魂喰のカイト
29話 スキルアップ2
「おっ、ここが次のフロアへの入り口かな?」
扉のない小部屋に入り見えてきたのは螺旋状の階段。
そこまで深くまで続いているわけではなく、人も縦に2列ずつくらいしか通れないほど規模が小さい。
ただ、今まで歩いてきて、下に降りることができるものが見つかったのはここだけだから、おそらくこれが次のフロアへの入り口ってことだろう。
このダンジョンは上層、中層、下層、最下層の4層構成で、それぞれが5フロアの合計20フロアだ。
つまり、俺が今から行くのは2フロア目。
今まで探索してたのが1フロア目ってことだな。
ちなみに冒険者の手により探索されたのは14フロア、最下層の2フロア前までだ。
話によると、14フロアの魔物が13フロアより大幅に強くて、当時最前線の冒険者パーティのメンバーが1人死亡してからダンジョン攻略の勢いが弱まり、それ以来14フロアを超えることができていないらしい。
確かに下層攻略は厳しいだろうな。
俺が武器創造をぶんどったダークゴブリンファイターは、下層の魔物だった。
上層に上がってきたはぐれだったから数こそは少なかったが、それでも十分強い力を持っていた。
あんな魔物が大量に生息する下層を突破するのは至難だろう。
グギャ!
螺旋階段を降り、フロア間移動のための小部屋を抜けたところで、聞き覚えのある鳴き声のようなものが聞こえてきた。
振り返り、視界に入ったのは普通よりも少し大柄なゴブリンが4匹。
なるほど、ゴブリンの鳴き声だったんだな。
そりゃ聞き覚えがあるわけだわ。
すぐにゴブリンだってわからなかったのは声が若干野太かったからか?
少し大柄だからな。
声もそれに合わせて太くなってるんだろう。
それにしても大柄か。
ゴブリンファイターのようなものかな?
パッと見て普通のゴブリンよりも魔力量が多いみたいだし。
大柄なゴブリンたちはそれぞれが剣、杖、弓、槍と別々の武器を持っている。
なんだか戦隊物みたいだな。
ゴブリン戦隊アラスンジャー!
…………打ち切り確定だな。
このゴブリンたちはどうやら俺に攻撃を仕掛けようとしているみたいで、剣と槍が前、弓と杖が後ろに並んだ。
結構頭いいな、この魔物たち。
今まで会った魔物は隊列なんて組まなかったぞ。
まあ、でも――
「――暗黒魔法を使ったら隊列なんて関係ないんだけどな」
一瞬でゴブリンたちの両腕が吹き飛ぶ。
使ったのは暗黒魔法だが、いつものように大きい塊を前方に放つだけではない。
散弾のように細かい暗黒魔法の粒にホーミング性能を持たせて、一度に複数発射したのだ。
発射された粒はそれぞれに設定された目標に弧を描きながら飛ぶ。
今回で言えば目標はゴブリンたちの両腕だ。
目標は俺が頭で想像するだけで決められるから、簡単だし手軽だ。
さらに、それぞれの粒に魔力を少しだけ多めに持たせているため、あまり大きくなくても速度と合わせて威力は抑えめだがでている。
ちょうど良い威力に調整できているってわけだ。
もちろん頭に目標を定めたり、一粒あたりの魔力量を多くしたり、一粒を大きくすれば威力を上げることはできる。
この魔法は複数相手に有利だ。
この魔法のために、1フロアにいる間ずっと研究をすることになったが、これだけ上手く倒せるようになったら御の字だろう。
瀕死の状態で倒れ込むゴブリンたちに魂喰を発動する。
数秒もしないうちにゴブリンたちは全て動かなくなった。
吸収が終わったようだ。
よし、これでまた一歩前進だな。
どんどん探索していこうか。
そう思って歩きだそうとしたときだった。
グギャァァア!!
前方から更に大きな鳴き声、いや、叫び声に近いか?
声質はゴブリンのそれだ。
ただ、いま吸収したゴブリンのものよりもずっと太く、低い声。
反射的に身構える。
そして、そのまま油断なく前を凝視した。
あれは…………って、でかいな!
