大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。
一つの終結と始まり
部屋の中には荷造りをする際の布と布がこすれたり物と物が小さくぶつかり合う音だけが響いている。
「セフィラ。君は、本当は気が付いていたんじゃないのか?」
「…………」
セフィラが村に帰ると決まり、村に持って行く荷物を整理している途中。セフィラに少し気になったことを聞いて見たいと思った。
セフィラは荷造りの手を止めるが、無表情のまま何も言わない。
「別に怒っているとかそういうわけではないんだ。ただ少し気になっただけさ。君はエフィルがなぜ君をこの家にとどまらせたいと考えていたのか、君はすべてわかっていたんじゃないのか?」
俺の問いから一瞬の沈黙がながれる。
するとセフィラが諦めたような顔で口を開いた。
「――ええ、そうですね。そうかもしれません」
そういうと、小さな笑みを浮かべて先ほどのような少し寂し気な表情になる。
「おねえちゃんはきっと私たちの村が襲われたことに責任……と言うか、やるせなさを感じていしまっていると思うんです。だから私は――おねえちゃんがいないときもしっかりやっていけるよって、証明して少しでも安心してもらいたかったのかも、しれません」
話し方に少し不安感を感じるあたりは、彼女自身もはっきりとは自分自身の思いを理解しきれてはいないのかもしれない。
感情とは難しいものだ。それについては誰よりも俺が一番わかっている。
「そうか……」
「はい……。あ、それはそうとシグレさん」
「うん?どうかしたのかい?」
今まで背を向けていたセフィラはくるりとこちらに向き直り、二つの可愛らしいおさげがふわりと跳ねる。
「おねえちゃんのこと、泣かせたら承知しませんからね!」
◇
「なに?エルフの素体がどこかへ消えただと?」
シグレがエルフの村人たちを奪還してから2週間ほどたったある日。
薄暗い部屋の中、大きな水槽の前で白髪の男が部下の報告を受けて振り返る。
その眉間には不快しわが寄っており、もともとの強面と相まって相当な機嫌の悪さがうかがえた。
その視線を目の前にたたずむ部下から思案するように横に反らす。
しばらくの間その状態で思案している様子であったが、いくつかのあきらめが付いたのか大きなため息の後に部下へと視線を戻した。
「その原因はわかっているのか」
「いえ、詳細はまだ判明しておりません。しかし、雇った傭兵二人はその場にいた痕跡はあるものの発見屋敷にはおらず、屋敷の地下牢には何か強大な魔術を発生させた痕跡を発見しました」
「魔術の痕跡だと?」
白髪の男の深かった眉間のしわがさらに深く刻まれる。
男はまず一番にエルフの村の者たちが仲間を奪い返しに来たのだと考えた。しかし、すぐにその考えは自己の中で否定される。
あの場所には下級の魔術程度なら妨害できる術式を仕込んであったはずだ。それを弾くか無力化できるなればエルフの一族だけの手ではないはずだ。そもそもあれだけ離れたエルフの村からそれなりに腕の立つあの傭兵二人を倒せるだけの人数を連れてくるとしたら相当目立つ。それなら今の今まで情報が回ってきていないのはおかしい。
それだけこの計画については過剰なほどに慎重に、ただひたすらに慎重に動いている。
慢心などもってのほかだ。常に警戒は怠らず、どこぞの国の密偵など入る余地などないはず。
ならばなぜこの事態が起きたのか。その問いに対する解は単純明快だ。
「ただ、相手の策が私の策より上を行ったというだけのこと……か」
そのことばを聞いた男の部下は悔しそうに唇を噛む。
「申し訳ありません……。私が不甲斐ないばかりに……」
「自惚れるな。私が阻止できなかった事態をお前ごときがどうにかできるとは思えん。ならば今は過去の失敗を叱責し続けるのではなく、次以降の先のことを見据えよ」
「――御意」
「ならば、もう下がってよい」
その言葉を聞き届け、部下の男は闇に紛れて消える。
白髪の男は再び大きなため息をつくと、元あったように大きな水槽の前に向き直る。
その水槽のガラス対し、まるで小さな割れかけの結晶にでも触れるかのようにそっと手を添える。
「ああ、ああ。もうすぐだ、もうすぐだとも。我が念願、ようやく叶うのだ。ああ、お前を必ず完成させて見せる。待っていておくれ、『シメーレ』」
先程までの威圧的な雰囲気はどこかへと消え失せ、懇願、感謝、悲哀、期待、様々な感情が入り混じった声を発する。
しかし、水槽の中から返答などはまったく返っては来ない。
その水槽の中には一人の少女が浮かんでいた。
少女、と言うにはあまりにも突飛な表現と言えるその体は、人間の頭部とドワーフの手だけコポコポと水泡の音を立てる水槽の中に浮かんでいた。
「エルフの胴体、手に入らないのならば致し方があるまい。別の代用品を用意する必要がある」
