大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。
クリスマス特別編
「だからサンタクロースよ!!」
「えぇっと…私エフィルが何を言っているのかちょっとよくわからないんだけど……」
暖色のランプ、暖炉のあたたかな灯りに照らされる室内で、エルフの少女『エフィル』が美しい金色の長髪を振りまきながら、エフィルとは対照的な銀髪と、エフィルと同じ真っ白な肌。青い瞳が特徴的な少女に対して謎の熱弁を振るっている。
エフィルはなぜこの感動と熱意が伝わらないのかと感情を爆発させているが、銀髪の少女にはまったくそれらが伝わっていない様子だった。
そもそもで文章に脈絡がなさすぎるのが主な原因である。それなのにこれ以上更に感情的になってしまえば伝えたいことが伝わるはずもない。
「まぁまぁ、彼女もお困りのようですし、少し落ち着いてはいかがですか」
そうエフィルを宥めるのは赤みがかった茶髪でくるりとまいたショートボブが似合う少女だ。
その頭には小さなティアラの形を模した髪飾りがのっている。
「そ、そうね。少し私も興奮しすぎたかもしれないわね」
「少し…ねぇー」
「すっ、少しよ!少しだったわよね!?」
「はいはいーっと」
そうエフィルをおちょくるのは薄紫のツインテールの少女だ。肌はこの部屋にいる四人のなかで唯一の褐色で、体格も一番華奢なのが特徴と言えるだろう。
「それで?そのサン――なんとかって、なんなの?」
そう褐色の少女がエフィルに問う。
すると先ほどの興奮と元気を取り戻したように表情が明るくなり、饒舌に語りだした。
「そう!その話がしたかったのよ!サンタクロース!サンタクロースよ!!」
「サンタ、クロース?それはどのような物なのですか?」
サンタクロースを連呼するエフィルに対してティアラの少女がサンタクロースなるものについて疑問を投げかけた。
「違うわよ!サンタクロースは人の名前なの。毎年シグレのいた国で今夜子供たちにプレゼントをたった一人で誰にも見つからずに配るすごい魔法使いなのよ!————って、シグレが言ってたわ」
魔法使い、と言う単語に対して褐色の少女が寝転がっていたソファから飛び起きる。
「へぇ、サンタクロースって魔法使いなんだ!」
「それは――ちょっとだけ興味あるかも」
褐色の少女の反応に対して銀髪の少女が少しばかり同調する。
「何と言ってもあのシグレ様がすごい魔法使いだとおっしゃるお方ですから、きっと本当に高名な魔法使いなのでしょうね。それでもこの国までその名が轟いていないのは例の『誰にも見つからない』という点が関係しているのでしょうか」
「そこは私にもわからないけれど…。ハッ!」
エフィルがそんなことを話している場合ではなかったといわんばかりに立ち上がる。
「そう!そうよ!サンタクロースよ!!」
「エフィル、それさっきも聞いた」
「そうだよ、そこはもういいから」
「まぁまぁ、お二人とも。エフィルにもエフィルなりの考えがあるのでしょう」
エフィルが暴走し、銀髪の少女と褐色の少女が呆れ、ティアラの少女が宥める。
ここまでがここ最近では完全に定着したパターンである。
「そのサンタクロースが今年はこの街に来るらしいのよ!」
その言葉を聞いた他の三人は三者三様の反応を見せた。
「プレゼント…私ももらえるかな……」
――と銀髪の少女。自分のために渡されたたくさんの素敵なプレゼントを想像し、恍惚とした表情で空中を見つめている。
「そんなすげえ魔法使いが今夜この街に!?これは捕獲するしかないでしょ!!」
――と褐色の少女。頭の中はサンタクロース捕獲作戦立案でせわしなく稼働しており、どれが最も効率よく確実にサンタクロースを捕獲できるかの検討中である。
なお、プレゼントのことは完全に頭から抜けている模様。
「そのようなお方がまさかこの街に来ていらっしゃるのですか。それは素晴らしいことですね。やはりこれもシグレ様のお力があってこそなのでしょうか」
――とティアラの少女。唯一落ち着いた状態で微笑んでおり、自分以外の三人を見てはまた微笑みをこぼす。
プレゼントをもらえるかもしれないという期待はあるものの、彼女の中では家族で幸せなクリスマスと言う初めてのイベントを楽しめることの方が心が躍るらしい。
そしてエフィルがティアラの少女の発言に対して訂正を入れる。
