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子連れプログラマーVRRPG脱出計画

穴の空いた靴下

第2話 シチュエーション

 眼前には一点の雲もない見事な青空が広がっていた。
 青く済んだその空は、どこまでも高く、どこまでも広く俺の眼前に在るのでした。

「完……」


「ってわけにはいかないよな……」

 俺はとりあえず座り込み、自分の状態を確かめる。

「おいおい、まじかよ……」

 最初の絶望は、腕輪が、デバイスが反応しない。

「それに、ここは『中』ってことか……」

 青空が見えたってことは研究所ではないってことだ。
 つまり、俺はまだVR内にいることになる。
 さっきまでいた街じゃない、草原、花畑の真ん中で寝ていたことになる。

【管制室、管制室、こちらは蒼海。VR研究班主任研究員。応答願います】

 ま、当然駄目。送れてる気配もない。

「どっこらっしょ……?」

 何かにズボンを引っ張られている気がする。
 恐る恐る背後を見ると……

「……参ったな……」

 子供が俺のズボンを掴んで倒れている。
 そして……全裸だ……
 とりあえず、自分のマントでその子供の身体を包み、生死を確認する。
 呼吸はしている。
 ……子供だけど既視感が在る。

「これ……さっきの実験の青年の少年モデルっぽいな……アイツの趣味全開だ……」

 金髪、多分目は美しい青、真っ白な肌に中性的な顔立ち。
 きっと一人称はボクだろう。
 泣き虫で、お人好しで、そして、根は頑固だ。
 確信する。

「多分外部では何らかの事故が起きたんだろう……俺、帰れるのかな……
 ま、外は皆がなんとかしてるだろ、性格はともかく、天才の集まりだ。
 それにしても、沙羅は帰ったら死刑だな……
 ここは、どこなんだろう?
 草原……花畑……?
 あれ、どっかで読んだことあるな……あっ!」

 アイツのシナリオ案だ……
 VRMMMORPG化計画。
 沙羅の野望ノートに書いてあった奴だ……

「あいつ……自分のPC繋いだとか最後アホなこと言ってたな……」

 あいつのPCのデータが那由多に取り込まれたら不味い……あの変態てんさいはちゃんと動くデータにして作ってしまってるから、今このVRは奴のRPGになってしまっている可能性が出てくる……

「俺も調子に乗ってゲーム開発向けのプログラムいくつも作っちまったからなぁ……」

 敵キャラのデザインを自動で組んだり、動作スクリプトを自動形成したり、まぁそれがあればゲームをかなり簡単に作ることが出来るプログラムを……まぁ、楽しくて、ついつい……

「……それも取り込まれてたら……ほんとにヤバイぞ……勝手にイベントは作るわキャラは増やすわ……メイン以外のクエストなんかも自動生成できたよな……」

 ヤバイ予感ばかりが吹き出す。
 しかし、内心は少しワクワクしてしまっている。
 アイツほどじゃないが、俺もゲーム好きだ。
 どんなに忙しくても最新ゲーム、まぁ、販売されているほぼすべてのゲームは一通りプレイするくらいはゲームが好きだ。
 時間が足りない? そんなのちょっとゲーム時間クロックアップしてプレイすれば良い。
 世の中には人目につかない素晴らしいゲームも大量にある。
 俺はそんなゲームも全てプレイしたいんだ!
 プログラム技術だって最初のころはただゲームを買えるお金と時間を捻出するために鍛えたんだ!

 取り敢えず移動しよう……
 俺はその子供を抱きかかえて立ち上がる。

「しかし、何が功を奏するかわからないもんだな……あー、データいじっといてよかった……」

 現実世界の俺は、もやしだ。
 ひょろっひょろメガネのもやしっ子。
 身長だけはむだに183センチあるけど、体重55キロ。
 キャラメイクはしなかったので外見は俺のまんまだ。
 こんな小さな子どもだって抱えて歩くなんて出来るはずもない。
 デバイスが使えないから見られないが、なんとなくステータスを上げておいた。
 あの気まぐれは、ばーちゃんのお陰だ。

「うう、でも、もっと吹っ切れていじっておけばよかった……」

 簡単に言えば標準的成人男性の力が100とした時に一応1500くらいにはしてある。
 異常だ。
 異常なんだけど、ココはVRでしかもRPG様に変化している可能性、つまり魔物とかと戦ったりするのを考えると……

「ま、まだレベル1だし……」

 俺の趣味で入れたステータス機能……
 入れておいてよかった。ああ、認めるよ。
 俺もゲーム感覚で楽しんでたよ!
 でも、入れていなかったら……もやしはこの子とこの草原で力尽きていたね……

「……沙羅に感謝するのは癪だな……」

 取り敢えず太陽の位置を参考に歩き始める。
 アイツのプレゼン資料をひと目しか読んでないが、確か西に小さな村があるはずだ。

「……アーツ、疾風はやて……駄目か……」

 ダメ元でアーツやら魔法を試してみるも、何も起きない。
 ポージング、詠唱いろいろ試したけども、うんともすんとも言わない。
 ゲーム的要素が、なんだかしっちゃかめっちゃかに反映されている予感はする。
 どうにも世界全体の流れが良くない……
 ただの勘だけど、こういう勘がよく当たるから、俺はプログラマーとしての成功を掴んでいると思っている。

 すやすやと気持ちよく寝ている子供を抱えてトボトボと歩いていく。
 景色は嫌味なほど綺麗だ。
 さっきの花畑だって一つひとつの花が独立して動いていて、ココがVRだってわかってなければ異世界にでも飛ばされたとでも思うだろう。

 森に沿って歩いていると、丁度良い枝が落ちていた。

「遼は木刀を装備した! ……なーんてね」

 わざとらしく森の手前に盛り土がしてあって刺さっている、持ち手も滑らかで非常に理想的な木刀。
 そんなものが都合よく、意味もなく置かれているわけがない。
 それを迷わず拾うのは、事前のカンニングのお陰だ。
 実際にゲームにする場合は要検討部分だな……

 ガサガサ

 草むらが揺れる。
 森から一匹の魔物が飛び出してくる。
 でかい芋虫。グリーンキャタピラーだ。
 正直言って、気持ちが悪い。
 これを今から叩くのかと思うと気が滅入る。

「ふんっ」

 もちろんステータス差は歴然。
 木刀を力任せに振るうと芋虫の頭部はぐちゃっと潰れる。
 その感覚がきちんと伝わってきて、プログラマーとしては嬉しいが、テスターとしては気持ちが悪い。
 しかし、魔物の死体はボウっと言う音と共に青い光に変化して消える。
 残されたのは2枚の銅貨と薬草。

「こういうところはVRしてるんだな、良かったけど……」

 木刀に付いた体液もちゃんと消えている。
 俺は銅貨と薬草を拾い上げる。
 ファンタジーな雰囲気と合わせた洋服のポケットにコインを収める。

「薬草は……普通に使えるのか?」

 実際のどくだみみたいに煎じて怪我に塗りつけたりするのか?
 試しにちょっと子供に押し当ててみた。
 ぽわわんという感じの光が現れて薬草が消えた。

「ゲームだなぁ……」

「う、うーん……」

 なんと、これがフラグとは!
 そもそもあの資料にはこんな子の事は書かれていなかったぞ……

「お、おはようございます」

 基本的にはコミュ障な俺。初対面は子供でも安定の敬語が炸裂する。

「……パパ……」

 目を覚ますと、想像通りの金髪青眼の美少年。
 謎の言葉を発しながら俺に抱きついてきたわけだ。

 うん、思考が停止した。




 

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