子連れプログラマーVRRPG脱出計画

穴の空いた靴下

第28話 戦闘

 身の丈は3・4mといったところか、獣の下半身に蛇の尻尾。
 人の体、ヤギの顔、その手には巨大な鎌を持ち、肉体ははちきれんばかりの筋肉の鎧で覆われている。
 テンプレート的な悪魔の姿のこいつが第一の魔王ベルダで間違いはないだろう。

【情報収集デバイスからの報告から、那由多に関わる情報体の可能性が高い。
 破壊し、分析を提言する。
 承諾。これより拘束開放の情報収集のため対象への破壊活動を開始する】

「ナユタ流石に担ぎながら戦える余裕は無さそうだ。
 頑張って逃げ回ってくれ」

「パパ、ママ、頑張って!!」

 魔王ベルダは大地に手をつく、周囲の地面が盛り上がり、似た風貌の2m程の悪魔を呼び出す。

「サラ! 周りの頼む!」

 既にサラは広域範囲魔法を準備している。
 その魔法の完成までの僅かな時間を邪魔させないようにスキルで一気に魔王へと肉薄する。
 呼び出された悪魔が接近を阻むために襲い掛かってくる。

「震脚! 虎砲!」

 強力な踏み込みで悪魔の出足を崩し、強力な掌底による一撃を加える。
 壁にまで吹き飛ぶ悪魔は無視してすぐに大剣を取り出し魔王へと斬りかかる。

「蛇払い! 三日月上げ! 洛鳳斬!」

 足薙ぎから切り上げ、そして渾身の振り下ろし、基本的なコンボ技を叩き込む。
 魔王の体表は鋼のように固い手応えだが全力の切込みで鮮血が弾けた。
 傷に対して派手な出血で、エフェクト的なわざとらしさがある。
 全力でも体表を薄く斬る程度にしか至らないのは少し不本意だ。

【ガア! ウインドカッター!】

 指先から風の刃が襲い掛かってくる。

「破魔陣、魔防盾」

 魔法防御を上げ、大剣で魔法を防ぐ盾を作る。
 盾と魔法がぶつかり合いMPを持っていかれるのがわかる。
 かなり軽減できたが、皮膚は何箇所か切り裂かれている。
 しかしダラダラと出血したりはしない。

「ホーリーライトニング!!」

 サラの魔法が完成して足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり、聖なるいかづちが降り注ぐ、魔王もやっと体勢を立て直した悪魔もその雷を受けてブスブスと焦げるような香りがする。
 いくらフレンドリーファイアがないとわかっても目の前に大量の雷が落ちるのは怖かった……

 パラパラと焦げた表面が剥げ落ちると、その下にはデジタルな赤いダメージエリア的な物が表現されている。
 確かに焼け落ちた肉とか斬られた傷がリアルすぎるとドン引きするよね……
 血しぶきもわざとらしかったもんなぁ……
 それでも二体とも大したダメージでは内容で、魔法で鎌で、素手で次々と攻撃を繰り出してくる。
 飛び交う敵の攻撃の中をまるでスローモーションのように交わしていくのは非常にスタイリッシュで面白い!

「そこだぁ! 5元突き!」

 こういう戦闘で悪魔を倒してもまた呼ばれるだけだ、魔王側に集中して攻撃をしていくのがセオリー。
 サラは攻撃に回復に補助に、八面六臂の大活躍だ。
 俺も幾度となく技を繰り出し魔王に叩き込んでいる。
 悪魔の姿をしているし、傷は機械的に消えていくので、見ることができないHPゲージがどこらへんまで減っているのかを計り知ることが出来ない。

「手応えがなーい! これは改良点だな!!」

「リョウ、よくそんな猛攻中に話せるね!」

「ステータスと技能のアシストを受けてるから、体感速度が違うんだよ。
 それでいて話たりするのは普通にできるんだからこのシステムは素晴らしいな!」

「そのシステムのコンセプトデザインは奥歯に仕込んだ加速装置をイメージしたそうですよ。
 3Dアニメ見てハマってこれだって思ったってママが言っていました」

 ナユタにも魔法攻撃が及ぶこともあるが、持ち前の桁外れな幸運により物理、魔法攻撃ともに無効になる完全回避が発動している。
 謎の力で消えていく攻撃はなかなかにシュールだ。

「リョウ! でかいの行くから牽制よろしく!」

「あいよ!」

 武器を弓に持ち替えて範囲攻撃を放つ。すぐに槍に持ち替えて中距離から敵をその場に釘付けにする。
 こういう立ち回りができるのは非常に楽しい。
 自分の身体が自分のものじゃないみたいに動いてくれる。
 敵の攻撃を華麗に避けて反撃をして、技を放って魔法を放つ。
 味方との連携が見事に決まったときなんて熱いものがこみ上げてくる。

