魂喰のカイト

こう・くろーど

28話 スキルアップ

「師匠。僕、2日後に冒険者として参加することにしました」

 朝の模擬戦の終わり、腰を下ろして少しばかりの休憩をとっているときに、ロシュが話しかけてきた。
 2日後に参加、つまり魔物との戦いに身を投じるということだろう。

「冒険者って、ロシュみたいな新米まで声がかけられているのか……」

 思わず声に出してしまう。
 改めてまずい状況だということを感じて、自分の役割――少数精鋭で魔物の主を倒すこと――の重さを再確認する。
 失敗できないな。
 やっぱりダンジョンに潜って少しでも強化するか。

 そう思っていると、ロシュは慌てて否定してきた。

「いえ、違うんです。強制参加はCランク以上で、それより下は志願制です」
「って、つまりロシュは――」 

「はい、志願しました」

 ロシュは覚悟を決めたような顔で言い切る。

「そうか」

 ただ一言。
 それだけを返す。

 予想はできていた。
 ロシュなら確実に戦うだろうと。

 俺の加護と毎日の模擬戦、英雄ヒーローのスキルと本人の才能。
 全て合わせてみれば、既にDランク冒険者でトップ、Cランクに届きうる力があることは俺、ロシュの2人とも理解していた。

 ロシュは十分な力を持ち合わせている。
 引くことはない。 
 そんなことはわかっている。
 だから、止めはしない。

「弟子に死なれるのは嫌だ。死ぬなよ?」
「もちろんですよっ! 万が一死にそうになっても全力で逃げ帰ります!」
「ははは、その意気だ」

 いつものように笑い合う。

 ロシュは――本当に逃げるのだろうか?
 答えは否だ。
 こいつは絶対に逃げない。
 そういうやつだ。
 だからこそ英雄ヒーローのスキルに選ばれたんだろう。

 だったら。
 こっちからも少し応援を呼んでおくか。
 大丈夫、迷惑をかけることにはならないだろう。
 ロシュは足を引っ張るほど弱くはないはずだ。
 連絡をとっておくか。

「そうだ。先に謝っとく。ごめん」
「え? なんですか?」
「明日と明後日は模擬戦ができそうにない」
「ああ、そんなことですか。いいですよ。自主練でもしておきますね」
「そうしてくれると助かる」

 ダンジョンに丸1日潜る予定だからな。
 このあと寝袋と食料を買ってそのままダンジョンで夜も過ごす。
 つまり、明日の朝はダンジョン内なのだ。
 それに、明後日は出陣だ。
 王城前に向かわなければならないし、模擬戦はできないだろう。

「となると……次会うのは終わったあと、ですかね?」
「そうなるな。師匠なのに付き合ってやれなくてごめんな」
「はは、気にしないでください! 僕はもう十分師匠に良くしてもらってますから!」

 ロシュは曇りない笑顔で言う。

 ああ!
 いい子だ!
 弟子にするまでの過程とか、結構ストーカーじみててヤバイ子だとか思ってたけどやっぱりいい子だ!
 うん、いい弟子を持ったなぁ。

 そうしみじみ感じたあと、ロシュと別れてダンジョンに潜った。






◇ ◇ ◇

 




「お、魔物の溜まり場だったようだな」

 ダンジョンに入ってしばらく進み、小部屋に入ったところ、壁からメキメキと魔物が溢れてきた。
 おそらく、魔物の住処だったのだろう。

 ざっと見ただけでも数十体はいる。
 数は多い。
 だけど、個々は大して強いわけではない。
 魔物自体は前に戦ったリザードマンとガーゴイルだ。
 このくらいなら一刀両断できる。

 いやー、魔物が集まる部屋があると噂には聞いていたが……ちょうどいいな。
 魂喰ソウルイーターの糧にするのにこれだけ良い場所はない。
 魔物を探す手間が省ける分、効率も良いのだ。

 手に持っている荷物を投げる。
 ついさっき買った食料と寝袋を入れた布袋だ。
 戦うときに邪魔になるからな。

 さて、どうやって倒そうか。
 工夫せず戦っても問題は無いのだが、せっかくだからなにか上手く戦ってみたい。
 ゴリ押しじゃ成長もあまりしないだろうしな。
 それに、魔物を瀕死にするのは案外難しい。
 一発で仕留めるのは簡単なんだけどな。
 魂喰ソウルイーターをうまく発動させるためにも、少しの工夫はいるだろう。

