大魔導師になったので空中庭園に隠居してお嫁さん探しに出ます。

ノベルバユーザー160980

エルフの妻の妹

多少時間もたち、明け方だったこともあり村人たちの中でも早く起床している者たちが何人か外へ顔を見せ始める。
その者たちはみな一様に広場に昨日まではいなかった集団がいることに驚いていたが、村長が何か指示を出すとすぐさま実行している。
恐らく今日からここで暮らすこととなる今屋敷から脱出してきた仲間たちの寝床や食料の確認だろう。


「さて、更に人が多くなってくるとあまりゆっくり話してもいられなくなってしまうかもしれないからね。そろそろ君ともしっかりと話をしないといけないかな?」


セフィラの方を向くと彼女もこくりとうなずく。どうやら同じことを考えていたようだ。


「じゃあ、君から好きに聞いてもらおうかな。何が聞きたい」
「わかりました。ではまず私の家族についてです。先ほど村長さんにお伺いしたところ母と父はこの村にいるようです。父は私を逃がすために傷を負いましたがその傷も命にかかわるような重大なものではないようです。しかし、私にはもう一人大事な家族がいます。私のおねえちゃんは今どこにいるんですか?」


先程とはまた違う表情だ。
自分や仲間が助け出されるという安堵とは打って変わり、素性の知れない俺を警戒しているようだ。あの時は若干のパニック状態であったのか、自分の姉が無事だという言葉を第一に聞いて安心していた。しかし、それは確証を持てる話しでは断じてない。彼女から見れば俺は全くの部外者であるのだから、その得体のしれない輩が自分の家族の居場所を知っていると言い出したら警戒して当然だ。
そんなセフィラに何と言ったら納得してもらえるだろうか。
空中庭園にいますなどと言っても信じてはもらえないだろう。
別に身分を隠す必要はないが、大魔導士と言う名前は俺が引きこもっている間に随分と大きなネームバリューを持ってしまっている。大雑把な例えにすれば、ある日道であった見ず知らずの人間に「僕は神様です。君のお姉さんと結婚します」と言われるようなものだ。はっきり言って頭のいかれたキチガイとしか思えない。


「そうだね。エフィルは今俺の家にいるよ。この時間はまだ寝てるんじゃないかな」
「…そうですか。少なくとも貴方が普通の人間ではないという事は先程の魔術の行使でわかりました。エルフやドワーフなどの突出した属性との相性もないはずの人間と言う種族の中であんなことができるのは限られていますから。それに村長さんとはどうやらお知り合いのようでしたし」


限られた情報でよく考えている。
先に言った魔術の話ならともかく村長とは視線を一瞬交わらせて一瞥したに過ぎないはずだ。
流石はエフィルの妹と言ったところか。
彼女も初めてうちに来た時は俺の一挙動ごとすべてに対して注意を払っていた。


「エフィルに会いたいかな?」
「当然です!」


勢いよくこちらに身を乗り出しながら問いに対してセフィラが即答する。


「そもそも、貴方はおねえちゃんとどういう関係なんですか?」


やはりこの質問が来るか。当然と言えば当然だ。
妹としては得体のしれない男の家に姉がいるとなれば不安にもなる。
ならばこちらも下手に誤魔化すより真実を伝えるべきだろう。


「エフィルは…俺の妻だ」
「妻ですか。わかりました。つまりおねえちゃんは貴方の奥さんなんですね!――――え?奥さん?奥さん!!?ええええええええええええええ!!!???」


セフィラが驚愕のあまり目を見開いて大きな声を上げる。
当然周囲の視線が一斉にこちらを向いた。


「わっ、コラコラ、声が大きいよ」
「すっ、すみません」


特に問題がないことに気が付くと、その視線たちもすぐに離れていく。予想以上に冷静かと思ったらそれ以上に彼女の脳の処理が追い付いていなかったらしい。


「どっ、どどど、どうしておねえちゃんと貴方はそんな関係に!?」
「そうだな…。最初から話すと多少長くなるけどいいかい?」
「は、はい」


ゴクリ。とつばを飲み込む音が聞こえてきそうな表情でセフィらはこれから話されるであろう馴れ初めに耳を傾ける。
そんな彼女に俺は今までのいきさつを出来るだけ短くわかりやすく伝えた。
自分はずっと遠い場所から来たこと。
エフィルはセフィラが捕まっていたところとは別のところで奴隷になっていたこと。
そしてそれを助けてからエフィルはここからは少し遠くにある俺の家にいる事。
それらを話している間セフィラはまるでおとぎ話を読み聞かせられている子供のように目を輝かせていた。
その目はまるで物語の中にしか存在しない夢の国に思いをはせる少女のようだった。


「なるほど。事情は大体理解できました。おねえちゃんを救ってくれて本当にありがとうございました」
「いや、今はそのおかげで俺の妻だ。別にお礼を言われるようなことじゃないよ。と言うか、俺が嘘ついてるとは思わないのかい?」
「大事な大事なおねえちゃんの恩人をそんな風に思ったりしません!」


えっへん!と言いながらあまり凹凸の多くない胸を張る。
緊張がだんだんと解けてきたのかようやく年相応な反応を見られたような気がする。


「それに、今から確認するので問題ありません」
「確認する?」
「はい!」


元気な返事と共に勢いよく腰かけていた木から立ち上がる。


「私も貴方の家に連れて行ってください!」





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