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大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

王族の少女

国王の後ろで控える数人の魔術師。
その中にその男はいた。


こんな会議で時間を潰されている場合ではない。シメーレ完成まであとわずかだというのに。


白髪の男。年齢は見た目五十代と言った感じだが、詳しくは定かではない。
男の名前は『エヴァンス・キマイラ』。聖王国における魔術師の筆頭を務めている。また、政治や戦略においても長けており、王の助言役を任されている。
魔術の実力は聖王国随一で、過去に起こった魔族との戦争でも大いに活躍した実績を持っている。
結局会議では碌な改善案は出ず、魔族への全面攻勢も先送りとなった。
そもそも、聖教会の「すべての原因は魔族にあり。すなわち魔族を討てばすべての問題は解決する」という言い分はいささか無理やりすぎだ。会議の中でも信じているのは熱心な聖教会の信徒だけである。
会議が終了し、それぞれが部屋から退室していく。
エイヴァンスが廊下に出ると、一人の修道士とすれ違う。
そのとき修道士がエイヴァンスにしか聞こえない声の大きさで小さくつぶやいた。


「エルフの代わりになる素体が発見されました」


エイヴァンスの口元がにやりと歪む。
その瞳の奥底には言い知れぬ感情の炎が揺らめいていた。






ヴオォン―――


青い粒子共に草原に着地する。
青い草を踏みしめる感触と共に頬に風を感じる。
周囲には民家はちらほらとしか見えない。
国の中心部から離れた地域の農業地帯、あまり育ちがいいとは言えない農作物がそこら中に見える。このところあまり雨も降っていないようだ。
雑草ならばこの程度は耐えられえるだろうが品種改良も施されてないひ弱な品種の農作物では耐えられない。
聖王国の郊外、その傍らにたたずんでいた。


「たぶんこの近くのはずなんだけど……」


つい先程観測所のモニターに屋敷に残っていた魔力と同じパターンの反応を感知したのでスクランブルでここまで飛んできた。
しかし、特にこれと言った異変は見られない。
いくらか作物がしなびてはいるが、率直な感想は平和、平凡だ。
大規模な施設も何もない。


「となると向こうも拠点を隠しているか」


再び周囲を見渡すもどこもかしこもただの田舎道だ。
ソナーや感知系の魔術を行使したいがすでにここは敵の領内だ。あまり派手に魔術を使うと発見されて逃げられてしまう可能性がある。


「地道に探索してみるか……」


そう呟いて魔術を諦め、杖をしまって歩き出した。





暗いくらい牢獄の底。
その中に私は居た。
膝を抱えるようにしてポツンと暗闇のに座り込んでいる。
周囲からは悲鳴やすすり泣く声がする。ひどい匂いと劣悪な環境から体調不良者も多いだろう。
そんな中でもまた私は一人ぼっちだ。
私に仲間なんてできたことは一度だってない。親ですら私を見捨ててここにいる人たちの持ち主に売った。だから私は今ここにいる。
ハラリ、と銀の髪が肩から垂れる。
元はゆったりとした結び方のポニーテールだったが、今ではそのひもはちぎれてそのままにされている。
私は別にこの場所から出たいとは特別考えていない。
どうせ奴隷としてどこかへ売り飛ばされようと捨てられようと、まわりはまたあの村にいた頃のようにこの目を蔑む人達ばかりなのだろう。
いっそのことずっとこの地下にとどまっていられたらいいのに。


「もう外の世界なんてどうでもいい」


ああ、でも。
たった一つだけ私にも夢があった。
子供のころ、大昔に捨ててしまった小さくも壮大な夢。
だけどそんなことはもうあきらめた。無理なものは無理なのだ。
けれど、それでも、もし叶うのなら――――。


「一度でいいから―――――かったなぁ」


諦めてしまった夢なのだからその程度だったという事だ。どうして今さらこんなことを思い出しているんだろう。
どうして――。
自分の心の中で自問自答を繰り返していると不意に何かが膝に当たった。


「あ、れ?なに、これ」


喉から出た声は震えている。
膝から滑り落ちる雫は、この大嫌いな青い瞳から流れていた。


「ああ、本当に」


どうして、こうなってしまったんだろう。






「み、見つからない……」


どこもかしこも普通に民家ばかりで全く手がかりが見つからない。
普通の賊程度ならここまで警戒する必要はないが、今回は相手が相手だ。
魔術の痕跡を消すというのはそれをしようとしないものが想像しているよりもはるかに技術が必要とされるものだ。
魔力の流れは行使する魔術や魔法の世界への影響力の大きさに比例する。
転移や自然に強制介入などしようものなら必ずと言っていいほど跡が残る。それを極限まで薄めて、と言うよりは濁してわからなくするのが魔術・魔法においての"痕跡を消す"という行為だ。
力任せに壊すわけでも、何か作り出す形が決まっているわけでもない。
魔力を使う上で最重要なのはイメージだ。それがないことをしようと言うのは抽象的になればなるほど難易度が上がる。
それだけのことができる術師ならばそれ以外のできることも多く、レベルが高いと想定した方がいい。
すでにこちらの介入はエルフの時にばれている。手際的に今回が初版とは思えない。
今まで誰にもばれなかった行為が誰かの手によって邪魔された。
当然向こうは警戒体勢入る。
ここを逃せば次はもっと先かもしれない。
これだけ大々的に広範囲で動いている以上観測所で二度と発見できないというのは考えにくい。
それでも見つけるのが遅れれば遅れるほど犠牲者が増える。
エフィルのような悲しむ被害者はこれ以上出したくないし、これから先またエフィルの家族や村の仲間が狙われないとも限らない。
そうなる前に、早く手を打っておくことに越したことは無い。


