大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

図書館の秘密と世界の動き

エレベーターの移動が終わり、目の前の壁がこの施設に入ってきた時と同じように沢山の小さな立方体になって崩れていく。
その向こうはこのエレベーターに乗る前の暗闇と相反するように白い光で満ちていた。
エフィルは目に飛び込んでくる光の急激なまぶしさに顔を背ける。
段々と目が慣れ、その光の向こうへと視線を向ける。
そこには驚きの光景があった。


「す、すごい……」


視界に入ってきたのは、先ほどまでの薄暗い光とは全く別種のまるで「小さな太陽」でも頭上にあるんではないかと言うほどの暖かな光。
そしてその次に目を引くのは今立っているこの円柱状の空間から直線状にある小さな木である。
その木の周囲は炎上に小さな本棚が並べられており、今いる高さより階段二、三段ほど階段があるため少しだけ高い位置にあった。
木の周りは大きな鉢、と言うよりは大きな花壇と言った様相でそこを中心に四方に水が流れている様だ。


「あれ?この形ってもしかして」


エフィルはこの中心の何かから四方へと水を流す作りに見覚えがあった。


「これってもしかして空中庭園と同じ構造になってる……?」
「これは驚いたな。まさか教える前からそこに気が付くとは思ってなかったよ。そうだね、この形は空中庭園全体を覆っている術式と同形式のものだ。この術式を選んだ理由は、術式自体の形が俺が得意だというのもあるけれど、何より見た目が美しいからね。エフィルにも喜んでもらえるかと思ったんだ」
「そうね、すごくきれい。あったかい光に照らされた木が、すごく喜んでいるように見えるわ。すごく、すごく美しい」


エフィルが感嘆したように声を出す。


「それじゃあ他も案内するよ」


この図書館は、ここまで乗ってきたエレベーターと同じく円柱状の形をしている。
しかし、その大きさは先程のエレベーターとは比較にならないものとなっている。
高さが50メートル。横幅は15メートルほどある。
その中央の一番上には真っ白な光の球が心地よい光を降らせている。この光は完全な魔術によるもので、科学的な電気灯は一切使用していない。
本来ならば、こんな空中庭園内で造るには規格外の大きさの建物ではあるものの、この建物は空間を捻じ曲げて作っている。
そのため外から入ろうとするのは物理的には不可能、魔術的にもごくわずかな限られた手段でしか侵入できない。
これはこの図書館の"もう一つの役割"を担う上でとても重要になってくる。
そして壁には一面ひたすらに本が収められており、読みたい本があれば、本の方からやってくるようにした。
操作は読みたい本のタイトルや関連する事柄をイメージするだけの簡単なものになっている。
これぐらいならエフィルでも苦労することなく本を見つけることができるだろう。


「そういえばエフィルは文字の読み書きはできるのか?」
「うーん、あまり得意とは言えないかもしれないわね。エルフの村だと人間の言葉に触れる機会は少なかったから。かろうじてもし何かあったときに人里にいかなくちゃ行けなくなった時のために必要な食べ物やお金関連については多少知って入るんだけれど、それでも本を読んだりは少し難しいかしらね」


どうやら閉鎖的なエルフの村ではあまり人間の文字は学べなかったらしい。この世界は話す言葉の音は同じだが、各種族や国ごとに文字が違う事が多い。
なので話はできるが文字は読めない者が多くなる。それ故エルフなんかの外界と接触の少ない種族は相場を知らずにひどいぼったくりをかけられるという話はよく聞くパターンだ。


「シグレがいいなら今度私に文字を教えてくれないかしら。ここの本も読んでみたいし、何より大魔導士様に教えを乞う機会があるのにそうしないなんてもったいないわ」


そう言っていたずら気に笑うエフィル。
どうやらエフィルは本に興味を持ってもらえたらしい。それは俺としても喜ばしいことだ。


「もちろんいいよ。明日にでも始めようか」
「頼んだわよ、先生!」
「ああ、任せてくれ」





その日の夜、再び図書館を訪れた。
外はすでに真っ暗で、満天の星も様だったが、ここの真っ白な光は昼も夜も絶えず輝き続けている。
エレベーターを降り、奥へと進んでいく。
中心の円状になっている階段を上り、木の横を通って階段を降りる。そうしてゆっくりと歩くこと一分ほどでエレベーターから直線状にある壁の本棚の前までたどり着いた。
そこまで来ると空間魔法で杖を出し、その場で地面を軽く突いた。

