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大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

大好きな人

朝、もぞもぞと布団の中で動き出す。
目を瞑ったままの顔が心地のいい朝日の光で照らされている。
自分の長い髪が手に触れてみると、それだけで今自分の髪が寝ぐせですごいことになっているのが分かった。
自分の体温で温まった布団の中でぐーっと伸びをする。こうするのは故郷の村からの癖、と言うか慣習のような物で、自分の意識を覚醒させるための一種のルーティンだ。
寝ぼけ眼のままゆっくりと体を起こしてベッドに腰かけた状態になる。
横を見ると、すでに昨晩眠りにつくまであったふくらみとぬくもりがない。
ここ数日間は私が目を覚ます頃にはこうなっていることが多い。何やらこの空中庭園の中に多く点在する空き地の内、一番大きな土地に何か作るらしい。
その作業のために夜は私の就寝時間に合わせて寝てくれているが、朝はその分早く起きて行動しているらしい。
それもシグレの話によれば今日までのようだ。
どうやらその作業と言うのが本日付で終了するらしい。昨日の夕食の時に聞いた話では、何やら図書館を作っているような話をしていたと思う。


「それにしては随分と時間がかかっているのよね……」


ぼさぼさの寝癖を手串で何とかマシな状態にしながら思考を巡らせる。
以前私の村を修復してくれた時に見せたあの大規模な魔術。私ではどんな魔術の行使をしたのかなんて到底わからなかったけど、あれだけのことができるのだから図書館なんてあっという間に建てられそうなものだ。
といっても私の知る図書館と言うのは以前住んでいたエルフの村に訪れた各地を回っているという珍しいエルフの商人から話を聞いたくらいなもので、それなりに大きな建物でお金を払って自分の読みたい本を読むことができる場所、と言うくらいの認識しかない。
それとはまた別な物を作ろうとしているというなら私の頭に入っている情報からでは予測も何もそうしようもない。
そもそも今日中に出来上がってそれが見せてくれるというのだからそんなに難しく考える必要もないのではないかと言う所に行きつく。


「じゃあ、今日も朝ごはんの支度しなくちゃね」


ようやくまともになってきた髪から手を離し、朝食の準備、ひいてはその前に必要となる身支度を整えるために自室を後にした。






「よし、これでどうだろう」


右手にあるすでに役割を終えた杖を放り投げ、別空間にいつものようにしまう。
空は快晴、気温は温かく、風は少しだけ吹いている。
一言で言うといい天気だ。


「ふぅ、これで一仕事片付いたかな。よいしょ、っと」


足元の草むらに腰を下ろす。時間的にはそろそろエフィルが朝ごはんの支度をし始めるころだろうか。
ぼんやりと考え事をしながら向けられる視線の先には今しがた完成した巨大な施設があった。
否、見た目はさして大きくはない。
むしろ図書館と言うにしては平屋?で小さくさえ感じられる。


「別に上に大きくしてもかまわなかったんだけど、でもそうなると時間帯によって家に影がかかることになるってしまうからなぁ」


そう、ただ単純に高く階層を積み上げても別に問題はなかったのだが、それだと距離は多少あるとしても延長線上にある我が家が時間帯でその大きな影に覆われてしまうことになるのだ。
それはなんだか少し嫌な気がしたので、伸ばす方向を別にすることにしたのだ。
しかし、その見た目はなんだか地味で、豆腐をパックから取り出してそのまま皿に乗せたような見た目をしている。
デザイン性を言われてしまうと、もはや何も言えなくなってしまう見た目だ。
色もただ白い。ひたすらに真っ白だ。模様もなくただ真っ白な箱?豆腐?だ。
ま、まぁ、この辺は今後の改善点として、今は昨日さえ果たしてくれれば問題ないだろう。