そう呟いた白髪の男の瞳の奥には、明確な意思と固い決意の炎が揺らいでいた。
「セフィラ。君は、本当は気が付いていたんじゃないのか?」
「…………」
セフィラが村に帰ると決まり、村に持って行く荷物を整理している途中。セフィラに少し気になったことを聞いて見たいと思った。
セフィラは荷造りの手を止めるが、無表情のまま何も言わない。
「別に怒っているとかそういうわけではないんだ。ただ少し気になっただけさ。君はエフィルがなぜ君をこの家にとどまらせたいと考えていたのか、君はすべてわかっていたんじゃないのか?」
俺の問いから一瞬の沈黙がながれる。
するとセフィラが諦めたような顔で口を開いた。
「――ええ、そうですね。そうかもしれません」
そういうと、小さな笑みを浮かべて先ほどのような少し寂し気な表情になる。
「おねえちゃんはきっと私たちの村が襲われたことに責任……と言うか、やるせなさを感じていしまっていると思うんです。だから私は――おねえちゃんがいないときもしっかりやっていけるよって、証明して少しでも安心してもらいたかったのかも、しれません」
話し方に少し不安感を感じるあたりは、彼女自身もはっきりとは自分自身の思いを理解しきれてはいないのかもしれない。
感情とは難しいものだ。それについては誰よりも俺が一番わかっている。
「そうか……」
「はい……。あ、それはそうとシグレさん」
「うん?どうかしたのかい?」
今まで背を向けていたセフィラはくるりとこちらに向き直り、二つの可愛らしいおさげがふわりと跳ねる。
「おねえちゃんのこと、泣かせたら承知しませんからね!」
◇
「なに?エルフの素体がどこかへ消えただと?」
シグレがエルフの村人たちを奪還してから2週間ほどたったある日。
薄暗い部屋の中、大きな水槽の前で白髪の男が部下の報告を受けて振り返る。
その眉間には不快しわが寄っており、もともとの強面と相まって相当な機嫌の悪さがうかがえた。
その視線を目の前にたたずむ部下から思案するように横に反らす。
しばらくの間その状態で思案している様子であったが、いくつかのあきらめが付いたのか大きなため息の後に部下へと視線を戻した。
「その原因はわかっているのか」
「いえ、詳細はまだ判明しておりません。しかし、雇った傭兵二人はその場にいた痕跡はあるものの発見屋敷にはおらず、屋敷の地下牢には何か強大な魔術を発生させた痕跡を発見しました」
「魔術の痕跡だと?」
白髪の男の深かった眉間のしわがさらに深く刻まれる。
男はまず一番にエルフの村の者たちが仲間を奪い返しに来たのだと考えた。しかし、すぐにその考えは自己の中で否定される。
あの場所には下級の魔術程度なら妨害できる術式を仕込んであったはずだ。それを弾くか無力化できるなればエルフの一族だけの手ではないはずだ。そもそもあれだけ離れたエルフの村からそれなりに腕の立つあの傭兵二人を倒せるだけの人数を連れてくるとしたら相当目立つ。それなら今の今まで情報が回ってきていないのはおかしい。
それだけこの計画については過剰なほどに慎重に、ただひたすらに慎重に動いている。
慢心などもってのほかだ。常に警戒は怠らず、どこぞの国の密偵など入る余地などないはず。
ならばなぜこの事態が起きたのか。その問いに対する解は単純明快だ。
「ただ、相手の策が私の策より上を行ったというだけのこと……か」
そのことばを聞いた男の部下は悔しそうに唇を噛む。
「申し訳ありません……。私が不甲斐ないばかりに……」
「自惚れるな。私が阻止できなかった事態をお前ごときがどうにかできるとは思えん。ならば今は過去の失敗を叱責し続けるのではなく、次以降の先のことを見据えよ」
「――御意」
「ならば、もう下がってよい」
その言葉を聞き届け、部下の男は闇に紛れて消える。
白髪の男は再び大きなため息をつくと、元あったように大きな水槽の前に向き直る。
その水槽のガラス対し、まるで小さな割れかけの結晶にでも触れるかのようにそっと手を添える。
「ああ、ああ。もうすぐだ、もうすぐだとも。我が念願、ようやく叶うのだ。ああ、お前を必ず完成させて見せる。待っていておくれ、『シメーレ』」
先程までの威圧的な雰囲気はどこかへと消え失せ、懇願、感謝、悲哀、期待、様々な感情が入り混じった声を発する。
しかし、水槽の中から返答などはまったく返っては来ない。
その水槽の中には一人の少女が浮かんでいた。
少女、と言うにはあまりにも突飛な表現と言えるその体は、人間の頭部とドワーフの手だけコポコポと水泡の音を立てる水槽の中に浮かんでいた。
「エルフの胴体、手に入らないのならば致し方があるまい。別の代用品を用意する必要がある」
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