「でもまだサンタクロースはまだこの街にはいないらしいのよ。何でもサンタクロースは動物と意思疎通ができて空を飛ぶ神獣の『トナカーイ』とか言う名前の鹿が空中をサンタクロースとプレゼントを乗せた『ソリ』とか言う乗り物を引いて真夜中にやってくるらしいわ。しかもサンタクロースのソリが通った後の空には白いきれいな線が走っていて、美しい鈴の音が響き渡っているらしいの!」
「まぁ!それは素敵ですね」
ティアラの少女が今日一番の反応を見せる。サンタクロースの空をかける姿と鈴の音色を想像したのだろう。
しかし、エフィル以外の三人はエフィルからまだ大事な話を聞いていない。
「そういえばそのサンタクロースっていう魔法使いはいったいどんな見た目なのさ。それがわからなきゃ捕まえようがないよー」
そういいながら褐色の少女はお手上げといったように両手を上げて肩をすくめる。
「そういえばまだ言ってなかったわね。サンタクロースは、真っ赤なコートに真っ赤なズボン。それに真っ赤な帽子をかぶっているらしいの。それぞれに白いもこもこな装飾が施されていて、極めつけは背中にプレゼントが入った大きな袋を背負っているらしいわ」
「サンタクロースさんはもこもこなんだ。―――お願いしたら触らせてもらえるかな……」
その話を聞いてようやく思い出したように褐色の少女が「あっ」と小さく声を上げる。
「そういえばサンタクロースを捕まえる事ばっかり考えててプレゼントをもらうこと忘れてた……。あっ!でも捕まえた後にその袋から私にくれる予定だったプレゼントを奪い取れば――」
と言いかけたところでエフィルが褐色の少女の言葉を遮る。
「サンタクロースはいい子にしてないとプレゼントくれないらしいわよ」
「な、なんだってぇー!?」
驚愕、と言わんばかりに両手で頭を抱えて後ろへのけぞる。
「そっ、それならあくまでいい子を装ってサンタクロースを捕まえるってのは?これも駄目なの?」
「ダメかどうかはわかりませんが…。もし私たちにプレゼントがあってあなただけ無いというのも寂しいのでは?」
「それもそう、だけどぉ」
「私も…今回は諦めた方がいいと思う、かな」
「二人がそういうなら……今回は我慢するよ……」
そう言ってようやく褐色の少女はサンタクロース捕獲作戦の決行を断念した。
しかし、そうするとまた別に疑問が浮かび上がって来る。
「でもさ、誰にも見られないのにどうやってアタシ達にプレゼントを渡しに来るのさ」
「それは私も気になるかな」
「わたくしもです」
三人の視線が交わった後、一斉にエフィルに向けられる。
するとエフィルは待ってましたと言わんばかりに答えた。
「サンタクロースは夜中子供たちが寝静まった後、部屋の中にひっそりと侵入して枕元なんかにそっとプレゼントを置いて去っていくのよ!」
「それだけ聞くとなんだかすごい不審者みたいなんだけど……」
「ですがシグレ様がすごい魔法使いと褒めるほどのお方ですし、おかしなことはしないのではありませんか?それほどの方ならば、そのようなことをせずとも大抵のものは手に入るでしょうし」
「私も別に心配はしてない、よ?シグレのこと、信じてるから……」
「べ、別にアタシだってシグレのこと疑ってるわけじゃないよ!?」
二人の意見を聞いて慌てて褐色の少女は意見を訂正する。
その慌てた様子を見た銀髪の少女とティアラの少女に笑われてしまい、そこでようやく自分はからかわれたと気づいた褐色の少女は、顔を赤くして少し不服そうにソファに座りなおした。
「ともかく、ひとまず今は今夜のパーティーを成功させましょう!」
そのエフィルの掛け声に同意し、四人はパーティーの準備に取り掛かるのだった。
◇
ふぅーっと灰の中から空気を吐き出してみれば、目の前には真っ白な息が出る。
楽しい家族でのクリスマスパーティーを終え、彼女たちを寝付かせて急いで準備をしてきた。
周囲の民家からはほとんど灯りが消え、ぽつぽつと残っている光もじき消えることだろう。
それでも今俺が立っているこの木のほのかな灯りはいつになっても光り続けているが。
「この国ができるまでは、まさか俺がサンタクロースをやることになるなんて夢にも思わなかったよ。現実は小説より奇なりとはよく言ったものな」
本来なら冷たいであろう多少涼しげな程度の夜風に吹かれてなびくコートや帽子は真っ赤に染め上げられている。
そしてその要所には真っ白な装飾が施されている。
「さてと、時間だ。早くプレゼントを配り終わって四人が待つ家に帰らなくちゃ」
そういいながら足元に魔方陣を展開し、その姿を消す。