「とはいっても見つからなかったしなぁ……」


現在俺は聖王国の王都の城下町にいた。
先程の観測地点付近では何も見つけることができず、一度内部も見ておきたいと思ったからだ。
中心街はなかなかに活気があったが、外周に近づくにつれ痩せた住民や病気にかかっている者が多く見受けられてた。
随分と全体的に国力が衰えているように見える。
俺がどうこう言える立場ではないが、この国はもうあまりもたないんじゃないだろうか。
そう思いながら街をぐるっと一周して再び中心街に戻る。


「少し休憩を取るか」


疲労自体は感じない体になってはいるが、それでも最近はしっかりとした"人間的な生活"を送るようにしている。
これはエフィルがそうした方が見ていて楽だといったからだ。
確かに魔術で何とかできるからと毎日風呂にも入らない食事もとらない睡眠もとらない奴と一緒に生活していては相手も気が休まらないだろう。
それが徐々に癖になり今ではしばらく作業をしたら休憩をつ取るまでになった。
塔にいた頃の丸一週間不眠不休で本を読み続けるなんて頃と比べたら随分健康的な生活スタイルになったものだ。
席に付き、注文した紅茶を飲んでいると、外が何だか騒がしくなってきた。
先程まで店内にいた客たちの一部も急いで店の外に出て行くようだ。
彼らについて外に出てみるとすでにそこには大勢の人だかりができていた。
人ごみをかき分け、その中心にいる人物が見える位置までようやくたどり着く。
そこには一人の少女が居た。
髪は赤みがかった茶髪でくるりとまいたショートボブ。頭の上には宝石でしょう食された金のティアラ。
服装も平民とは違い、金のかかった一品のように見える。
どうやら貴族、いや、あのティアラは魔力のこもった装備品か?
となるとそこらの貴族がホイホイと手に入れられるものではないな。それに作られて随分と長い時間がたっているようだ。
となると、本物の王族か。
この国は王族から一般人まで聖教会に属しており、魔道教とは関りを断っているらしい。
となると俺みたいローブを着ている人間がここにいてはまずいだろうか。この国の魔術師についての扱いはわからないからな。
さっきの店には普通には入れたから特別嫌われているような存在ではないはずなんだが。
少女は集まった民草と楽し気に話している。どうやらこの会は今日が初めてというわけではないらしい。普段から国民と触れ合い、その話を聞く。どうやらここの王族はなかなかに有能らしい。
いや、そんなことより自分のことを考えなくては。今すぐにここを離れるか?何ならあの子にこのあたりのことを聞いてみるというのも一つの手ではある。どうしようか。
少女の顔を見つめながら考えていると、何かに気が付いたように彼女の動きが止まる。
そのまま何気ない動作でこちらに顔を動かした。
その時、俺の視線と少女の視線が交わる。
まさか、この子の瞳はもしかして。


「もし、そこのお方」


しまった、"見られた"。
今まで民の方から話しかけることはあっても彼女の方から話しかけることはなかった。
それが急に声をかけたのだ。まわりの視線が一斉に俺の方を向く。
こうなってしまえば下手に逃げられない。
やろうと思えば記憶改竄、認識阻害、瞬間転移などやりようはあるが、そういったことはこちらも望んでいない。
それに向こうが話しかけてきたのなら返事を返すのが最低限のマナーというものだ。


「なんでしょうか」


今俺ローブのフードをかぶっている。顔はそう長い時間見えなかったはずだ。
しかし、先ほど彼女と視線が交わった。
あの瞳はただの瞳ではない。
星の加護を受けた何らかの特別な目だ。この世界の人間はごくまれにこの世界の何かの加護を受けて生まれてくる。
星、大地、空、海。種類は様々だが、それらを持つ者たちは情人では使えない能力を持つ。
あれは自分の中の何かを覗き見られる感覚だ。そう強い力じゃなかったから魔力の流れ程度しか見えないんだろうが、それで問題がないのは一般人だ。俺は違う。
魔力の流れはすなわち魔力の使用できる量を見られたも同然。だから俺は魔力を見られるのは一番まずい。一目見て通常ではないのがばれてしまう。
ここしばらく実戦や緊迫感のある出来事なんて少なかったから完全に失念していた。今度からはそういったものを外敵から隠せる何かを身に着けていることにしよう。


「貴方はこの国の魔術師ではありませんね」
「はい。この国ではない遠い場所から来ました」


嘘はついていない。事実ここからかなり距離のある空中庭園から来たし、どこの国に属しているとかはない。
すると少女はにこりとほほ笑む。


「それは長旅ご苦労様でした。貴方程の素晴らしい魔術師の方は我が国には他におりません。もしよければ王城で旅のお話を聞かせていただけませんか?」


これは予想外の申し出だ。周囲の住民たちも少女の近衛たちも動揺している。
しかし、これはチャンスかもしれない。もし例の事件の犯人がこの国で動いているなら王城に情報が上がっているかもしれない。正直に言って望みは薄いと思うけれど……。


「わかりました。ぜひご一緒させてください」


俺は彼女についていくことに決めた。



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