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魂喰のカイト

こう・くろーど

26話 月夜の戦い

「さて、始めるか」
「手加減はしないよ?」
「ああ、必要ない」

 場所は、王都のすぐそばにある、見渡す限り広がる広大な平原。
 すっかり暗くなってしまった空に浮かぶ金の月が、この戦いの場を薄く照らしている。
 俺とリディルは距離を置いて互いに向かい合っており、いつでも戦闘を開始できる状態だ。

 暗黒剣を肩の上にできた裂け目から引き抜く。
 剣に刻まれた紅の一本線が残像として宙に残る。
 その様子を見たリディルは驚いた顔をした。

「へぇ、聖剣クラスの魔剣を持ってるなんて……ただの武器商人じゃ無かったんだね」

 そう言いながら、腰にさしている剣を抜いた。
 準伝説エピックの業物だ。
 俺の暗黒剣に比べると劣っているが、油断していいようなものじゃない。

「武器商人になったきっかけは稼げそうだから、だったしな」
「ははは、イルムらしい」

 リディルはいつものように笑う。
 だが、その笑みはどことなく油断なく見える。

「じゃあ、行くよ」

 リディルがゆっくりと、殺気を込めて呟く。
 俺は、剣を構えることで準備が既にできていると言う合図を送る。
 俺のその意志を汲み取ってくれたのか、リディルは深く腰を落とし――

「……っ!?」

 ――一瞬で俺の目の前まで移動してきた。
 思わず後ろに身を引いてしまう。

 速い。
 予想外の速さだ。
 どうする。
 どう動けばいい。

 剣を振って一旦距離を離すか?
 いや、今から振ったところで間に合わない。
 じゃあどうする。
 ああ、そうだ。
 剣がつかえないんだったら選択肢は1つしかなかったよな。


「――爆炎魔法!」


 魔法だ。
 ノーモーションで打てる、この場での最適解。

 俺とリディルの間で爆発が起きる。
 それと同時に煙が巻き上がり、視界を奪った。
 だが、今は好都合だ。

 黒翼を展開し、後ろに引いて悪くなった体勢を無視した移動で距離を離す。
 戦闘開始のときと同じくらいの間合いを取れるように大きく移動し、着地した。

 翼による風圧で煙は晴れてしまったが、一度仕切り直すことができただろう。
 そう思い、前を見る。

 ――いないっ!

 リディルの姿は既に無かった。
 くそっ、見失った!

 まずい、という焦燥を抱えたまま周囲に意識を向ける。
 何も違和感を感じない。
 どうやら殺気まで全て隠しているらしい。

 こんな実力もってりゃあ少数精鋭になんて選ばれるわけだよ……!
 なんて内心で思っていると、風が肌に触れた。
 ほんの小さな風。
 半神人デミゴッドである身体でここまで周囲に意識を向けていて初めて気づくようなものだった。
 方向は俺の真後ろだ。


「そこかっ!」
「……なっ!?」


 自身の真後ろに向かって暗黒剣を横薙ぎに振るう。
 そこにはしっかりとリディルがいた。
 どうやら剣を振る寸前だったようで、腕は上がっている状態だ。

 隠密の技術には自信があったのだろうか。
 俺に位置を特定されたことに、意表を突かれたような声をだす。
 しかし、戦い慣れをしているらしく、すぐに俺の振るった剣をしゃがみながら前進することで回避してきた。

 前進した勢いのまま、突きの構えをとり、突進してくる。
 俺が攻撃を空振ってできたスキを的確についてきたわけだ。

 だが、俺には魔法がある。
 さっきの思わず一歩引いてしまったときとは違い、今度は意図的に後ろにステップを踏む。
 そして――

 ガキンッ!

 リディルの剣が、突如現れた土の壁に弾かれる。
 もちろん俺が土塊魔法で構築した壁だ。
 上位互換の魔法ということで、強度は申し分ない。
 そして、これは単なる防御ではない――


「分裂!」


 攻撃だ。

 目の前に展開されていた土の壁から、リディルに向けて無数の尖った土塊が射出される。
 壁を構成していた土をそのまま攻撃に転用しているのだ。
 攻撃に使われている土の分、壁の面積は減っていっている。

 徐々に壁が薄くなり、全弾発射して壁が完全に無くなったところでリディルの姿を捉えることができた。

「やっぱり掠りもしてない……か」

 リディルは、店で防音のために使っていた結界を身にまとい、全て防いでいた。
 防御に特化しているらしく、先程と比べて結界は目で見て分かるほど厚い。
 店にいるときは薄すぎて分からなかったが、純白の結界だ。
 神聖魔法だろうか?

