大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

ロイゼの覚悟

ロイゼの口から唐突な大魔導師ではないかという発言が出る。
正直に言って凄く驚いた。
まさか一発目から真実を当てられるとは流石に考えていなかった。
メイドのバレッタは明らかにこの状況についていけていない。せわしなくロイゼと俺の顔を交互に見てあたふたしている。
この周囲には誰もおらず、花園の中をかけていく風の音だけが聞こえる。それがより一層この庭園の静けさを強調していた。
俺はその静寂を破って口を開く。


「どうしてそう思ったんだ?大魔導師なんてお伽話の中に出てくる空想の産物だと思うんだけどな」
「わたくしも、つい先ほどまではそう思っていました」


きっと彼女の言っていることは本当のことだ。
ロイゼの瞳は揺れることなくじっと俺のことを見て離そうとしない。
どうやら曖昧な答えでは許してくれはしなさそうだ。
別に俺は大魔導師と呼ばれていることについては特別隠そうとは思っていない。余計な面倒ごとやエフィルにまで迷惑がかかってしまうのが嫌なだけだ。
相手が変な人間や怪しい人物でなければ無理に隠す必要はない。
ひとまずはロイゼがなぜ俺に接触してきたのかから聞いてみよう。
彼女は無意味な行動をするような人ではないはずだ。


「もし俺が大魔導師だった時はどうするつもりなんだ」


半ば肯定とも取れる反応にロイゼバレッタに少しの動揺が走る。
そこから即座に反応を返したのはロイゼだった。


「もし、貴方様が大魔導師様であれば、魔族の方々との戦争を収めて頂きたいのです」


またもロイゼに驚かされる。
きっと国力の回復に関係することを交渉に出してくると思っていた。だが、彼女には彼女の別の思惑があったらしい。
俺がいた塔からこの国まで俺の話は届いていないはずだ。
この世界は地球と比べて文明がまだあまり発達していない。
しかし、発達していないとはいえ中世ヨーロッパレベルの技術や知識は存在している。
つまり、奴隷の概念や侵略なども存在しているという事だ。
今の国力では防衛戦はもちろんのこと、敵を殲滅などもっての外だ。


「どうしてそんなことを望むんだ?今この国は危機に瀕している。それなら国力そのものを回復させなくてはいけないんじゃないか?」


その問いについてロイゼははっきりと首を横に振る。


「それはいけません。それでは農民の方々は何かあるたびに貴方を頼るようになり、王族は自ら先頭に立って国政を指揮することをやめてしまう。自分たちで困難を打ち砕くことができなくなってしまうでしょう。必要なのは手を取って立ち上がらせることではなく、転んだあとの立ち上がり方を、次に同じ理由で転ばないようにどうしたらいいかを一緒に考えることです」


そう答えるロイゼの目には先ほどより強い意志が輝いた。
いわば彼女の中にある希望、勇気、自分を含めた聖王国を信じる心だ。
この国に対しての愛と熱意を感じる。
彼女が先頭に立って導けば、この国の民はより手を取り合って前へと進むことができるだろう。


「なるほど、よく分かった。無粋な質問をしてしまって申し訳なかったね」
「いえ、貴方様のおっしゃる事もごもっともですから。ですが、きっとどんな手を使ってもこのままいけば魔族の方々との戦争は始まってしまうでしょう。それは最早止められる段階ではありません」


ロイゼはそう言って暗い顔で俯く。
どうやらこちらも訳ありらしい。


「魔族側の国境にも日に日に兵士の数が増えて行っていると聞きました……。聖王国側を止められたとしてもあちらはきっともう止まらない……。真っ黒なくらい感情の渦が国境の方向から時折見えてしまうんです。開戦は間近でしょう」


どうやら感情の波まで可視化できるらしい。
魔力の源は生命力だ。それに感情の高ぶりで魔力が上昇するという現象も観測されている。
要するに強い意志、強烈な感情は直接魔力につながるといっても過言ではない。
つくづく思うがロイゼの目は本当に感度がいい。俺も魔術で似たようなことはできないことはないが、魔力を全く発生させず、ノーモーションで相手に気づかれずに見れるというのは大きなアドバンテージだ。


「分かったよ。君の望みは叶えよう。塔に残してきた置手紙のこともあるしね」


その答えにロイゼは目を輝かせ、バレッタは俺が大魔導師だという事を否定しないことに不信感を抱いている。
塔においてきた置手紙には見つけた時には力を貸すと書いてきた。
彼女はその置手紙を読んではいないだろうが、別に構わないだろう。
その代わり、こちらの質問にも答えてもらう。
そう思ったところでバレッタが勢いよく立ち上がる。


「お待ちください、貴方が大魔導師様だという証拠を見せていただけませんか。ロイゼ様が信じても私はまだ信じたわけではございません」
「バレッタ!おやめなさい!」
「いいえ!ここはいくらロイゼ様であろうと譲れません」


ああ、また言い合いになってる……。
やっぱりどうにかして信用してもらわないといけないな。よく考えたら俺の目的はまだ何一つ達成できてないじゃないか。
感情の起伏まで見える目を持っているロイゼなら国内の異変に気が付いているかもしれない。
はやくそこを突き止めたいなら


「ロイゼ、ここははっきりとさせるべき所だよ」


早く問題点を解決しなくては。敵が何かを仕出かす前に。






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