 そうだ、こいつを使ってみようか。

 発動を念じる。
 すると、辺りに重たい黒の霧が広がる。

 邪神アンラマンユのスキル、黒霧だ。

《スキル:黒霧 漆黒の霧を展開する。触れたものの身体能力を下げ、スキルの威力も抑制する》

 だそうだ。
 視界を奪うと同時に敵の弱体化も一気にできるってことだな。

 おっ、凄いな。

 黒霧のスキルで展開された霧が全て透けて、部屋の奥まではっきりと見える。
 使用者だからだろうか。
 これは便利だな。 
 集団戦や隠密にピッタリってわけだ。

 さて、黒霧の効果も確認できたし、さっさと全部吸収してしまうか。

 足に力をこめ、前進。

 跳躍を繰り返し、突然現れた霧に驚くリザードマン、ガーゴイルの四肢を暗黒剣で斬り落としていく。
 黒霧で暗くなった部屋に紅の残像が舞う。
 外からこの部屋を覗いてみても、赤い線が次々と走るのがかろうじて見えるだけで、何が起こっているのか分からないだろう。
 それだけ黒霧の視界妨害は強力だし、俺自身の速さは異常だ。

 というか、暗黒剣かっこいい。
 デザインした俺が言うのもなんだが、この色合いとシャープさ、翼をイメージした峰は見事に若き日の厨二心を揺さぶってくれる。
 デザインしたときの俺、よくやった。

 そんなことを考えながらも身体を動かし、魔物を瀕死にしていく。
 変に動いたり防御しないから、斬るのが楽だ。
 黒霧さまさまである。

「……っと、なんだあれ?」

 部屋内の魔物の大体半分を片付けたとき、ひときわ大きい、若干威厳のようなものを感じさせるリザードマンが視界に入った。
 右手には槍。
 左手には盾。
 ご丁寧に鉄鎧まで装着してなさる。

 死んだ冒険者の装備品でも盗ったのだろうか?
 流石にこんなに上質なものを魔物が持っているとは思えない。
 ダークゴブリンファイターが作ったものでも少し錆びれていたからな。
 あの魔物より魔力の反応が弱いこのリザードマンが作り出したというのは考えられない。
 そう考えると、盗ったと考えるのが自然だな。

 とりあえず鑑定してみるか。

《魔物:リザードマンロード リザードマンの突然変異個体。リザードマンよりワンランク上の実力を持つ。その実力で冒険者を狩り、装具を盗んで使うことが多い》

 おっ、俺の予想は当たってたか。
 あの大層な武器と防具はどうやら冒険者の所持品だったようだ。

 まぁ、武装してても大して苦戦しそうに無いけどな。
 黒霧の中であたふたしてるし。
 他のやつと同じように瀕死に持ち込んでしまおう。

 暗黒剣を前に構える。
 そしてそのまま――

 ザシュ!

 ――駆け出し、すれ違いざまに四肢を全て落とす。
 一瞬の間に4連撃だ。
 剣術LV9は凄いな。

 リザードマンロードは足と腕を失い、地に落ちた。
 かろうじて瀕死だ。
 まだ死んでない。

 よし、残った魔物も倒して全部吸収してしまおう。


 そう思ってから1分経った。
 ひたすらに走り回り、剣を振り抜き、部屋の魔物全てを瀕死にした。
 数匹、力加減を間違って倒しきってしまったが、これだけ数がいるから問題は無いだろう。

 黒霧の晴れた前方に目を向け移るのは、四肢が落ち、ピクピクと痙攣している魔物たち。
 耳が拾った微かな音は、全てうめき声のようなもの。

 ……さすがにやりすぎた。
 次からはもう少し戦い方を考えよう。
 毎回こんな酷い眺めはごめんだ。
 魔物も一息に倒してもらったほうが良いだろう。

 早く魂喰ソウルイーターを発動したほうがいいな。

 魂喰ソウルイーターを念じて発動する。
 範囲はこの部屋全ての魔物。
 これだけの数を一気に吸収するのだ。

 力がみなぎってくる。
 いつもの感覚だ。
 身体が活力に満ち溢れる。

 だが、それも数秒で収まった。
 魂喰ソウルイーターでの吸収が終わったようだ。

 よーし、良いスタートを切れた。
 この調子でどんどん吸収していこう。

 そうだ、ここの魔物だけだとスキルも偏るし、下の階層にも潜ってみるか。
 新たなる魔物との出会い。
 ワクワクだな!















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