大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

正体不明

「先日我々の村に隣の村の住人たちが負傷者を連れてかなりの人数避難して参りました。その際に聞いた話ではエルフの魔術を吸い込む謎の盾を持った男と普通の者では扱えないような大きな剣を持った男の二人組が何の前触れもなく襲い掛かってきたそうです」
「その二人の種族は?」
「両方とも人間だったと聞いております」
「なんだって?人間だったのか?」
「避難してきた者達からそう聞いておりますが」


巨大な剣の方はあまり興味が湧かないが、魔術を吸収する盾と言うのは多少興味がそそられる。
一体どんな構造でできているのだろうか。
確かに魔術や魔力を吸い込む物を作牢と思えば特に苦労することなく制作することができるだろう。
しかし他の、しかも人間が作ったものとなると話は別だ。
そんな珍しい物を持っている人物はかなり限定される。
もしかしたら他の種族が作ったものを買い取っただけかもしれないが、これは有力な情報だろう。


「村を襲ったのはその二人だけだったのか?」
「いえ、その他にも取り巻きのように兵士のような格好の者共が居たと聞き及んでおりますが、戦闘行為を行っていたのはその二人だけだったようです」


となると他の取り巻きは雑用係だろうか?
いまいち敵の目的がつかめない。
一体何が目的だ?
金か?奴隷か?それともエルフという種族の肉体のパーツか?
考えれば考えるほどこれと言った決め手となる情報が無いせいで色々な選択肢が無限に出てくる。
こう言った時は思考が完全に凝り固まる前にクールダウンを取るべきだ。


「ありがとう村長。こんな夜分遅くに話を聞きに来てしまって本当に申し訳なかった」
「いえいえ、そのようなことはどうかお気になさらず。あなたもきっとそのエルフの娘を安心させるために私の元に来たのでしょう?ならば同胞を守ってくださった方にこの老い耄れができることをするのは当然のことです。しかし、あなた様の前でこの私のような若輩者が老い耄れなどと発言するのはいささか失礼でしたかな?大魔導師殿」


ここに来て予想外の発言に正直に驚く。


「最初からばれてたのか?」
「そのような美しい魔力の流れを感じれば、この広い世界と言えどおのずと答えは限られてくるものでございましょう」


美しいも醜いもあるのだろうか?
いまいちこの老婆との会話はかみ合わない。
正直に言ってこの老婆の雰囲気が何だか苦手だ。
こういった時に取る手段は日本にいた時から変わらない。
適当に理由をつけてこの場方立ち去る。やはりこれに限る。


「じゃあ―――」
「ところで」


老婆が俺の言葉にわざとらしくかぶせるように再度会話をつなげようとする。
本当に彼女が考えてることが読めないんだけれど。
いっそのこと思考を覗いてみるのも一つの選択肢か……?
そう思い自分の意識を老婆の意識に同調させ、思考を読み取る。


(おや、私の話を聞いて下さる気になっていただけたのですかな?)


「――ッ!!」
「何もそんな怖いお顔をなさらなくてもよいではありませんか」
「……どういうことだ」
「一つどうしてもお聞きしたいことがございます」


本当にこの老婆は何者なんだ。
俺の魔術の行使を読んでいたのか。それとも魔力を感知してから自らの思考を制御したのか。
どちらにせよ、これは辺境のエルフの村でほそぼそと村長をやっているような魔術の実力じゃない。


「俺に答えられる範囲ならば答える」
「貴方様が保護なされているという少女の名前を教えていただきたいのです」
「————―エフィルだ」
「そうですか……」


老婆は俺の口からその名前を聞き、少し物悲しい顔をする。


「何か問題でもあっただろうか」
「先程隣村の者達が避難してきたと申し上げましたが、当然それは全員ではありません。賊にとらえられえて逃げることができなかったものもいます。その中にエフィルの妹も含まれているのでございます」


体がピクリと自然と反応してしまう。


「それは確かな情報か?」
「そう聞き及んでおります」


この老婆が何者かはわからない。だがそれでもエフィルの妹がどこかに幽閉されているのであれば俺は助けたい。
いや、ここで助けに行かなくてはエフィルが待つ布団に入ってゆっくり休むこともできないだろう。
まったく、このところ慣れない事ばかりしている気がする。つい最近までカビが生えそうな引きこもりだったというのに。


「急用ができたのでこれで失礼する。今日は本当に助かった。できるだけ近いうちに"彼女達"を連れてまたこの村に来ることにするよ」
「それはうれしゅうございます。またお越しいただく時を心よりお待ちしております」


そういって早々に会話を切り上げ、エフィルの妹を探すために村長宅を後にした。






「まったく、私はこんなにも皴だらけになってしまったというのに…」


『大魔導師』がいなくなった室内で「ふぅ…」と息をつく。


「貴方は本当に変わりませんね。先生……」


そう呟いた老婆の声は、誰もいない部屋に静かに霧散していった。






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