夜空には謎の白い軌跡と美しい鈴の音が鳴り響いていた。
「えぇっと…私エフィルが何を言っているのかちょっとよくわからないんだけど……」
暖色のランプ、暖炉のあたたかな灯りに照らされる室内で、エルフの少女『エフィル』が美しい金色の長髪を振りまきながら、エフィルとは対照的な銀髪と、エフィルと同じ真っ白な肌。青い瞳が特徴的な少女に対して謎の熱弁を振るっている。
エフィルはなぜこの感動と熱意が伝わらないのかと感情を爆発させているが、銀髪の少女にはまったくそれらが伝わっていない様子だった。
そもそもで文章に脈絡がなさすぎるのが主な原因である。それなのにこれ以上更に感情的になってしまえば伝えたいことが伝わるはずもない。
「まぁまぁ、彼女もお困りのようですし、少し落ち着いてはいかがですか」
そうエフィルを宥めるのは赤みがかった茶髪でくるりとまいたショートボブが似合う少女だ。
その頭には小さなティアラの形を模した髪飾りがのっている。
「そ、そうね。少し私も興奮しすぎたかもしれないわね」
「少し…ねぇー」
「すっ、少しよ!少しだったわよね!?」
「はいはいーっと」
そうエフィルをおちょくるのは薄紫のツインテールの少女だ。肌はこの部屋にいる四人のなかで唯一の褐色で、体格も一番華奢なのが特徴と言えるだろう。
「それで?そのサン――なんとかって、なんなの?」
そう褐色の少女がエフィルに問う。
すると先ほどの興奮と元気を取り戻したように表情が明るくなり、饒舌に語りだした。
「そう!その話がしたかったのよ!サンタクロース!サンタクロースよ!!」
「サンタ、クロース?それはどのような物なのですか?」
サンタクロースを連呼するエフィルに対してティアラの少女がサンタクロースなるものについて疑問を投げかけた。
「違うわよ!サンタクロースは人の名前なの。毎年シグレのいた国で今夜子供たちにプレゼントをたった一人で誰にも見つからずに配るすごい魔法使いなのよ!————って、シグレが言ってたわ」
魔法使い、と言う単語に対して褐色の少女が寝転がっていたソファから飛び起きる。
「へぇ、サンタクロースって魔法使いなんだ!」
「それは――ちょっとだけ興味あるかも」
褐色の少女の反応に対して銀髪の少女が少しばかり同調する。
「何と言ってもあのシグレ様がすごい魔法使いだとおっしゃるお方ですから、きっと本当に高名な魔法使いなのでしょうね。それでもこの国までその名が轟いていないのは例の『誰にも見つからない』という点が関係しているのでしょうか」
「そこは私にもわからないけれど…。ハッ!」
エフィルがそんなことを話している場合ではなかったといわんばかりに立ち上がる。
「そう!そうよ!サンタクロースよ!!」
「エフィル、それさっきも聞いた」
「そうだよ、そこはもういいから」
「まぁまぁ、お二人とも。エフィルにもエフィルなりの考えがあるのでしょう」
エフィルが暴走し、銀髪の少女と褐色の少女が呆れ、ティアラの少女が宥める。
ここまでがここ最近では完全に定着したパターンである。
「そのサンタクロースが今年はこの街に来るらしいのよ!」
その言葉を聞いた他の三人は三者三様の反応を見せた。
「プレゼント…私ももらえるかな……」
――と銀髪の少女。自分のために渡されたたくさんの素敵なプレゼントを想像し、恍惚とした表情で空中を見つめている。
「そんなすげえ魔法使いが今夜この街に!?これは捕獲するしかないでしょ!!」
――と褐色の少女。頭の中はサンタクロース捕獲作戦立案でせわしなく稼働しており、どれが最も効率よく確実にサンタクロースを捕獲できるかの検討中である。
なお、プレゼントのことは完全に頭から抜けている模様。
「そのようなお方がまさかこの街に来ていらっしゃるのですか。それは素晴らしいことですね。やはりこれもシグレ様のお力があってこそなのでしょうか」
――とティアラの少女。唯一落ち着いた状態で微笑んでおり、自分以外の三人を見てはまた微笑みをこぼす。
プレゼントをもらえるかもしれないという期待はあるものの、彼女の中では家族で幸せなクリスマスと言う初めてのイベントを楽しめることの方が心が躍るらしい。
そしてエフィルがティアラの少女の発言に対して訂正を入れる。
「でもまだサンタクロースはまだこの街にはいないらしいのよ。何でもサンタクロースは動物と意思疎通ができて空を飛ぶ神獣の『トナカーイ』とか言う名前の鹿が空中をサンタクロースとプレゼントを乗せた『ソリ』とか言う乗り物を引いて真夜中にやってくるらしいわ。しかもサンタクロースのソリが通った後の空には白いきれいな線が走っていて、美しい鈴の音が響き渡っているらしいの!」
