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大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

信者と御神体

御神体と言ってももちろん俺は神様が宿っているわけでも神降しができるわけではない。
ただ彼らが神の使いや神の化身だと勝手に言いふらしているだけだ。
しかし、当の本人たちはまじめもまじめ。
個人的な意見としてはどんなにくだらないことや間違ったことだろうと、そのことに対して本気で取り組んでいるなら馬鹿にしたくはない。


「――そうだな。俺が間違っていたよ。大魔導師の塔についての発言を取り消す」
「そうですか。よし!ではあなたも今日から大魔導師様を崇め奉りましょう!」


取り消すといった瞬間に態度が急変した。
どうなってるんだここ店員は。
テンションの上がり下がりの激しさに病的なものを感じるぞ。
目を輝かせて大魔導師についてマシンガンのように語りまくっている。
どうやら本当に会って話したこともない大魔導師様のことを異常なまでに慕っているようだ。
まあ、その本人が目の前にいるといっても信じてはもらえないだろうが。
すると、あまりの急な出来事にぽかんとしていた初老の店員が慌てて女性の店員を作業場に引きずって連れて行く。その様子は親猫と子猫のようだ。
奥で説教のような声が聞こえてしばらくすると、疲れ切ったような表情の初老の店員が一人で戻ってくる。
さっきの女性店員は奥で反省中といったところだろうか。
疲労があふれ出した顔から申し訳なさそうな顔でこちらに小走りで近づいてくる。


「先程は大変申し訳ありませんでした…。彼女は普段はおとなしい子なのですが、まさかあんなことになるとは。魔道教だと私も知らなかったので、わたくしの完全な監督不行き届きにございます。誠に申し訳ありませんでした。どうか、どうかご寛大なご措置を……」


そういいながら初老の店員は深々と頭を下げる。
どうしてここまでへりくだった態度を?と思ったが、今の自分の服装を思い出して納得する。
そういえば今自分は貴族の格好をしているのだ。さらに上の貴族にこの店のことを悪く言いふらせば店が立ち行かなくなるとでも思ったのだろう。


「別にさっきのことについては気を悪くしてはいないよ。貴方も彼女が発言したことや行動について私が誰かに言いふらすようなことについて心配することは無い」
「さようでございますか。誠に寛大なご対応、感服いたしました」


そういいながら初老の店員が頭を上げるのとほぼ同時にエフィリアが工房から出てくる。


「採寸はもう終わったのかい?」


と聞くと、エフィリアはニカッと笑う。


「しっかり図ってもらってきたわ!」
「そうか。それと、一着今ある服で一番サイズの合うものをもらえるだろうか」
「かしこましました。すぐに用意いたします。」


指示を受けるや否や、すぐに数着の服が用意される。その中の一着を見てエフィリアが「あっ」と声を漏らす。
その視線の先にあったのは、エルフの民族衣装だった。


「私、これがいいわ。さっき工房でオーダーメイドでお願いした物もエルフの民族衣装に近いものだったけれどこの服でもいいかしら」


そう俺に尋ねてくる。おそらく彼女としても一番なじみ深く、着慣れた服装なのだろう。彼女が一番着たいと思う服を却下する理由もない。


「エフィルが着たいならそれにするといいよ。着替えは俺が何とかするしね」
「やったぁ!ありがとうシグレ!」


そういいながら笑うエフィリアはままるで飛び跳ねるような喜びようだ。そんなにうれしいものなのだろうか。
やはり着慣れたものは安心感が違うのかもしれない。
この笑顔を見ているとこれから起こることが予想通りだった時に彼女を襲うであろう悲しみや絶望感に胸が痛む。
できればそうなっては欲しくないが、そうなる確率は決して低くない。
そうなる前に、今夜中にでもエフィリアが寝てからエルフの集落の現状を確認しよう。
もしそうなってしまった時は俺が何とかして見せよう。
自分の妻ひとり救えなくて大魔導師などとは名乗れない。


「急に黙り込んでどうかしたの?シグレ?」
「いや、ちょっと考え事だよ。それじゃあ今日はこの辺で帰ろうか」


エイフィリアに声をかけ、店を後にしようとした時。


「お待ちくださいお客様!」


俺たちと扉を遮るように声を発したのは、先ほどの初老の店員だった。


「どうかしたのか」
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
「だからその件はもう気にするなと――」
「次のご来店の際はわたくしシウバに何なりとご用命をお申し付けください。必ずその仕事を成し遂げて見せます」


子kまで言っているのだからその思いを無理に断るのも悪いだろう。それにそれで彼の気持ちが収まるならそうするべきだ。


「わかった。それとさっきの彼女だが、その信仰心や尊敬は本人にもしっかりと伝えておくと言っておいてくれ」
「そ、それはどういう――」


シウバが俺の発言について言及しようと困惑した表情で口を開いたので、これ以上は俺の正体がばれる気がしたので急いでエフィリアと二人で店を出る。


「よかったの?さっきの店員さん何か言おうとしてたみたいだけど」
「大丈夫だよ。また出来上がった服を取りに来るしね」
「服は一週間後に取りに来てほしいって言ってたわよ。それとは別の話なんだけど、さっき女の子の店員さんがすごく怒られていたけど、何かあったの?」
「それについても戻ってからゆっくり話すよ。今日は色々疲れちゃったからね。久々にいろんな人と話したし。貴族っぽく口調を変えようと頑張ってもみたんだけど、やっぱり高圧的な態度は好ましくない。普通が一番だよ」


そんな話をしつつ、沢山の出店を回りながら歩いていると、来た時と同じ路地裏までたどり着く。
この国に来たのは朝だったのに、いつの間にかもう夕方だ。


「それじゃあ今日あったことの話をしながら夕食を食べましょ!後は来た時みたいにお願いするわね……って、あれ?」


エフィリアが何かに気が付いたようにこちらを見る。


「どうかしたの?」
「そういえばなんだけど、この魔術で私の村まで行くことはできないの?」


気づいてしまった。
今日転移の魔術を使ってここに来たのは失敗だった。
そのことを今さらながらに後悔する。
しかし、ここで嘘をついてしまうのも問題を先延ばしにするだけだ。
何事も起こらないことを祈るしかない。


「そう、だね。行けるよ」


その言葉を聞いた瞬間エフィリアの表情がパァッと明るくなる。


「じゃ、じゃあ今からでも行けるってこと!?」
「行こうと思えば行ける、かな」


エフィルの笑顔に歯切れの悪い返事しかすることができない。
しかし、その言葉を聞いた瞬間エフィリアは少し泣きそうになりながらも、俺を見据えてこう言った。


「私を、私の故郷まで連れて行って!」


この先にある絶望など何一つ考えていない笑顔で。





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