と思った。
ううん、どうしようか。
大魔導師を証明するというのはだいぶ面倒で難しいことだ。
大魔導師を証明する証明書も基準も存在しないのだから、正確な照明のしようがない。
ああ、そうだ。
少しいたずらをして見ようかな。
そう考えるとこれからすることを見た二人が驚く顔が目に浮かぶ。
なんだか少しワクワクしてきた。
以前はこんな気持ちになんてならなかったんだけど、もしかしたら元は俺はいたずら好きな少し悪い奴だったのかもしれない。
「ロイゼ、バレッタ、二人とも花は好きかな?」
「花、ですか?特に嫌いというわけではありませんが……」
「わたくしはお花は大好きです」
良かった。
心の中で喜びながら二人の肯定的な返事にニッコリとほほ笑んだ。
◇
コツコツコツ、チャキチャキチャキ。
城の廊下から足音と鎧の擦れる音が聞こえてくる。
その男の銀光を放つ鎧には、小さな傷があちこちに見受けられる。それを見ただけで、行き届いた丁寧な手入れと同時に使い込まれた歴戦の相棒であることを容易に察することができる。
「うぅむ…。本当に、どうするべきなのか……」
騎士団長『ゴルドフ・マクフェリア』は一人悩みに頭を痛めながら小さく唸る。
この国で剣の道において右に出るものはいないといわれるほどん強さを持っている彼をここまで苦悩させている悩みに種は、ここ聖王国が長年抱えているある問題についてである。
その問題とは、魔族との戦争だ。
この国では長年魔族との小競り合いが続いている。
ちなみに不作も今この国では大きな問題とされているが、そちらについては自分が心配してもどうしようもないことがわかっているのでその点については割り切っている。
話は戻るが、魔族との小競り合いといってもこの国が人類の最果てでその先が魔族領というわけではない。
この世界には魔族の国も人間の国も亜人の国も点々と存在しているのだ。種族間でのまとまった国境線というものは存在していない。
だからこの国の隣にある魔族の国を大きく迂回していけばさらに遠くの人間の国にも行くことはできる。
そのため『魔族の国』と称してはいるが、言語が違って国名がわからないだけであちらの国にも国名は一応存在しているのだ。
しかし、目下の問題点はその隣の国との戦争が今にも起こりそうだという事だ。
聖教会は今すぐにでも襲い掛かって打ち滅ぼせと言ってくるが、そうそう簡単なことではない。
相手の戦力も碌にわからず、こちらの戦力もそう多いわけではない。
それに今は戦争が長期化してしまった場合に必要となる備蓄などほとんどない。
それなのに魔族側は着々と戦争の準備を整えてすぐそこまでやってきていると報告があった。
正直に言って勝算はそう高くない。
ゴルドフはいまだに決断できずにいた。
魔族と全面戦争をしては勝てる見込みはないとはいえ、それではこの国で国教とされている聖教会の魔族殲滅の教義に背くことになる。
そうなれば自分だけでなく家族にまで迷惑が掛かってしまう。
「はぁ、本当に面倒なことになっちまったなぁ……」
その場で立ち止まり、今日何度目かもわからない重いため息をつく。
ゴルドフは眉をひそめて天井を仰ぎ見た。
どうしたものか、いい案など一つも浮かばん。
ゴルドフはもともとあまり頭のいいほうではない。所謂脳筋と呼ばれる人種なのだ。
これからまたあの結論を先延ばしにするだけの会議が始まるかと思うと気分はとても憂鬱になる。
そもそも、頭を使って机にかじりつくという行為が自分には向いていない。
そんな時間があったら稽古上で剣を振っていた方が何倍も楽しいし自分のためになる。普段から騎士団員の稽古をつけているゴルドフだが、最近の新人になかなか骨のある奴がはいったというのもあり頭のなかはいつも剣術のことで埋まっていた。
だが、自分の今の立場は騎士団長。自分を慕ってくれている部下もそれなりにいる以上あまり恰好の悪いところは見せられない。
そう観念して歩き出そうとしたところで異変に気が付いた。
周囲で超高濃度の魔力の気配を感じたのだ。
急いで腰に下げていた剣を引き抜き臨戦態勢にでる。
ここは城内、周囲には強力な結界が張られているはずだ。それなのに魔術の行使を許している、という事は――。
「敵はすでに城内にいる、か」
額からたらりと冷や汗が垂れる。
先程まで人の気配どころか魔力の漏れる気配すら感じなかった。
魔術にはあまり詳しくはないが、魔力を使用して術式を起動させるのだと聞く。
その際に術式の無駄があるとそこから不要な魔力が漏れてしまい、効率の良い結果にならないのだという。
そしてある程度場数を踏んでいれば独特の魔力の高まりや、その雰囲気というものが感覚で掴めるようになっていたのだ。