「まぁ!それは素敵ですね」
ティアラの少女が今日一番の反応を見せる。サンタクロースの空をかける姿と鈴の音色を想像したのだろう。
しかし、エフィル以外の三人はエフィルからまだ大事な話を聞いていない。
「そういえばそのサンタクロースっていう魔法使いはいったいどんな見た目なのさ。それがわからなきゃ捕まえようがないよー」
そういいながら褐色の少女はお手上げといったように両手を上げて肩をすくめる。
「そういえばまだ言ってなかったわね。サンタクロースは、真っ赤なコートに真っ赤なズボン。それに真っ赤な帽子をかぶっているらしいの。それぞれに白いもこもこな装飾が施されていて、極めつけは背中にプレゼントが入った大きな袋を背負っているらしいわ」
「サンタクロースさんはもこもこなんだ。―――お願いしたら触らせてもらえるかな……」
その話を聞いてようやく思い出したように褐色の少女が「あっ」と小さく声を上げる。
「そういえばサンタクロースを捕まえる事ばっかり考えててプレゼントをもらうこと忘れてた……。あっ!でも捕まえた後にその袋から私にくれる予定だったプレゼントを奪い取れば――」
と言いかけたところでエフィルが褐色の少女の言葉を遮る。
「サンタクロースはいい子にしてないとプレゼントくれないらしいわよ」
「な、なんだってぇー!?」
驚愕、と言わんばかりに両手で頭を抱えて後ろへのけぞる。
「そっ、それならあくまでいい子を装ってサンタクロースを捕まえるってのは?これも駄目なの?」
「ダメかどうかはわかりませんが…。もし私たちにプレゼントがあってあなただけ無いというのも寂しいのでは?」
「それもそう、だけどぉ」
「私も…今回は諦めた方がいいと思う、かな」
「二人がそういうなら……今回は我慢するよ……」
そう言ってようやく褐色の少女はサンタクロース捕獲作戦の決行を断念した。
しかし、そうするとまた別に疑問が浮かび上がって来る。
「でもさ、誰にも見られないのにどうやってアタシ達にプレゼントを渡しに来るのさ」
「それは私も気になるかな」
「わたくしもです」
三人の視線が交わった後、一斉にエフィルに向けられる。
するとエフィルは待ってましたと言わんばかりに答えた。
「サンタクロースは夜中子供たちが寝静まった後、部屋の中にひっそりと侵入して枕元なんかにそっとプレゼントを置いて去っていくのよ!」
「それだけ聞くとなんだかすごい不審者みたいなんだけど……」
「ですがシグレ様がすごい魔法使いと褒めるほどのお方ですし、おかしなことはしないのではありませんか?それほどの方ならば、そのようなことをせずとも大抵のものは手に入るでしょうし」
「私も別に心配はしてない、よ?シグレのこと、信じてるから……」
「べ、別にアタシだってシグレのこと疑ってるわけじゃないよ!?」
二人の意見を聞いて慌てて褐色の少女は意見を訂正する。
その慌てた様子を見た銀髪の少女とティアラの少女に笑われてしまい、そこでようやく自分はからかわれたと気づいた褐色の少女は、顔を赤くして少し不服そうにソファに座りなおした。
「ともかく、ひとまず今は今夜のパーティーを成功させましょう!」
そのエフィルの掛け声に同意し、四人はパーティーの準備に取り掛かるのだった。
◇
ふぅーっと灰の中から空気を吐き出してみれば、目の前には真っ白な息が出る。
楽しい家族でのクリスマスパーティーを終え、彼女たちを寝付かせて急いで準備をしてきた。
周囲の民家からはほとんど灯りが消え、ぽつぽつと残っている光もじき消えることだろう。
それでも今俺が立っているこの木のほのかな灯りはいつになっても光り続けているが。
「この国ができるまでは、まさか俺がサンタクロースをやることになるなんて夢にも思わなかったよ。現実は小説より奇なりとはよく言ったものな」
本来なら冷たいであろう多少涼しげな程度の夜風に吹かれてなびくコートや帽子は真っ赤に染め上げられている。
そしてその要所には真っ白な装飾が施されている。
「さてと、時間だ。早くプレゼントを配り終わって四人が待つ家に帰らなくちゃ」
そういいながら足元に魔方陣を展開し、その姿を消す。
夜空には謎の白い軌跡と美しい鈴の音が鳴り響いていた。
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