強化した視力で捉えたのは、このフロアの真っすぐ伸びる通路を占有しつつ、こちらに向かって走ってくる4足歩行のゴブリン。
眼は赤く、通常のゴブリンとは違い、多少の感情、知性も見られない。
涎を垂らし、何かに飢えているように見えるその風貌はまるで獣のよう。
大きさは頭が天井に届くほどであり、俺の身長の4倍はあるだろう。
《魔物:ゴブリン【変異種:餓狼】 ゴブリンの突然変異個体。Bランク相当の力を持つ。常時酷い飢餓感に襲われ、それによって理性を無くしている場合が多い》
突然変異したのか。
まあ確かにこんな魔物が2フロアにゾロゾロいたらたまったもんじゃないだろうな。
仮にも初心者用ダンジョンなわけだし。
というか俺、フロアに見合わない強い魔物にばかり遭遇してるな。
運がいいのやら悪いのやら。
魂喰があるから一概に悪いとは言えないんだよな。
まあそんなことはどうでもいい。
せっかく目の前に強めの魔物が出てきたんだ。
俺の練習相手になってもらおう。
頭の中で自身の身体能力の低下を意識する。
自分の身体能力とスキルに制限をかけているのだ。
身体能力は救世主化したロシュの2、3倍くらい。
スキルは剣術LV5、各上位互換魔法封印、各魔法LV5だ。
自分の力を制限する理由は単純だ。
対等な実力の相手との戦いの経験を積むため。
俺に決定的に足りないものだしな。
ちょうどいい練習相手だ。
防御力は制限してないし、気兼ねなく攻撃を受けながら戦うことができる。
正直、リディルとの戦いで俺の戦闘センスが高ければあんなに防御主体な戦いになることは無かったと思う。
結構悔しかったから、次会うときにはあっと驚かせるくらい強くなりたいのだ。
「よし…………行くぞっ!!」
階段のある小部屋から出たばかりの一本道。
その道を蹴り、走る。
身体がいつもと比べて重く、周りの風景の動きの遅さに少し違和感を覚えるが、仕方ないことだろう。
今までの身体が凄すぎたのだ。
獣型ゴブリンとの衝突まで後約150メートル。
制限された視力でも薄っすらとシルエットが見えてきた。
迫力がすごいな。
なんだろうか。
この異形は本能的な恐怖心を掻き立ててくる。
奇怪というか歪というか……とりあえず俺が受け付けないグロテスクな見た目をしている。
だが、そんなことで怖気づいていたらダメだ。
制限を解除してそのまま倒したほうがいいんじゃないか、と思う心を押し殺し、足を動かして交戦に備える。
よし、距離が縮まってきた。
後100メートル……!
50……、30……――
「――いまだっ!!」
跳躍。
そして、拳に火魔法を纏い、獣型のゴブリンの顔面を殴りつけ――
「なっ!?」
――しゃがむことで攻撃を回避された。
それどころか、前進の勢いを一瞬で消し、力を込めてこちらに頭突きを繰り出してきた。
咄嗟に拳に纏わせていた火魔法を自身の斜め上に放ち、その反動で地上へと戻ることでこちらも頭突きを回避する。
十分でない体勢からの着地。
身体に負担がかかり、足がズキズキと痛む。
こいつの機動力は高い。
いきなり急所を狙っても避けられるだろう。
ならば足だ。
まずは小さな攻撃で機動力を奪おう。
「暗黒剣……!」
勢い良く暗黒剣を抜く。
制限をかけているため、剣の質で言えば特殊級の真ん中くらいだろう。
今の俺くらいの強さの冒険者がよく持っているくらいのものだ。
暗黒剣を構えながら駆ける。
目標は獣型ゴブリンの足だ。
ズザァア!
ゴブリンが爪を使って薙ぎ払ってくる。
それを飛び上がって回避し、そのまま空中で身体を捻り、攻撃してきた腕を斬りつける。
鮮血が舞う。
上手く攻撃できたようだ。
よし、このまま着地して次の攻撃に――
ドスッ!
「――うぐっ!?」
俺が斬った方を含めた前足2本で薙ぎ払われる。
側腹部に命中し、壁に吹き飛ばされた。
幸い防御を制限していないことでダメージは小さいが、もし防御を制限していなければやられてた。
攻撃を受けてしまった原因は2つ。
1つ目は油断。
攻撃を与えたことで慢心し、反撃が来ることを考えていなかった。
2つ目は位置。
空中にいたことで動きがままならず、回避を行うことができなかった。
よし、学習した。
もう一回だ!
