大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

花園の茶会

王城の外観は白一色で統一されていたので、中もしやとは思ったが中も真っ白だった。
その中を黒いローブの人間があるいているのだからすさまじく目出つ。
しかし、今俺が注目を集めているのはそれだけが理由ではない。
俺と一緒に歩いている人物。
聖王国第一王女『ロイゼ・フォン・ホーリィ』がそばにいるからだ。
道を歩けば使用人や騎士たちが自ら道を開ける。
そのたびに彼女は立ち止まって彼らと会話をする。今日の調子はどうか、困っていることは無いかなど話の内容は様々だ。
その中で驚いたのは、彼女はどうやらこの城の騎士と使用人全員の名前を頭に入れているらしいことだった。
これだけ自分の部下のことを気に掛ける人間はそうそう居ない。
ましてや王族。
その下についている者の数など数えきれない。
俺のように何か魔術を使って暗記しているなら分かるが、彼女から魔術を使用している様子は見受けられい。
本当に自分の頭だけで記憶しているのだ。
そんな彼女が俺にどんな話をしろと言うのだろうか。
それになんだかこの城の地下から妙な雰囲気を感じる。そちらも調べてみる価値はありそうだ。
しばらく城内の廊下を歩いて空が見える中庭に出る。
中庭は小さな花畑のようになっており、その中心には椅子と机が置いてあった。
そこにはすでにメイドが待機しており、茶会の準備が整っているようだ。
メイドはミディアムショートの黒髪の少女だ。歳はロイゼや外見上の俺とそう違わないと思う。
俺に一瞥すると目を閉じてお辞儀をする。その表情は無表情を心がけてはいるようだが、あまりいいように思われていないようだ。


「では、どうぞおかけください」
「ああ、失礼させてもらうよ」


机と共置いてある椅子の片方に手をかけて座る。
ロイゼはその反対側に座った。
メイドは紅茶と茶菓子を用意すると、ロイゼの数歩後ろに下がる。


「ありがとう。ここはもう大丈夫だから、下がっていいわ」
「で、ですが…。見ず知らずの者とロイゼ様を護衛もつけずに二人きりになどできません」


ロイゼの指示にバレッタが慌てて意見する。
それは当然だ。見た感じ黒ずくめで明らかに怪しい奴を自分がしたっている人と一対一になど支度はないだろう。
それも彼女らは王族とその召使いという立場だ。心配して当然だろう。


「大丈夫です。この方にそういった気があるならもう先程会った時点で街中でそうしていたでしょう。それだけの力を持っている方なのです」
「そ、そんな」


ロイゼにそう言われても立場上彼女も引き下がることができない。
ならばこちらが譲歩する必要があるだろう。
その方が円滑に話が進むならそれで構わない。


「なんなら俺を拘束してくれてかまわないよ。それで君達の気が済むなら」
「そんなことはできません。貴方様はわたくしがお招きしたお客様です。そのようなことをしようものならわたくしがしかりつけます。バレッタ、謝りなさい」
「…申し訳ございませんでした」


バレッタと呼ばれたメイドの少女は深々と頭を下げる。
別にそこまで気にする必要はないとは思うが、彼女らにも彼女らなりの譲れない一線があるらしい。


「ロイゼさえよければ、俺は彼女が同席してもかまわないよ」
「なっ!?一国の王女に対して何という――」
「バレッタ、構いません。ありがとうございます。ではそうさせて頂きますね」


そう言ってロイゼはバレッタに席に着くように指示をする。
当の本人はしぶしぶと言った感じでその指示に従った。
さてと、ようやく本題に移れる。


「それでだ。君が俺をここに連れてきたのは何か俺に用があったからじゃないか?俺から旅の話を聞くなんてくだらない要件ではない。もっと重要な話のはずだ」


そう言うとここまで基本的に終始朗らかな表情だったロイゼが顔を曇らせる。


「そうですね、流石に貴方様ほどの方に誤魔化し切れるようなものではありませんでしたね……。いえ、もちろんお話を聞きたいというのも嘘ではありません。ただ、一番の理由は別にあるのです」


その言葉にバレッタが驚いたように顔を上げる。どうやら従者の彼女ですらそのことは聞かされていなかったらしい。
彼女自身も話を聞くだけでこんな城内まで部外者を入れる事を不思議に思ってはいたのだろう。
そして再びロイゼの話に耳を傾ける。


「この国の畑はもう見ていただけましたか?」
「ああ、どこもかしこも作物は弱々しくて今にもやられてしまいそうだった。もし次に日照りか大雨でも来れば今国の農耕地帯は壊滅するだろう」
「その通りです」


どうやらあの作物たちの事は国も把握していたらしい。
それでもどうしようもなっていないという事は――――。


「この国全体での対処はしたのか?」
「はい、毎日協会では聖教会の大神父様をはじめとした方々が神に祈りをささげています。それでも、事態はあまりよくなっていません……」


重苦しい面持ちで語るロイゼを見てバレッタは心配そうに見つめている。自分にはどうしようもないことではあるが、どうにか主人を元気づけたいのだろう。
健気ないい子だ。


「それでどうして俺にその話をしているんだ。俺がもし敵国のスパイだったらどうするつもりなのかな」


"スパイ"という言葉に反応してバレッタがキッと俺を睨みつける。
あまり睨まないでほしいなぁ。
いじわる言って悪いけど、ここは聞いておかなくちゃいけない所だろう。


「では、失礼を承知で申し上げさせていただきます」


ロイゼの雰囲気が何か覚悟を決めた真剣なものになる。何を言う気だろうか。


「貴方様は――――――






――――大魔導師様ではありませんか?」






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