「センブンステンペスト!」

 サラの大規模魔法が無事に発動して魔王とその取り巻きを巻き込んでいく。
 魔力の大嵐の中で行動を制限されている魔王たちに俺も大技をぶち込む。

「全力渾身斬りその3真っ二つ!」

 ふざけた名前だけど威力は抜群。その代わり、攻撃後に転倒モーションがかかり、さらに3秒武器が外れる。よほど確実に決められる時か隙があるときにしか使えない。
 その分馬鹿げた攻撃倍率を振ってあるので、大剣で文字通りにされた魔王は復元に時間がかかっている。
 どうやら治癒の遅延は総HPが四分の一を切っていると起こるみたいだ。
 今までの攻撃から判断するに、今の一撃で治癒遅延が起きたのなら。
 次の一撃で終わる。

 サラの魔法で今だ動きを取れない敵、俺はゆっくりと3秒間待機をし、体験を拾い上げる。

「全力渾身斬りその3真っ二つ!」

 俺の振り下ろす大剣が深々と魔王の悪魔を模した身体にめり込んでいく、次の瞬間目の前に光の花が散るように咲いた。
 周囲の悪魔たちも花となって散っていく。
 なかなかに美しい散り際だなと感じる。

「なによリョウ、すっ転んで満足気に、あんまりかっこよくないよ?」

「……せっかく浸ってたんだからほっとけ……」

 硬直時間も終わったので立ち上がる。
 剣も拾ってインベントリーにしまっておく。

「ナユタ、どんな感じ?」

「お陰様で完全にベルダコンピューターからの攻撃をブロックできました。
 現在はベルダを抑えているために使っていたリソースを取り戻しております。
 ゲーム内時間で一週間で終了する予定です」

「外部時間では一瞬だよな? ほんとに那由多は凄いな……」

「パパとママに協力してもらわなければベルダも押し返せませんでしたから、まだまだです」

「それは俺達にも責任があるというか……沙羅の馬鹿が……」

「その点については何も言えません……」

「ナユタもリョウも酷い……なにも言えないけど……」

「だいたい、国家機密級のプロジェクトのメインマシンをオープンにするなんて発想……
 いや、これはブーメランになるからやめよう……スマン」

 俺も那由多開発プロジェクト中に同じ間違いをした。
 その当時は那由多も表沙汰になってはいなかったために激しい攻撃は受けなかったが、二カ国からは執拗にクラッキングを受けたもんだ……
 なんとか返り討ちにしたが、年々進歩する技術に戦々恐々としたもんだ。

「さて、とりあえず。出ようか」

「パパ、奥にまだ部屋があります」

 魔王の座の奥にさらに続く扉がある。
 その扉を開けると、宝物庫だった。

「おお、これはすげぇ。ダンジョンの報酬ってやつかな?」

「ダンジョン攻略でレアアイテムってのはお約束だもんね、いいものあるかなー?」

「そういや細工とか鍛冶とかもあるんだよなー、素材アイテム多いなぁ。
 やりこんだら実生活が終わりそうだ……」

「ふふん。そこは作り込んでますよー!
 ほんの少しの配合の変化で数値が大きく変わって、適正値とランダム性をバランスよく組み込んでます!」

「そのランダム性が怖いんだよなー……」

「基本プラス補正しかないので、あ、でも高ランクになると失敗が発生します……」

「まぁ、そうだよねぇ。いや、ゲーマーの心をよくわかってらっしゃる」

「リョウーアイテム回収終わったよー」

 いつの間にか部屋の中の宝がすっからかんになっていた。
 別の人がこういったダンジョンへ入ると、MO的な別次元のダンジョンが生成されるので、週一くらいで何度でも入れる仕様になっているそうだ。

 最後の部屋の奥にはダンジョンの入口まで戻れるワープゲートまで設置されていた。
 確かにあの道のりを戻るのはめんどくさいから助かった。

「おお、一瞬だな!」

「これは便利だね、あの道戻るのめんどくさいもんね」

「入るときも変な穴に入ったし、そんなもんなんだろうけど、不思議なもんだ。
 相変わらず外は綺麗だな」

「ちょうど、夕日ですね……自然の抽出は特に力を入れていいますからね」

 遠い地平線に真っ赤な夕日が沈んでいく。
 大地を真っ赤に染める太陽はそれはもう美しかった。







 




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