再び駆け出す。
狙いは同じく足。
機動力を奪うことが最優先だ。
相手の足の攻撃が入る間合いに入る。
獣型ゴブリンは先ほどと同じように爪で攻撃してきた。
それを、前に進みながら横にステップを踏むことで回避。
そして、勢いを殺さずに攻撃してきた方と逆の前足を斬りつける。
鮮血が吹き出し、返り血を浴びるが、気にせず後ろ足に向かって走り続ける。
獣型ゴブリンが俺が駆け出す前にいた位置に飛び、一度距離を離そうとするが、そんなことはさせない。
このまま俺のペースに持っていく!
「グギャアアアア!!」
獣型ゴブリンが前のめりに体勢を崩す。
土魔法だ。
獣型ゴブリンが飛ぶために力を入れた瞬間に前足2本の地点の地面を沈ませ、不安定な体勢にした。
そして、できたスキを見逃さず後足2本を斬る。
さらに血が舞い、痛みに耐えられないのか、獣型ゴブリンは大きく叫び声を上げた。
相手には知性がない。
無茶苦茶に暴れだしたら危険だ。
様子見をするべきだろう。
一度飛び、距離を離す。
獣型ゴブリンは振り返っていないため、俺が背後に立っている状態だ。
さて、どうだ?
そう思い、獣型ゴブリンを凝視する。
予想通り、身体を無茶苦茶に動かして暴れだした。
俺の判断は間違っていなかったようだ。
剣での接近戦は危険。
ならば魔法だ。
闇魔法を構築する。
先程使った小さな粒を飛ばす魔法。
それを4足に当てる。
機動力を完全に奪ってしまいたいのだ。
暴れている状態では無闇に近づくことはできない。
だからといって普通の魔法では思った場所に命中させることはできない。
だから、この魔法を使う。
魔力を全て込める。
大きさもできる限り大きくする。
そして、速度を上げる。
身体中の力を集め、その上で集中を途切れさせない。
目標は敵の4足。
この一撃で致命傷を与える。
イメージを明確に。
放つ闇の弾の破壊力を想像するんだ。
よし、過程は終わった。
後は放つだけだ。
手のひらに想像、構築した魔力を集める。
そして――
「行けぇぇえ!」
――ありったけの力で放つ。
構築された4つの弾が暴れる足に向かって何度も軌道を変えながら迫る。
そして、命中。
「ギャアアアア!」
獣型ゴブリンが悲鳴を上げる。
それとともに崩れ落ち、動きが止まった。
斬るなら今だ!
獣型ゴブリンのもとへ駆け、暴れまわっているうちに俺の方を向いていた顔面に向かって連続で剣を振るう。
右から左へ。
左から右へ。
上から下へ。
下から上へ。
高速で、なおかつ効率的に斬るための動きを選択していく。
剣術LV5のため、LV9に比べると動きは鋭いわけではなく、威力は劣るが、それは比べたときのこと。
十分な威力を持った一撃一撃は、着実にダメージを与える。
そして――
「きたっ! 魂喰、発動!」
敵が瀕死になり、発動条件を満たした。
声に出し、魂喰を発動させる。
獣型ゴブリンが悲鳴を上げる。
だが、それも数秒で止み、目の前であれだけ騒がしかった獣型ゴブリンは動かなくなった。
倒したのだ。
「は、はぁ……倒せた……」
思わずへたり込んでしまう。
うーん、中々に強敵だった。
防御力が無かったら最初の一発で致命傷だったろうな。
半神人で良かった。
っと、そうだそうだ。
ステータスを確認しよう。
潜り始めてからまだ1回も覗いてないし、結構伸びてるだろう。
名 前:イルム
種 族:半神人
称 号:神喰
スキル:【魂喰】
【絶対悪】
∟【威圧】
∟【黒翼】
∟【黒霧】
∟【暗黒魔法】
∟【固有魔法:暗黒剣】
∟【固有魔法:暗黒結界】
【神聖魔法】
【爆炎魔法】
【水紋魔法】NEW
【雷鳴魔法】
【土塊魔法】
【氷結魔法】
【時空魔法】
【鑑定】
【叡智】
【餓狼】NEW
【頑丈】×4NEW
【水練】NEW
【武器創造LV3】
【剣術LV9→10】UP
【短剣術LV2→7】UP
【大剣術LV1→5】UP
【槍術LV4→8】UP
【斧術LV3→9】UP
【二刀流LV4→5】UP
【火魔法LV10】
【水魔法LV9→10】UP
【雷魔法LV10】
【土魔法LV10】
【氷魔法LV10】
【光魔法LV10】
【闇魔法LV10】
おお、大分伸びてるな。
頑丈は岩肌の蓄積が溜まって上位互換になったのかな?
