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大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

もしかしたらの希望

あまりに唐突な申し出にあんぐりと口を開けて驚くしかできない。
本当にさっきからこの男は何を言っているんだろうか。
いきなり私を連れ去ったと思ったらお嫁さん?頭がおかしいのだろうか。
それともかわいそうな人?
いや、そこは今それほど重要――だけど重要ではない。


「お嫁さんって、あなた…私のこと奴隷にするかどこかに売り飛ばすために連れてきたんじゃないの?」


兵士から奪い取った剣は構えたままで問う。


「え?どうして?俺はそんなこと言ってない――よね?うん。言ってない。言って、ないよ。うん」


どうしてそんなに自信なさげなんだ。別にお前の発言に対して言ったわけじゃなないわ。
そう突っ込みたくなる気持ちをぐっと抑えて続ける。


「私はエルフよ?見世物にするなり貴族に売ればそれなりにお金になると思うのだけど」
「確かにそうだけど、俺は別にお金に困ってないよ」
「そ、そういう問題なのかしら」
「とりあえずこの手足についてる枷外しちゃおうか」
「鍵をもってるの?一体いつの間に――」
「鍵は持ってないけど、えい」


男が指先を空中で横に軽く振ると私の足首と手首についいていた鎖と稼がスッと消える。
鍵が外れるとか力で壊すなんて物理的な話ではない。文字通りそこから消えたのだ。


「い、今あなた何をしたの」
「え?枷を外した。かな?」
「そ、そうじゃなくて…ああ、もう」


なんだかこの男と話してると調子が狂う。
もしかしてそれが狙いなのかもしれない。こっちが向こうのペースに乗せられている間に話を進めてどこかに監禁するとか。
なんにせよ向こうが本気で私を妻にするつもりならそれを利用しない手はない。


「本気で私を妻にするつもりなの?」
「うん」
「いいわ、貴方の言う通りに言う事を聞く。でもその代わり私の願いを聞いて欲しいの」
「お願い?いいよ、なんでも叶えてみせよう。人の命を作り出す以外ならね」


なんでもとは随分大見得を切ったものだ。
だが、それだけなにかの分野で力がある人物なら私にとっても好都合だ。
私は、何が何でも、私は――――。


「私を故郷の村まで連れて行って欲しいの」





なんとか承諾してもらえて良かった。
彼女に空中庭園を案内しながら考える。
何か気の利いたプロポーズの仕方が特に思いつかなかったため、ど直球もど直球、一切曲がることのないドストレートで思いを伝えてみたが、予想以上に簡単にOKがもらえた。
口ぶりからするにどうやら向こうにも思惑があるようだが、それはそれでいいだろう。
自分に全く利益がないのに初対面の相手にプロポーズされて簡単に受けるような人間がいたらそれはそれで驚きだ。


「ここが今日から君が住む家だよ。なにか不便があったら言ってくれれば直すから。というか名前をまだ聞いてなかったね」
「そういえばそうね。私の名前はエフィルよ。これからよろしくね」
「ああ、よろしくエフィル」


随分値踏みするように俺やこの空中庭園のことを見ている。
やはり奴隷を経験しているだけあってかなり信用できない相手に対する警戒が強いようだ。
これしばらく経ってもロクに口を聞いてもらえなかったらどうしよう…。
そのときは洗脳でもしてしまおうか。
―――いや、ダメだろ。それは人としてなにかやっちゃダメな気がする。


「ちょっと、さっきから一人で唸ってどうしたの?」
「いや、何でもないよ。それより疲れたよね。お風呂入る?」
「お、お風呂!?お風呂があるの!!?」


風呂というワードにかなり強めに食いついてきた。やはり女の子的には風呂に入れるというのは嬉しいことなのだろう。それに奴隷は当然風呂なんてはいらせてもらえるわけがないので、きっとしばらく入ることもできていなかったのだろう。


「あるよ。地下にあるんだけど――」


地下、という単語を聞いた瞬間今まで歓喜の色一色だった表情が一気にこわばる。
しまった。彼女はまだ俺のことを疑っている。その状態で彼女に地下の話題を振るのはまずかったか。


「とりあえず入ってもらっていいかな?階段は入ってすぐ上にも下にも行けるようになってるから」
「え、あ、あなたはどうするの?」
「俺は着替えを用意するよ。地下一階は脱衣所と浴場しかないから迷わないからね」


そう言って足早にリビングの扉を開け、すぐに扉を閉める。


「ふぅ」


一息ついて次にするべきことを見据える。
とりあえずエフィルの着替え"作らないと"。
リビングの奥の扉の向こう、ちょうど階段のあるところの反対の位置には作業場がある。
そこには、裁縫、鍛冶、魔術の研究器具などが置かれていた。
この家の一階部分はリビングとこの作業場が占めている。
扉を開け、フローリングの床から一段下がって石の床に置いてあるサンダルを履く。
ちなみにこの家は玄関で靴を脱ぐ日本式だ。俺は昔から家の中で足に何かはいているのはなんだか違和感があって好きではない。なので今もエフィルは裸足だったのでそのまま入れたが俺はしっかりと靴を脱いでいた。
作業場の中でも裁縫関連の素材入れの中のシルクを取り出し、作業用の小さめな椅子に腰掛けて、シルクに触れながら魔術を発動させる。
すると、生地がうっすらと輝きながら形状を洋服の形に変えていく。
シルクを加工する短い時間だが、今後の未来に思いを馳せた。