コツン――――。

その音が響いてからわずかな間の後、音もなく目の前の本棚が二つ手前両脇にせり出す。
二つの本棚はそのまま両方向にスライドし、もともと本棚のあった場所からは重厚な木材でできた両開きの大きな扉が姿を現した。
その扉の取っ手に手をかけ、扉を開ける。
中は薄暗く、壁にはうっすら発光する青い光の線が走っていた。見たままの様子はエレベーターと同じような雰囲気だ。
さらに奥へと進むと、大きなコンソールと黒いワークチェアが置いてある。
ワークチェアに腰かけ、コンソールに手を触れた。
するとそれに呼応するように手元のコンソール、正面の壁、左右の壁と言った順で様々な画面が表示される。
この部屋はいわば"観測所"だ。図書館の第二の機能である。
この図書館にはかなりの蔵書数を誇るが、その中でも十分の一は白紙の本だ。まだ何も書かれていないまっさらな状態の本がそれなりの数本棚に収められていることになる。
それはなぜか。答えはこの観測所で使用するためである。この観測所はあらゆる探知系の魔術を行使し、その結果を白紙の本に記す場所だ。
『遠見の魔術』ではなくなぜこのような大掛かりな施設を作ったのかと言うと、件のエルフの村を襲った誘拐事件が理由だ。
例の事件の首謀者は相当に頭が回るらしく、痕跡が全くと言っていいほど発見できなかった。
雇われの冒険者からも情報は得られず、魔術的な痕跡は全く残っていない程ではないものの、後を追えるほどの痕跡ではなかった。
となればこちらは次の動きを待つしかない。相手は他の集落に手を出していなければエルフを手に入れられていないはずだ。
ならば必ず次がある。エルフか、それとも別の種族か。それはまだわからないが、エフィルのような犠牲者をこれ以上出さないためにもこの観測所は必要になってくるだろう。
それに、自分自身の興味もある。何のためにあれだけの数のエルフを集めようとしたのか。ただ売り飛ばそうと考えているだけならあそこまで手の込んだ隠蔽工作はしないはずだ。
利益に比べて明らかにコストをかけすぎている。
その一端でも見つけられ手ばいいが……。
そう思いながら画面を見つめた。






所は変わって場所は空中庭園から遥か東の聖王国。聖王国の地から見ると、アトランティ王国から線を引くと、空中庭園が現在飛行している地点をおおよそな中点となるような位置関係だ。
そんな聖王国の王城、そこでは国王を中心とした国の上層部の人間たちが顔を突き合わせていた。
空気は重く、彼らのどの表情も決して明るいとはいいがたい。それだけでその場の議題についてうまく事が運んでいないことが計れた。


「このままではらちがあきませんぞ。時間もあまりないのですから、早急にどちらかに決めるべきかと」


そう発言するのは聖王国の騎士団をまとめる騎士団長、『ゴルドフ・マクフェリア』だ。
太陽の光を美しく反射させる銀色の大きな鎧に純白のマントを身に着けた身長は190センチメートルはあろうがたいの良い偉丈夫だ。この国の軍事における最高責任者である。先程から腕を組み、眉間にはしわを寄せてこの雰囲気の変わらない均衡状態の会議にストレスを感じている様子だ。


「そうは言ってもな……」


ゴルドフの意見を肯定するでもなく否定するでもないあやふやな意見を述べるのは属州総督の『ケネル・ソデス』だ。
身長は小さめで小太りな白髪頭、頭部の頂上はゴルドフの鎧のように室内に入る太陽の光を反射していた。
服装は白を基調としてはいるがゴルドフの鎧のような戦闘を生業とするようなものではなく、貴族が着るような装飾華美な動きにくそうな恰好だ。
ケネルの役割はその名の通り聖王国周辺の属州の行政を総督するものだ。その性格は堅実で、ひとたび危険が伴う可能性が判明すれば絶対にその手は使わないと言うほどの慎重派である。
なればこそこの会議の議題にはおいそれとは賛成も反対もすることができなかった。


「何を議論する必要がある!邪悪の権化である奴ら魔族を打ち滅ぼすことに躊躇する必要などない!!神は我々の行いをすべて見守っておられる。すなわち我々の勝利はすでに約束されておるのだ!!!」


この空間で誰よりも声を大にして魔族討伐を掲げているのは聖王国における聖教会の大神父『ランドレイク・コーネリウス』だ。
この世界における宗教は数多いが、その中でも魔道教と聖教会が二大宗教となっている。
どちらの信徒ももかなりの数が在籍しているが、聖教会は人間以外の信徒は許されず、特に魔族においては打ち滅ぼすことが正義としている。
それに対し、魔術の道を志す者だけでなくそれに救いを見出そうとするものは誰も拒まぬという姿勢を持っているため基本的には魔道教の方が信徒の数は多い。
しかし、ここ聖王国においては国教が聖教会なので今現在ランドレイが政治に介入しているように影響力は強くなっている。


何度もランドレイが妥当魔族を掲げているが、そのすべてがことごとく却下されている。
その理由は現在の聖王国の国力低下にある。
このところ大きな災害や不作の年が続き、国民の食生活が根底から崩れかけていた。
大雨、地震、干ばつ、疫病。更には魔物の増加や凶暴化まで見られる。
魔物はゴルドフを筆頭とした騎士団が、災害に対する祈祷はランドレイ率いる聖教会が行ってはいるが、それでもあまり効果はない。
悪化を食い止める、と言うよりは出来るだけ遅くしているといったところか。


「はぁ……」


もう何度目かもわからない進展しない会議に国王『フリードリ・フォン・ホーリィ』は大きくため息をつく。
すでに思いついた上で可能な手は尽くした。これ以上無理をすれば国がもたない。しかし、これ以上こらえられるほどこの国にはすでに貯えなどはない。
国教は聖教会だからと、大魔導士にも頼れない。
いや、それは違うな。そもそも、大魔導士など存在しているかすら危うい。そんなものを探しに行かせるような大遠征などしていたら事態はもっと深刻なものになっていただろう。


伝説の大魔導士など所詮はおとぎ話。架空の存在に助けを求めるなどワシももう歳か……。


そう考えながら、今日数十回目のため息をついた。




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