「シグレー、朝ごはんできたわよー!」


そうこうしているうちに朝食が出来上がったようだ。いつの間にか家の方からは鼻孔をくすぐる良い香りが漂ってきている。
本来なら食事を必要としていない体にはなっているが、エフィルが来てからは極力食事や睡眠と言った生きていくという事に関して重要な部分では一緒に行動するようにしている。
流石に風呂やトイレは一緒ではないが……。
その方がきっと早くエフィルが心を開いてくれると思ったからだ。
一緒に住んでいる以上そうした方がいいだろうと俺が考え、エフィルもそれに賛成してくれた。
最も、自分自身の心のことはあまり進展してはいない。
今もまだ普段は真顔のままだ。エフィルいわく、本当にまれに表情を見せることはあるらしいが、それも一瞬でしかなく次の瞬間にはまた元の真顔に戻っているのだという。


「どうかしたの?大丈夫?」
「いや、なんでもない。今行くよ」


家の窓から顔を出してこちらに手を振るエフィルにこちらも軽く手を振りながら返事をする。
無理に今難しいことを考えるより、今はエフィルの朝食のことを考えることにしよう。
先程までの今日の朝食に少し心を躍らせながら、愛する妻の待つ食卓へ向かった。






朝食を済ませ、再度例の豆腐もどきの前にやってくる。
エフィルの今の服装は、霊の服屋で先日出来上がったものを引き取りに行ったオーダーメイドの服だ。
エルフの伝統的なデザインを多く取り入れた服装で、上下ともに締め付けは少なく、ゆとりを持った設計のようだ。
色は薄黄緑と白を主だったものとし、刺繍などの装飾に黄色や濃い緑が使われている。
凡庸な感想だが、エフィルの美しい金髪と相まってとても似合っている。それを着ているだけで、いつもの笑顔の美しさがさらに引き立てられるようだ。
しかし、今のエフィルの表情はいささか引きつったものだった。
"ソレ"の前に立ったエフィルの初見の感想も恐らく俺が完成したときに思ったことと大差ないであろうことはその表情から簡単に読み取れる。


「こ、これが噂の図書館なのね」
「噂かどうかはわからないけど一応は……ね。とりあえず中に入ってみようか」


豆腐もどきに歩み寄り距離はどんどん縮まっていくが、その壁にはくぼみどころか一つの線も入っていない。
ただまっすぐ切れ目のない壁が地面から立っているようにしか見えなかった。


「これ、いったいどこから中に入れるの?どこにも扉になりそうな場所は無いけれど……」
「ああ、それは問題ないよ。こうして手を―――」


手を特にどこかめがけてというわけでなく壁に触れさせる。
ピタッ、その何気ない音と手のひらの感触に反応したかのように、触れた場所を起点とした緑色の光の波紋が素早く三回発生する。
波紋は目の前に鎮座する直方体に規則的に広がる。
波紋が消えて数秒後、手のひらを触れた箇所がいくつもの小さな立方体になって上下左右に消えていく。
その場所には先ほどまでの壁が消えて現れた扉の形をした暗闇の空間だけが残った。


「な、なにこれ……」
「これで中に入れるよ」
「初めてシグレの家でお風呂に入ってから思ってたんだけど……」


と言いながらセフィラが訝し気にじっとこちらを見る。


「シグレっていったいどこからこんな知識を身に着けてきたの…?」
「どこから、と言われてもなぁ。いろんなとこからとしか言いようがないんだけど」


違う世界の存在しなかった技術を魔術や魔法を使って再現しましたなんて言えないしな…。
いや、よくよく考えてみれば別に誰に禁止されているわけでもなし特別異世界人であることを言わないようにする理由などなかった。
だがある日突然親しい相手に「あっ、俺異世界人だから。おっすおっす」などと言われることを想像してみてほしい。
正直言って気が触れたとしか思えない。
何か手ごろで適当な言い訳はないものか。