「予想を遥かに超える強さだよ、イルム。それに、その翼は?」
「この翼はスキルだ。まぁ気にすんな。それはそうと、これで連れて行ってもらえるのか?」
「いや、まだだね」

 そう言うと、リディルは結界を振りほどき、 再び突きの構えをとって距離を詰めてきた。
 いいだろう、正面から受けて立とう!

 暗黒剣を突きを叩き落とすように振る。

 できるだけ重く、受け流すことのできないように。
 そんな意識がうまく作用したのか、狙い通りにリディルの剣を落とし、体勢を崩すことができた。

 勝ちだ。

 先程俺が剣を振り切った後のスキなんかより、弾かれ、崩されてできたスキは大きい。
 この体勢から俺の剣撃を受けることはできないだろう。
 だからといって、俺が攻撃をくりだすまでに体勢を立て直せるとは到底思えない。

 それはリディルもわかっているだろう。
 それなのに――






 ――なんでそんなに笑ってるんだよ……!!





 
 笑み。
 決して戦いを諦めたわけではない、闘志の宿った笑み。
 いつもリディルが浮かべる優しいものではない、一種の狂気的に見える笑み。

 反射的に剣を振るのを止め、防御に徹する。
 相手が大きなスキを見せている状態での防御。
 愚策だ。
 普通、ここは攻撃だろう。
 自分でもそう思う。

 でも。
 この得体のしれない身体のざわつきは間違いではないだろう。
 ここで防御をしなければ、死ぬ。

 リディルは俺が防御の構えをとったことを見ても気にも留めず、笑みを浮かべたまま口を開き、はっきり、しかしゆっくりと言葉を紡ぐ。






「《加速せよ》、カーテナ」






 ――一筋の閃光が迫ってくる。

 ほぼ無意識。
 防御に徹していたからこそできるような。
 いや、防御に徹していても普通の人間にはできないような反応で閃光を弾き飛ばす。

 半神人デミゴッドの身体じゃなかったら、たとえこれだけのスキルを持っていてもできなかっただろう。
 そう思わせるほどの攻撃だった。 
 現に、暗黒剣はこの動きと反動に耐えきれなかったのか、半分以上刃が消し飛んでいる。    

 なんだよ、今の一撃は。
 そう思い、閃光を弾いた先を見てみる。
 すると――

「剣……?」

 翼を模した美しい剣。
 それが全く傷ついていない、綺麗な状態で地面に深々と刺さっていた。
 先程リディルが手にしていた剣とは似ても似つかないし、リディルは今も準伝説エピックの剣を握っている。
 おそらく、あらかじめ持っていた2本目の剣なのだろう。

 そういえば。
 これが飛んでくる直前、リディルは『カーテナ』と言っていた。
 確かカーテナは、前に鑑定したときに出てきた七翼剣という聖剣の1つだったはずだ。
 そんなものをリディルは持っていたらしい。

 そしてだ。
 なぜそのカーテナが飛んできた。
 何かのスキルか?
 それとも魔法? 

 こんなものを何度も使われたらたまったものじゃない。
 発動時の魔力消費。
 発動条件。
 飛ぶ方向を捻じ曲げる方法とか……なんでもいい、弱点とか対策は無いのか?

 そう思い、考えを巡らせる。
 しかし、一向になにも浮かばない。

 と、そこでリディルが話しかけてきた。

「ははは、今のを防ぐなんてね。弱点とかを考えてるんだろうけど、そんなものは無いよ。これは純粋な『力』だからね。莫大な魔力を使うわけでもなく、発動時に大きなスキができるなんて欠陥があるわけでもない。ましてや簡単に発動を妨害できるようなものでもないよ」

 なんでもないように言う。

「はぁ、それは恐ろしいな。これじゃ精鋭に入るために認めてもらえるか、雲行きが怪しくなってきたな」
「いいや、もう十分だよ」

 そう言い、リディルはこちらに歩みよる。
 そこには既に殺気はなく、いつもの穏やかな笑みが浮かんでいた。

「ボクのカーテナを防げただけで十分すぎる。少なくとも精鋭の一員の中には今のを防げる人はいないからね」
「と、いうことはつまり?」

「ああ、ボクと一緒に戦ってくれるかい、イルム?」

 リディルが手をこちらに伸ばしてきた。
 俺は当然その手をとり――

「おう! もちろんだ!」

 ――こうしてなんとか精鋭部隊の仲間入りを許可されたのだった。





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