水練もおそらく水泳が変化したのだろう。
武器系統のスキルはゴブリンや武器持ちのリザードマンとかを吸収したからだな。
剣術はとうとうLV10になった。
そして、魔法。
水魔法の上位互換を習得したな。
これで魔法は全種類獲得したんじゃないか?
もうLVも上がらないわけだし。
最後に、おそらく獣型ゴブリンから吸収したであろう餓狼。
効果はなんだろうか。
《スキル:餓狼 敵と認識したものを殺すたびに一時的に全能力上昇。戦闘終了後元に戻る》
おお、字面だけで強そう。
イメージ的には、敵を喰らって飢餓を凌ぐことで力を増していく、みたいな感じかな?
さすがに人間の俺は肉を喰らう必要は無いみたいだが。
これでさらに集団戦に強くなったな。
どんどん力がついてきて嬉しい限りだ。
思わずガッツポーズをとってしまった。
と、そんな感じで喜んでいたときだった。
《叡智及び魔法を全種類獲得しました。統合します》
え?
統合?
魔法をまとめるのか?
えーっと、統合して器用貧乏とかになったりしないよな?
変に弱体化したら困るんだが……。
《統合完了。魔導王を獲得しました。更に、半神人の特典により複数の固有魔法及びスキルを獲得しました》
俺が混乱していると、すぐに統合が終わった。
魔導王って言うのと、いくつかの魔法か。
確認してみよう。
名 前:イルム
種 族:半神人
称 号:神喰
スキル:【魂喰】
【絶対悪】
∟【威圧】
∟【黒翼】
∟【黒霧】
【魔導王】
∟【爆炎魔法】
∟【固有魔法:炎獄】NEW
∟【水紋魔法】
∟【固有魔法:嵐壁】NEW
∟【雷鳴魔法】
∟【固有魔法:雷穿】NEW
∟【土塊魔法】
∟【固有魔法:土崩】NEW
∟【氷結魔法】
∟【固有魔法:凍壊】NEW
∟【神聖魔法】
∟【固有魔法:聖治】NEW
∟【暗黒魔法】
∟【固有魔法:闇葬】NEW
∟【固有魔法:暗黒剣】
∟【固有魔法:暗黒結界】
∟【時空魔法】
∟【魔法付与】NEW
∟【魔幻】NEW
【鑑定】
【餓狼】
【頑丈】×4
【水練】
【武器創造LV3】
【剣術LV10】
【短剣術LV7】
【大剣術LV5】
【槍術LV8】
【斧術LV9】
【二刀流LV5】
って、なんだこれ!?
めちゃくちゃ物騒な名前の魔法増えてんだけど!?
というか、確か固有魔法って創った人だけスキル欄に載るんだよな?
だったらこれ全部俺のオリジナルってこと!?
試しに炎獄を鑑定してみるか。
《固有魔法:炎獄 原点:イルム 魔導王獲得時に半神人:イルムのイメージにより自動生成された魔法。広範囲を超高温度の炎が襲う》
うわぁ、本当に俺が原点になってる……。
なんだろう、いきなり増えすぎて混乱してる。
さっき器用貧乏とか言ったけど全く違うわ。
これ完全に上位互換だわ。
《スキル:魔導王 全属性魔法の威力を上昇、規模を拡大させる。また、所有者の魔力を大幅上昇》
《スキル:魔法付与 道具に魔法効果を付与することができる。付与することができる魔法は使用者の所有魔法スキルによる》
《スキル:魔幻 全属性魔法の威力を大幅上昇。また、魔法使用時の魔力消費の大幅低下》
凄すぎて言葉も出ないな。
だけど。
今はこの新しい力に感謝だ。
すぐに戦いがあるからな。
力があるに越したことはない。
……少々強すぎる気がするけども。
そんなこんなで強大な力を手にした俺。
次の1日も同じように魔物を吸収し続けた。
魔導王ほどの成果は無かったが、魔物が付けていた良質な防具を手に入れ、スキルも強化されてそこそこ強くなったつもりだ。
そして、今日は出征の日。
いよいよ、魔物との戦いが幕をあける。
まだ朝日の昇る前、王都の大通りを歩き王城前に向かう。
精鋭に参加することになった以上、失敗は許されない。
何がなんでも魔物を統べる者を倒さなければならない。
この戦いに勝たなければならない。
やってやる。
絶対に勝ってやる。
待ってろ、統べるもの。
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