大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

真実を求めて

「ほんとのほんとにあのおとぎ話の大魔導師様なの?」
「そうだとも」


ぐつぐつと音を立てて香ばしい香りを放つ真っ白なシチューを鍋でかき混ぜながら後ろのテーブルについているエフィルの質問に応答する。


「確かに一般人ではないのはわかってたけど、それもまさかおとぎ話に出てくる大魔導師だったなんて」
「まぁ、大魔導師って言ってもそのおとぎ話に出てくる話は多少盛ってると思うけどね」
「多少ってどのくらい?」
「さぁ……どのくらいだろ?」


シチューをこぼさないようにそっと木の器によそい、二人分の夕食をトレーに乗せてエフィルの待つテーブルまで運ぶ。


「どのくらいだろって、自分のしたことが載ってるおとぎ話なのにあなたはどんな風になってるか知らないの?大魔導師なのに?」
「大魔導師って言葉を便利な何かと勘違いしてないかな……。別に自分のことだったとしても子供向けのおとぎ話の本を読むような歳じゃあないよ」
「ふーん、そういうものなのかしら」


話の内容が先程起こした日常的な現象とはかけ離れたのことという事はともかく、日常的な雰囲気で会話をしながらテーブルのエフィルと向かい合う位置の席に座る。


「いただきます」
「いただきます」


個人的な趣味だがシチューは金属の食器を使うより木の器に木のスプーンで食べたい派だ。こっちの方が何だか気持ち的な温かみが増す気がする。
しばらくの間シチューと付け合わせのサラダを食べ際に鳴るコツコツと言う木と木が優しくぶつかる音だけが響く。
するとエフィルがスプーンを止めてこちらに視線を向けた。


「ねえシグレ」
「どうしたの?」
「本当に大魔導師様なの?」
「そうだよ。自分からそう名乗ったのは今回が初めてだけどね」
「それってどういう意味?」
「別に大魔導師なんてたいそうな名前は自分から名乗りだしたわけじゃないんだ。気が付いたら周りからそう呼ばれていたってだけだからね」
「ということは世界中が大魔導師様って呼んでるのがあなたってことに変わりはないんでしょ?」
「まあ、そうなるね」
「なんだか実感があんまり湧かないけど、それでもあんな光景見せられたら信じるしかないわよね」
「俺以外にもあの程度なら頑張って探せばきっと世界中のどこかには見つかると思うけどね。たぶん」
「だとしてもそれだけ限られた人材の内の一人ってことになるじゃない」
「そうとも言うね」
「…………」
「――まだ信じられない?」
「いいえ、あなたが大魔導師ってことについては自分の中で一区切りつけられたわ。だからこそどうしても聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと?」
「そう。どうして―――私を選んだの?」


二つの美しい翡翠色の瞳がこちらをじっと見つめている。その視線の奥にはいくらかの不安と緊張が揺れ動いているの魔術を使わずとも分かった。
エフィルと同じようにスプーンから手を離し、背筋を伸ばしてしっかりと彼女の瞳を見つめ返す。


「そうだね。選んだ理由、理由か。――――一目ぼれ、かな」


その言葉を聞いたエフィルは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、見る見るうちにエフィルの白い肌が赤く染まっていき、エルフ独特の少しとがった耳の先まで真っ赤になってしまった。
今にも頭から「ボシュッ」と言う効果音が聞こえてきそうだ。
そのまま顔を赤くしながら俯いてしまう。


「そ、そ、そ、そうなの。ひ、ひ、ひ、一目ぼれ…。あ、ありがとう……。」
「どうしてエフィルがお礼を言うのさ」


どんどん尻すぼみになっていく震え声な謎の感謝を微笑ましく思いながら夕食を再開した。





流石に深夜ともなると森という事もありかなり気温が低く感じる。
魔術によって気温の変化に対しては別に心配することは無いが、それでも気持ち肌寒く感じてしまう。
今俺はエフィルを寝かしつけて再度フル装備でエルフの森に来ていた。
初めてここに来た時に感じた違和感。それらの真相を確かめるためだ。
今は俺が直した後なので完全に家屋の形に収まっているが、それらは先程までただの瓦礫も同然の姿だった。
そう、引っ掛かる点はここだ。
なぜこれらはあそこまで粉々にされていた?
エフィルがあったように人さらいが目的なのならばそこまで家屋の破壊にこだわる必要はないはずだ。
一番近い人里からかなり離れた奥地にあるこの森まで出向き、さらには鬱蒼とした木々が生い茂るエルフの達に有利で人間に不利な状況での戦闘で少なからず犠牲者が出ただろう。
わざわざそんな無駄に労力と時間のかかることをするだろうか。
それが犯人たちの趣味だといわれてしまえばもう何とも言い返せないのだが。
ここからはあくまで推測だが、エルフを狩りに来た勢力は予想していたほどの成果を得られなかったのではないだろうか。
そしてその腹いせにエルフたちの村を木っ端みじんにした――――と。
少し無理やりな気もするが他に今手掛かりはない。魔力の痕跡も特に感じられないという事は術式に使用したという線もないだろう。


「となれば逃げ延びたであろうこの村のエフィル以外のエルフたちに話を聞けばいいわけだ」


その方が速くて確実で俺好みの解決法だ。
右手に持つ杖を振り上げ、後端を地面にたたきつける。
コォン――。という音が響き、杖と地面の接地点を中心とした魔力によるソナーが飛ぶ。

木、木、木、木、花、木、鳥、木、虫、木。

しばらく木と草にのみの反応だったがついに一番近い他のエルフの集落にたどり着いた。住人数が建物に比べて明らかに多い。それに掘立小屋のような他の家とは違う比較的最近建て建てれた大き目の建物。


「これは、この村で決まりだな」


これらは恐らくいま俺が立っている村から逃げてきた住人たちをあちらの村が受け入れたのだろう。
予想よりたくさんの住人が逃げ延びることができていたようでよかった。
完全なアウェイの状態でエルフとやり合えるような連中を相手にしたせいで死者多数でほとんど生き残ってませんなんてあんな大見得切った手前エフィルには言えないからな。
そうして村の中の様子を探っていくと、何やら一番奥に掘立小屋とは違うしっかりとしたつくりの大きな建物が見えた。どうやら村長宅のようだ。
その家へと意識を向けた瞬間俺のソナーに対してわざと反応させるように不自然な魔力を感知する。


「ん、気づかれたか?」


どうやら俺の探知に気が付いた者がいるようだ。こんな深夜に起こしてしまっただろうか。なんだか申し訳ないことをした気がする。
だがせっかく向こうがこちらを"誘って"いるのだから詳しい話を聞きたい。
朝までには戻ってエフィルにいい報告を聞かせてやりたいな。
そう思い、俺は村長宅へと足を進めた。





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