子連れプログラマーVRRPG脱出計画

穴の空いた靴下

第17話 洞窟

 洞窟の中は当然真っ暗だ。
 俺は夜目という盗賊系スキルと暗視の魔法を使っている。
 ナユタは別にデータとして周囲を把握できる。
 もちろんこの暗闇で生まれてくる魔物も暗闇を敵としないものがほとんどだ。
 巨大なコウモリ、魔犬、魔狼、魔猪、そして今回は大型の熊も出てきた。

「狭い空間だと一発が怖いな……」

「別に怖くないと思いますよー」

「あの一撃正面から受けるのは不味いな……」

「受けてみればいいのに……」

 どうにも子供は緊張感が足らない。
 狭い洞窟の空間を一杯に利用して巨大な熊などを斬り伏せていく。
 思ったより時間がかかってしまっているなぁ……

「日の出前には村に戻りたいんだけどなぁ……」

「この先の状況を考えるとペースを上げないと厳しいですね」

「仕方がない、被弾覚悟でゴリ押すか!」

 俺は奇襲用の短刀からロングソードを両手に持つ。
 そして洞窟の奥へと駆け出す。
 多少のスニーキングは残っているが、流石に気が付かれることも多くなるが、出し惜しみせずに魔法と剣戟で敵を蹴散らしていく。
 短剣を弾くこともあった熊の両腕もウインドカッターなどの魔法と同時に斬りつけるとあっさりとガードを切り裂いていく。

「最初から、こうすればよかったかも……」

「ずっとそう言ってたじゃないですか……」

 敵の数が多くなって雨あられに降り注ぐ攻撃も、ステータス差によるシステム補正でまるでスローモーションのように感じてしまう。
 その間隙を縫って剣を振るえば剣術スキルの助けもあってまるで闘牛士のように華麗に敵の攻撃を捌きつつ敵を殲滅していける。
 なんという快感!
 敵の群れを疾走しつつ切り裂いていく!
 RPGと言うよりはFPS無双アクションと言った感じだ!
 これは楽しい!

 敵の攻撃をギリギリまで引きつけてのカウンターは威力が上がるようだ。
 あまり狙いすぎるとカウンター判定が無くなったり、いや、まぁ細かいところまでしっかりと作ってある。
 気がつけば時間も忘れて敵を狩りながら洞窟の奥へと進んでいた。

『ぐ……うう……』

「? ナユタ何か言った?」

「いえ、どうやら奥から聞こえますね」

『ぐああ……』

「うめき声、NPC?」

「いえ、敵……では無さそうですが、味方NPCでもない感じです」

「取り敢えず進むか」

 用心はしながら、その声の出処も目指している洞窟の奥も同じ方向なので進んでいく。
 敵の量が増えるのではなく質が上がっている。
 敵の攻撃は激しさを増し、魔法やスキルと思われる攻撃も混ざってくる。

「魔法攻撃もマジックシールドで問題なく弾けるな」

「普通は弾けないんですけどね……」

 ナユタがボソボソ呟いているが、気にしないようにしよう。

 苦しそうな声はだんだん大きくなる。
 人の声ではない、何かの獣が苦しんでいるような気がする。
 狭い通路を抜けて比較的広い部屋に出る。
 他の部屋に比べると空気が淀んで濃い感じがする。
 どうやらここが洞窟の最深部のようだ。

『ぐああ、はぁはぁ……』

「何かいるのか?」

『だ、誰だ!?』

 よく考えれば愚策だった。不用心に声をかけてしまった。

「俺は冒険者だ……怪我……してるのか?」

 たぶん虎のような動物がモヤモヤとした瘴気に取り憑かれているようにみえる。

『気をつけろ、こんな風にしたやつがいるぞ……』

【ちっ……馬鹿猫が……】

 瘴気の最も濃いあたりから敵が姿を現す。
 猿……? かな?
 妙に手足がひょろ長く、ニタニタといやらしい笑いを浮かべている。
 直感的にムカつく顔だな。

「パパ、気をつけて。あの靄の中に居た時アイツの気配がしっかりとわからなかった」

 小声でナユタが助言をくれる。油断はしない。

「お前がこの魔獣の発生の犯人か?」

【人間ごときがこんなところに来るとはな、俺はエンコ。
 ベルタ様の忠実な下僕。
 今は訳あって動けぬベルタ様の手足となって、この神獣とやらを利用して世界を魔物で包みこむ手伝いをしているんだよ!】

 思わず説明ありがとうといいたくなってしまった。
 ベルタ、か。決まりだな。那由多にハッキング仕掛けてきた一人の魔王だ。
 各国のマシン名と同じなのか魔王たち? バレバレだぞ?

「つまりその神獣をお前らが悪用してるんだな」

【この世界の生物などベルタ様のお力でこの通り思い通りだ】

 よく見ると虎の手足に杭のような物が打ち付けられて、それが鈍く光ると虎が苦しんでいる。
 うーん。気分が悪い。
 その手に持つ……スマホみたいなコンソールが原因だな。

「……その神獣、俺らが助ける」

【はっはっは! 笑わせるな人間! 貴様ら脆弱な……】

 やはり情報を打ち込む端末だ。
 ベルタは那由多が防壁を作る一瞬でこの世界の一部をいじれるスロットを作成しているようだ。
 時間をかけると厄介なことになりそうだ。
 俺は端末にくっついていた手を振り払い叩き落とす。
 地面に落ちた手のひらは黒い靄になって消えていく。

【……ぐっ……ぐあああああ!! 手が!  手がァァァァ!!??】

「遅いなお前……ナユタ、これよろしく」

「はいパパ」

【許さんぞ! 絶対に許さんぞ!! !!るやてし殺】

 転がる首が何か騒いでいたが、手のひらと同じように首も身体も黒い靄となって消えていく。

「ナユタ、わかった?」

「はいパパ。もう杭は抜けます」

 さすが我が子供仕事が早い!

「少し痛むぞ」

『かたじけない……ぐっ……』

 痛みに耐える虎、猫っぽい顔は、可愛いなぁ。
 なんとか4本の杭を抜いてあげる。

『すまぬ冒険者どの、厚かましいお願いだが少し魔力を分けてくれないか?
 そうすれば自力でここもなんとか出来る』

 手持ちの聖水でちまちまやるより神獣様にお願いしたほうが速いだろう。

「どうすればいい?」

『私の額に手を当ててもらって力を流すイメージを……そうそう……おお、……おお?
 ぬおおおおおおおおおおおおお』

 軽く力を込めたら突然虎が輝きだしてしまった。これでいいのかな?

『これは、これはぁ!! ああ、滾る! 滾るぞぉ!!』

 高らかに雄叫びをあげる。
 同時に周囲の瘴気は跡形もなく吹き飛び、洞窟の中だというのに爽やかな風を感じる。

「周囲の敵対反応は消失。
 さらにこのエリアはセーフエリアになりました」

「お、なんかそういうのもわかるの?」

「さっきの端末を利用させてもらいました」

『冒険者殿!! お礼を言うぞ!
 まさか全盛期を超える力を与えられるとは!
 何者なのだ貴方は?』

「親子冒険者のリョウだ!」




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