しかし、ついさっきまでそれにまったく気が付かなかった。
今感じているのは今までの人生で感じたことのないような魔力の量だ。
これはもう気配というより圧といっても過言ではない。これだけの魔力の持ち主がこんなありえない量の魔力を余分に使っているとは思えない。ならば既に術式はすでに動いているとみて間違いないだろう。
これほどの魔術師はこの国にいるなどという話は聞いたことがない。
いったい誰が―――。
そう思った時に先程部下から聞いたある報告を思い出した。
城の中庭でロイゼ様が黒いローブの魔術師のような者と何かをしているらしい、と。
急いで城内を駆け抜ける。
今すぐにロイゼ様の安全を確認しなくては。
あの方を除いてこの国をこの先導いていける者はいない。そう思うほどにゴルドフの中でロイゼは高い能力と優しさを兼ね備えた指導者だった。
もう少しで中庭に到着する、そう思った頃には廊下にも異変が出ていた。
地面や壁、天井から花やコケが生えていたのだ。
昨日まではなかった明らかな変化、この先にこれらの原因があることは間違いない。
そうゴルドフの直感が告げていた。
ようやく中庭の扉まで到着したころには周囲は最早深い森の中のようになっていた。
そして取っ手に手をかけ、力いっぱい扉を開く。
「ロイゼ様!ご無事ですか!?」
そう叫ぶ先には驚いたようにこちらを見るロイゼと、侍女のバレッタがいた。
よかった、ロイゼ様はご無事だった。
息を切らせて安堵するのもつかの間、ロイゼの奥にある"それ"に目を向く。
あまりにも大きいそれに、首の向きは自然と上を見上げていた。
視界には桃色の鮮やかな花びらが雨のように舞い散っている。
足元をはじめとした周囲には見たこともないような花々が花海を作っていた。
「なん、だ、これは」
驚愕のあまり声が喉から絞り出されるようにしか出ない。
「ああ、え、えっと……」
「こ、これは、ですね……」
呆然と立ち尽くすゴルドフに対し、苦笑いを返すことしかできないロイゼとバレッタには出来ない。
そしてロイゼの右手の人差し指には、小さな花の形を模した金色の宝石が埋め込まれた指輪がはめられていた。
バレッタも仕事上引けないのだから、あまり無理をさせるのは忍びない。
彼女も悪気があっていっているわけじゃないんだから。
「で、ですが、証明してもらうなんてどうしたら……」
少し戸惑ったようなロイゼの態度にこちらもこちらでそれもそう、と思った。
ううん、どうしようか。
大魔導師を証明するというのはだいぶ面倒で難しいことだ。
大魔導師を証明する証明書も基準も存在しないのだから、正確な照明のしようがない。
ああ、そうだ。
少しいたずらをして見ようかな。
そう考えるとこれからすることを見た二人が驚く顔が目に浮かぶ。
なんだか少しワクワクしてきた。
以前はこんな気持ちになんてならなかったんだけど、もしかしたら元は俺はいたずら好きな少し悪い奴だったのかもしれない。
「ロイゼ、バレッタ、二人とも花は好きかな?」
「花、ですか?特に嫌いというわけではありませんが……」
「わたくしはお花は大好きです」
良かった。
心の中で喜びながら二人の肯定的な返事にニッコリとほほ笑んだ。
◇
コツコツコツ、チャキチャキチャキ。
城の廊下から足音と鎧の擦れる音が聞こえてくる。
その男の銀光を放つ鎧には、小さな傷があちこちに見受けられる。それを見ただけで、行き届いた丁寧な手入れと同時に使い込まれた歴戦の相棒であることを容易に察することができる。
「うぅむ…。本当に、どうするべきなのか……」
騎士団長『ゴルドフ・マクフェリア』は一人悩みに頭を痛めながら小さく唸る。
この国で剣の道において右に出るものはいないといわれるほどん強さを持っている彼をここまで苦悩させている悩みに種は、ここ聖王国が長年抱えているある問題についてである。
その問題とは、魔族との戦争だ。
この国では長年魔族との小競り合いが続いている。
ちなみに不作も今この国では大きな問題とされているが、そちらについては自分が心配してもどうしようもないことがわかっているのでその点については割り切っている。
話は戻るが、魔族との小競り合いといってもこの国が人類の最果てでその先が魔族領というわけではない。
この世界には魔族の国も人間の国も亜人の国も点々と存在しているのだ。種族間でのまとまった国境線というものは存在していない。
だからこの国の隣にある魔族の国を大きく迂回していけばさらに遠くの人間の国にも行くことはできる。
そのため『魔族の国』と称してはいるが、言語が違って国名がわからないだけであちらの国にも国名は一応存在しているのだ。
しかし、目下の問題点はその隣の国との戦争が今にも起こりそうだという事だ。