「やっぱりまだまだ警戒されてるけど、何とかしてもうちょっと心を許してもらいたいなー……。最悪やっぱり洗脳――って、ダメだダメだ」


頭をを振ってよからぬ思考をどこかへ飛ばす。
自分の感情が薄くなってしまっているせいか、相手の気持ちになって考えるということがうまくできない。
どうしても生物としての感情を加味した回答よりも先に効率を優先した回答が頭に浮かんでしまう。
手元で起こっていた小さな発光が止み、シルクはその美しい光沢を放つ一着のパジャマになっていた。
デザインやカラーリングの好みはわからなかったので、白に近い色で特別凝った装飾の施されていないほぼ無地だ。
棚の中にはこれとは別に素材ならこの数百年分の貢物がまだまだある。
俺にとっては睡眠は一娯楽でしかなく、シルクなんていくらもらっても着ることなんてない。
使っていない、使う予定のない物なのだから、もしこれが気に入らないときはまた新しく作るとしよう。


「よし、じゃあこれを持っていくか」


椅子から腰を上げ、エフィルのいる浴場へと向かった。





いきなり家に入ってすぐ放置されてしまった。先程まで私を構ってばかりだったのにいきなりどうしたのだろう。
もしや私が地下に対して露骨に警戒してしまったのに気がついて気を使ってくれたのだろうか。


「そんなことより、これはどうしたらいいのかしら……」


あの男はここで靴を脱いで行ったが、この家では家の中では裸足で過ごすのだろうか?
随分変わった文化だ。あの男は一体どこの生まれなのだろう。
この家も私が住んでいた村の家や、私を攫った人間の貴族の家とも違う雰囲気だ。


「でも私今裸足だから関係ないか」


なにか罠がないか警戒しながら玄関から既に見えている階段を目指して家の奥へと進む。
上に行く階段と下に降りる階段があるが、お風呂は地下だと言っていたから恐らく下だろう。
ゆっくりと階段を下りていくと広い脱衣所に出た。


「本当にこの階は全て脱衣所と浴室しかないのね。それにしてもどうしてこんなに大きな脱衣所なのかしら。誰かほかにここに住んでいるような雰囲気ではなかったけれど」


既に元々ボロボロの布だったものが、三日三晩走り続けた挙句兵士たちとの戦闘でさらにぼろ雑巾のようになった布切れを脱ぎ捨て、剣は持ったまま浴室へと続くであろう扉を開ける。
そこには信じられない光景が広がっていた。
まず浴槽が考えられないくらい大きい。もしかしたら故郷の村の住人全員が入れるのではないかと思える程に大きい。
エルフは確かに人間と比べると個体数が少なく、私の村も十数人しかいないが、その全員が入れるような浴槽がこの世に存在するなんて考えたこともなかった。
その浴槽に近づいて見ると、奥の穴から絶えずお湯が流れ出ているというのになぜか浴槽からお湯が溢れていない事に気が付いた。
しかも床はどこに触れても暖かい。


「一体あの男は何者なの?」


格好から察するに魔術師ということはわかるが、これだけのことをできる魔術師なんて聞いたことがない。
それに身なりも特別大金持ちのようには見えなかった。


「こっちの壁の光っているのはなにかしら…」


壁のタイルのうちいくつかが光っており、それらには文字が書かれている。


「しゃわー?って何かしら。なにかの呪文かも?」


そう思いながらその光るパネルにそっと触れてみると、頭上から暖かいお湯が降り注いでくる。


「きゃっ!?あっ、暖かい……」


一瞬ひるんだものの、自分に対して無害であると気が付き、少し安心してお湯に当たる。
予想外な出来事ではあったものの、暖かいお湯のおかげで今までずっと緊張状態だった心がゆっくりと溶かされていくような感覚がする。
それを自覚した時には、すでに頬を涙が伝っていた。


「私、助かったのかな……。もしかして、もう、辛くて苦しい目に合わなくて、済むのかな……」


あの男には私に対して害意は感じられなかった。
理由はわからないけれどもしかしたら本当に私のことを助けに来てくれたのかもしれない。
そう思ったところでやっぱり私はまた裏切られて売り飛ばされるのかも。
それでも、それでも今はこの「もしかしたら」の希望にすがらないと、心がもう取り返しのつかないところまで磨り減ってしまう気がした。
少しくらい、少しくらいならあの男のことを信じてもいいかも知れない。


「そういえばあいつの名前、聞いてなかったっけ」


上がったらちゃんと聞こう。そう思いながらも、もうしばらくシャワーに当たっていたいと思った。





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