「これは――俺が最近考えた新しい魔術なんだ。だからエフィルが知らないのも無理もない。なんたってまだ世界で俺の頭の中にしかこの技術の理論は無いからね」
「そうだったのね!流石はシグレだわ!」

我ながら結構いい言い訳を考えたもんだと自分自身を心の中でほめる。
しかし、それにしてもエフィルが予想以上にちょろかった。
もし今度街で別行動でもしようものならその辺の不審者にあっさりと誘拐されそうだ。
後で少し注意を促して置くことにしよう……。
そんな一抹の不安をいったん他所にやり、暗闇の中に入っていく。
二人が建物内に入ると、それを感知して周囲に灯りが付き始める。
それはこの世界に存在しているランプや魔術などのどのような光とも違う発光の仕方をしていた。
要するに電気だ。
地面や壁に線が走るようにうっすらと青い光が淡く輝いている。
しかし、照らされた室内は外から見た外見とは打って変わって狭く見える。
地面や壁の光は自分たちを囲むように円を描いており、大きな円柱の中にいるのだという事がわかる。


「図書館って私が聞いたことのある話だと本がたくさんある場所だったんだけど、もしかして嘘だったのかな?」
「いや、図書館についてはエフィルが考えているようなもので大方間違っていないと思うよ」
「え?でも……」


エフィルの疑問はもっともである。
今自分たちがいるのは外側の直方体のサイズから考えてその4分の一もないような小さな円柱状の部屋だ。
本はおろか、その大量の本たちを収めておけるようなサイズの空間もない。
一体シグレは何を言っているのか。
そう思った時、エフィルの体がぐらりと揺れた。


「きゃっ!?な、なにが起こったの!?」


エフィルの体はゆったりとした浮遊感に包まれており、今まで感じたことのない感覚に多少の恐怖を覚えた。


「大丈夫だよエフィル。なれないと少しこの感覚は苦手かもね。すぐに終わるだろうけど、怖いなら手をつないでいよう」


そう言って手をエフィルに差し伸べる。
するとエフィルは予想以上にうれしそうな顔をして躊躇することなく握り返してくれた。
毎日一緒に寝ているおかげか、こういった些細な触れ合いは問題なく行えるようになっていた。
彼女の俺に対する警戒心はすでに無くなっているようだ。最初のころはこの世のすべてを憎むような眼で剣を向けてきたというのに。
その大きな変化に喜ばしさを感じる。


――――――喜ばしさを感じる?


その時、俺は自身の大きな変化にようやく気が付いた。
俺は、エフィルに信頼されて喜んでいるのか?
俺が自身の中の"感情"に戸惑っていると、エフィルが嬉しそうな顔でこちらを向く。


「あっ、シグレが笑ってる!最近はそういうのが増えてきてうれしいわ」


そういいながらエフィルはまるで我が事のように喜んでくれるた。
今まで度々エフィルに指摘されてはいたのでもしやとは思っていたが……。
どうやらエフィルのおかげで俺の感情は熱を取り戻しつつあるらしい。
今まで何かにせき止められて小さな湧き水のような感情だったのが、自覚したことでかそれともエフィルの笑顔のおかげでか一気にその量を増した気がした。まだ完全ではない。
しかし、これが大きな一歩に違いはない。


ああ、そうか。これがうれしい、喜びか。


久々に直に感じる感情を目を閉じて自身の中にいつくしむように巡らせる。
少しだけ強くエフィルの手を握り返し、エフィルと見つめ合う。


「ありがとうエフィル。君のおかげで少しだけ今までより自分に素直になれそうだ。本当にありがとう」


エフィルは、ぎゅっと握り返された手とその言葉に多少の戸惑いを覚えたが、すぐに笑顔でこう答えた。


「どういたしまして!だって、大好きな人のためだもの!」


その言葉に二人で小さく笑い合う。
この"エレベーター"が図書館に到着するまで、二人は手を握ったままあたたかな雰囲気に包まれていた。




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