聖教会は今すぐにでも襲い掛かって打ち滅ぼせと言ってくるが、そうそう簡単なことではない。
相手の戦力も碌にわからず、こちらの戦力もそう多いわけではない。
それに今は戦争が長期化してしまった場合に必要となる備蓄などほとんどない。
それなのに魔族側は着々と戦争の準備を整えてすぐそこまでやってきていると報告があった。
正直に言って勝算はそう高くない。
ゴルドフはいまだに決断できずにいた。
魔族と全面戦争をしては勝てる見込みはないとはいえ、それではこの国で国教とされている聖教会の魔族殲滅の教義に背くことになる。
そうなれば自分だけでなく家族にまで迷惑が掛かってしまう。
「はぁ、本当に面倒なことになっちまったなぁ……」
その場で立ち止まり、今日何度目かもわからない重いため息をつく。
ゴルドフは眉をひそめて天井を仰ぎ見た。
どうしたものか、いい案など一つも浮かばん。
ゴルドフはもともとあまり頭のいいほうではない。所謂脳筋と呼ばれる人種なのだ。
これからまたあの結論を先延ばしにするだけの会議が始まるかと思うと気分はとても憂鬱になる。
そもそも、頭を使って机にかじりつくという行為が自分には向いていない。
そんな時間があったら稽古上で剣を振っていた方が何倍も楽しいし自分のためになる。普段から騎士団員の稽古をつけているゴルドフだが、最近の新人になかなか骨のある奴がはいったというのもあり頭のなかはいつも剣術のことで埋まっていた。
だが、自分の今の立場は騎士団長。自分を慕ってくれている部下もそれなりにいる以上あまり恰好の悪いところは見せられない。
そう観念して歩き出そうとしたところで異変に気が付いた。
周囲で超高濃度の魔力の気配を感じたのだ。
急いで腰に下げていた剣を引き抜き臨戦態勢にでる。
ここは城内、周囲には強力な結界が張られているはずだ。それなのに魔術の行使を許している、という事は――。
「敵はすでに城内にいる、か」
額からたらりと冷や汗が垂れる。
先程まで人の気配どころか魔力の漏れる気配すら感じなかった。
魔術にはあまり詳しくはないが、魔力を使用して術式を起動させるのだと聞く。
その際に術式の無駄があるとそこから不要な魔力が漏れてしまい、効率の良い結果にならないのだという。
そしてある程度場数を踏んでいれば独特の魔力の高まりや、その雰囲気というものが感覚で掴めるようになっていたのだ。
しかし、ついさっきまでそれにまったく気が付かなかった。
今感じているのは今までの人生で感じたことのないような魔力の量だ。
これはもう気配というより圧といっても過言ではない。これだけの魔力の持ち主がこんなありえない量の魔力を余分に使っているとは思えない。ならば既に術式はすでに動いているとみて間違いないだろう。
これほどの魔術師はこの国にいるなどという話は聞いたことがない。
いったい誰が―――。
そう思った時に先程部下から聞いたある報告を思い出した。
城の中庭でロイゼ様が黒いローブの魔術師のような者と何かをしているらしい、と。
急いで城内を駆け抜ける。
今すぐにロイゼ様の安全を確認しなくては。
あの方を除いてこの国をこの先導いていける者はいない。そう思うほどにゴルドフの中でロイゼは高い能力と優しさを兼ね備えた指導者だった。
もう少しで中庭に到着する、そう思った頃には廊下にも異変が出ていた。
地面や壁、天井から花やコケが生えていたのだ。
昨日まではなかった明らかな変化、この先にこれらの原因があることは間違いない。
そうゴルドフの直感が告げていた。
ようやく中庭の扉まで到着したころには周囲は最早深い森の中のようになっていた。
そして取っ手に手をかけ、力いっぱい扉を開く。
「ロイゼ様!ご無事ですか!?」
そう叫ぶ先には驚いたようにこちらを見るロイゼと、侍女のバレッタがいた。
よかった、ロイゼ様はご無事だった。
息を切らせて安堵するのもつかの間、ロイゼの奥にある"それ"に目を向く。
あまりにも大きいそれに、首の向きは自然と上を見上げていた。
視界には桃色の鮮やかな花びらが雨のように舞い散っている。
足元をはじめとした周囲には見たこともないような花々が花海を作っていた。
「なん、だ、これは」
驚愕のあまり声が喉から絞り出されるようにしか出ない。
「ああ、え、えっと……」
「こ、これは、ですね……」
呆然と立ち尽くすゴルドフに対し、苦笑いを返すことしかできないロイゼとバレッタには出来ない。
そしてロイゼの右手の人差し指には、小さな花の形を模した金色の宝石が埋め込まれた指輪がはめられていた。
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